〜楽しい密林7〜





↓ひたすらジャングルを歩く私。これはまだ動画を撮る余裕があるくらい通り道がはっきりしている部分。そして1時間後、道を見失う。






 ……ひとりで黙々と密林を行く。面白いことなど、
何もない。やはりオレには海外旅行の楽しさが全然わからん。こんなことが海外旅行だというならば、旅行好きな奴等は全員変態か修行僧のどっちかだっっ!!!! 海外旅行がストレス解消になるなどと、一体どうやったら言えるんだてめえっっ!!! 森の中で何度もヒルに血を吸われて、昨日なんてあまりの恐怖で30分しか寝れなかったんだぞ!!!! どんなストレスがこれで解消されるんだよっっ!!!
 ぜぇ……ぜぇ……
 そんなことはいい。楽しくても楽しくなくてもいい。いいから早く……早く村に着かせてくれ……。
 汗と蚊と薮にまみれて道なき道を前進し、再び20分が過ぎ、30分が過ぎた。誰もいないし、何もない。聞こえるのはただ無数の鳥と虫の鳴き声のみ。
 見えない。どんなに遠方に視線を飛ばしてもジャングル以外見えない。一体、いつになったら着くんだ。
 ここまで30分間、歩いて来たのは1本道のはずである。注意して見て来たが脇道分かれ道には気付かなかった。だからこの道で正しいと思う、しかし……。
 どうもおかしい。今までのルートで越えて来た小川にはどこも橋代わりの丸太が掛けられていたのに、目の前の川、いやむしろ沼??には渡る部分がない。とはいえなにしろ1本道だし……これを越えなきゃどうしようもないぞ……。
 幅はほんの3メートルほどだ。しかし、ジャングルで沼といったら、
底が無くてなんぼである。ちゃんと空気を読む沼だったら、場所のイメージ通り底なし沼になっているはず。ここでオレが沼にはまってしまったら、当然誰にも発見されず永遠の行方不明者である。もし何かのきっかけで数年後に引き上げられたら、その時には泥パックの効果で若返り10代の頃のハリのある肌を取り戻しているかもしれないが、美肌といえど死体では男女交際もままならないじゃないのようっふん。
 見た目はだいぶ浅い川であったが、念には念を入れて一歩を着地する前に必ず杖代わりの木の枝を力いっぱい地面に刺し、強度を確かめて歩く。しかし途中まで順調に進みすぎたからだろうか……、最後の一歩を不用意に踏みしめた時。

 ズブズブズブズブズブズブズブズブ……


 
うおおおおお〜〜〜〜っっっっっっっ!!!!!!
















 
なんてウッソ〜〜〜〜ん。

 びっくりした? ちょっとイタズラしてみたかったの。まあ、
誰も見てなかったけど。でも近くの木に止まってた鳥と虫はちょっとビビってたよね。一瞬鳴き声止んだもん。ザマーみろコラッ!! 木ごと燃やしてやろうかこの下等生物がっっ(完全な八つ当たり)!!!!

 川を渡ってまたしばらく。またまたより以上に道なき道、オレが勝手に通路だと認定している部分はほんの数10cmの狭さになり、なおかつ何メートルかおきに植物に埋もれて途切れているが、しかし信じるしかない。きっとこのルートであっているんだ!
 道のない丘につき当たったため、謎の虫が這う木の根や枝を軍手でつかんで必死で登る。登ったところで、今度はそのまま下りだ。他のジャングルはどうだか知らないが、とにかくここは起伏が激しい。ただでさえ暑くて暗くて不気味な所なのに、これだけ上り下りがあると疲労も倍増である。
 これが村の手前の最後の障害だと自分に言い聞かせて、急斜面をほとんど飛び降りるようにオレは丘を下った。そしてまた平地に復帰し、10メートルほど歩いた。するとその地点で、
今まで道だと思っていた僅かの空間が、完全に消滅した。

 …………。

 いや、そんなわけないじゃん。右を向けば道があるんじゃんきっと?

 …………。ない。

 それじゃ、左を向いたらあるんじゃん?

 …………。ない。

 もう一度右を向けばあるんじゃん?

