〜西安のバカの墓〜





 楊貴妃の墓から日を改め、今日も複雑なルートを辿り次なる有名人の墓がある寺院へ来た。西安に着いてから、毎日連続で
そこらの墓を訪問しまくっている私。今時ここまで活発に墓の近辺を飛び回っているのは、オレか人魂くらいだろう。もしかして、自分で気付いていないだけでオレも実は人魂なのだろうか?? 本当は、ベトナムで肺炎になったあたりでオレ、死んでたりして……。でも自分では死んだことに気付かず、中国に行きたいという怨念でさまよえる魂が旅を続けて旅行記も書いてたりして。そうだとしたら、誰か、死んでいるんだということを僕にわからせて下さい(涙)。でないといつまでたっても旅が終わりません。そして、旅立てません(号泣)。

 それにしてもやっかいなことは、ここ数日は墓ばっか訪れているのだが、どれも市の中心から離れたとんでもない場所にあるため、頑張っても1日2カ所しか回れないということだ。墓ばっかなのに、全然
はかばっかしくない(はかばかしくない)。…………。おあ〜〜〜〜っはっは!! さあて昼メシにするか!! 寺の前の道で売られているコンニャクねぎご飯みたいなのを食うとしようぜ!

 そして食った。小さなどんぶりに入れられたコンニャクねぎご飯みたいなのを。



「ごちそうさま。全然美味しくなかったけど、いくら?」


「10元」


「ふざけんなてめーーーーーーーっっっ!!!! オレが何ヶ月中国を旅してると思ってんだよコラッッ!!!!! こんなもんが10元のわけねえだろっっ!!!!」


「じゃあ5元」


「なめんなゴラーーーーーーーーッッ!!!! 5元でも高すぎるわっ!!! 田舎の道端で売ってるどんぶりメシが2元を超えることが無いのはこちとら体でわかってるんだよっっ!!! これでも取っときやがれっっっ!!!!! バシィン!」



「けっ」




 強欲夫人の目の前に1元紙幣を2枚だけ叩きつけてみると、夫人は一度悪態をついたがしかし食い下がる気配は無い。ということはつまり、正規価格は2元、もしくは1.5元程度だということだ。マジでイライラする……。わざわざ現地の交通機関を使って中国の隅々まで観光しようとこんな遠くまで一人で訪れている外国人を、どうして騙そうなんて思えるんだ? しかもただの外国人じゃない。
押尾学似だ。押尾学似の外国人だ。基本的に女性がほっとかない立場なんだぜ??
 食後にこんな不愉快なゴタゴタがあると、今食べた物まで元々全然美味くなかったがそれにも増してもっと不味く感じられてくる。こんな思いやりのないコンニャクねぎご飯みたいなの、
モンドセレクションに参加したら最低金賞確実なんだよテメエッ!!!
 この強欲夫人がもし国会議員になったら、
政治団体を隠れ蓑に(よく聞くけど意味がわからない表現)不正な企業献金を受け取りまくるぜ絶対。あらゆる不正に手を染めそうだぜ。おまえなんか、不正脈になりやがれっ。ていうかこういう悪人には緊箍経(きんこきょう)を被せて、三蔵法師のお経で頭がひょうたん形になるまで締め付けてほしい。まあこれだけ強欲な夫人だと、たとえ頭がひょうたん形になっても気にせず旅行者を騙し続けそうだけど。むしろ観光客が来たら自分のひょうたん形の頭の記念撮影料金を徴収して荒稼ぎしそうだ。

