〜四川省へ〜 香格里拉(シャングリラ)の宿は4人部屋であったが、ニセクリスプチョコレートすら満足に売れないようなニセ桃源郷に観光客など来るわけはなく、よってこのニセ宿にも滞在するニセ旅行者はほとんどおらずニセだめんずでニセ非モテ系のオレはニセ4人部屋をニセ一人でニセ独占していた。 誰かと同部屋になることの多い旅先において、たまに一人部屋になったら真っ先にすることはこれしかない。ハーーーッ(気合)!!! シコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコ…… ドタドタドタドタ……ガチャッ 「はいお客さんこの部屋アルよ〜。もう一人日本人が泊まってるけど仲良くするアル〜」 「おうよ」 「チェックアウトは12時ね。……あれ? おまえ何やってるアルか??」 「…………。なんでもありません。慌てふためいた体勢で不自然に布団をかぶっているけど、決してやましいことをしていたわけではありません」 「でも、なんかシコシコシコって音がしてなかった今?」 「そうです! 僕は四股を踏んでいたんです!!! 故郷が恋しくなって、日本の国技である相撲のシコを何度も踏んでしまったんです!!! 最近じゃあ中国のお隣さん、モンゴル出身の力士も大活躍なんですよ!! すいません木造のハリボテ宿で床が弱いことはわかっているのですがっ!!! ついつい元わんぱく幕下の血が騒いで!! もうしませんから許して下さい!!!」 「感じわるー」 「トイプチー(すいません)」 いやあ、危なかった。まさか夜も十時過ぎに、ノックもせずに突然ルームメイトが案内されて来ようとは。掛け布団をすぐ近くにスタンバイしといてよかったぜ。こういうところの用心深さはさすがオレだね。「てごろでがっちり入院保険」に加入しているだけあるね。でも、まいったなあ。シコを踏んで高ぶってしまったこの精神状態を、どうやって落ちつかせればいいんだろう。これを途中で止めるほど辛いことはないんだよ。ほら、見てよ、こんなになっちゃったんだよ? 責任取ってよ、ねえ。 ……しょうがない。ルームメイトがいるのに続きをやるわけにはいかないしな。隣でシコなんて踏んだら迷惑だろう。とりあえず布団に入ったままこっそりパンツを履くとするか……。なんでパンツ履いてないんだよって、そりゃまわしを締めてシコを踏んでたからだよっ!!! オレは何をするにも形から入る人間なんだっ!!! え? なんで4つに折り畳んだトイレットペーパーが手が届くところにスタンバイしてあるんだって?? …………。子供が読めないような話をこれ以上膨らませるなよっっ!!! 旅行記の品格が下がるだろっっ!!! オレは「深夜特急」と同じ読者層をターゲットにしているんだから!! こんな話、沢木耕太郎が書いたか?? 書いてないだろテメエっっ!!!! もう寝る。オレは寝る。下品な人なんかに付き合ってられないから。昨日は春の園遊会で皇太子様と海外旅行についてお話しする夢だったから、今日は歌会始で眞子さまと和歌を詠み合う夢でも見よーっと……。 ……ってこういうネタを編集段階で削除せずに掲載してしまうのが、素人のweb旅行記の無謀なところだよね。 うがあっっ!!! けむいぞおっ!!! 人が寝ているというのに、先程入って来た同部屋さんはこのクソ狭い中でタバコを吸い出しやがった。「吸い出しやがった」といってもタバコの中身だけを巻紙からチュ〜〜〜〜ッ!!と吸い出したという意味ではない。そんなことをするにはものすごい吸引力が必要だ。この場合の「吸い出した」は、「吸い始めた」と同じ意味だ。 同部屋の彼は、旅行者ではない、普通の中国人のおっさんだ。おそらく長距離バスの運転手などではないだろうか。それにしてもこの辺りの田舎ではまだまだ、他人への配慮が足りないというよりタバコを吸うことが当たり前すぎて、吸う時に周りを気にするという習慣が無いんだなこのアホ……。 くそ。