〜楽しい密林5〜





 極悪なヒルに貴重なサラサラ血液を、ラーメンのどんぶり3杯分くらい吸われてしまった。おかげで貧血になり、いつにも増して顔が青白くなっている。
 オレは貧弱なので満血の状態でも日に焼けても酔っぱらっても常に青白い顔をしているのだが、今はそれに輪をかけて完全な真っ青になってしまっている。このまま頭を剃れば、
ブルーマングループにこっそり紛れ込んでも誰にも部外者だと気付かれないほどの、際立った青さとステージパフォーマンスを見せている。今度、もしテレビや舞台でブルーマンを見る機会があったら、みんなぜひ注意して探してみてほしい。オレがノーメイクでメンバーとして参加しているはずだから。
 ちなみに最近暴飲暴食を繰り返しているにもかかわらず血液はサラサラだと言い張っているが、これは本当のことだから仕方がない。なんといっても、オレはあるある大辞典の「納豆を食べれば血液がサラサラになる」という特集を見てから、毎日欠かさず納豆を食べていたのだ。
ちゃんとテレビ番組の言う通りにしたのだから、それはもう間違いなくサラサラ血液になっているはずなのだ。
 それにしても、昨日から短時間の間に連続で
吸血され放題である。マジで気持ち悪い(号泣)。ヒル業界には、イケメンの生き血を吸うと不老不死になれるという伝説でも伝わっているのだろうか? たしかに、オレを逃すともう次にこのジャングルにイケメンが来るのはいつになるかわからないだろうけどさ……だからって……。
 しかし、もしオレの血を吸ったヒルが偶然にも琥珀や氷などに取り込まれることがあったら、遠い未来、5000万年後くらいにヒルの体内のDNAからオレが復活させられることがあるかもしれない。そうなったら、きっと無人島にたくさんのオレを集めた
ジュラシック変態パークが作られることだろう。そこには、はるか太古の昔に失われた「変態」という種を見るため、世界から多くの見物客が集まるに違いない。……よかった、ヒルに吸血されたおかげで復活の望みが出来て。
 でも、わざわざヒルに吸われなくても、蚊でいいんだよな別に……。

 気を取り治してまた森の小道を進むが、人が通るのがどれだけ久しぶりなのか、大木が倒れていたり左右からトゲの藪が容赦なくせり出していたりぬかるんでいたり奇妙な色の水が溜まっていたり、まともに進めない箇所が非常に多い。ホントにこういうところは、誰か友達や恋人と来ていたらキャーキャー言いながら苦しみの中にも楽しさと思い出があるのだろうが、一人の場合は苦しみの中に憎しみと後悔が篭るという、救いようのない状態である。本当に、
楽しくないもん全然。お世辞じゃなくて。
 もし今が逆に村から動物観察小屋に向かう途中ならば、これだけの悪路に遭遇したら絶対に進まずに引き返しているはずだ。北京オリンピックの3000メートル障害金メダリスト
ケニアのブリミンキプロプ・キプルトでも、決勝のレースでこれだけの障害があったらあっさり棄権を申し出るだろう。
 それなのに、なんで自宅アスリートのオレがこんなことを……(涙)。

 おっと。あれは……何か案内板があるぞ! 何々、ほほう、このわき道を入って行くと洞窟があるとな……。
 昨日インフォメーションでもらった地図を広げて見てみると、たしかに案内板に書かれているのと同じ名の洞窟が記載されていた。とりあえず洞窟の前を通りかかったということは、今のところ正しい道を来ているということだよな。よかった〜〜(涙)。
 で、洞窟はどうしよう。まあ、時間が無いから
無理だな。日本のあんな洞窟やこんな洞窟みたいに(あんな洞窟=竜ヶ岩洞、こんな洞窟=秋芳洞)、通路が広くてライトアップされてて人が沢山いたらまだ考えるけど、どうせそういうのじゃないんでしょう? ちなみに竜ヶ岩洞の場合は、売店に「めぐみ」とか「さちこ」とかいろんな名前が入った洞窟キーホルダーが売られてるんだよね。オレ昔、バイト先の女の子のためにいくつか買って行ったんだけど、ニヤニヤしながら「はい、お土産」って本人に渡しているところを他の女の子に見られて、可愛い子にしか買って行かなかったことがバレて言いふらされて、かわいくない女の子軍団からバイト中に一斉無視されるという悲劇を味わったことがあるんだよな。あれは働き辛かったなぁ。あははっ。
 まあとりあえず、様子を見に行くだけ行ってみるか……。
 細いわき路に入り、そのままくねくねと進んで行くと……、
 おおっ、ひ、人だっっ!! 人がいるっっっ!!!!

