〜バチが当たる1〜





2コママンガ


お〜い、そこの犬!















  なんだい?






2コママンガ:終わり



 ということで、その夏の日の午前中は保存されているホーチミン元首席の死体を見に、ハノイの西の外れ、ホーチミン廟へ向かった。たかがじいさんの死体のために、廟の外には長蛇の列が出来ている。こんな長い行列を見たのは、
新宿南口のクリスピー・クリーム・ドーナツ以来である。実際ガラスケースに寝かされた生ホーチミンを観察すると、おそらくIKKOか佐伯チズが美容アドバイスをしたのであろう、たしかに死体とは思えぬ肌のツヤとみずみずしさであった。確実に5歳は若く見えている。
 ……ところがそうは言っても、オレにはこれが
クリスピー・クリーム・ドーナツより魅力があるとは到底思えないのである。だって、ホーチミンの死体は、たったの1種類しか選べないではないか。その時点で既に、高品質で魅力的なオリジナルドーナツを多種そろえているクリスピー・クリーム・ドーナツの勝ちである。それにホーチミンの方は、だいぶ製造日から時間が経過しているのでいかにも硬そうだ。下手したら消費期限も過ぎているのではなかろうか。
 なぜこのじいさんのためにこんなに市民が殺到するのだろう? 硬そうに見えるけど、実はクリスピー(以下略)と同じように秘密のレシピを使い
口の中でとろけるような食感を出すことに成功しているのだろうか? 少なくとも、これだけの動員があるということは最近ワイドショーなり朝の情報番組なりで「行列が出来るお店」として特集が組まれたに違いない。そういえば、廟の入り口に「2時っチャオで紹介されました!」というチラシが貼ってあったような気がする。チケット売り場でも、「おは4見ました」と係員に合言葉を伝えて値引きを受けていた客の姿をチラホラ見掛けた。こういう所はどの国でも同じなんだな。
 そんなわけで、ああアホらしい(オレの感性が)、見学を終えると午後の早い時間にオレは宿の部屋へ帰った。

 さて、
ベトナムは暑いのである。宿の中でも毎日が猛暑日だ。そして暑い時には、女性の目など気にせず裸になるもんだろう。ましてや、いずれは「国民は全員が全裸で過ごさねばならない」という法を持つネイクドキングダム(日本語訳:裸王国)の国王に推される身とあっては、これは当たり前、論を待たないことだ。
 こういうと必ず「あれ? でも国民が裸で過ごす法律があっても、国王は別にいいんじゃないの? 
国王は偉いんだからちょっとくらい服を来ても大丈夫なんじゃないの??」と言う奴が出てくるのだが、それは大きな間違いである。いいか、これは国だけじゃなくて会社でも同じ。まずは上に立つ者が率先して規則を守らねば、組織の秩序など保てるはずがないのだ。そうだろう? 自らルールを破るような国王や社長に、一体誰がついて行こうと思う? 国だけじゃなくて部活や大奥でもそう。トップが厳格に規則を守ってこそ、下の者も命を預けようという気になるんじゃないか。わかったかい? ……わかるよな? キミだってちゃんとそれなりの教育を受けているんだから。

