〜珠海(チューハイ)〜 長江沿いの町は、川に向かって急角度で下がっているためこのように階段が町と一体化している。 それではトイレブログらしく、今回も最初はトイレの話から始めよう。 荊州の宿の共同トイレは完全な個室だったのだが(たった2つの個室を宿の客が入れ替わり立ち代わり使うのだ)、そこはクソ狭い個室の便器の真上にシャワーがついているという、地獄のシャワートイレ一体型であった。頭でも洗いながらふと足を踏みはずすと便器に落ちてしまうし、シャワーの勢いを強くしようものならお湯が汚床にも便器にもどんどん当たってほとばしりその勢いでバチャバチャッ! ピチャピチャっ! とオレの体に汚飛沫(おしぶき)が……おえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ(号泣)!!!!!! だから、いつでも蛇口は最小限に絞ってまず出て来る全てのお湯がオレの頭から首筋にかかり、そこからゆっくり体を伝って足を流れてサンダルに移ってサンダルの底から床に流れるように調節しなければならない。もしその行程を怠ろうものならお湯が汚床にも便器にもどんどん当たってほとばしりその勢いでバチャバチャッ! ピチャピチャっ! とオレの体に汚飛沫(おしぶき)が…………おおあああ〜〜〜っっっ(涙)!!! 想像するだけでもおぞましい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっっ(号泣)!!!!!!!!! イヤアアアアアアアアアアアア〜〜〜〜〜〜ッッッッッ(号泣)!!!!!! やっぱり地元中国の方々は、お湯の流れる行程なんて気にせずに豪快にシャワーを浴びるんだろうな。長江の水は常に上から下に流れるというのに、何千年と続くその悠久の自然の摂理に逆らうかのごとくシャワーでは下方向からバチャバチャッ! ピチャピチャっ! と汚水を受けるということになんの疑問も持たないんだな。 中国の人々はみんなこんな汚飛沫を浴びる体の洗い方をしていたんだとわかってしまうと、楊貴妃も全然美人に思えなくなってきた。中国四大美女の楊貴妃も虞美人も、共同トイレシャワーに入ったら便器や床にバウンドした汚水滴をバンバン浴びていたというのか……。いや、浴びてないよっ!!! 楊貴妃や虞美人が、汚水滴を浴びていたわけないよっっ!!!! 彼女たちは、オレみたいにうまく蛇口を調節して頭から体から足からサンダルから順番に水を伝わらせていたに決まってるよ!!!! 美人はそういうところはちゃんとしているんだから!!!!! ←美人の味方 尚、シャワーを浴びている間タオルや貴重品や着替えはどこに置いているかというと、まとめて持参のレジ袋に入れてドアノブにかけている。ところが、なにやらこのトイレのドアノブは付け根のところが汚染されていたらしく、シャワーを浴び終えてレジ袋を持ってみると、ドアノブと接触していた手提げの部分に油汚れのような赤茶黒(あかちゃぐろ)の謎のねちょ〜んとした、正体は不明だが不潔だということだけはよくわかる半固体、半液体な物質が付着しており、それがそのままうね〜〜っとオレの手に付いた。 …………。 死にたい…………。 いろいろなものが、台無しだっっっ(人生とか)。もうイヤだ……(涙)。汚い〜〜〜ぎだない〜〜〜〜〜っっっ(号泣)!!! こんなことをしているオレに「どうしてそこまでしてシャワーを浴びるの?」と小首をかしげる人もいるだろうが、中国で貧乏旅行していたら日常的にねっちょりぬっちょりなことが多すぎて、自分の体をネチョネチョな世界から助けるためにそこまでしてでもシャワーを浴びるしかないのだ。 中国大陸での低予算の旅というのは、言い換えれば無限のネチョーン地獄である。中国が全体的にこんなにネチョンとしているんなら、黄砂もそのねちょねちょで吸収してくれよ。そうすれば日本まで飛ばないで済むだろっっ。 