 なんとそこには、チケット売場に行列をつくるたくさんの観光客の姿が……、あるのかなあと最初にチラッと人影が見えた時に期待したのだが、そこにいたのはなぜかじっと立ってオレを見る白人のカップル1組だけであった。なんかもの珍しそうに見てるよオレのことを。珍しいのかい。
そんなに珍しいのかいヒルに血を吸い尽くされたブルーマンがジャングルを歩く姿がっっ!!
 でも、人に会えて嬉しい(涙)。ただ近くに人がいるという、
それだけで嬉しい。ものすごく彼らと仲良くなりたい気分になったので、早速にこやかに挨拶をしてみると残念ながら向こうは別にオレとは仲良くなりたくないらしく、やる気のないサラリーマンが出勤時に会社の入り口で警備員に返すような、「死体が何かの間違いで声を出した」というような魂の抜け切った返事が返って来ただけだった。
 そりゃそうだよな。カップルで海外旅行に来てるのに、
森の中で突然登場したヒルに吸い尽くされた男と敢えて仲良くなりたい奴はいないよな……。吸い尽くされた男と握手なんかしたら、浸透圧の関係で体がしぼむと思ってそうだし。
 オレは仕方なく悲しみにくれながら二人の前を通り過ぎた。先に進めばチケット売場そしてたくさんの観光客の姿があるかと期待したのだが、実際は売場も人もノーパン喫茶も何もなく、ただ洞窟の入口が目の前で口を開けるだけだった。
 でもどうかな。だいぶ設備が整っているかな。一人でも入れそうかい?


















↓中央の黒い部分が入り口


 …………。









 
さて、引き返すか……。

 
これは無理だろうよ。通路とかライトとかいう問題じゃねえぞこれ。テレビ番組で幻の大蛇とか謎の吸血生物を探す時に挑むクラスの秘境だろこれは。洞窟というより巣穴ではないか。こんな不気味な穴、テレビゲームだとしても入りたくないんだよっ!! 「洞窟の最下層で勇者を待ち受けなさい」と魔王から命令された中ボスだって、この入り口を見たら怖くて入れないぞ絶対!!!! それで仕方なく洞窟の外で勇者を待ち伏せるはずだ!!! で結局、洞窟はゲームのストーリーとは特に関係ない存在になるんだ!

 ……では戻るとするか。



「ハロー。マイネームイズジミー」


「……えっ? ハロー。あなたの名前はジミーなんですか?」



 その時突然背後から話しかけて来たのは、例の白人洞窟カップルの男の方であった。何やら、彼女を後方に残して一人でやって来たようだ。なんだ? さっきと随分態度が違うけど……。つい今しがた運動部に入部して、あいさつの大切さを学んだのだろうか?
 とはいえ、嬉しい(涙)。話しかけてくれるなんて嬉しい……。だって、寂しかったんです。
怖かったんです(泣)!! ものすごく怖かったんです昨日の夜から(号泣)!! ずっと求めていたんです人の温もりをっっ!! おねがいです、抱きしめて下さい……彼女には黙っていますから……忘れるから、一度きりだからっ!!!!