 …………。
ない。

 じゃあ、たまたまちょっと途切れているだけで、無理矢理先に進めばまた人間が通れる広さの道が現れるのですよ違いありませんよきっと……。
 自分がジャングルの中で
道でない場所を歩いているというような恐ろしい結果を到底受け入れるわけにいかなかったオレは、しばらく行けばすぐに通路が復活するに違いないという信念のもとに、枝を払い藪を踏みつけて汗だくで前進した。



 …………。



 
無い。どう見てもこの先に道は無い。

 いかん。

 これは…………。
迷っている。完全に経路を見失っている。
 たしかに、もう結構前の段階でおかしかった。旅行者が通る通路にしてはさっきの上り下りは木にしがみつかなければ動けないほど急すぎたし、橋のかかっていない川もそうだし、とっくのそれ以前から道がはっきりしなくなっていた。つまり……、オレは決して今の段階で道を見失ったわけではない。もう、
ずっと迷っていたのだ。そうとは知らず、どんどんルートから外れた密林の中に入り込んでいたのである。

 いや〜〜。まったく。

 …………。













 …………。



















 
ぞわわわ〜〜(背筋が激しく凍る感じ)














 …………。

 オレはしばらく放心状態だった。
 ジャングルに入り込んで迷ったということに、
嘆きの言葉すら出て来ないほど焦った。小屋を出てから長い間正しい方向へ進んでいたわけだし、実際は、少し道を逸れているだけですぐ近くに村があるのかもしれない。しかし……、そうじゃないかもしれない。少なくともどの方向を向いても絶対的に熱帯雨林しか目に入らない状況で、2,3分の間オレはとにかく恐ろしい感情に捕らわれその場で意味もなく右を向いたり左を向いたりしていた。
 叫んだり笑ったり出来ない、静かなパニックに襲われている。しかし、このぐうの音も出ない血の気の引く静かなパニックが、最も大きなパニックだ。

 こ、こういう時はまず、落ち着くことが大事だ。冷静にならないと、何かを判断することも出来ない。笑うんだ。無理矢理にでも、笑ってみよう。

 せーの、
 
わっはっはーわっはっはーわっはっはーわっはっはーわっはっはー(アニマル浜口の笑いビクスを実践)




 
そ〜れわっはっはーわっはっはーわっはっはーわっはっはーわっはっはー(笑)


















 
笑ってる場合かっっ!!!!!!









 たしかに辛い時こそ笑顔を作るというのは重要なことかも知れないが、笑うくらいで森から抜け出せるなら苦労はしない。
抜群の笑顔でジャングルで遭難してもなんの解決にもならねーんだよっっ!!!

 これは真剣にまずい状況かもしれん……。なにしろ、洞窟の出口付近の森では、男2人で歩いていたにもかかわらず真っ直ぐ進んでいるつもりがいつの間にか同じ所をグルグル回っていたのである。仮にこれから勘で進んだとしても、自分では村を目指しているはずが実際はどんどんどんどん関東地方と同じ広さの密林の奥深くに入り込んでしまうということも十分考えられる。というか、今の時点で既に入り込んでいることが考えられる。

 も、戻ろう。
 
ここから先を自分の直感に頼って進むのは絶対にダメだ。今来た道を、一歩も逸れずに引き返すんだ。上手に今までのルートを辿ることができたら元の場所に出るはずだし、最悪でも原住民の集落に戻れば助けを求めることができる(吹き矢で撃たれなければ)。
 あまりの動揺で、心臓の鼓動が超絶級に激しくなっているのが胸に触れないでもわかる。自分の胸の筋肉から直にバコン!バコン!という凄い躍動が伝わって来るのだ。不安なんていうのは所詮頭の中だけにある感情であり、一切実体のないものであるはずなのに、その実体のない不安という状態が物理的に心臓の動きを変化させているとは……。体と心。ザックリ。

 いいっってえ……。

 
ザックリいった。パニクりながら慌ててUターンしたもんだから、飛び出ていたトゲの植物に全然気付かなかった。
 アフリカのサバンナでもそうだったが、街の空き地に生えているものと違い大自然の中のトゲトゲは、野生動物のぶ厚い肌を突き破ることを想定しているため破壊力が違う。別にオレは彼らの天敵の草食動物じゃないのに(野菜は嫌いだし)、とばっちりを受けて左膝を刺された(号泣)。
 今の所は負の興奮によるアドレナリンが出まくっており、たいして痛みは感じない。だって膝が切れたことよりももっとずっと大きなトラブルに巻き込まれているからね(涙)。傷は一応ミネラルウォーターで軽く流し、そのままオレは今しがた飛び降りて来た丘に向かい、またもや木の根と枝とツルを掴んでゼエゼエ言いながら上った。よかった上れる程度のところで……。
 反対側に滑りながら降り、おそらく自分が通って来たと思われる方向へ慎重に進んで行く。自分ではそれが道だと思って歩いて来たわけであって、「歩くならココ!」とかろうじて判断できる部分はあり、そこを少しずつ戻る。
 ここはとても重要な行程だ。
この今の行程でもし再び別の方向へ迷い込んだら、今度はアウトだ。まあたしかに、森の奥に入ってしまっても100%死ぬというわけではないと思う。ついこの間も、カンボジアのジャングルで行方不明になった少女が20年ぶりに見つかって保護されるというニュースがあったし、よく聞く狼少年のようにオレだって狼やトラに育てられて野生化して生きていけるかもしれない。ただ、赤ちゃんの時にジャングルに入った少年少女と違い、オレの場合は20年後に発見されたらその時は50歳のジャングル中年である。野生化した50歳の男を森の中で発見しても、誰も保護しようとせずにむしろ見なかった事にする可能性が高いのではないだろうか。
 だいたい、ジャングルで野生化して暮らすのはたくさん蚊に刺されそうだからイヤだ!