 というわけで今回やって来たこの「興教寺」にあるのは、唐の時代の僧侶・玄奘の墓である。ご存知の方も多いだろうが、玄奘というのは、いち……にい……
さぁぁん蔵(バカになって)!!! さぁぁん蔵いち、さぁぁん蔵に、さぁぁん蔵さん、さぁぁん蔵し、さぁぁん蔵ご、さぁぁん蔵ろく…………(中略)、よんじゅう(いつものイケメンに戻って)。……このギャグも、今ではもう墓に入っているのだろうか。
 つまり僧侶・玄奘とは、西遊記でおなじみの坊さん、「悟空、おやめなさい」でおなじみの
三蔵法師のことなのである。西暦600年ごろ、今から約1400年前、ここ長安に三蔵法師は実在したのだ。
 この塔の中に、玄奘三蔵の遺骨が保管されているらしい。




 劉邦、楊貴妃と違い三蔵は皇帝でも美人でもないが、知名度だけなら今回の墓巡りの中でナンバーワンなだけに、かなり感慨深いものがある。いや待ちたまえ。知名度だけではなく、もしかしたら三蔵だって美人かもしれないぞ。だって、今までドラマで三蔵法師を演じたのは
夏目雅子に宮沢りえに深津絵里だぞ? 最高の美人ばかりではないか。映画やドラマで登場する実在の人物というのは、例えばヒトラーや東条英機なんかは、必ず本人とよく似た役者さんが演じているではないか。ということは、実際の三蔵法師だってある程度は宮沢りえに似ていたに決まってる。つまり知名度だけでなく、美人度も楊貴妃と同程度かそれ以上だといえるのではないか。
 いや待てよ。そういえば、ドリフターズの「飛べ!孫悟空」での三蔵法師役は、
いかりや長介だったな……。まあこの際、それは忘れることにしよう。玄奘の名誉のためにも。だいたいオレ、「飛べ!孫悟空」のことなんて全く知らないしな。主題歌とかも全然どういうのか知らないもん。オレの親の世代の番組だからな飛べ孫悟空は。
 じゃあとりあえず高らかに歌を歌いながら西安に戻るよ。ここには他に見る物ないし。
ニンニキニキニキニンニキニキニキににんが三蔵〜♪

 ……さて、所変わって西安市内であるが、訪れる者がほとんどいない興教寺の墓に対して、西安の「大雁塔」という観光地には非常に多くの外国人旅行者が詰めかけている。この巨大な大雁塔には玄奘が天竺から持ち帰った経典が収められているといい、三蔵法師の像や、肖像画や旅のルートなどを掲示した展示館などもあるのだ。




↑これが入口にある
三像の石蔵。間違えた。三蔵の石像。……間違える方が面倒くさい。





 そしてこれは、展示館にあった旅の途中の三蔵法師の絵。はっきり言って、
宮沢りえとは似ても似つかぬ風貌だ。西遊記だけに、本物の玄奘と宮沢りえの間には原作のドラゴンボールとハリウッド映画のドラゴンボールエボリューションくらいの乖離があるように思われる。
 しかしよく考えてみれば、本当に三蔵法師が宮沢りえや深津絵里のような外見だったら、お供がサルとブタとカッパの3匹だけってことはあり得ないはずだ。
少なくとも1万人は熱烈なファンが無理やり同行するに違いない。旅の疲れで宮沢りえが激ヤセになったところを激写するパパラッチも大量につきまとうことだろう。オレだって何年も深津絵里と一緒に寝食を共にしながら旅を出来るのなら、徒歩でインドでもバングラデシュでもどこへでも行くぞ。ラブシーンだってNGを恐れずに体当たりで演じるぞ。
 ということで結論としては、三蔵法師の外見は夏目雅子と宮沢りえと深津絵里と
いかりや長介を足して4で割った感じだと思えばよいのだろう。最後で見事にバランスが崩れている(涙)。

