〜腹痛ム4〜





 しかし腹は痛い。たしかに昨日の夜の
痛みの業火を思えば、時間が経った今はなんとかコトコトと優しい火加減程度の痛みまでにはなっている。だが弱火になったとはいえ、結局まだまだ火を吹くほどの痛さなのだ。なんでこんなことになるんだろうか。オレの人形にブードゥー教の人がなんか刺してるんだろうか。それ多分人違いですから!! もう、痛いったら痛いのっ!!! 治りたいの!!! もうなにもかも疲れたの!!!!
 オレは女王様に渡された処方箋を握り締め、3軒先の薬局へ向かった。これで、この腹を焦がす弱火も、身を焦がす恋の炎も鎮火するはずである。別に入院が必要なわけでもないし、処方箋だけで診療が終わったということは、貰う薬をきっちり飲んでいればこの病気は治るのである!
 ただ、あの女医さんはオレの前に普通に
骨折の患者を診ていた。ということはおそらく外科が専門ということだろうが、腹痛で苦しんでいるオレの診察は明らかに内科の仕事と思われる。ちゃんとした判断を下されているのだろうか? もしかして、ボブ・デービッドソン審判なみの適当な判定をされているのではないだろうか? 不安なことこの上ない。
 まあ、とはいえ医者は医者だ。あだ名が女王様だけに、きっと八兵衛やマサシのような平民とは違うのだ。外科も内科も両方ともちゃんと免許を持っており、メインとサブで使い分けているに違いない。外科の診療がゆでたまごにとってのキン肉マンだとしたら、内科は
「闘え! ラーメンマン」みたいな位置付けなのだろう。

 さて、薬局でこれまた女性の薬剤師さん(小女王様)に処方箋を渡すと、飲み薬が2種類ほど処方された。ここで問題になるのは、これがなんの薬か、そしてオレはいったい何の病気なのか、そして今後オレはちゃんと治って家に帰って、また部屋から出ずにインターネットでグラビア画像収集に力を入れ、風呂も入らずひたすらゲームをやり続け太陽の姿を見かけるのは10日に1回という
有意義な社会生活に復帰できるのかということである。あ、一応言っておくけど、風呂に入らないからって、「作者って汚いなあ」なんていう短絡的な考えはやめてね。だって、部屋にこもってネットとかゲームやってるだけなんだから、汚れる機会なんて無いの。つまり風呂に入らないからって、汚いんじゃなくて、ずっと奇麗なままなの。老いを知らないかのようなの。そういう大事なところに目を向けないで表面だけ見て汚いなんて言ってる人は、日本の社会をうまく渡っていけないと思うよ。

 さて、とにかく病名をはっきりさせなければ安らかに眠れないので、オレは思い切って聞いた。



「あのー、すみません、、ファ、ファットカインドオブ病気!!」


「え? なに?」


「ファット、ファット!! ファットファット!!」



 僕の病気はなんですか? が思い浮かばず最初は全然意味が通じなかったのだが、一生懸命処方箋を指差しファットファット言っていたらようやく理解してくれた。ちなみに、もし処方箋ではなく薬剤師の小女王様を指差して「ファットファット!」と叫んだら
一撃でKOされて、今度は外科で医者にかかることになるだろう。



「あなたの病気はね、フードポイゾニングよ」


「な、なんすかそれ?」


「えーとね、えーと……あんたの幼稚園なみの貧弱な英語力を考えると説明が難しいわね。だから、ボクちゃんはね、何か悪い物を食べたの。それでドカンとお腹にきちゃったんでちゅよ」


「なるほど。フードポイゾニングでちゅか……」



 これで病名はわかったぞ。
フードポイゾニングだそうだ。このやろうめっ!!! オレをこんなに苦しめやがってフードポイゾニングめ!!!!! 日本語に直すとなんていう病気なんだよっ!!!
 貧弱な英語力でちょっと考えてみまちょう。フードは、食べ物だ。ポイゾニングって、なんかポイズンに似てるよな。言いたいことも言えないこんな世の中って感じだ。そうすると
毒にまつわるエトセトラな言葉ではないだろうか。
 食べ物と毒……。
 はっ!!
 もしかして、オレはルームメイトに毒を盛られたのではなかろうか?? たしかに、今朝から同部屋の少年T君(仮名)が妙に親切だなあと思ってたんだ。オレに毒を盛って、わざと瀕死の状態にしてから親切なところを見せ付けて、
それで女性ファンを獲得しようという作戦だなっ!!!! そうだったのかっ!!! なんという卑怯な!!! この人でなしっ!!!!

