〜遠足〜





 は、はらへった〜〜〜〜〜〜
 腹減った!!! 腹減った!!!!! 
腹が減った〜〜!!!! ねご〜〜〜っ!!
 ……これだけ書けば、博愛主義者で有名なみんなならわかってくれるだろう。オレは別にかでなれおんとイチャイチャしたいなんて言ってるわけじゃないんだ。
ただ腹が減っているだけなんだ。うらっ! 電車に乗っているからっていつもいつも満員電車で女体と密着についてばっか考えているわけじゃないんだよ!!
  普段のオレならいざ知らず、あくまで今は食い物のことだけ。今だけは、女体より裸体より
はだかのれおんより食い物だ。オラ、腹へってリキが出ねえんだ。腹いっぱいでも別にリキもやる気もでないけど。
 くそ〜、でも腹さえいっぱいだったら今頃は、風俗なんて行ったことが無いまともな社会人になっていたはずなのに!! そうだ、オレは空腹のためにこんなにスケベな人間になってしまったんだ!! キッズウォー出身の井上真央ちゃんに、
「キモいんだよこの引きこもりが!」って言って力いっぱい蹴られたいと思うのも空腹のせいなんだ!! 空腹のばかやろう!!! ああ、真央ちゃんに蹴られたい!! お願いっ! 蹴ってっ!! 真央ちゃん蹴ってっっ!!!

 しかし、よくよく考えてみれば最近の世の中の傾向ではエロいことは決してマイナスではなく、むしろ本来の自分のウリに「エロ」をつけて「エロかわいい」とか「エロかっこいい」とか
エロさを長所としてアピールする時代ではないか。オレのウリは変態なので、これからは流行にのっとり「エロ」をつけて「エロ変態」を名乗ることにしよう。ただの変態ならバカにされるかもしれないが、エロ変態ならむしろオシャレな感じがするはずだ!!! おまえらおぼえとけ! オレはエロ変態だぜ!!! 見直しただろう!!

 まあこの旅行記は幼稚園の教材にも使われているので、あまりエロエロ書いて
うめ組の男児が興奮して保母さんを襲ってもいかん。なのでエロ話の続きはオレの頭の中だけで進めるとして、とにかくそれを踏まえてとっても腹が減ったんだ。
 なにしろ昨日セフィアン手製のセフィアンサンド(真っ黒)を昼にいただいてから、軽く24時間以上何も食っていない(セフィアンサンドの前は2日間くらい何も食っていない)。もしオレが若手芸人でこの映像が全国のお茶の間に流れるのなら、業界で生き残るために自ら飢えもすれば
ディレクターにも喜んで抱かれるが、そういう汚らわしい立場でない一般的な旅人にとっては旅の苦労はすればするだけ損なのだ。それに、この体は愛する人にしか奉げないのよ!! AV女優だからって誰にでも抱かれると思ったら大間違いなのよ!!!
 ともかく、オレはもう芸人の夢は破れたことだし別に旅行記を本にしようとしているわけでもない。辛いことなど経験するだけ損。腹減ったも腹痛いも怖いも汚いも言いたくない。オレだって、
リングを降りれば普通のOLなんだ。人並みに楽しい旅行をして楽しい旅行記を書きたいんだ。夕食後はKちゃんと一緒にマーケットに出かけた。すると一軒の露店でかわいいTシャツを発見!店員の言い値は200ルピー。ちょっとまけてよー、とKちゃんと一緒に値切ってみるが、なかなか下がらないので仕方なく言うとおりの値段で購入。なんか悔しいけど、まあいいや。どうせ日本円に換算すれば400円くらいだし。というような、初々しい感じの旅行記を。面白いかどうかはさておいてそんなリラックスした旅行記を書きたい。もう苦しいのは一瞬たりともいやだ。モテないのも金輪際いやだ(号泣)。

