〜楽しい密林6〜





 ジミーと共に岩場から這い上がりやっとのことで直立し日の光を浴びると、太陽の貴さというものを全身を打ち震わせて感じた。ああ、素晴らしき陽の光。オレにとってギターとマリンスポーツそして
一緒にバカをやる仲間達が命であるように、地上の全ての生命体は太陽を必要とし、太陽無くしては決して存在し得ないのだ。……オレは、休みの前日にはいつも浜辺で仲間たちと朝まで騒ぐのさ。
 とはいえ、ふと思えば洞窟にいたコウモリは別に太陽を必要としていなさそうだが、あれは地上の生命体じゃなくて地底の生物だからいいのだ。だいたい、
リラックスした状態が上下逆さまの体勢だというのがふざけている。そんなのあり得ない。時々AVを見ていると女優が逆さまにされているシーンを目にするが、みんな「こわ〜い!」とか「やめて〜!」などと言っており、リラックスには程遠い姿じゃないか。もし寝る時ですら逆立ちをしているコウモリの奴等に井村コーチが目をつけて特訓を始めてしまったら、次のオリンピックのシンクロナイズドスイミングは表彰台をコウモリ軍団に独占されてしまうに違いない。IOC関係者もメダルをかけるのを躊躇してしまう不気味な光景である。そしてその次のオリンピックでは、シンクロナイズドスイミングは公式競技から外されるだろう。
 この際、逆さになっているコウモリに「てぶくろ」と書いた紙を見せて「これ何て読む?」と聞き、
答えが返って来たところで殴りまくって絶滅させてやるのが今後のシンクロ界のためではないだろうか。……なお、逆さまだからといって「わかのぼんちたけむらたけこ」を読ませて遊んだりしてはいけない。

 さて、オレたちはまずジミーの彼女が持つ洞窟の入口へ帰還しなければならないのだが、しばらくツタや枝葉をなぎ払い進んでもなかなか戻れない、と言うより今自分たちがどの方向へ進んでいて、戻るにはどの方向へ進めばいいかということが
全くわからなくなった。

↓前を行くジミー




 背伸びをし、時にはその場でジャンプして辺りを見回しなんとか進行方向の手がかりを探ろうとするのだが、とにかく周囲を囲む木とその木を覆う無数の葉に阻まれて視界は遮られる。くそ、邪魔な葉だ……。せめて不治の病にかかり
「窓の外に見える葉っぱが全て落ちたら、私も死ぬのね」と嘆いている入院中の少女だったら、ここに連れてくればジャングルが消滅するまであと200万年くらい生きられるかもしれないが、健康な旅行者にとってこの生い茂る葉は邪魔なだけである。そりゃあ酸素を作るという立派な役目を担っているのかもしれないが、命あっての光合成である。まずは光合成よりも旅行者を無事帰すことを優先して欲しい。酸素のことを考えるのはそれからではないだろうか?
 とにかくオレたちは人が通った形跡がありそうな、枝や草が踏み潰されているような気がする部分を探して進んだ。しかし、藪の斜面を上っても下っても彼女の姿、洞窟の入口は見当たらない。おおい大丈夫かよ……こんなことしてるとサソリが……毒蛇が……軍隊アリが……マレー虎が……(涙)。
 さらに10分ほど進んだだろうか、目の前には下方に降りる急斜面の岩場が表れた。……険しいが、進むしかない。オレは先頭を切り、高飛び込みの要領で空中回転ののち頭から着地しようと跳躍の体勢に入った。
見てなさい、私の金メダルへの飛び込みを!! ライバルは郭晶晶(グオチンチン)よ!! 負けないわよチンチンっっ!!!



「待て、ちょっと待て作者!」


「止めないでっ! 行かせてっっ(涙)!! これは、女と女のプライドをかけた戦いはなのよっっっ!!! ちなみに私のライバルは郭晶晶だけど、郭晶晶のライバルはカナダのデブなの」


「いや……、よく見てみろよ。ほら、下にあるあの穴。オ、オレたち、あそこから出て来なかったか……?」


「えっ、そうだっけ」


「そうだよ。この岩場、一緒に上ったじゃないか」


「…………。そういえば……。たしかにそうだ。ここ、30分も前に通った洞窟の出口だ……」



 おお、なんということだ。ジャングルを歩いていて「おい、この道、もうずいぶん前に通った道じゃないか!?」という
定番のセリフを、テレビやマンガではなく本当のジャングルの中で聞くことになるとは。……もしかして、これもマンガじゃないの?? だってこんな絵に描いたような迷い方するなんて、現実的じゃないもん。普通さあ、大の大人が2人も揃って、一方向に進んでるつもりなのにいつの間にか逆向きに歩いてるって、そんなことあるわけないじゃん。子供じゃないんだからオレたち。目をつぶってるわけでもあるまいし。