こうなったら隣でこれ見よがしに咳き込んでやる!! これ見よ! がしっ!! ゴホゴホゴホッ!!! なんなら肺炎をぶり返してやるぞっ! オレが苦しそうに咳込む姿、なんなら急性肺炎で息を引き取る姿を見て自分の罪深さを思い知りやがれっ!!! ゴホゴホゴホゴホッッ!! ゴフゴフッゴフッ!!! ああ苦しい……本気で苦しい……。 ゴホゴホゴホゴホゴヘェッゴハァッ!! ゴフゴフッ!!! ああ気持ち悪い……肺が痛い……。喉にも悪いなこれ……。ええいまだまだ!! ゴホゴホゴホゴホホゴヘェッゴハァゴヒゴヒゴヒョッッ!! ゴフゴヒャッ!!! …………。 寝れるかチクショオオッ!!! おまえはルームメイトが「ゴフゴヒャッ!!!」と苦しんでいても少しも胸が痛まないのかっっ!!!! これだけわざとらしく咳をして最後には役に入り込みすぎて本当に苦しくなって涙まで流して、我が身と引き換えに煙害を訴えたのに、中国おっさんは一向に反日活動の副流煙攻撃を止める気配がない。 いいか、あんたは知らんかもしれんけどなあ、受動喫煙っていうのがあってな、隣で5本タバコを吸われると、オレも1本吸ったことになるんだよ。仮にあんたが25本のタバコを吸うとオレは5本のタバコを吸ったことになって、オレが5本のタバコを吸ったことになるということはまたその隣にいるあんたはオレのせいで1本吸ったことになるんだよな。そうやって交互に迷惑をかけて行くなら、結局のところお互い様だよね。ってバカヤローっ!!!! 到底寝れたものじゃないため、仕方なくオレはむくむくと起き出して、読書をすることにした。たしかこの前の続きはこの辺からだな……、えーと、ピクッピクッとわななきながらいきり立つ劉のたくましい如意棒は、芙蓉姫の生白い秘肉を押し広げその奥に待ち受ける魅惑のシャングリラへ、情欲にまみれた淫らな饗宴を待つ初心(うぶ)な童子のように…… パチッ …………。 電気消された。 タバコを吸い終わって寝る体勢に入ったおっさんが勝手に電気消しやがった。 おまえな……。いくらなんでも、オレが今こうやって(青少年に良くない)本を読んでるのがわかってるだろうが。わかっててなんで消す? 自分が吸いたいからタバコを吸う、自分が寝たいから電気を消す、おまえの意識の中に同じ部屋にいるオレの存在は無いのか?? 自分さえ良ければそれでいいのか? この世はおまえのものか?? それとも、今回オレがエッチなことを書きすぎているからたしなめてくれたのか?? そういう意味があるの? でもしょうがないだろエロい体質なんだから。貴重なんだよこういう人は。希少価値があるよ。これだけ四六時中下ネタを考えて生活してる人間なんて、日本中捜してもオレか岩谷テンホーくらいなんだから。 とにかく官能小説も満足に読めないようじゃ起きていたってしょうがない。じゃあ寝よう。 …………。 そして10分後。 グガーーッ・・・ゴガーーッ・・・ ……うるさい(涙)。 イビキがあまりにもうるさくて寝られたもんじゃない。なんでこいつは、部屋に来た瞬間からことごとくオレの邪魔をするのだろう。やることなすこと全てだ。この調子だと、来年のハワイでの挙式でまさにオレが新婦と誓いのキスをしようとするその瞬間も、このおっさんが「まてまてーい! その結婚、世間が認めてもこのオレが認めん!!」とわざわざ雲南省から邪魔しにやって来るのではないだろうか。 くそ……とりあえず気晴らしにトイレにでも行くか……。 オレは懐中電灯を手に、ドアを開けて廊下に出た。 怖いんですけど……。 この廊下を通って、トイレは1階の離れだ。ほとんど客のいない古ぼけた木造の宿は今にも幽霊でも出そう……、いや、幽霊じゃない。ここは中国じゃないか。キョンシーだ。キョンシーが出るぞ。あいつら死人のくせにめっちゃ強いんだよな……。「キョンシー」だぞ。「キョンツー」じゃないぞ。キョンシーが出たのにキョンツーすなわちキョン2のキョンキョンと勘違いして一緒にヤマトナデシコ七変化を歌おうとしても、向こうは中国人だからノリが悪いぞきっと。 