 ともかく、無事に戻らなければ駄目だ。
こんなところで遭難してたまるかよっっ(半分してるけど)!!!
 …………え? なに? ジャングルで迷ったと言ったって、
こうやって旅行記を書けているのだから結局無事に戻れたことはわかっているって??


 
うるせーなコラッッッッ!!! そういう現実的なことは考えずに、あえてハラハラドキドキしながら続きを読むのが大人ってもんだろうがっっ!!! この先の展開は誰にもわからないんだよっ!!! だって今オレはジャングルで迷いながらノートパソコンでリアルタイムに旅行記を更新しているんだから!!!!






 …………?





 おお??

 何か、足音のようなものが聞こえるぞ……。
 このテンポ、そして体重の乗り方は、人間だ。それも一人じゃない。
 か、
隠れるんだっ!!! 茂みに隠れて、人間が通りかかったらトゲのツタで襲いかかって荷物を奪うんだ!!! 食糧が手に入れば、森の中でも何日かは過ごせるはず!!!


 ザッザッザッザッ……


 よーし! 
今だ!!! なんちゃってねっっっ!!!



「ナイストゥーミーチューーッッ(号泣)!!! 僕を、僕を探しに来てくれたんですねっ!!! 嬉しいっっ(涙)!!! アイムソーグラッド(号泣)!!!」



ワオッ!! ユーサプライズドミー!!!! …………。なんだ、作者じゃないか。どうしたんだ?」


「おおおお(涙)。どうしたもこうしたもないでげすよ。この先は完全に行き止まりでげすよ親分。これ、道じゃないでげすよ(泣)」


「なにっ、そうなのか?」


「なにしろオレが実際に突き進んで四方八方を植物に塞がれたから間違いない。これ以上進んではならぬ。引き返すのじゃ〜〜(号泣)」


「ほらジミー、だから言ったじゃない! 来る時にこんな道を通った覚えはないでしょ?? それに、私にはこの道は道だとは思えないわ。アイドントシンク ディスイズア ウェイ。狭すぎるもの」


「そうだけどキャサリン(仮名)……、ショートカット用の通路かと思ってさ……。作者、本当にこの先行き止まりなのかい?」


「オレがウソを言う人間かどうか、
この目を見て判断しやがれっっ!!!」


「その目は紛れも無い嘘つきの目だな。でも、さすがの作者もこの状況でウソを言うとも思えない」


「なんだとコラーーーーっっっ!!! なめんなよこのヤローーっ!!!」



 やっぱり、オレは迷うべくして迷ったのである。なぜなら、このように後から来たジミーカップルも同じように誤った方向へ進んでいる。オレだけが愚かだったわけではない。
この国立公園の造りがおかしいのであるっっ!!! せめて道案内の標識はあちこちにキチンと倒れないように立てておいてくれっっっ!!!! オレたちの命に関わるんだよっっ!!! そんで、「せっかくジャングルで迷って面白い展開になったのにすぐ人と会っちゃつまんない」とか、無責任なことを言うなこれを読んでいるそこのおまえっっっ!!!!!

 しかし、ともかくジミーたちも同じように違う道を来てくれたことにオレは狂喜した。迷ってるという状況は変わらないのに、
一人で迷うより3人で迷う方が精神的に300倍楽である。この安堵加減は、まるで迷っていないかのようである。オレはジミーたちに会った瞬間から、根拠はないがもはや村に辿りついた気になっていた。





安心すると流血の左膝が痛くなったでげす。







 いだだだだ……(涙)。
 3人で一緒に元の方向へ戻り、全員一致でここぞと判断した地点で脇道らしき枯れ葉の帯に沿って歩くと、
なんと! また10分後に道を見失い、森の中へ迷い込み結局遭難した。
 小屋を出る時にかけてきた蚊除けスプレーが汗の洪水でとっくに流されており、蚊柱は思う存分オレの血を吸っている。3人ともだ。特にキャサリン(仮名)は背中の上の部分がパックリ開いているという
みだらな服装のため、よく見るとその背中の部分だけで30カ所くらい虫さされの膨らみができている。酷い。おまけに例のトゲにも全員で何度も刺さりその度に叫び声こそ上がるのだが、結局みなは村に戻ることだけに全神経を集中しているため、刺されても刺さっても嘆く奴はいない。人間、ひとつのことに追い込まれると、それ以外の感覚というのはとことん薄くなるようだ。