「なるほどユーはジャパニーズで、作者というんだな? オレたちはスウェーディッシュつまり、TOEIC2000点の天才のお前には必要ないだろうが旅行記を読んでいる人のためにわかりやすく言うと、スウェーデン人なのさ」


「よく会いますスウェーデンの人に。ホント、お金持ちな国なんですね。お金持ち同士仲良くしましょう」


「バイザウェイ、ユーは一人でこの洞窟に入ろうなんて、すばらしく勇敢な男だ。じゃあ、オレも一緒に行くぜ!」


「いやいやちょっとっ!!! 『じゃあ』ってなんですかっっ!!! 誰も入るとは言ってないでしょ!!! むしろ、僕は引き返すことを決めたんです。勘違いしないでね。たしかに勇敢ですよ僕は。だって、引き返すのもまた勇気なのだから」


「オーリアリー? そんなこと言うなよ。じゃあこうしよう。まずオレが先に入り口から少し進んで、様子を見て来てやるよ。それで大丈夫そうだったら、作者も後に続けよ」


「いや、あなたの大丈夫そうと僕の大丈夫そうは違うから!! だいたい、なんで急にイキイキしてるのあなた!! ちょっと待ってって!!!」



 オレが全然承諾していないにもかかわらず、ジミーは一人で軽快に岩の上を渡ると、真っ暗な穴の中にするりと消えて行った。懐中電灯を点けたのだろう、やや洞窟の奥から明かりが漏れたと思ったらオレを呼ぶ声が。



「オーイ作者! カモーン! 進めそうだぞ!!」


「…………」



 絶対そう言うと思った……。
だって張り切ってたもん……。進む気まんまんでしょあなたは。だって多分あなたたちは洞窟のためにわざわざここまでやって来たんだから。そりゃあ進む気でしょうでも、僕はただの通行人なの。既に昨日の夜からだいぶスリルを味わってますから、今さら敢えて新たなるスリルを求めようという気は無いんですよ。



「作者〜〜! 早く来い〜〜!」



 あんた、彼女と来てるんだからオレじゃなくて彼女と一緒に入ればいいじゃん!! なに、
こんなところでオレに乗り換えようとしているのあなたはっ!? わかるけど! 彼女よりオレの方がパッチリ二重まぶたで男心を刺激する抜群のキュートさだというのは通り掛かった時から気づいていたけどっ!! うすうす感づいてはいたけれどっっ!!! でもこんな森の中で捨てられる彼女の気持ちも考えてあげてよ!! 可哀相だとおもわないの? あたし、デリカシーのない人はきらいよっ!!!

 ……というか、なんか、わかったぞ。
 つまり、洞窟を探検するつもりで二人で来てみたけれど、この異次元への入り口を見て彼女が
「ぜっっったい無理よ! バカ! アホ!」と入洞を頑なに拒み(当たり前だ)、ジミーは男の子だし好奇心旺盛なのでできれば入ってみたいけどやっぱり一人ではよう行かんから、どうしようか途方に暮れていたんだな。そこに、ものすごく都合のいいタイミングで一人で洞窟に向かう吸い尽くされた男がノコノコと現れたという訳だ。
 それでいきなり張り切り出したのかジミー……。

 この際ジミーを無視して引き返し、
途中で待っている彼女を無理矢理さらって森に消えようか。そうだ。それがいい。人は、ジャングルでは理性が消え野生の本能が目覚めるのだ。密林の中、スウェーデン人のギャルが目の前に無防備に立っているのに呑気に洞窟探検をしている場合ではない。スウェーデン食わぬは男の恥なんちゃって。ふふふ、どうせこの深いジャングルの中では、叫び声も届くまい……。



「作者〜! 大丈夫だからカムトゥーミー! カムトゥーインサイド!」




 ええい、
やかましい奴めっ!! こうなったら、まずはこの棍棒でジミーを背後から襲って黙らせてやるぜ……。
 オレは左手で懐中電灯を照らし、右手にジミー殴打用の木の枝を持ってソロソロと洞窟の中へ進んだ。すると入り口から先には、外から見た姿そのままの狭く暗い岩場そして池のように見える巨大な水たまりが、小さな懐中電灯の光の中で秘境の奥まで続いていた。しゃがんでしか動けない上に、自分で照らさない部分は全て
漆黒である。旅行中に気軽に入るところではございません。
 前方に見える頼りない明かりを目指し、なんとかジミーに追いついた時には既にジミー殴打用の棍棒はどっかにいっていた。なぜなら、片手は電気を持ち、片手はヌメヌメした岩に手をついて必死でバランスを取らなければならなかったからだ。
 こうなったら棍棒の代わりに手刀で心臓を突いて息の根を止めてやろうと思ったのだが、オレの到着を待って、しかしジミーは四つんばいになってさらに奥へ進んでしまった。
 あんさん、それは無茶だろう……。これ以上中に入ったら、外の明かりが完全に見えなくなるじゃないか。しかも道などあるわけない、ただ岩の隙間の空間を見つけて、体をねじ込んで進むだけだ。懐中電灯を落としたり電池が切れたりしたら、脱出不可能ではないか。おい、待てよジミーっ!! なんでそんなに平気で進めるんだ!! 
おまえはリレミトの呪文を習得済みかっっ!!! まさかルーラと間違えてないだろうな!!! ここでルーラ唱えても天井に頭ぶつけるだけだぞっっ!!!