 でもよくよく考えてみると、T君はオレに食べ物を与えていないし……。毒を盛ろうにも盛るチャンスが無かったよな。看病のフリをして軽いタッチくらいの
わいせつ行為はされたような気がするが、まあオレも寛大なのでおさわり程度は許す。
 T君(仮名)が無罪だとすると……。
 食べ物……毒……









 
食中毒。






 それだ!!!!

 これは正解だろう!!!!! 「何か悪いものを食べた時にかかる、食べ物と毒の関係ある病名」といえば、食中毒しかない。間違いない。正解だ。この問題、
正解したらIQ124くらいじゃない?
 まあIQサプリ的な評価はこの際おいといて、とにかく、食中毒確定である。
食の中に毒がある。これすなわち食中毒。しかし、食中毒の場合は毒は毒でも本当の毒ではなく、毒のようなものだがあくまで毒とは違う、いわゆる細菌などである。毒毒いってるとやっぱり毒々しく聞こえるね。なことはどうでもいい。毒とは違い細菌、そう、昨日食べた何かの中に仕掛けてあった細菌兵器にやられたのである。
 なんだっ!! 一体何に細菌兵器が入ってたんだっ!!!! 
 よーし、ちょっと昨日のことを思い出してみよう……。

 ほわんほわんほわん…………(回想シーン:昨日の夜・宿前の屋台)

 屋台のオヤジに声をかける作者。


「まーおいしそう! そこのおじさま、このサイコロステーキはおいくらかしら?」


「おういらっしゃい堀北真希にそっくりなおじょうちゃん! たったの600ディナールだよ! おじょうちゃんかわいいからサイコロ2個おまけしちゃうよっ!」


「まあ素敵! それにすごくお値打ちね。やっぱり下々(しもじも)の食べ物って、下品でも安いからたまにはいいわね」


「はっはっは! そうだろう! じゃあ早速この砂埃の中で調理したサイコロステーキを、前の客が使った後サッと水で流しただけの、油でべっとんべっとんな皿にコロコロと盛り付けてやるよ! ほらよ!」


「まあおじさんったら、おちゃめなんだから! じゃあいただきまーす! サイコロだけに、なにがでるかな♪ なにがでるかな♪……もぐもぐ。すご〜い! すごくおいしいわ!」


「そうだろう。どんどん食べていきなよ!」


「おいしいっ!! おいしいわっ!!!! うまいっ!!!! もう我慢できないっっ!!!! 
レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロ(皿を舐めまくっている音)……」


「きたなーっ!!!!!」




 ほわんほわんほわん…………(回想シーン終わり)


 ……。


 
そうだっ! わかったぞ!!
 ステーキだっ!!!! 昨日の夜食ったサイコロステーキだっっ!!!!!!

 そうだった。オレはあの時、ステーキなんていう億万長者の食べ物に感動し、勢い余って
皿についていた油や汁までベロンベロン舐めまくってしまったのだ。冷静に考えてみれば、あの使い回しの油ぎった皿には細菌一家が定住していたに違いない。いつもだったら清潔を第一に重んじる、無洗米も洗って炊くほどの用心深いオレなのだが、昨夜はステーキに惑わされ理性のタガが外れ、レロレロと暴走する舌を止めることができなかったのである。ベロベロ舐め回すなんてはしたないとは思ったが、オレとステーキの仲がムツゴロウさんと王国の犬の関係より上だということをどうしてもスーダン人に見せてやりたかったのだ。