でも、そうか……、昔からなんであんなパリッと揚がったかた焼きそばに中華あんかけなんてかけちゃうんだろうと思ってたけど、あのあんかけこそが中国のネチャネチャな国民性を表していたんだな……。 ああ、なんかこうやって汚いことばかり書いていたら、ネチャネチャな物に対しての嫌悪感がものすごく大きくなってきた。このままじゃネチャネチャ恐怖症になりそうだぞ。別に世の中の全てのネチャネチャが悪いというわけじゃないのに。……よし、ネチャネチャ嫌いにならないためにも、今からちょっと良いネチャネチャ、楽しいネチャネチャのことを想像してみよう。えーと、そうだな……、ねちゃねちゃ。ねちゃねちゃねちゃ……。うっ、うへへへへへへへへへへへへへへへっっっっ!! あはははっ(笑)!!! ねちゃねちゃ最高(涙)!!!!!!! ※何を想像して楽しくなったかは卑猥すぎるため言えません さて、また荊州から長距離バスに乗り移動するわけだが、行き先はいきなり激しく南下して東南の大都市、広州である。予定乗車時間は、18時間(いちいち長いなテメエッ!!!)。本来これだけの長距離であれば電車の方がずっと早いだろうが、前の章で述べたようにオレは中国の鉄道とは水と油の関係、オレが水だとしたら中国の電車は油、じゃなくてオレが水だとしたら中国の電車はツバだ。オレと電車は水とツバの関係だ。ああ、でもそれだったら良く混ざっちゃうよな……。じゃあ、ツバと油の関係でいいのか。オレがツバで電車が油……、イヤだっ!!! オレがツバだなんてイヤだっ!!!! 油がいい!! オレは油だっ!!!! しかし長距離のバス移動が必ず辛いと思うなかれ。中国には寝台列車ならぬ、寝台バスがあるというのだ。さすが中国……。でもそんなに素晴らしいものがあるのに日本には伝わっていないということは、おそらく寝台バスが開発されたのは遣唐使が廃止された西暦894年(「ハクシに戻す遣唐使」と覚えよう!)以降なのだろう。それより前に出来ていたら遣唐使は当然その技術を習得して帰って来たはずだ。菅原道真も罪なことをしたぜ……。 荊州汽車站で噂の広州行き寝台バスに乗り込むと、車内には狭くて長細い寝台が横に3列、縦にたくさん、上下に2段の配置で並んでいる。既に多くの乗客が寝転がっており、その姿はさながら動く激安宿である。いや、このみすぼらしさは移動式ネットカフェ住民と呼ぶべきか…… 「おい、あんた!!」 「はいっ!!!」 「靴を脱げ靴を!! ここは土足禁止だぞ!!!」 「おおっと! すいません!!」 ううっ、怒られた……。見知らぬにいちゃんに怒られた……(涙)。なんだかバツが悪いなあ……。で、でも、そうやってちゃんと赤の他人でも叱れることはいいことだよね。あなた、合格。ちょっと中国を試してみたんだけど、合格。ただ、オレが強く言われて伸びるタイプではないということを(甘やかされて伸びるタイプ)見抜けば、もっと点数をあげたのに。……ああ、こうしてあえてマナーを知らない嫌われ役を演じるのも大変だなあ。若者の教育のためとはいえ、愛する人にすら正体を明かせないのはやっぱり辛いよ。でも、嫌われることで逆に注目され、それが人気に繋がることだってあるしな。せんとくんがいい例じゃないか? あの半獣半人の彼(せんとくん)だって最初は批判の嵐を浴びていたけど、今ではせんとくんピンバッジやせんとくんマグカップまで発売されてるんだ。オレだっていつの日か、同じように自分の姿をプリントしたつよしピンバッジやつよしマグカップが作られ、そうなったらスターバックスでその辺の若いOLににじり寄っていって「お嬢さんこんにちは。ねえ、僕の顔に見覚えありませんか? わからない? じゃあほら、今あなたが持っているマグカップを見てみて下さい」「えっ、あっ!! うそ〜っ!! もしかして、本物のつよしさんですかっ!?」「やっと気付きましたか(笑)。髪形が違うからわかり辛かったかもしれないですね。