「作者! カム! カム!」


「わかったよっ!!! 行けばいいんだろっっ!!!」



 いちいち移動するごとにオレを呼ぶということは、ジミー、
おまえも絶対恐いんだよな。強がっても無駄だぞ。わかってるんだから。この恐がりめっ!! 情けないやつだなっ!!!
 結局心優しいオレはジミー(恐がり)のせいで引き返すタイミングを逃がし、だらだらとジミー(恐がり)に寄りそってなぐさめながら先に進むことになってしまったのである。
 ともに歩き時には手を取り合って濡れた岩場を乗り越え、一人の女性を巡って今にも殺し合いを繰り広げようとしていた2人の間にはいつしか友情が芽生えようとしていたが、しかし進めば進むほど空気は薄く暗く狭く、遂に目の前に登場した浸かったら体が溶けそうな恐ろしい緑色の水たまりに完全に進路を塞がれた時、
オレの心は折れた。



「リッスン。聞きなさいジミーちゃん。
僕は引き返します。もう進めないから。もう無理で、無理といったら無理で、どう見てもーこれより先はーデンジャラスーー(五七五にしてみました)。水の中には何かがいるよおそらく。いるよきっと。とても危険なものが。だから無理。アイアム無理」


「リアリー? ウェイト作者、またオレが、先に行って大丈夫かどうか様子を見てやるから。ちょっとここで待ってろよ」


「いやもう本当に無理だって! 帰ろう!! ジミー! 
一緒にニッポンへ帰ろう!! 一人で戻れないんだもん!! 怖いから一人では戻れないんだもん(号泣)!!!」



 オレが涙ながらに訴えているにもかかわらず、しかし若々しいジミーは片手のライトで水面を照らしながら、もう片方の手と両足をチャボンと水に突っ込み、低くせり出した頭上の岩を避けほとんどハイハイの体勢で池向こうの暗闇の中へ消えていった。
 あんたなあ……、
そんな進み方をしている段階で既に大丈夫じゃないんだよっ!! それはどう見ても大丈夫じゃない体勢だろうがっっ(涙)!!! 一目瞭然、自明の理!! だから戻りたいって言ってるんだよっっっ!!!
 
そもそも、あんたの彼女が進むのを拒んだところに、オレが平気で入れると思うのが間違いなんだよっ(泣)!! 旅先のあらゆる場所で白人女性を遥かに凌ぐ臆病さを見せているのがオレなんだっっ(号泣)!! 憶病オリンピック銀メダリストのオレをナメんじゃねーよっっっ(決勝で惜しくも20歳の保母さんに敗れました)!!!



「聞こえるか作者〜! 大丈夫そうだぞ〜! オレのように片手と両足だけ水に浸けて、慎重にここまでカ〜ム!」



 おまえっ、むちゃくちゃ言うなよ本当に……。
むちゃく〜ちゃ〜言〜うなっちゅうね〜ん♪(倖田來未風) あのなあ、おまえの大丈夫の基準はなんだ。大丈夫の定義を言ってみろテメエッ!! 入学試験で「『大丈夫』の意味を書きなさい」という問題が出たらおまえの解答では絶対に不正解なんだよっっ!!! オレが正解だ!! 大丈夫じゃない!! この池に入るのは大丈夫じゃないという認識で大丈夫であるっ!!!
 だって、ジャングルの中の洞窟の中の池だぞ……。絶対なんかいるだろ……スイスイくねくねと蛇とかワニとか怪奇生物が泳いで来たらどうするんだ……未発見の、
人を食べる水生生物がいてもおかしくないんだから……(涙)。