 だが、まてよ。食中毒っていえば、そんなに悪い病気でもないんじゃないか? あまりに尋常じゃない痛みで、下手したら腸チフスとかガンとかエボラ出血熱とか妊娠ではないかと思っていたが、そんなのではなく
ただの食中毒である(食中毒をなめた発言)。老人ならまだしも、肉体年齢はまだ10代前半のこのオレのことだ、食中毒の菌など放っておけば後藤真希の弟(ソニンの元相方)のようにいつの間にか消えているに違いない。

 そうだ。
 悪いものを食べて腹を壊すなんてよくあることじゃないか。
 食中毒なんていっちょまえの名前をつけやがっているが、言ってみればただ腹を壊しただけだろう? mixiのサーバーの不具合みたいなもんで、その時は腹が立つがほっとけば気付いた時には復旧しているはずである。

 単なる強がりではなく、オレは本気でそう思った。そして、
そう思った瞬間、いきなり腹痛が楽になった。
 つい今しがたまで腹痛に顔をゆがめ体をくの字に折り、この薬局まで歩いて来るだけでもフラフラのヨレヨレで、オレの歩く姿を見た通行人はきっと「あれ何? 
殉職シーンの撮影でもやってるの?」と疑問を持ったに違いない。それほど大げさに弱っていたのに、たいした病気ではないと聞かされた瞬間背筋が伸びた。同時に痛みも大幅に減った。おそらく、ベホイミの呪文をかけられたキャラクターはこんな気持ちなのだろう。もしくはケアルラとかディアラマとかライフアップβとかせんきんたんとか……。え? マニアックすぎて怖い? うるせーボケ!!!



「ありがとう薬剤師さん!! 薬の処方というより、あなたの説明を聞いてすごく良くなりました!!!」


「そーお? それはよかったわねー。でもちゃんとこの薬も飲まないとダメよ。油断は大敵。油断したが最後、あなたはスーダンの砂漠の藻屑と消えるわ。じゃあ800ディナールね」


「ハイっ!!! では、1000ディナールでお釣りをください」


「えーっと、今ちょっと細かいの無いから、どうしようかな……よし、代わりにこれをあげるわよ。これでいい?」



 お釣りが無いから代わりにこれでいい? と言いながら彼女は陳列ケースから
別の錠剤(効能不明)を出して、オレに手渡した。

 ……。


 
いいわけねーだろ!!!!!!

 値段としてはちょうど妥当な物なのかもしれないが、駄菓子屋じゃなくて
薬屋なんだから、適当な売り物で間に合わせるのはやめてくれ。ちゃんと現ナマをよこせ! 現ナマを!! そんなのダメだ、ちゃんと現金で返せとごねたら、「ケッ、日本人はやっぱり金に汚いのねえ。そんなことだからエコノミックアニマルなんて呼ばれるのよ」とうんざりした顔で、レジをごそごそやってお釣りの200ディナールを取り出した。あるじゃねーかよっ!!!!!
 
 さて、薬局を出たオレは、とりあえずなんとか復帰できそうだとホッとした途端あることを思い出した。
 ……チケットを買わねば!!!! いかん、明日の電車を逃したら、次は1週間後だっ!!! こんな砂とグレープフルーツジュースしか無いところで(昨日は物があるある言っていたが)1週間も過ごせるか!! 
地蔵でも退屈して5日で逃げ出すわ!!! しかもこれだけ砂が絶え間なく舞っているんだ、1週間後には砂に埋もれて街ごと消滅するかもしれない。

 オレはすかさず落ちていたタクシーを拾い、ハルツームの北郊外にある駅へ行った。事務所には、「チケット販売時間:午後3時まで」と書かれていた(今は午後4時)。



「おじさんっ!!!! そこの駅員風のおじさん!! 切符くれっっ!!! 切符をください!! なんでもします!! しばらく禁欲しますから!! だから切符売ってください! お願い(号泣)!!!」