 そんなオレの
若きウェルテルと勝負できるくらいの激しい苦悩を知ってか知らずか(知らんだろうが)、ふと見ると正面に座るおっさんが、アエーシというナンの親戚のような薄っぺらいパンとチーズを取り出し、昼食を始めようとしている。うううう……パン……パンチーズ……ううう〜いいな〜〜美味しそうだな〜〜〜〜……た、食べたい!! オレもアエーシ食べたい!!! あえ〜っ!!!
 いや、だめだ。見ちゃダメだ! 
武士は食わねど爪楊枝じゃないか。オレは武士ではないが、中佐だ。そうなんだ。今のオレはもうただの作者ではない、コレリ中佐なんだ! エロ変態のコレリ中佐だ!! たとえ腹が減りすぎてもう何年も彼女がいなくても、決して物欲しげな顔なんてしてはダメなんだ。コレリ中佐たるもの、たとえ長澤まさみに告白されようとも「ごめん、好みじゃないんだ」と涼しい顔で断らなければいけないんだ。
 ふん。オレは満腹だもんねー。パンなんて
絶対欲しくないね。付き合ってる彼女だって日本に帰れば全盛期の羽賀研二や火野正平くらいいるもんねー。A子B子どころかE子さんとかF子さんまでいるもんねー。長澤まさみなんて全然かわいくないね。うう……
 オレは中佐としてのプライドを保ち、あえてパンのことなど無視して窓の外の景色を興味津々で眺め続けた。おお、砂漠、
今日もいい色してるじゃん。へえー、砂漠も一見ずっと同じ景色なようで、よく見るとやっぱり同じ景色なんだなー。こりゃパンなんか食べてるよりよっぽど楽しいぜ。
 ……
チラ

 
おおっ!! しまった! おっさんと目が合った!!
 ああ、違うのよ、やっぱ
砂漠だよ砂漠。オレ砂漠大好きなんだから。だからパンとかチーズとかいらんし。腹を膨らますより、一度しかない風景を心に刻んで、思い出を膨らましたいんだよ。
 どうこれ。うまいこと言ったでしょ。
 ……
チラ

 
ああっ、ま、また!! また目が合ってしまったっ!!! そんな気はないのに! そんなつもりじゃ無かったのに!! ああんっ!
 見てない。オレはパンやチーズ、そしてそれらを食べるおっさんなんて
決して見てないぞ!!!! さ、砂漠は砂ばかりだな〜。砂漠というのは、砂が漠然と置いてあるから砂漠っていうんだよ。大和田獏や夢枕獏とは関係ないぜ。少しでも長い時間、オレは砂漠を見て過ごしたいんだぜ。パンもチーズもいらないぜ。
 ……チラ

 ……何かをオレの目から察したのだろうか、おっさんは自分の昼食を中断すると、束で持っているパンの中から1枚抜いて、ニコッと笑いながらオレに差し出してきた。






 ……。







 フン。なんだいそんなもの。










 ……。












 
……あああ〜ありがとうございます〜〜〜〜(号泣)。本当にいいんですか〜〜〜〜(涙)。

 さらに、アエーシ(薄パン)だけでなくうしさんマークのチーズ(円形のチーズがピザのようにそれぞれ三角形に切られており、ひとつひとつは銀の包み紙に入ってそのケースには牛さんの絵が描かれている、それがスーダンのうしさんチーズなのです)を一切れ取り出して渡してくれた。

 あああああああ〜〜〜〜(号泣)、チーズまで〜〜〜〜(号泣)。おああチーズ〜〜(涙)。


 オレは丁重にお礼を言って、まずチーズをちょびっとだけかじり、それからパンを食った。
 ……。
 
うにょみんちょ!!! うまい!!!! うしさんチーズとアエーシが織り成すゴスペラーズのカエルの歌のような絶妙のハーモニー!!! うめー!! ただのチーズとパンがこんなにうまいなんてっっ!!!! ああ、パンおいしいよ〜。長澤まさみも本当は大好きなんだよ〜〜〜〜。長澤まさみのためなら1年程度のムショ暮らしは苦にならないくらいなんです〜〜。強がってごめんなさい。まさみちゃん。瞳を閉じて、君を描くよ。それだけでいい。
 
 オレはチーズをかじりパンをかじり、
ポンコツ車を発見した時のガッちゃんのようにガツガツと貪欲に貪っていたのだが、しばらくして重大なピンチに陥ってしまった。……チーズが、パンがまだ半分残っているのにチーズが無くなった!!! な、なんということだ……。アエーシとチーズ、それぞれを一緒に口の中に入れることによってこそ、この服部幸應やクッキングパパをもううんと唸らせる旨みのバランスを醸し出しているのではないか。アエーシにとってチーズは、野球選手にとってのバットや弁護士にとっての六法全書、そして山瀬まみにとっての「お父さんのためのワイドショー講座」の仕事と同じく、絶対になくてはならない存在なのだ!!! ノーっ!! 神よ!! チーズをっ!! チーズをくださいっっ!!!