もしおひとりだったら、ご一緒してもいいですか?」「もちろんです!! いろいろお話聞きたいですぅ〜〜〜」なんてことになることを信じて…… 「なにやってるんだよっ!!! なにをまごまごしているんだっ!!!!」 「いや、自分の席に行きたいんですけどね、なんだか配置がよくわからなくて……(涙)」 「しょうがねえなあ。チケットを見せてみな!」 「ああああなんかどうもすみません〜〜〜(号泣)」 上の寝台にいた合格にいちゃんは、わざわざ降りて来るとオレのチケットを見て寝台まで案内してくれた。ありがとう。アメとムチを有効的に使われて、僕はコロッといきました。じゃあお兄さん、今夜みんなが寝静まった頃にまたね、……うふふっ(笑) オレの寝台は下の段なのだが、こういう乗り物内では背の低い人が羨ましくてしょうがない。オレの身長ではここで足を伸ばすことなんて夢のまた夢だし、うまくスペースに収まろうと思ったらつま先は前の寝台で潰され頭もひしゃげ首はきしみ、膝も腰も曲がりっぱなし。サイズを間違えた棺桶を発注された死体の気持ちが非常によくわかる体勢である。 その上、出発時に既に満員だったはずなのに、道すがら新しい客が乗るわ乗るわ。数えてみると、いつの間にか寝台バスのくせに60人以上乗っている。元々極端に狭い寝台と寝台の間の通路に余すところなく乗客が寝転がり、なんだかセクハラし放題な環境になってきた。もしこれでオレの横にいるのが若い女性だったら、ひと晩の間に200回は寝返りを打って女性に覆いかぶさることを試みるだろう。だって、今オレはバスに乗っているんだ。バスってのはさあ、揺れるもんだろうがっっ!!!! 揺れるバスの中で並んで寝ていたら多少は覆いかぶさるもんだろうがっっっ!!!!! 必然的だろうがっっっ!!!!! それを痴漢で訴えるとか非常識なこと言ってんじゃねえぞテメーーっっっ!!!!!!! まあ現実問題隣を見るとそこにいるのはおっさんだから(いつものパターン)、むしろオレの方が犯される可能性があるんだけどな……。 それから翌朝までひと晩を見知らぬ人と密着し横たわりながら過ごしたのだが、なにしろ中国人は私語が異常にうるさいし体勢は苦しいし、なおかつどこかからか本物だか霊だか知らないがばあさんのうめき声がずっと聞こえていて、到底眠れる状況ではなかった。朝になるとその生命力を感じられないうめき声は一応収まったのだが、それはばあさんの体調が回復したわけではなく逆に往生を遂げたということも考えられるので、なかなか静かになったことを一概には喜べない。 こんな感じですよーん 中国の南東の都市、広州へは朝の6時半に到着した。予定通り、荊州から18時間である。もう全然寝れないしさ……腰と膝が痛くて……首も曲がっちゃって……。こんな時、勝ち組の人たちだったら寝台バスなんか乗らずに国内線でひとっ飛びなんだろうな。正規雇用者の駐在員だったら、到着するなり迎えに来た車に乗って外資系のホテルに直行したりするんだろうな。夜はクラブに行ってバイトの大学生ホステスのチャイナドレスのスリットの切り口の内側をなぞるように太ももをツツツーと触って「キャーしゃちょさん何するのっくすぐったいネ(笑)!!」なんて言われてお金をむしり取られているんだけどそんなの痛くも痒くもない感じでそのままホステスと一緒にホテルの部屋に戻ったりするんだろうな……まるで「取締役 島耕作」に出てくる国分総経理みたいに……(マニアックな話)。 オレなんてさ、正規雇用者でも非正規雇用者でもなく、非雇用者だから。もう若くもないし……近ごろは病院で貰った薬も全部飲みきるようになったしな……子供の頃なんてすぐに病気が治るから、出された薬なんて1日か2日分だけ使ってあとはほとんど余ってたのに……もうあの頃の元気な自分には決して戻れないんだよな……。 