 ……そしてオレは、あっさりチケットを手に入れた。頼んでみるもんだ。やらずに悔やむよりやって悔やめ。検便で岬くんのお父さんの言葉を思い出しておいて良かった。
 ということでそこから今度は市バスに乗りはるばる街まで帰ることにしたのだが、さすがにまだまだ食中毒真っ只中。先ほどの注射が効いているのか下の方からは出てこないものの、満員のバスで立ちっぱなしだったこともあって、宿近くのバス停で降りた時には
吐き気がクライマックスを迎えていた。最も辛かったのは、宿の前のサイコロステーキの屋台の脇を通る時だった。
 経験がある人はわかると思うが、食中毒というものはかかってしばらくは、その原因となる該当の食べ物をちょっと頭に思い浮かべただけで、もの凄い吐き気に襲われるのだ。ましてや今は、そのブツの姿が見えるどころか匂いまでやって来る。おえっっ!! き、気持ち悪いっ!!! 吐く……吐く〜〜〜〜。くそ、
食中毒患者を出した翌日も普通に営業しやがって!!!! 見舞金よこせよ!!
 とにかく出よう出ようとする胃液を必死の気力で抑える。しかしどんなに落ち着かせようとしても、気がつくと勢いに乗り飛び出す寸前の胃液。
日本代表の三都主かおまえは!!! もっと引っ込め!!! オレは必死で目を塞ぎ、なんとか飛び出そうとする三都主をなだめながら部屋まで戻った。



「あ、作者さん。具合はどうですか? 医者はなんて?」



 部屋では、例のルームメイトの少年がオレを待っていてくれた。本当はひと息ついたところでゴミ袋を取り出して思いっきりゲロっと吐きたかったのだが、優しい多神くんに汚いものを見せるわけにはいかない。いくら神とはいえ、目の前で吐かれたらさすがに不愉快だろう。人が何か吐いて喜ばれるのは、
ふじいあきらが口からトランプの束を吐いた時くらいだ。


「なんか、フードポイゾニングだった。それで、薬屋さんでこんなのもらったの」


「ふーん、食中毒ですか」


「そうみたい(一発でわかってやがる……)」


「検便したんですか?」


「ううん。がんばったけど、出なかったの。そしたら、血液検査でわかったって女王様がいってたの」


「ええ? 血液検査で食中毒がわかったんですか? そんなバカな」


「なんだよっ!! だってそう言われたんだもん!! 女王様が言ってたんだもん!! ぼくが悪いんじゃないもん!!!」


「じゃ、ちょっと薬見せてもらっていいですか? ……うわ、これ○○○○○じゃないですか(作者注:袋を見て薬の成分を解読した模様)! これって、ただ下痢を止めるだけの薬ですよ!? これじゃ反対に菌を閉じ込めちゃいますよ。こんなの食中毒の患者に出しちゃダメだよ……」


「……」



 あの、多神さん。

 
あんたほんとに19歳でしょうか。40歳ほどサバを読んでいやしませんでしょうか。

 一国の首都でバリバリ働く医者の診療に
ダメ出しをする、去年高校を出たばかりの19歳。一体どういう環境に育ったらこんなレオナルド・ダ・ヴィンチなみのマルチな才能を習得した人間になるのだろうか。正直、オレはあんたと中身を入れ替えたい。やはりこいつと一緒に行動するとどう考えても作者が悪役になってしまう。本来悪を懲らしめる側の、勧善懲悪もので通っている作者が。
 ということで、今度は
お返しにオレが多神くんの夕食に毒を盛ってやろうと思ったのだが、彼が倒れてもオレはオタオタするだけで、人の助け方とかわからないから、イメージアップ→女性ファンの獲得には繋がらない。とりあえず仕方ないので多神くんの毒殺はあきらめ、明日に備えて2日ぶりにひたすら寝ることにした。
 ああ……長い2日間だった……





今日の一冊は、

気持ち悪いがそれがクセになる伊藤潤二さんの

うずまき




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