 尚、三蔵法師が経典を求めて旅をしたルート図を見ると、長安を出発して西方を回りアフガン経由でインドに入っている。車も自転車も無い時代に、これはものすごいことだ。道の険しさはもちろんのこと、当時はまだまだ危険な野生動物もいたことだろう。今でこそもう絶滅しているが、ドラマの西遊記を見ていると唐の時代にはまだ野生動物どころか
妖怪が生息していたらしいではないか。よく無事にインドに入国出来たものだと思う。
 しかもインドに着いたら決してそれで終わりではない。何しろ三蔵法師といえば、誰が演じた姿を見ても人を疑うことを知らない純粋な人物だ。そんな純粋な人物がインドを旅したら、
3日以内に全財産をボッたくられることが確実である。タクシーの運転手に予約したホテルを告げても「テロがあったから今日は天竺には入れないんだ。そのかわりオレが知っているホテルに行ってやろう」なんて言われて、抵抗も出来ずにそのまま超ぼったくり極悪ホテルに連行されるに決まっている。
 そもそも、
そんじょそこらの妖怪よりインド人の方がはるかにタチが悪いのだ。西遊記では妖怪に襲われた人間が三蔵一行に助けを求めに来るシーンがよくあるが、天竺あたりではインド人に騙されて身ぐるみはがれた妖怪が三蔵法師に助けを求めるという逆転現象が起こっていた可能性が大いにある。
 さすがの三蔵も、インドでは自分を捨てて怒鳴り合いや殴り合いを繰り広げたのではないだろうか。もしかしたら、あまりにインド人に腹が立って2、3は殺生もしてしまったかもしれない。
 ……いやあ、なんでオレはこんなにインドの悪口が好きなんだろう。でも、
なんか快感なの。インド人を罵っていると(涙)。

 そんな三蔵法師であるが、長安を発ってからインドを回って経典を集め再び長安に帰ったのは、なんと
16年後だったという。そ、そんなに長くインドにいたなんて……、いったい、ビザはどうしたのだろうか。マルチビザだって半年しかいられないのに……。まさか不法入国では。偽造パスポートで入国しインドで子供を生んで、「娘はインドで育ってヒンディー語しか喋れないんです。どうか家族一緒にインドで生活させてください(号泣)!」と自分が不法入国という犯罪行為を働いたことを完全に棚に上げ、在留特別許可を申請しうまく通ってしまったのだろうか。

 とまあそんなところで三蔵法師関連の観光はこれにて終了。続いては、現在女子小学生の間で人気沸騰中の「作者の西安墓巡りシリーズ」の最後を飾る、
バカの墓を訪れようと思う。 
 バカというのはもちろん本名ではなく、その人物は秦の始皇帝の息子である、秦の第2代皇帝・胡亥だ。その彼の墓は父親とは違い観光地化されておらず、ガイドブックにも載らないまま西安の街の端っこにひっそりと残っている。土山の高さは3メートルくらいだろうか。父の始皇帝と比べると1000分の1くらいの大きさだ。




 このバカ(胡亥)は、中国を統一した始皇帝の跡を継いだにも関わらず、もっとバカな家臣に騙されて兄弟を殺し国と民を疲弊させた愚かな男である。おかげで秦はこの胡亥が死んで1年後にいきなり滅び、結局王朝は統一から15年しか続かなかったのである。秦の始皇帝は超有名だが、実はその秦はわずか15年、大正時代ぐらいしか続いていないとは驚きではないか。そう考えると、30年以上続いている徹子の部屋なんて、
秦王朝の2倍以上の期間放映しているということになる。なんかすごくないか? もし秦より前、周王朝の末期に放送が始まっていたとしたら、徹子の部屋は周から秦になり秦が滅んで漢王朝になってもまだ続いているということになる。それこそ黒柳徹子は秦の始皇帝でもなし得なかった不老不死の夢を叶えているという感じがするな……。

 ところで、この2代目皇帝の墓に来てからオレは散々彼のことをバカバカ言っており、
おかげでこのサイトがPTAの方々から「子供に見せたくないホームページ」の筆頭に指定されてしまったが、これには理由があるのだ。
 墓の隣の小屋にあった、この風景を見てほしい。