 さて、そんなわけで……
 最終的にどのように村に辿りついたかというと、オレたちを助けてくれたのは川であった。タマンヌガラ国立公園の中心を走るテンベリン川、その川が南の方角にあることだけは地図からわかっており、オレたちは太陽の位置から東西南北を予測して、ひたすら森の中をその方向へ突き進んだのだ。見当をつけた通り、しばらくの行軍の後に、懐かしいテンベリン川の姿が眼前に現れた!!
 これを上って行けばクアラタハンなので、そのまま流れに沿って森を歩く。道など無いが、
「川」というオレたちを村まで導く確実な目印を放棄して歩き易い道を求めてジャングルに入って行くバカな奴はいない。というかもう通りがかりのボートに乗せてもらえば済む話だが、余計な金をせびられそうなので誰もその手段のことは口にしなかった(セコい……)。交代で先頭を歩き、お互いをトゲから庇い合いながら、あれはなんだっ!! もしかしてっっ!!!!










 
ついたーーーーーーーーー!!!




 紛れもない、突堤の対岸に見えるのは昨日見たクアラタハンの姿である。ぐうっ(号泣)。
 渡し船を呼び、川を越えてオレたちはとうとう! タマンヌガラ国立公園の中心部! クアラタハンに! 五体満足で! 美男美女が! 到着だ!!!



キャサリンの背中。この背中を見て育ったわけじゃない


 すぐに水上レストラン、もといボートを川に浮かべただけの水上食堂に一緒に入店。人並みの場所で、人並みのランチだ(号泣)。
 現在時刻は午後2時過ぎ。10時にブンブンヨンを出てから、
ここまで4時間。ジャングルの中を、4時間(涙)。しかも、ほとんど一人(号泣)。一人か、二人以上かというのは本当に重要だよな。ジミーとキャサリンは、たとえいつか別々の道を歩んだとしても今後一生、どこかで出会ったら「あのジャングルは大変だったねー」「そうだよね−」と思い出を語り合うことができるのだ。オレは、誰とも話せやしねえ。

 そういえば、4時間もジャングルを歩いたのにほぼ足元しか見ていなかったから、動物の姿など一切探さなかった。でも注意して見ていたら果たしてどんな出会いの可能性があったんだろう? と思い改めてインフォメーションでもらったパンフレットを熟読してみると……
 このタマンヌガラのジャングルでは、リス、猿、水牛、
そして運が良ければ、ゾウ、マレー熊、レオパード(豹)、虎などが見られるそうだ。洞窟にもコウモリだけでなく、大トカゲやポイゾナススネークが生息しているとのことである。ポイゾナススネーク……。わかりません。僕、英語が弱いのでポイゾナススネークの意味がわかりません。(答え:毒蛇)
 ははは……。トラトラ言ってたけど、
本当にいるんですね虎が。まあいいですけど。出会っていたとしても戦ってやっつけてましたから。熊もゾウもレオパードも。
 というか、
「運が良ければ見られる」ってどういうことやねん。虎とか豹に出会ったら、確実に死ぬだろうがっ!!! それのどこが運がいいんだよっっ!!!! 死後の世界はユートピアであるという思想信条かおまえはっっっ!!!!!



「それじゃあ作者、今日はお疲れ。オレたちはロッジに戻ってシャワーを浴びるよ。作者はどうするんだい?」


「うん、オレもそうするよ」


「じゃあまたな。ところで作者はどこのロッジに泊まっているんだい?」


「オレの宿はブンブン……。
はっ!!!



 …………。
 そうだった。
オレ、今日もブンブンヨンに泊まるんだった。

 もう3時か……。
小屋まで歩いて4時間かかるから、そろそろ戻るか。







 …………。







 
戻れるかっっっ!!!!!!

 
冗談じゃねえっつーんだよっっ!!! 今度こそ本当に遭難するぞ!!! 夜だ!! すぐに夜になってジャングルの動物たちは皆さん夜行性ですから!!!! 今度は運良く虎や熊や毒蛇に出会えるかもっっ!!!! それこそジャングル冥利に尽きるねっっっ!!!


 あ〜あ。


 
必要なもの以外、荷物全部ブンブンヨンに置いてきたよオレ。どうすんだよ。戻らなきゃしょうがねえだろうよ。
 戻って、もう一泊か……
 はあ……(絶望のため息)




今日の一冊は、

賛否はともかく考えさせられる本

拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々





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