 同じ部屋にはたまたま日本人の女性旅行者Hさんがいたのだが(ちなみに汚野ぎくちゃんは昨晩息を引き取られました)、オレはHさんには一切気兼ねせずにトランクス1丁で過ごしていた。心配ない。だって、彼女は
そういうのをあまり気にしないタイプの女性(どんなタイプだ)だから。
 でもオレは好きな格好をしているからって、別に自分だけ良ければそれでいいって思ってるわけじゃないよ。オレだって、もし彼女が下着で過ごしたいと言ったらそれを咎めるつもりはさらさら無いから。
そこで男だからいいとか女だからみっともないとか、そういう説教をするような古くさい人間じゃないからオレは。女性だって暑ければ脱げばいいんだよ。男とか女じゃなく、ちゃんと一人の人間として受け入れるからオレは。
 そして、オレは脱いだだけではない。
トランクスをはいたまま手ぶらでシャワーに突撃し、頭から水をかぶってそれを一切拭かずに、全身ぐっしょりのままベッドに戻りファンの風を浴びるという行為を繰り返した。髪の毛が濡れると色っぽくなって同部屋のHさんの愛欲を刺激してしまうのではないかという御心配もあろうが、そこは案ずるに及ばず。なにしろ普通の風呂上がりとは違い水を浴びたまま(一切拭いていない)なので、常に髪の毛や顎や手足から水がボタボタボタッ!と流れ落ちており、ある意味井戸から登場した怨霊状態で色気は最小限に抑えられている。むしろどちらかといえば近づきたくない状況だろう。でも彼女はそういうのを気にしないタイプの女性だからいいけど。野外パーティーとか好きな感じの人だから。レイブとかそういうオープンな無国籍な感じに慣れている感じというか。何言ってるのかよくわからんけど。

 「ファン」というのは天井にぶら下がっている巨大な扇風機のようなもので、ロープをかけて
首を吊るにはもってこいの設備なのだが、なにしろ濡れた体でこのファンの風に当たると最高に涼しいのである。
 もちろん、たしかに首を吊っても暑さは感じなくなるのは同じだ。縁側に風鈴を吊るしてチリンチリン言わせ「なんだか涼を感じるねぇ」なんて風流な奴もいるが、
風鈴よりも首吊り死体を吊るしておいた方がずっと心の底からの涼しさを感じるに違いない。だが、首吊りの場合はデメリットとして前から後ろから汚物が垂れ流しになるし、ひどい時はベロと目玉が飛び出るというではないか。そこはファンのみんなから「作者さんがトイレになんて行くわけがないよ!」と思われているアイドルの立場としては、汚物を垂れ流してイメージを壊すわけにはいかないじゃないか。今まで旅行記でも排泄するシーンは一切書いていないのはそのためだ。

 だいたい、旅行記でもブログでもなんでも、オレは下品な文章が大嫌いだ。そんなもの読んだってなんのタメにもならないじゃないか。みんなが貴重な時間を使って読んでくれているんだから、もっと
教養が身に付くような内容を心がけろよ下品な執筆者っ!!
 では、濡れた体で風を浴びると涼しくなるのはなぜだろう? ……それは、
気化熱のせいなのだ。物質が液体から気体に変わる、つまりこの場合では体に付いた水滴が蒸発しようとする時に、気化するためのエネルギーとして一定の熱が必要になる。この「気化に必要な熱」のことを気化熱と呼ぶのだが、それは水が元々持っているわけではないため、この時に水はオレの体から熱を奪うわけだ。だから熱を奪われる側であるこちらの体は、涼しさを感じるのである。
 実はこれと同じ仕組みを使った電化製品が、君の身近な所にもあるはずだ。なんだかわかるかい? そうその通り。冷蔵庫だよ。冷蔵庫に取り付けられたパイプの中の冷媒が蒸発するときの気化熱により、庫内はあんなに冷たくなるわけだ。もちろん、冷蔵庫が各家庭に普及することにより我々の生活は格段に便利になった。でも、「ALWAYS 三丁目の夕日」を思い出してほしい。あの、新しい電気冷蔵庫にはしゃぐ家族を見つめる、氷屋さんの寂しそうな背中を。文明の発展とは光だけではない、常に影の部分も内包しているのである。我々はそれを決して忘れてはならないのだ。

 ……どうだい。
上品でタメになる旅行記だろう。まさに、こういう文章こそが今の世の中で必要とされているのである。テレビ番組も、バラエティ全盛の現状から今後はドキュメンタリー番組中心の編成への移行が図られているというじゃないか。やはり、下品は最悪なのだ。オレの紀行文は、書く方も読む方も上品な人限定なのである。だから上品な文書だけを、これからもずっと書き続けていこうと思う。NO 上品 NO LIFE である。
 そんな訳で、トランクス1丁でヌレヌレになった裸体を惜しげもなく晒し、Hさんに向けては
股の隙間から縮み上がったタマタマやチンチラを見せつけて興奮しながら、オレはファンの風を浴びた。いや〜、Hさんも脱げばいいのに。一緒に裸体になって、濡れた体を相互鑑賞し合えばいいのに。ほら見てごらん。これが裸王国の国王の裸だよ。そして国王であるオレのこのイチモツは、裸王国という国家自体を表わしているんだよ。だって、ナポレオンが言ってたじゃないか。「チンは国家なり」って。げへへへっ! チンポ〜ン!!