そういえば、キョンシー役の真田広之が生徒の桜井幸子と禁断の恋をするという、野島伸司脚本のTVドラマが昔ヒットしたよな。たしかタイトルは……、そう、高校キョンガリッいでえええっ!!! 舌噛んだっ!! 言い切らないうちに舌を噛んだっ!!! もう言わないっ。 恐怖でウヒョウヒョ言いながらトイレに行って部屋に(あっさり)戻って来ると、相変わらずおっさんはグガーーッゴガーーッと大いびきで寝ている。 一向に収まる気配がないもんだから隣のベッドから「うるさいっ!!」と叫んでみると、一応その瞬間だけは少し静かになる。だが、その静かな状態は五分と続かず、なんだか「ウウッ、アオオッ……」と苦しそうに呻いたかと思うと、その後にまたグゴーガゴーと復活するのだ。 グガーーッ・・・ゴガーーッ・・・ 騒音の中で眠ろうと奮闘しながらもやはり眠れず、あっという間に夜中の12時を回った。明日は6時起きなのに……。 グガーーッ・・・ゴガーーッ・・・ オレは、いい加減頭に来て電気を点けて怒鳴った。 「テメエうるせえって言ってんだよオイッ!!! ゴラアッッ!!! 静かにしろワレエッッ!!!!!」 「ウオウオッ、アウアワア……」 静かになった。 やっと寝れるかな……? よし、頼むぞ、このまま大人しくしていてくれよ……。 「ウオウッ、アウッ、ウウウウ……。 …………。グガーーッ・・・ゴガーーッ・・・」 …………。 ダメだ。この人、この絶叫いびきをかかないと寝られない体質なんだきっと。さすがのオレも、このおっさんと「結婚したくない男ランキング」で争ったら負けると思うぜ……。だってこの人と結婚したら毎日が永遠に完成しない深夜道路拡張工事だぜ……。 グガーゴガーという騒音の合間に彼は、これも大声でのわけわからん寝言を絶叫している。中国語の寝言のためよく理解出来ず、筆談をするためメモを渡そうかどうか少し迷ったが、おそらく寝ながらではミミズの這うような漢字しか書けずせっかく書いてもらっても解読不能になるに違いない。それでは申し訳ないではないか。 何度も、オレが「うるせーっっ!!!」と怒鳴って一瞬静かになる→5分後に「ウウウウ……」と苦しそうに呻いて続いていびき復活→また怒鳴る→また5分後に復活 というローテーションを繰り返し、眠れぬまま深夜2時になった時、オレの我慢は限界に達した。 オレは再びおもむろに部屋の電気をつけて、おっさんの寝ているベッドを思いっきり蹴り上げた。 「ワシャーー!!! ドゴーン!! 起きんかいテメエっっっ!!!!!」 「おおっ(さすがに飛び起きた)!!!! な、なんだおまえ……」 「君子も我慢しかねる貴様のイビキがうるさくて寝られんのじゃああっっ!!!! 出て行けてめえっっ!!!!!」 「な、なんだよ……うるさいな……ムニャムニャ……いいだろそのくらい……(うやむやにして寝ようとしている)」 「がおおおおおおおおおおっっっ!!!!!! 寝るんじゃねえええええええええっっっ!!!!!!!!! ゴーアウトッッ!!!! 他の部屋がいくらでも空いてるんだからそっちで寝てくれっっ!!!! 出〜て〜行〜け〜コラァ!!!!!!」 オレは身振り手振りと激しい殺気でおっさんを追いつめた。4時間分の恨みだ。するとオッサンはベッドの上に起きあがったのだが、何を思ったか「ラオパン!! ラオパン!!」とその場で絶叫して従業員を呼んでいる。深夜の2時に、部屋の中から、違う階で寝ている従業員を呼べると思うか普通……? 当然のごとくなんの反応もない。おっさんはどうしようかと少しまごまごしていたが、隣で腕を腰にあてキョンシー以上の殺気を出して仁王立ちしているオレを見ると、眠そうにズボンを履き、上着を羽織って荷物を持ち素直に出ていった。 ……夜中に部屋を追い出されるおっさんの荷物を抱えた後ろ姿を見ると若干気の毒に思えて来たが、もうオレは夜の半分を苦しめられたのだ。