 すると、おじさんは牛さんチーズをもう一切れ、ニコッと笑いながらオレに手渡してくれた。



 ……。



 ……ああおお〜うれしい〜〜〜(号泣)。ありがとうございます〜〜〜〜(涙)。すごい、すごい親切がうれしいです〜〜〜〜こんなダメなオレなのにそんなよくしてもらって〜〜〜〜(号泣)

 オレは牛さんチーズのアルミホイルを丁寧にむいて、アルミの角にくっついてしまったチーズのカスもちゃんと指で引っぺがしてチョプっ!と食べた。こんな砂漠の国にも、牛がいて、チーズがある。おじさんがいて、僕がいる。それだけでいい。

 しかしただのパンとチーズがこんなにも、
幽体離脱しそうになるくらい美味いなんて。いいや、決してただのチーズなんかではない。牛さんチーズなのだ。この牛さんチーズを林家こん平とするならば、ただのチーズなんて林家いっ平くらいの存在感しかないのだ。これならば、オレの幽体が本体から離れて行き、勝手に女体に抱きついてモミモミしたりしていても誰も文句は言えないであろう。

 さて、パンとチーズという極上の昼食を済ませ、ありがとうございますありがとうございますとおじさんに1200回くらいお礼を言ったところで、またもや電車が止まった。見渡しても周りには駅も集落も無い。
おなじみの故障である。こんなに高い頻度でトラブるなんて、湘南新宿線かおまえはっっ!!
 とはいえだいたい電車が止まったって山手線だったら5分もすれば動き始めるもので、今回もきっとすぐ発車だろうと気にせずそのままおとなしく座って待っていたら普通に
1時間が過ぎた。そして外に出てブラブラしていたら2時間が過ぎた。


「こんにちわみなさん」


「おお、作者さんじゃないですか。まだ乗ってたんですか? そして何か用ですか?」


「……」


 先頭の方まで遊びに行くと、キャッピキャッピと砂漠でのトラブルを堪能している、日本人の
男女4人夏物語がいた。ここぞとばかりにオレも転校生的な立場で無理やり参加、見事に男女5人夏物語になったのだが、ふと気づくと、電車の先頭車両が無くなっていることに気づいた。
 田神くんによると、なんでも1時間ほど前に
先頭の部分だけ単独でどこかに走って行ったらしい。

 ……普通、電車というのは先頭車両が動力部分である。2両目から後の部分は、先頭車両に引っ張ってもらわないと動けないではないか。

 ま、まさか。
 
逃げたのか?
 もしかしてあまりに故障の状態がひどく、もう電車全体では砂漠から出ることは無理ということがわかって、
乗客を見捨てて車掌だけ先頭車両に乗って逃げたのではないか??
 
……バカやろう!!! 車掌といえば、乗客の命を預かる1国1城の主ではないか。ミッドウェー海戦で沈没時に全乗組員に退艦を命じ、自らは沈み行く艦と運命を供にした空母「飛龍」の山口司令官と加来艦長の足元にも及ばぬやつめっ!!!! おまえには大和魂は無いのかっ!!!!

 と思ったら、1時間後に先頭車両が
遥か彼方から戻ってきた。一度は逃げた卑怯者なのに、わざわざ戻って来るとはどうしたのだろう。山口司令官の話でも読んで心を入れ替えたのだろうか?
 しかし後続車両なしで単独で動いている先頭車両というのは非常にダサくて、見ていて力が抜ける。池袋で
オーチンチ・オーチンチという名前の風俗店を見つけた時くらい激しく力が抜けた。オーチンチオーチンチで働く風俗嬢は、やはり某人材派遣会社から働きに来ているのだろうか。
 憐れな姿の先頭車両はシュッポシュッポと走ってくると、そのまま2両目とシュポっと連結した。

 ポーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!


 やっと発車だっ!!! 復活だ! 先頭車両! 
オレたち、どこまでもあんたについて行くぜ!!