あくまでもフラッシュを焚いた一瞬だけかろうじてこの明るさ。



 おおお……でももはやジミーが行ってしまった今、一人では引き返せない。だって怖いから(号泣)。仮に一人で脱出できたとしても、なぜかその後何日経ってもジミーが帰って来ないなんてことになったら、一緒にいたオレにあらぬ疑いがかけられるではないか。ジミーが行方不明になるのは別にいいけど、
疑われるのだけは勘弁してほしいっ!! オレはやってないのに!!! ……まあ、真実は洞窟の深い闇の中だけどな。
 怖い。早くジミーのところへ……
 背中のリュックを腰までの高さしかない天井のヌメリにこすりつけながら、左手で手元足下水面前方を交互に照らし、浅そうな部分を選んで手足を置き少しずつ進む。膝を浸すのが嫌で、四つんばいというより腕立伏せの状態で前進である。……感じる。左右の岩の下、
真っ黒な水の中からオレを見つめる毒蛇の冷たい視線を感じる……(泣)。

 しばらく水の中を進むと前方に盛り上がった岩場があり、上からも迫る岩との間に30cmくらいの隙間があった。その向こうから、ジミーの声が聞こえる。
 …………。
 なぜ進んだおまえはここを……。ジャングルの洞窟の水場の先の闇へ続く30cmの隙間を、なぜおまえは進める。懐かしいのか? 
おまえの母さんは、崩れたトンネルに閉じ込められた状態でおまえを出産したのかっっ!!! 狭い洞窟は心の故郷かっっ!!! もしくは、大蛇が化けてるのかおまえにっっ!!! ジミーに化けてオレをおびき寄せているのか腹を空かせた子ヘビの群れが待っている巣にっ!!! 本物のジミーをオレが見ていない隙に飲み込んで入れ替わったんだなっっ!!!
 這いつくばり、腹も背中も股間も尻もどろどろの岩の堆積物に擦りつけて、目の前の石の出っ張りをぬちゃっと掴んで体を引き上げる。上半身が抜けると、突然暗闇から何者かに脇を掴んで引き上げられた。ジミーだ。大蛇が化けたジミーだ。



「ありがとうジミー! 助かったよ! ところで
テメーこの野郎っ!!! ぜんっぜん大丈夫じゃないだろうがっっ(怒)!! 日本人はウサギ小屋に住んでるから狭い所もお手のものだと思ってんのかコラっっ!!! それは大いに事実を履き違えているぞっっ!! オレたちがウサギ小屋に住んでいるんじゃなくて、ウサギの方が日本の狭苦しい住宅を真似て小屋を作ってるんだよっっ!!!」


「ルック。ほら、この先はどうやら天井が結構高いみたいだぞ。これなら順調に進めそうだろう?」



 たしかに、前方を照らしてみると、もちろん直立は出来ないがややかがみ姿勢で足元に注意すれば2本足で歩けそうな、開けた(今までに比べれば)空間が伸びていた。
 大蛇のジミーはスタスタと進んでしまうので、オレも余計な所は照らさずに(何が出るかわからないので)ただ前を向いて一目散に歩いた。
 20メートルくらい進んだだろうか。オレは中腰のまま左手で壁に寄りかかり、呼吸を整えるため少し深呼吸をした。
 …………。
 ん? なにかの気配が。なにか生き物の気配がするぞ。なんだろう。このバタバタという音……。オレは、何も考えずに岩壁に付いた左手の、そのまたほんの50cmだけ左側にライトの光を向けてみた。

















↑全部コウモリ(あまりの光景のためサイズを自粛しています)



 …………。













 
カチーーーン(白目をむいたまま固まった音)








「おーい、作者? ついて来てるか?? おい、どうした??」


「ばばばばばばばばばばばばばばば、バット……ぷれんてぃーおぶばっと……」


「バット? フェアーイズバット? 
オオオーーーーッ(涙)!!!!!! オーマイガットッッ!!!! オーマイバット!!!」


「はわわわわ……」



 意気揚々と前を行くジミーだったが、振り返ってオレの照らす先を見た瞬間、彼もやはり恐怖の叫び声を上げた。
 これが結果だよ……。おまえが大丈夫だと言った通路の先、
この、今オレたちの目の前にあるものがおまえの「大丈夫」の結果だ。こんなことが許されていいのかっ!! たとえ日本とスウェーデンの関係悪化に繋がろうとも、オレはこの件について命ある限り糾弾し続けるであろうっっ!!! 国際社会に向けて、このジミーという人間がどのような悪らつな行為を働いたかと言うことを発信し続けるであろう!!!!!!!