 左にいるのがバカの胡亥、右でお辞儀をしているのは趙高という家臣なのだが、真ん中にトナカイがいる。おそらくこの家臣は
「申し訳ありません、サンタの野郎には逃げられました!!」と2代皇帝に侘びを入れているのだろう。
 
なわけねーだろっっ!!! よく見てみろ。この黄色い動物の、ゆるやかなウエストのくびれを見れば一目瞭然ではないか。これはトナカイではなく、鹿だ。そして鹿が自ら両手に挟んで持っているパネルには、「指鹿為馬」の文字が。「鹿を指して馬と為す」である。家臣が「これは馬です」と言って皇帝に鹿を献上しているシーンなのだが、これこそが「馬鹿」という言葉の由来となった出来事だと言われているのだ。
 ちなみに若きおぼっちゃん皇帝である胡亥もさすがに鹿くらいは知っていたので、もちろん「馬だ」と言いつつ鹿を献上されて彼は「えっ、こ、これは馬じゃなくて鹿だよねえ……?」と答えた。だが、実はこれは悪い家臣の趙高が誰が自分に賛同するか(誰が味方か)を探るために行ったものであり、近くにいた他の家臣は悪い趙高を怒らせたくないものだから、みんな「いえいえ、これはたしかに馬ですよ皇帝。馬です」と声を揃えたのである。なにしろ胡亥はバカなので、家臣にそう言われたら「そ、そうかなあ。
変わった馬だね……おおヨシヨシ……ドウドウ……」とすっかり馬だと思い込んで鹿を受け取り、喜び勇んでその足で日本中央競馬会に馬主登録を申請しに行ったら、窓口の人に「これは鹿だろうがっ!! 馬鹿かおまえはっっ!!!」と怒鳴られ泣きながら帰って来たという。
 彼が馬鹿の由来ということは、つまり秦の始皇帝にとってこの胡亥は正真正銘、
世界初のバカ息子ということになる。つまり、オレの大先輩ということだな(号泣)。
 尚、この馬鹿な2代目皇帝が関わっている言葉は、「馬鹿」だけではない。秦の始皇帝が建造を始め、胡亥が引き継いで造り続けた「阿房宮(あぼうきゅう)」という宮殿がある。中国各地から3000人の美女を集め、酒池肉林豪華絢爛な様式で莫大な建築費により国の財政を傾けたそうで、
一説ではこの阿房宮が「阿呆」・アホの語源となっているというのだ。

 凄いじゃないか。
地球上のバカ第一号であると同時に、アホの元祖。いや〜〜、なんか、ここまで来るとさすがに可哀相だ(泣)。バカな上にアホって、西日本にも東日本にもどちらにも対応出来るね。関東ではバカ、関西ではアホになるんでしょうあなた?









バカでーす










 でも、バカの創始者というのはある意味偉大な人物ではないか。
彼がいなければ、天才バカボンも釣りバカ日誌もバカボンドもこの世に生まれなかったということだ。バカボンドは違うか……。アホの創始者だって偉大だぞ。彼がいなければ、アホの坂田もアホウドリもフィンランドのアホネンもこの世に生まれなかったということだ。アホネンは違うか……。
 というか、秦の始皇帝も劉邦も楊貴妃も三蔵法師も墓の前に立つとそれなりに「故人を偲ぼう」という厳粛な気持ちになったが、
この墓だけはなんか笑える。だって元祖バカなんだもん……ひどすぎるんだもん周り(主にオレ)からの言われようが……(涙)。

 ……これで、現在女子小学生の間で人気沸騰中の「作者の西安墓巡りシリーズ」は終了である。そして、オレの西安での日程も全てこなしたことになる。そして、中国での日程もほぼこなした。もうそろそろ北京に向かい、帰ってもいい頃じゃないだろうか。それか、Uターンしてもう1回アフリカを目指そうかな……。1億万円くらいもらったらやってもいいかな……。





今日のおすすめ本は、作者・さくら剛によるもうひとつの中国旅行記 三国志男 (幻冬舎文庫)






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