 …………。

 
NO 上品 NO LIFE である。





しつこい足(本文とは特に関係ありません)



 もちろんボディにしろパンツにしろベッドにしろ、30分足らずでカラッカラに乾く(15分経過ぐらいでほど良くウェッティで色っぽい感じ)。するとすぐにたまらなく暑くなるので、またシャワーに飛び込んで全身ぐっしょりになり、そのままヒタヒタと部屋に戻りベッドに倒れジッと身動きせずファンに当たる。ただ涼んでいるだけではない。今度の「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」に、
浜辺に打ち上げられた水死体のモノマネで出場するための練習も兼ねているのだ。これこそ新宿2丁目、いや、一石二鳥ではないか。
 その後も「おいおい、乾くヒマもないな〜〜(ニヤニヤ笑)」などと自分で茶々を入れながらシャワー室とベッドの往復を繰り返し、全身びしょ濡れなまま歩いて部屋に戻ってはひたすら風を浴びて体を冷やし乾いたらまたシャワー、読書中のHさんの視線は明らかに
「旅先で出会ったナンバーワン変態」を見る目であったが、そんな些細なことは気にせずにオレは裸体から水をしたたらせてさまよい続けた。尚、なんでもこの翌日から「宿の中でカッパを見た」という噂が宿泊客の間でまことしやかに囁かれるようになったという。

 そんなことをしているうちに、夜になった。
 何度水を浴びただろう。どれだけの体温が奪われたことだろう。
 ……気づいたら、オレの全身は
激しい悪寒に襲われていた。

 ううう……(うめき声)。
 
全身が痛い……(号泣)。体中の関節がギシギシと悲鳴をあげ、特に腰痛は最高潮に達している。だるくて痛くてだるくて痛くて起き上がれない。暑いのに、寒気がする。ど、どうしてだ。どうしてこんなことになってしまったんだ(涙)。だいたいわかるけど(号泣)。



「だ、だいじょうぶ……?」



 突然シャワー室との往復をやめたと思ったら、口をだらしなく開けて
ホーチミンの死体よりはるかに怖ろしい本格的な屍の顔色になっているオレの姿を見て、Hさんが気遣いの声を掛けてくれた。



「いたい……体がいたい……(号泣)」


「そりゃあんた、それほど自業自得という言葉がしっくり来るシチュエーションも珍しいよね……。濡れたまま歩き回ってさあ。体温計もってる? 熱測った方がいいよ」


「ふざけんなー(泣)。自業自得じゃないってんだよー。看病しろよー(涙)」


「はい、これ使いな」



 体温は37度ちょい越えだったので、Hさんにもらった熱さまシートをオレのアールデコ(おでこの芸術的な言い方)に貼り付け寝ようとしたが苦しくて寝られなかった。
 翌日、体温は37度8分。1日中ベッドの上で「イタイイタイ(涙)」と駄々をこねる。
 その翌日、咳が出始める。熱は下がらず、時折呼吸が苦しくなりゴホゴホと風邪のウィルスを室内に激しく撒き散らす。うつれ〜うつれ〜。
この部屋の者ども全員風邪をひきやがれ〜。というか食欲があまりにも無さ過ぎる……。一昨日から水とリンゴしか食ってない。バカっ。
 翌日、無理してフォーでも食おうかと無理矢理
「フォーーーーーーーーーーーー(両手を高く掲げながら)!!!!!」と叫んで気合いを入れ、屋台へ出かけたのだがほんの3口しか食べられなかった。暑さで精気を絞りとられながら宿に帰り熱を測ると、38度2分。なんだこれは。熱が上がってるじゃねぇか。こんなだらだら続く体調不良は久しぶりだぞ。
 咳が辛い。一度咳をし出すと肺の中の空気を全て吐ききるまで続き、苦しくなって勢い良く息を吸うとまた喉に何かが引っかかって咳が始まる。この繰り返しで発作が収まるまでだいぶ時間がかかる。もう咳のしすぎで咳で使う筋肉の腹筋がジンジンと痛い。