 奥の方まで、だいぶ先まで壁のマダラ模様は点々と続いています。この子たちが吸血コウモリだったら、
2人分はまるまる完吸できるくらいの数はいますよ。吸血じゃなくても、コウモリに噛まれると狂犬病に感染するケースが多いらしいですね。水や風を恐がるようになって全身麻痺を起こし、100%の確率で死に至るあの狂犬病に。う〜〜〜、ワンワンッ!! ガウワウッッ(機先を制して犬になってみた)!!!

 ……ここまでずっとオレが掴んでいた岩の上のねちゃっとした堆積物、あれは、コウモリのフンだったのだ。もし今すぐオレの手の平のサンプルを採取して研究所で検査したら、おそらく天文学的な数のウイルスが検出されるだろう。そしてその結果
オレごと焼却処分という判断が下されるだろう。これは、洞窟に入ったことは黙っていた方がよさそうだ。村に帰ったら黙ってレストランに行き、ろくに手も洗わずに黙って食材をペタペタと触ってやろう。



「急ごう作者。もしかしたら、こいつはちょっとデンジャラスなシチュエーションかもしれない」


「そうだなジミー。よし、それじゃあここからはオレが先に行こう。今まで先導ご苦労さま。交代だ。疲れたろう? 少しここで休んで、後からゆっくり来てくれ


「いや、気にするな。もうここまで来たんだから、前衛は最後までオレに任せてくれ。作者は後ろの守りを頼む」


「やだ。オレが前に行く! あんたはオレを巻き込んだ償いに最後までオレを守る義務があるっ!! いざとなったらオレが脱出するまで後方で血を吸われて時間を稼ぐのが筋だっっ!!!」


「前方にだって危険が潜んでいるかもしれないだろっ!! だから道を切り開くのはオレに任せてっ!! 人間より動物の友達の方が多い作者は、よく見ると小動物みたいでかわいい団体コウモリの相手を頼む!!!」


「うるさいっっっ!!! 先に行くと言ったら行くんだ!!!! ストップジミー!!! チェンジザポジション!!!」


「無理だって! すれ違えるほどの空間は無いんだから! じゃあ急ぐから。オレが急いでこの穴を抜けるから、間を空けずに作者もすぐ後で来いよ。また奥から引っ張ってやるから。よしっ行くぞ、
あいだだだだだっっっ!!! なんで一緒に入って来ようとするんだよおまえはっっっ!!!! 2人同時にくぐれるわけないだろうこんな狭いんだからっっっ!!!! ちょっとくらい待てよっっ!!!


「イヤだっっっ(号泣)!!! オレが先だ!!! 先なんだ!!!」


「なにを言うか!! オレが先だっ!!」


「こっちが先だっ!!! 考えてもみろ、日本の方がスウェーデンより8時間も早く夜明けを迎えるんだぞっっっ!!!」


「シャーラップ!!! 時差がなんだっっ!!! オレたちの社会保障は日本よりずっと先を行っているんだぞ!!! ノーベル賞を誰に与えるかだってスウェーデンの機関が決めているんだからなっっ!!!」



「ええっっ!? そうなの?? …………。
でもオレが先だっっ!!!」


「なに言ってるんだオレが先だ!!!」


「いやオレだっっ(涙)!!!」




 ……そこからはもはや、
かつての友情や好奇心や冒険心はどこへやら(最初からないという説もある)。オレたちはただ恐怖に怯え、転げるように洞窟の中を進み、やっとのことで自ら照らす以外の希望の光を前方に見つけ外界に這い出すと、オレもジミーもコウモリのフンまみれ、我を忘れた文字通りコウフン状態の2人なのであった。ちゃんちゃん(号泣)。





今日のおすすめ本は、
私・さくら剛の南米旅行記 南米でオーパーツ探してる場合かよ!!







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