 …………。



「どうする? もう一度Uターンしてジャングルに突入する??」


「そうだな。他に残された道は……、この出口から再び洞窟に入り逆向きに進むことだが……」


「イヤッ!! それは絶対イヤッッ(号泣)!!! 暗くて何も見えなくて狭くて苦しいだけじゃあないのよあなた。コウモリがっ!! 何百匹というコウモリが、さっきは突然の訪問で向こうも面食らっていたかもしれないけど、今度はきっと手ぐすね引いて待ち構えているのよっっ!! 入った瞬間出口をガガーンと岩でふさがれて、特攻コウモリがオレたちの懐中電灯を弾き飛ばし、そして満を持した一斉攻撃で我々は全身が黒い悪魔に覆い尽くされ……」


「オレも洞窟には戻りたくないな。じゃあ、もう一度道を探すか……」



 先ほど洞窟を出てから先を行っていたのはジミーだったので、今度は交代してオレが道を切り開くことにした。しかし、アホなオレが注意をはらったのはやはり人の通った形跡があるところ、草木が踏みならされている所であり、そんな部分を選んで進んだ結果
オレたちはもう一度洞窟の出口に戻って来た(涙)。よく考えると当たり前だな……。
 なんでこうなるんだ。普通は、手強い洞窟を抜けた先にはすぐに次の町が用意されているものじゃないか(例:ホーリーローリーマウンテンやロンダルキアの洞窟)。なんでタマンヌガラはやっとのことで洞窟を出ても今まで以上にますます深いジャングルなんだよっ! 
ゲームバランスを考えていないにもほどがあるぞっ!! だから洋ゲーはダメだと言うんだ!!!



「まいったな作者。ハウドゥーユーシンク? この洞窟をもう一度通って入口に戻るという方法に対しておまえはどう思う?」


「ジミーと彼女で、村からこの洞窟に来るのにどのくらいかかりました?」


「1時間ちょっとかな」


「それじゃあ、逆算して日没までに村に帰れなくなりそうな限界の時間までは、洞窟には戻りたくない。
もしオレがドラキュラだったとしても、あの洞窟だけには入りたくない


「でもそんなに彼女を待たせられないぜ」


「いいんじゃないの。
だって別にオレの彼女じゃないもん。あんたの彼女のために、気を使ってコウモリの巣に飛び込む義理はオレには無いっ!!! それとも、一緒にもう一度洞窟を抜けたら、その行動に免じて彼女をオレとジミーの共同の彼女にしてくれるのかっっ!? 折半していいのかっっっ!!!


「切羽詰まったらなんて醜い人間なんだおまえは。まあ初めて見た時から薄々わかっていたけれど。……そうだ! この手があった!!」


「そうだった!! その手があったんだ!!! どの手?」


「ほら、オレたちは洞窟の中を長い時間かけて進んで来たが、実際に動いた距離はいったい何mくらいだと思う??」


「クイズ番組ごっこをやってる場合かよっっ!!!」


「いちいち文句言わずに聞けっっ!!! ピンチの時でも少し遠回りな会話をするのが白人の特徴なんだからっ!! ちょっとくらい考えてみろよ!!!」  ※テレビの前の皆さんもご一緒にお考え下さい。


「動いた距離は、ほんのちょっと」


「だろう? だから、意外と近い所に入口はあるはずなんだ。だからこの手でいこう!」


そうだそうだ! その手でいこう!! どの手でいくの?」


「この手さ。
お〜〜い!! キャサリ〜〜〜ン(仮名)!!!!」(彼女の名前なんていうか忘れました)


「どうしたジミー? 気が狂った?」


「キャサリ〜〜〜ン(仮名)!!! フェアーアーユ〜〜〜!!!」


「ジミー! どこにいるの〜!!」



「おおっ、たしかに聞こえた! 3時の方向であります!」


「よし、進もう! この際多少の無茶はいたし方ない!!」



 そもそも洞窟に入ることになったのはジミーのせいなので、道がないただの林の中をジミー1人に突撃させ無理矢理通り道を作り、
途中で食虫植物にバックリ食われ消化されかかったジミーを助けたりしながら、彼女の声を目指して愛の力で進んだ結果、遂にウィー(We)は再びキャサリン(仮名)の待つ洞窟の向こう側に飛び出すことができた。
 ヤッターーー(世界を席巻中の日本人、マシ・オカになりきって)!!!