受動いびきも受動喫煙と同じで、隣で4時間も大いびきをかかれたら、オレも1時間はいびきをかいたことになるんだぜ?? めちゃめちゃ健康に悪いじゃないか。オレに過失はないのに冗談じゃない。 と、いうことでやっと夜中の3時に眠りにつき、3時間後の朝6時に起きた。眠い……。昨日はちゃんと夜の10時に床に付いたんだから8時間は寝られる予定だったのに、なんで3時間しか寝れてないんだろう。あとの5時間何やってたのオレ? 苦しまされていたの(涙)?? まだ真っ暗な中、タクシーを見つけてバスターミナルまで行くと昨日も見かけた白人3人組が一緒であった。「ノンスモーキングのバスはないか?」などとオレに聞いて来た奴らである。この自分本位なところは、ユダヤ人じゃないだろうかとオレが予想している奴らである。まあ、今ならわかるよ。隣で5本吸われると、こっちも1本吸ったことになるんだもんな。辛いよなそれは。……ふと思ったんだけど、例えば受動喫煙と同じで受動授乳みたいなものも成立したりするのだろうか? 産婦人科の待合室なんかに行って、周りで5人の赤ん坊がオッパイを吸っていたら、オレも1パイ吸った気分になれるのだろうか?? ちょっと今度忍び込んでみようかな……。だって、吸いたいもん。 我々の目的地は成都への第2の経由地、郷城である。第1の経由地はここ香格里拉、そして毎日移動を繰り返し第4までを経由して5番目がやっと成都なのである。長い道のりだ。香格里拉をスタートして数時間で雲南省を抜け、中国入り後初めて省が変わり、四川省に入った。 四川省というのは昔中国では「蜀」と呼ばれた地域であり、なんといっても険しい自然に阻まれて通行が困難なことで有名だ。 ↓車窓の景色 まさに評判の通りで、四川省に突入してからは標高4000メートルの山肌がちょっと削られただけの道をガタガタと走行、運転手がほんの5秒居眠りすれば全員揃って谷底転落。ああ恐ろしい。……なんていうふうに危険だということを強調して書いても、今までこんなことはいくらでもあったので、「下手したら全員揃って谷底転落」程度の文章には今さら読んでいる人も誰も驚いてないみたい。みんな、もう旅行記を読み始めた頃の新鮮な気持ちを失ってしまったんだね……(涙)。悲しいよオレは。 でも大丈夫だろうな。運転手さん、まさか居眠りなんてしないだろうな。まさか睡眠不足の状態でバスに乗ってないだろうな? …………。そういえばオレ昨日、深夜2時に運転手風のルームメイトを叩き起こして部屋から追い出したけど、違うよね。あの人じゃないよね運転してるの。このバスじゃないにしても、もしかしてあの人睡眠不足のままバスを運転して今頃どこかで転落してるかもしれないな……。でもまあ、他のバスならいいの。オレが乗ってるバスでさえなければ別にいいの。 途中検問に引っかかってしばらく止まることがあったのだが、例の白人はまたもやオレに「いったい何が起きているんだ?」と聞いて来る。……だから、オレは中国人じゃないんだってーの!! 見てわかるだろっ!!! たしかに昼の休憩の時にオレは上半身裸になって、空気椅子の姿勢で両腕を伸ばして頭と肘と膝に水の入った茶碗を乗せられて、パイプをふかしている白髪で顔の赤い師匠にしごかれていたけど、だからといって中国人だと思わないで欲しいっつーの!! 中国語はあんたらと同じくらい出来ないし、英語はあんたらの十分の1くらいしか喋れないし、なんの役にも立たない人間だっつーの(涙)!!!! 自分が情けないっつーの(号泣)!!!! 香格里拉を出てから10時間、後半は雲を見下ろしながら山の上を走って、夕方5時前に山あいの町、四川省郷城へ到着した。 オレは1泊してすぐに次の町・理塘(リタン)へ向かうつもりだったため、このまま明日のバスのチケットを買おうとひとつだけある出店のようなみすぼらしい窓口に行ってみたのだが、なぜか売り場は閉鎖されている。なぜだろう。