イヤッホーーー!!!!! じゃあ次のバスに乗るぜヨーーソローーーーっっ!!!!!! ハ・レ・ル・ヤ(意味はわからんが陽気な感じがする叫び声で元気を取り戻そうとする私)!!!!!! 広州からすぐにバスを乗り換えて、海辺の経済特区・珠海へ。この珠海には観光客やバックパッカーは基本的に何の用も無いのであるが、香港へ行く前にオレは1泊だけこの街で過ごすことにした。なぜかというと、珠海サッカースタジアムに行くためだ。 アフリカやアジアの街角で子供達と泥だらけになってボールを蹴りあい、サッカーを通じて世界と交流を深めて来たオレだけど、今日はわざわざスタジアムにサッカーをしに行くというわけではないよ。今回ばかりは違うのさ。この珠海サッカースタジアムは、オレが13回も映画館で観て笑いながら号泣してしまったあの神作映画「少林サッカー」の、決勝戦のロケが行われたサッカー場なのである。これはたとえ街角の子供達が餓死しかかっていても、一切手は差し伸べずにスタジアムに直行するしかあるまい。スタジアムに行った後なら肉まんくらい買ってやらんではないけども。今はまだ子供の命より珠海サッカースタジアムの方が大事だ。 でも、その前にまずは宿を探さなくちゃ!! 泊まるところを確保してから出かけようではないか。よし、ちょうど汽車站(バス停)の隣に招待所があるぞ。 「ニーハオ。今夜の部屋を探してるんですけど。泊まれますか?」 「ニーヤオツェンマファーチェン? ニーライナーリニーチュイナーリニーチューチャーチョー??」 「えっ? な、なんですか……?」 「ニーヤオツェンマファーチェンリニーチューチャーチョー??」 「あのすいません、なんだかよくわかりません(涙)」 「ア゙ーー?? ニーナーリライラ(おまえどこのもんだ?)?」 「僕はリーベンレン(日本人)でーす♪ ヨーソロー!!」 「リーベンレン? メイヨー!! ファンチェンメイヨーー(部屋は無いねっ)!!!」 「ええっ、そうなの? なんか日本人って言った途端態度が変わったように見えるんだけどな……。気のせいか。まあ……無いんなら仕方ないですね。他を探してみます」 どうも納得がいかなかったが、とりあえず受付のおばはんが無いっつーんなら無いんだろう、諦めて招待所を出て街を歩いてみると、他にも招待所、旅社、酒店などの宿泊施設が幾つも見えた。たくさんあるじゃない。やるじゃない。さっさと次をあたってみよう。 「おこんにちは〜。ニーハオ。部屋はありますか?」 「ヨウ」 「よかった!! じゃあ1泊させて下さい」 「ニーヤオツェンマファーチェンリニーチューチャーチョー??」 「えっ、え? すいません聞きとれなかったのでもう1回お願いします」 「アー?? ニーナーリライラ?」 「日本人ですが……」 「ア゙ーー!? リーベンレン! メイヨー!! ファンチェンメイヨーー!!!」 「ちょっと待てって!!!! つい今しがた部屋はあると言っただろうがあんたっっ!!!! なに言ってんだよ!!!! ねえ、あるんでしょ!! オレ疲れてるんだって!! 泊めてよ!!!」 「メイヨー!! チュイピエタチューティエン!!」 なんだよ〜。最初に明らかに部屋はあるって言ったじゃねえかよっ。それが日本人だと名乗ったら突然部屋がなくなるなんておかしいじゃねえかよ!! ただの意地悪じゃないかよそれはっ!!! けっ、いいよいいよ。あんたに頼らなくても、周りにいくらでも宿はあったしさ。こんな意地悪宿こっちから願い下げだぜっ。こんなとこに泊まったら何されるかわかったもんじゃない。靴を隠されるぜきっと。 オレは再び重いバックパックを担いで宿を出た。長い移動後で寝不足で暑くて疲労感たっぷりだ。寝台バスでひと晩苦しんだのに、着いた後にまでこんな仕打ちが待っているとは思わなかったぜ。そうかよ。日本人が気にくわないのかよ。ODAを返せっっ!!! それからオレはしらみつぶしに珠海の宿泊施設を回った。