 沈む夕陽を眺める男女4人夏物語のメンバー。ただ1人、
電車の中から彼らの写真を撮らされているのは誰あろう僕ちんである(号泣)。







 さて、そこからオレはついに活動の場を2号車に移した。憎たらしい男女の部屋からスーダン人の乗客がいなくなったため、5年越しの念願がかなってようやくオレが日本人グループに加入することが許されたのだ!! これでやっとオレも田神会長はじめ男女4人の取締役に認められたことになる。でも、オレだってこの旅に参加したからには精一杯楽しみたい。1人ではなく、
絶対カップルになって帰ってやるんだ。

 その後の日本人たちの討論の課題は、「今食べたい物について」であった。好きなカレーの具、吉野家・松屋・すき屋の牛丼徹底比較、ラーメンやトンカツの話、おすすめの居酒屋のメニューなど、実に砂漠の旅人にふさわしい内容
かつて無い大盛り上がりであった。もはや全員が、日本食に対して餌なしでご主人様に2泊3日の旅行に出かけられてしまった秋田犬のように、ひたすら激しく餓えているのだ。今ここに空から天下一品のこってりラーメンが1杯だけ降ってきたとしたら、すぐさま殺し合いが始まるだろう。

 そして、昨日今日と砂漠を20時間ほど見続けていたオレにとって、
ファイアーエムブレムや逆転裁判の新作をプレイするよりも楽しいのではないかと感じられた近年最大のレクリエーションは、窓の外の砂漠など完全に無視して日本人5人で行う大貧民大会であった。

 うーむ。
 これは、これは……


 
なんて楽しい旅をしているんだオレは。……ああ、楽しい!! 旅が楽しいと旅行記も楽しくなるよ!!
 ちょっとまけてよー、とKちゃんと一緒に値切ってみるが、なかなか下がらないので仕方なく200ルピーで購入。まあいいや。どうせ日本円に換算すれば400円くらいだし。
 
そして夜はホテル脇の路地の食堂に入る。私はとにかく旅先では外国人旅行者が行くようなところは嫌いなので、地元の人しかいないようなこういう大衆食堂が大好きなのだ。みんな外国人が珍しいのかジロジロ見てくるが、それもすぐに慣れる。3人のお嬢ちゃんのパパだという陽気な店員アキエルさんにすすめられた、トマトとナスのグラタンは絶品だった。やっぱり本場で食べるトルコ料理は最高!

 ……おっと。楽しすぎてずいぶんといやらしい自慢の多い旅行記になってしまった(文字が大きくなっているところが自慢)まあ適当に書いたのでトルコ料理にトマトとナスのグラタンがあるかどうかも知らんけど、でもとりあえず現地になじんでるように書いておいて、自分がグローバルに生きているんだということを思う存分アピールすることができたと思う。たまにはこういうのもいいよね。

 当然のことながら、今までの悔しさを存分に発揮したオレは現実の身分に準じて
大富豪の連続であった。そうだよ。やはり、名は体を表すのだよ。なんたって2日間35時間ほど、ずっとスーダン人に囲まれて砂漠だけを見て過ごしてきたのだ。おまえら男女のようなぬくぬくと育った人間とは違うんだよ!! これはがんばったオレに対する当然の見返りなのだ。さあ、田神! この大富豪さまに強いカードを上から2枚よこしな! ジョーカーと2をよこしなっ!! なんだよ……1番強いカードがAかよ!! この役立たずが!!!

 しかし、このように
大富豪のプレイ中に出てくる定番のコメントを発することができる幸せに酔いながらも、この一大イベントに参加するのが非常に遅かったオレは、盛り上がってきたと思ったらもう寝る時間になっていた。くそ……結局楽しかったのは最後だけで、やっぱりオレは今日もほとんどの時間砂漠を見ていただけだっっ!!!! その間に、オレが砂漠を見すぎて砂漠マニアになりかけていた時に、男女4人はずっとこんな楽しいことをやってたのか!! 発車から2日間ずっと!!! この卑怯者!!! 畜人鬼!!!

 夕方の長い停車の後、先頭車両がリフレッシュしたからだろうか、電車は漆黒の中を猛スピードで進んでいる。景色はどこまでもどこまでも闇だ。こんな背筋が凍るような怖い闇は見たくない。窓から入る冷たい風と砂に吹きまくられながら、オレは乗客の少ない他の車両に移り横になり3日目の朝を待つ!





今日の一冊は、

ざわ……ざわ……

賭博破戒録 カイジ 1




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