 この38度に達しやがった熱を一気に抑えようと、オレは風邪薬を飲んでからあえて毛布を被り、ひたすら汗をかいた。出るわ出るわ、ここ数日間で飲んだベトナムのおいしい水が全部汗腺から出て行く。これをペットボトルに溜めておけば歯磨きや生野菜を洗うのに使えると思うが、オレにはまだ歯を磨く習慣もないし、このあたりじゃあ新鮮な野菜も手に入らないのでやめておこう。
 しばらくして再び熱を計ってみると、36度8分まで下がった。計画通りだ。なぜたくさん汗をかくと熱が下がるのかわかるかい? この仕組みはさっき勉強したばっかだよな。そう。汗が蒸発する時に気化熱が発生し、体温を奪って行くからだ。どうだい。
タメになるだろう? 楽しみながら自然に知識が身に付く旅行記だろう?? 多くの家庭で、インターネット禁止を云いつけられている試験前の子供もこのサイトだけは見ていいことになっているのは、こういうことなのだ。
 ところがいったん熱は下がったが咳は全く止まらず、体温も夜にはまた38度へ逆戻りしてしまった。なぜ下がらないんだ……。もう発熱してから4日目にさしかかり、だいぶヨボヨボだ。不安になってきた。どうしよう。熱と咳が(涙)。
 翌日。朝起きて熱を計ってみると、めでたく36度台まで回復していた。よ、ようやく復帰か……。
ゴホゴホゴホゴホゴホオーッホオーッホオーッホッ!! へーー、へーー。熱はなくなったけど、されどこのだるさと関節痛と咳が。もうそろそろベトナムから出る頃なのに……。早く治れっ! お願いだ!! いいか、病気の神様が見ているなら聞いてくれ!! たしかに、オレは今まで素行が悪かったかも知れない。不真面目に生きて来た。それは認める。でも、もしこの病気が治ったら、もう2度とAVは見ないからっ!!! sabraも買わない!! グラビアアイドルのこととかエロいことなんか今後は絶対に旅行記に書かないから!!! 約束する! だからどうかこの病気を治して下さい!!! 頼むっっ!!
※本気で約束するつもりは無いけど、とりあえずそう言っておけばいいんだよ。治っちまえばこっちのもんなんだから。神様には後で適当に言い繕えばいいんだよ。

 その午後、体温は徐々に上がり37度に。夜、
38度6分で今回の最高記録更新。咳の波が来る感覚も短くなり、とにかく腹の筋肉を使い、筋肉痛の所をさらに全力の咳で刺激してもう腹筋が壊れそうである。咳の最後にはオエッと戻しそうになり、しかし何も吐く物は入ってないのでそのまま放心状態でヒーハーと呼吸を荒げるのである。
 いよいよ、心身共に蝕まれて来た。治る気がしないのだ。ただシャワーを浴びて体を拭かなかっただけの理由、つまりどう考えてもただの風邪なのに、初日よりむしろ5日目の今日の方がずっと症状が重い。
 いったいどうすれば……。何がオレの体で起きているのだろうか? 
今までオレが無数の女の体の上を通り過ぎて来た、その罪の意識が病巣となって体内に発現したのだろうか?? ……いや、それはつじつまが合わない。無数の女の体の上を通り過ぎて来たのはただの妄想なのだから。
 そのまま翌日に続く。どうか心配して下さい。





今日の一冊は、理解されなかった天才・佐山聡 1984年のUWF






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