「もうあんたたちどこ行ってたのよっ!! こんな所にレディをひとりで待たせるなんて、考えられないドグサレ野郎どもねっっ!!!!!」


「オー、ソーリーキャサリン(仮名)。作者が途中でひどく怯えてしまってさ。励ましながら進んでいたから時間がかかってしまったのさ」


「そうそう。だってコウモリが沢山いて怖かったんだもん。洞窟を出た後も僕が道を間違えてしまってね。全ては僕のせいなんです。ってバカヤロー(激しく怒る気力なし)」


「それじゃあ行こうか。レッツゴーバックトゥー、クアラタハン」


「行きましょー。一緒に行きましょー」



 ということで、そこからは3人一緒に小道に出て、ともにタマンヌガラ国立公園中心部の村、クアラタハンを目指すことになった。
 とはいえ道案内の看板も出ていることであるし、ジミーたちも来る時はすんなり洞窟までたどり着いているわけだからして、ここから先はおそらく楽勝だ。よって、途中でジミーと彼女が「ちょっと休憩だ。一服しよう。ほら、作者も1本」と立ち止まりタバコを勧めてくれた際、ノン相撲キング(ノンスモーキング)のオレは単独で彼らに先んじ道を急ぐことにした。早く村に着きたいのと、オレが通り掛かったせいで彼女を持たせることになったので、なんとなくキャサリン(仮名)とオレとの間に微妙な空気が流れていたせいだ。



「行くのか作者。シーユーレイター。またクアラタハンで会おう」


「じゃあお先にジミー&キャサリン(仮名)! お疲れ様。君たちに出会えたおかげでオレ、すっごく余計な時間を食ったよ!」


「なんて友達甲斐のない奴……」



 ……さて、またも一人になってジャングルを歩く。上下の移動は相変わらず激しいが、道はやや広くなり、どれが道なのかがはっきりしていて分かり易い。それにもう見えなくなってはいるが、後ろにジミーカップルがいると思うとそれだけでとても心強い。やはり人間、「一人じゃない」と思うと力が沸いて来るものだ。……なるほど。
だからオレは今までの人生ずっと力が沸かなかったのか。やっぱり、なるべくして負け組になったってことなんだね。

 ところが、しばらく小道を進むと次第にじわじわじわじわ地面の幅は狭くなり、またも自然のジャングルと通路の境目が判別困難になってきた。このように末広がりの大木がいきなり目の前に登場し、「もしやこれは行き止まりなのでは……(汗)」と焦って木を乗り越えて蔦に絡まりながら進んでみると、再び少しずつ草木が開けて小道になりホッとする。というようなことの繰り返し。不安なことこの上ない。怖いぞオイ!! ばかやろう!!




 そんなふうになんとか進んでいると、分かれ道に差し掛かるのだがまたも道案内の標識が倒れている。そうなると、もはや地図を見て自分の信じる方角に進むしかない。じゃあ、こっちに行ってみるか……。
 もう、ブンブンヨンを出てから3時間になろうとしている。洞窟に時間を取られたとはいえ、2時間以上はジャングルの中を歩いているのだ。あれ以来ヒルに吸われることは無かったが、大量の蚊だけは相変わらずオレの周囲を囲んでいる。常時20匹ほどの蚊にまとわりつかれると、
しばしばブチ切れて暴れることになり余計な体力を消耗するのが悔しい。うぬうっ、ちゃんと一対一で戦えば、こんなモスキート級の奴ら3秒でひねり潰せるのに……。
 そのまま進むと、突然空間が開けたと思ったらなんと林に囲まれた小さな集落にぶつかった。集落と言っても藁でできた小屋が2棟あるだけで、その前でまっ黒な肌の人たち、子供と大人の合計10人ほどが地面に座り込み、思い思いくつろぎながらオレを見ている。一部の男性は上半身が裸で、男女とも全員が素足。近くには煮炊き用のかまどが見える。
 ……そうだ。彼らは、タマンヌガラの
ジャングルに住む原住民の人たちだ。たしか昨日受付でもらったパンフレットに載っていたぞ。それによると、この人たちは先祖代々深い森の中に居を構え、木の実を食べたり、吹き矢で猿などの動物を狩ったりして生活しているとのことである。

 ふ、吹き矢で動物を……。ま、待ってくれ!