しかし、なぜかどこも同じ展開で、たとえ部屋があることを最初に確認しようとも、向こうが早口で喋ってオレが理解できない→どこの者か聞かれる→日本人ですと名乗る、とここで「部屋は無い!」と言われてしまうのだ。どう考えても、オレはいじめられている。街ぐるみでいじめられている。 オレをいじめた酒店のひとつ しかしまさか野宿するわけにもいかんしな。都会とはいえ1人で外で寝てなんかいたら、野盗に襲われそうだ。 これでもう8軒目か9軒目。だんだん行く場所が無くなって来たが望みをかけて次のホテルへ。 「ニーハオ!! アイラブチャイニーーーーズッッ!!! ああ中国はなんて素晴しい国なんでしょう。僕は中国を旅行出来て本当に幸せ者です(号泣)!!!! ところで、僕の泊まれる部屋はありますか?」 「ヨウ。ツェンマファンチェン?」 「ごく普通の単人房でお願いします」 「1泊80元で、保証金が200元アル。身分証は?」 「はい、パスポートをどうぞ」 「これが身分証? 見たことない手帳アルね……」 「どんだけ旅行者が来ない街なんだここは。今までどんな田舎でもパスポートは認識されて来たのにさあ……」 「まあいいよ。はい、これが部屋の鍵ね」 「うおおおおおおおおっっ!!!!!! やったーーーーーーーーー!!!!! ありがとうございます! もう中国人嫌いなんて〜〜言わないよ絶対〜〜〜♪♪(槙原風)」 やっとだよ〜〜〜〜〜(涙)。やっと部屋にありつけた……。おのれ〜、カラオケを歌っている時にドリンクを運ぶ店員さんが入って来ると恥ずかしくて歌をやめてしまうようなガラスのハートを持ったいたいけな日本人旅行者のオレをたらい回しにしやがって……。珠海めっ。そうやって旅人をぐるぐると迷わせるのは、「珠海」と「富士の樹海」をかけたダジャレのつもりかよっっっ!!!! 安易なやつめっ!!! オレは荷物を持ちヒーコラ言いながら階段を上り、部屋に入るとすぐさまベッドに倒れ込んだ。し、しんどかった……。もうたまらんわ……ひどいわあんたら……オレは何も悪いことしてないのに……ただ少林サッカーが好きでひとりでロケ地を訪れようと珠海に来ただけなのに……。 プルルルルルル〜。プルルルルルル〜。 …………。 部屋の電話が鳴ってる。鳴ってるよ電話が。出たくない電話だよねこれ。間違っても絶対いい知らせじゃないよ。わかるもん。でも、オレには何も聞こえないし。今はただベッドの上で横たわるだけだから。電話とかそういう複雑な機械のことはよくわからないし。放って置きましょう。あ、ほら、鳴り止んだよ。よかったよかった。 ドンドンドンドン! ドンドンドンドン!! 「ウェイウェイ! ライライ! ライチョーリ!!」 …………。 やっぱり。 うううっ(涙)。ガチャッ 「なんですか掃除のおばちゃん。昨日の午後から18時間かけて荊州からやってきてまたバスを乗り換えて珠海にようやくたどり着いて寝ていない体で重いバックパックを背負い何回も宿に宿泊を断られて最後の最後でやっと部屋に入ることが出来て涙ながらにベッドに体を預けて喜んでいる僕に何かご用ですか」 「受付で呼んでるアル! 受付に行くアルよ!!」 「あっそうですか。行けばいいんでしょ行けば(号泣)」 オレは力の抜けきった体で階段を降り、再びフロントのねえちゃんに対面した。 「お呼びでしょうか。僕は疲れました」 「あなた日本人だったの?」 「そうですよ。パスポートにそう書いてあるでしょう」 「悪いわねー。泊めることは出来ないのよ。他のホテルに行ってちょうだい。はい、パスポートとお金」 「ああそうですか。あんたらさあ、日本人が嫌いなんでしょ? だから日本人のオレなんかに部屋を使わせたくないんだよなっ。日本人は中国に来るなってことかよっっ」 「そうじゃないわよっ。