こんな時間に営業が終了するはずもないし…… 「なあ、おまえも明日リタンに行くのか?」 「ああ、行くよ。オレも行くんじゃなくて、オレが行くんだ。あくまでもオレがメイン、あんたがサブ」 「この切符売り場がやってないのはなんでだ? どこでチケットを買えばいいんだ?」 「なんでだろう。なんでやってないんだろう。どこでチケットを買えばいいんだろう」 「だからそれをおまえに聞いてるんじゃないか」 「オレを誰だと思ってるんだてめえっっ!! オレは中国を一人旅している中国語の喋れない日本人だっ!!! 立場はあんたたちと同じなのよっ!!」 「えっ、同じなの? 見た目は中国人なのに?」 「見た目も違うじゃん。見てこの髪のツヤ。こんなにはっきりとした天使の輪がその辺の中国人にある?」 「どうだ、一緒に行動しないか? おまえは中国の文字が読めるじゃないか。協力し合ってなんとか理塘を目指そうぜ。オレはガディ。こいつはガールフレンドのレウト。そして彼は友人のエヤルだ。イスラエルから来たんだぜ」 「だと思ったよ!!! じゃあとりあえずすぐ隣に宿があるから、あそこに居を構えようぜ。そんで宿の人に聞いてみよう」 「なるほどそれじゃあそうしようか」 昨日からの周りを一切気にしない自分本意な、中国人そっくりな生態を見ておそらくはと思っていたが、やっぱり彼らはユダヤ人であった。わかり易いね全く。イスラエルと中国が隣接していたら100%戦争になるだろうな。 バスターミナルのすぐ隣にあった「なんとか茶楼」という宿を訪ねてみると、シャワートイレはいつもの共同だがベッドが二つ並ぶ客室は全然キレイであった。じゃあまずはここで2人ずつ部屋を取ろうか、そうしようか、という雰囲気になったのだが、なんと紅一点のユダヤ人女性レウトさんが、ここはイヤだと言う。……あの、恐れ入りますがあなたの辞書に協調性という文字はないんでしょうか。 いかなる訳でここがイヤですかと尋ねると、彼女は和式便器では用が足せないらしい。洋式便器のついているホテルでないと泊まれないと言うのだ。 ……キミたちねえ、中国を旅行先に選んだこと自体が間違いなんだよ。それなら、イスラエルの隣のトルコとかヨーロッパにバカンスに行けばいいじゃん。なんではるばるもんのすご〜い遠い中国まで来て洋式便器や禁煙バスを探してるわけ?? 紅一点のわがまま娘レウト嬢と、その彼氏のチリチリあたまのガディくんは荷物を置いて別の宿を探しに行った。オレともう一人、唯一まともそうなメガネのユダヤ人・エヤルさんは居残りだ。 よし、この隙に宿のおじいさんにバスのことを聞いてみよう。 「お尋ねしたいんですがおじいさん。明日僕たち汽車(チーチョー=バス)で理塘まで行きたいんですが、票(ピャオ)はどこで買えばいいんですか? 明日の朝買えばいいんですか?」 「リタン? ニーメンプーノンチュイリータン! トチューノータオラクシーゴロゴロ!!」 「そうですかそうですか。ありがとうございます。シェーシェー」 「……お、おい、おまえちゃんと中国語喋れているじゃないか。すごいな。そのオールドマンはなんて言ってたんだ??」 「全然わからんかった(涙)」 「なんじゃそりゃっっ!!!!」 「聞き取りは出来ないの(涙)。僕に出来るのはただ簡単なことを一方的に伝えるだけ。僕の存在なんて安い電報みたいなものなんです(号泣)。で、でも、今おじいさんは何か落石がゴロゴロとかそんなジェスチャーをしてたような……」 「それはオレもわかった。転がってたよなじいさんの前でなにか巨大なものが」 …………。 なんだってえええ〜〜っ!!! 落石で道が崩壊してバスがぺちゃんこで人が大勢死んで村が滅びたって〜〜〜〜っっっ!!!! ……なんてことは全然言ってないけど、本当に落石だろうか。これは次回の展開が待たれるところだ。 今日の一冊は、 ジョブズの礼儀知らずにすごくイライラする!! スティーブ・ジョブズ 1 (講談社+α文庫) |