「コ、コンニチハ。ワタシハB−3POデス。ニホンノサイセンタンギジュツデツクラレタアンドロイドデス。ケッシテワタシハドウブツデハアリマセン。ニンゲンデモアリマセン。ダカラフキヤデシトメヨウトシテモソレハムダナコトナノデス」


「…………??」



 オレはなるべく吹き矢の標的としてふさわしくないようにと、猿とは程遠いアンドロイドになりきりウィーンガシャウィーンガシャと
ロボットダンスをしながら彼らの前を通り過ぎた。こんな時のために、テレビでストロングマシン2号を見かけたら必ず一緒に踊って練習をしていたんだ。いくらなんでも、彼らもここまで機械的な動きの物をまさか猿と勘違いして吹き矢で攻撃することはあるまい。
 頼むぞ。このまま黙って行かせてくれ……。



「ヨン! ブラウ!」


ぎゃっっっ(涙)!!!! わ、ワタシハアンドロイドデス。ロボットニハアナタタチノコトバハワカラナイノデス。サヨウナラ。ウィーンガシャウィーンガシャ」


「ブラウ! テリンガブンブンクアラタハンブン?」


「ウィーンガシャウィーンガシャ。……え? 今、クアラタハンって言いました? は、はい。ワタシハ、クアラタハンニムカッテイマスケド」


「クアラタハンブン、ブンブンクンバンバラウタビン!!」


「なんですって? こっちじゃないと??」



 原住民の男性の声が突然背後から聞こえたので、横っ跳びに1回転して吹き矢をかわしすかさずアジシオ攻撃で反撃しようとしたのだが、地域住民の彼は、矢を吹く代わりにオレが今来た道のほうを指さし何か言っていた。よく聞いてみると、どうやら「クアラタハンに行くなら道が違うぞ。あっちだ」と教えてくれているらしい。



「げっ!!! 道間違えてました?


「ブキッグアテリンガ」


「ほうほう。なるほど、そちらをそう行って、それからあちらに曲がるんですね?」



 親切にも、彼は木の枝で地面に地図を書いて道順を説明してくれた。言葉はわからないし、部外者のオレにとってはせっかく描いてくれたその地図も
どこのことだかさっぱりだったのだが、しかしともかく違う道を来ているということは確かのようだ。せっかくのご好意のため描いてもらった地図については理解したフリをして、丁重にお礼を言ってオレはまたウィーンガシャウィーンガシャとロボットダンスで皆さんに手を振りながら、元来た道をムーンウォークで引き返した。

 慎重に、分かれ道に注意しながら森の中を進むと、なんとなくさっきも通ったような通らなかったような気がする三叉路のような地点にぶつかり、見渡してみるとやはり茂みの中に道案内の看板が倒れていた。
 この選択を、看板が倒れているせいで誤ったんだなオレは……。
 それにしても、国立公園のくせにジャングル内の案内標識の手入れという、命にかかわる重要な作業をなんで怠っているんだよ……。360度どこを向いてもジャングルなのに、標識がなかったら地元の人間じゃない限り絶対迷うに決まっているじゃないか。これだけ多くの外国人を路頭に迷わせるものといったら、地球広しといえどもタマンヌガラ国立公園か
NOVAの倒産くらいである。
 少し焦ってきたのでもう一方の道(のような道じゃないようなよくわからない部分)を早足で進むが、ただこの進路にしても視界に入るのはとにかく延々と深く暗い森であり、これが正しいのかどうかは全くわからない。これが道であるのかも、そもそもわからない。ただただ際限なく生えているものすごい量の木々、植物の海。深夜に某所に買い物に行くと、よく「ボリューム満点激安ジャングル〜〜♪ 
ジャングルだぁ!!という恥ずかしい歌を耳にすることがあるが、たしかにジャングルはボリューム満点である。ジャングルの情景を的確に表わしているという点で、あの歌はもしかしたらタマンヌガラの原住民に伝わる歌なのかもしれない。たしかに、これだけジャングルが広ければボリューム満点の上に地価も激安だろうし……。 ※一部地域の人にしかわからないネタとなっております。
 としょーもないことを考えていられるのはほんの一瞬だ。おそらく好奇心を持って注意深く周りを見れば、珍しい鳥や猿や小動物がいろいろといるのだとは思うが、オレにはそんな心の余裕はない。それに、むしろジャングルに無数にいる気持ち悪い物たちには、気付かない方が断然良いのだ。

 もうそろそろ着くかな。次の章の最初の段落ぐらいできっと着いてるよ。
きっと着いてるに違いないよ。









今日の一冊は、すごい本であり事実であり衝撃的な傑作 生きるための選択 ―少女は13歳のとき、脱北することを決意して川を渡った





TOP     NEXT