日本人だからってじゃなくて、美国人(=アメリカ人)でも徳国人(=ドイツ人)でも同じよっっ」 「オレはもう10軒も宿泊を断られてるんだよっっ(正確には8軒か9軒だけどちょっと水増し)!!!! じゃあオレはどこに行けばいいんだっっ!!!! それとも日本人の旅人が野垂れ死にしようがそんなの知ったこっちゃないかっ!!!!!」 「三つ星ホテルに行けばいいのよ」 「ん? 三つ星? それどこにあるの?」 「この先の大通りにいくつもあるわよ。三つ星ホテルなら泊まれるわ」 「そうなんですか? まああなたがそう言うならちょっと行ってみましょうかね……」 オレは部屋に戻ってまたも重い荷物を抱えると、階段を降りてそのまま宿を出た。きつい。今日はきつい。だいたい1軒目は断わられたとしても、2軒連続で宿に宿泊を拒否される(しかも満室以外の理由で)ことなんて、南アフリカからここまでで1度もなかった。宿が決まらないってのは文字通り外国の見知らぬ土地でホームレスなんで、本当に心細くでどうしようもないんだよ。なんで部屋が空いているのに泊まれないんだよ。どう考えてもオレの方が中国人の客より部屋を綺麗に使うぞ。くそがっ。 しばらく歩くと広い道路にぶち当たり、その道沿いにはいくつかの高級そうなホテルが並んでいた。じゃあちょっと入ってみるか……。よいこらしょっ 「ニーハオ。オレは日本人じゃ〜〜〜〜〜っっ!!!!」 「アーユージャパニーズ? ハウメイアイヘルプユー?」 「あいうぉんととぅーステイヒアー。ドゥーユーはぶ ア ルームフォーミー?」 「オフコース。ハウメニーデイズドゥーユーステイ?」 「あの、その前に僕は日本人なんですが。アイアムジャパニーズ。何かそれに対してはありませんか? 問題があるんじゃないですか? 何か珠海の人々は日本人に対して腹にいちもつ持っているんじゃないですか??」 「そんなことありませんわサー。ノープロブレムです」 「本当に? あとで電話かけてきたりしない?」 「ノープロブレムですサー。1泊220元になります」 「高っ!!!! さすが三つ星ホテル!!!! でもやっと部屋がっ!!!! 部屋が得られたのですね僕はっ(号泣)!!!」 ということでオレは、中国に入国してから初めてユニットバスが付いている部屋に泊まった。水が完璧に流れる洋式トイレ(涙)。嬉しいなあ……排泄の真っ最中に誰か見知らぬ人と出会う可能性のないトイレって人間らしくていいなあ……(号泣)。 しかしこの展開からよく考えてみると、どうやらこの珠海では、三ツ星未満のホテルは外国人を泊めてはいけないという条例か何かがあるらしい。このホテルはこれだけあっさりとオレを受け入れたことからしても、別に街全体に反日ムードが高まっていて個人的に意地悪されたという訳ではないらしい。それなのに、さっきは「あんたらは日本人が嫌いなんだろう!!」などと招待所のねえちゃんに文句を言ってしまった……。恥ずかしいっ!!! なんかすごく申し訳無い!!!! かなり惨めだオレ!!!! ごめんねおねえちゃん。 でもなぁ、どっちかと言うとこれは、オレのせいじゃなくて珠海市のせいだよな。多分あれでしょ、ここは外国の駐在員が多いから、外国人に中国の文化レベルの高さとか清潔さをアピールするために、いいホテルにしか泊まれないようにしてるんでしょ? 汚いところは見せたくないんでしょ?? ……そんなこと今さら言ってもさあ、オレここまで中国で何十軒の安宿を渡り歩いて来たと思ってんだよ。昨日の宿では便器の真上にシャワーが付いているねちょ〜ん地獄トイレで、その前はトイレのツインルームだぜ?? この期に及んで清潔なユニットバスを見せられても、騙されないっつーんだよ。 あ〜〜〜っ!!! とりあえずメシだっ!! 遅い昼メシだっ!!! 中国東南海岸地方名物、屋台の魯肉飯(るーろーはん)。 だ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ(美味さで号泣)!!!!!!!! 今日の一冊は、 不可解な三沢の死因 2009年6月13日からの三沢光晴 |