〜カッパドキア〜





 (けだるそうに)ぼうせしょしょふぁ〜だむうふぁしょん〜しゃしょえまにゅえる〜〜♪
 
※エマニュエル夫人のテーマ曲を思い浮かべてください

 ……トルコの長距離バスでは、発車してすぐに全乗客が淫らなプレイに身を投じ始める。
 だいたいターミナルを離れて10分ほど経つと待ちきれない乗客がバスガイドの女性におねだりをはじめ、順番に両手の平を上向きにして、プライドの高そうなトルコ人ガイドから
直に黄金水を浴びせかけられるのである。すぐに男どもはその黄金水を顔や体に塗りたくるもんだから、においがあまりにも強烈でバスの中が完全に公衆便所と化す。

 ちなみに、
「武士道とは死ぬことと見つけたり」で有名な日本男児のオレはというと、もちろん両の手で一滴も漏らさぬようにピュピュっと出される黄金水を受け止め、頬に、腕に、首筋にそのエキスをすり込むのである。
 そもそもなんでバスの中で
香水のサービスなんかが振舞われるのかはわからんが、ともかくその香りは完全に日本のトイレの芳香剤のため、トルコでは目的地に着くまでずーっと公衆トイレに監禁されているような気分になるのだ。逆にトルコ人が日本のトイレに入ったら、長距離バスの匂いがするもんだから便器に座っていれば目的地に着くのではないかと勘違いすることだろう。
 え? 誰だい? 家族で見ているのに
不謹慎な書き方をするななんて怒っているやつは。ああそうかい。抗議をするならすればいいだろ!!! このweb旅行記界(狭い)のDJ OZMAによ!!!

 そういうわけで、公衆トイレで7時間ほど揺られ、着いたところは
ギョレメである。カッパドキアという、奇岩で有名な一帯の代表的な町だ。カッパドキアは旅行者の間ではカッパと略されて呼ばれ、ここはカッパのギョレメということで、他にも小豆洗いやぬらりひょんといった奇怪なもののけが生息していそうである。……むむむ!! ピーン(前髪の妖気アンテナが反応した音)!
 しかしアフリカのリロングウェやムズズなどから久しぶりに、このあたりの町もギョレメ、デリンクユ、カイマクルなど、
ロシアあたりから来るサーカス団と競えるほどわけのわからない名前がついている。……カイマクルって、カード依存症の主婦で構成されている町だろうか。

 とにかくカッパドキアといえば1に奇岩2に奇岩、メイドカフェにメイドがいなかったら誰も近寄らないように、奇岩が無かったらギョレメの町に観光客が訪れることはないが逆にこの奇岩を見るためにトルコに来る旅行者はほぼ全員が一度は立ち寄るという、
「1UPキノコを追いかけてマリオも一緒に谷底に落下」のような誰もが通過する道となっている。
 オレの宿泊したところも、その奇岩をくり抜いて作られた雰囲気のある宿であった。ただ、
洞窟ホテルであってもドミトリーだがな(涙)。どれだけ雰囲気を作ろうともオレが貧乏なのに変わりない。腐っても鯛、ホテルでも作者だ。
 うまく縦長に岩を掘って作られた、長細い6人部屋。宿泊者はここも全員日本人だ。岩を掘って出来た穴に、日本男児が並んで何日も寝泊りする。
観光客というより、米軍艦隊を待ち受ける硫黄島の兵士である。もちろん、日本のために戦って下さった英霊の皆さんと比べたらオレたち無職のバックパッカーなど、人間ではなく洞窟に住むムカデのようなしょーもない存在だ。

 ムカデはムカデらしく足を蠢かせながら一晩を穴の中で過ごし、翌朝寒さで玉砕する覚悟で外に出てみると、そこは
一面雪の地球外世界であった。この地域だけが時の流れを逆走し古代にさかのぼっており、その過程で地面からズガズガと三角形に尖った岩がいくつも出現してきたような、そんなジュラシックパークのタイムマシーン。カッパドキアは、タンザニアのンゴロンゴロ以来に景色を見るだけで「ヌオーーーー!!ゴボゴボ(泡)……」と絶句してしまった、地球上2箇所目の場所あった。うん、さっき地球外世界って書いたけどあれはあくまで比喩で、一応地球だから。わかってるでしょそれくらい。大人なんだから。




 さて、カッパドキアには見所は多い。ツアーに参加して行くような辺鄙なところもあれば、自力でなんとかしなければならない、指名の少ないキャバクラ嬢のような
手の届きそうで届かない微妙な距離の観光ポイントもある。
 後者(キャバクラ嬢)のような場所に行くには、通常の、GDPが500兆円を超える経済大国からやって来た観光客ならば、タクシーという
近未来型の移動手段を使用するだろう。しかし職業が遊び人、しかも特技も身に付けないしレベル20になっても賢者に転職できない生粋の遊び人としては、物価の高いトルコではなかなか石原都知事ファミリーのような豪勢な金の使い方は出来ない。たとえ何億リラという紙幣が財布の中にあろうとも。
 結局どうするかというと……、そう、
なんのためにオレたちには足がついてるんじゃ〜〜!!! 直立歩行ができるからこそオレたちは人間として生物界の頂点に君臨しているんだろうが〜っ!!!

 ということでオレはウチヒサール城砦という、数キロ先の奇岩城を目指して歩みを進めていくことにした。しかし、胃液も凍りそうなほど寒いのと同時に、オレはこんなに雪の積もった道を歩いたことが無い。
雪道処女としておしとやかに、謙虚な気持ちでそろ〜りそろ〜りと歩いていたのだが……

 アっ、
おお〜〜〜〜〜っ!!!!
 ゴシ〜〜ン(転倒)

 いい、いだい……(号泣)。はあっ(泣)。
 城砦だけに坂道をひたすら上がったり下ったりしなければならないのだが、もう道が最初から最後まで
ツルンツルンなのである。そしてどれだけソロソロ歩こうがコケる。だいの大人が、100mごとに滑って悲鳴をあげ、300mごとにバタッと転倒である。くそ〜、東北地方の人みたく靴にチェーンを巻いたり靴底から火炎を放射できればこんなことにならないのに……。
 しかし二枚目俳優の日本代表としてはトルコ人に恥ずかしい姿を晒すわけにはいかず、こうなったらせめて華麗に滑ってコケようと修練に努め、2km先で滑る時にはビールマンスピンを、3km進んで滑った時には
トリプルフリップを決めるようになっていた。もちろんそれは頭の中だけのイメージだけで、実際に形になっていたかどうかはやや疑問ではあるが。ちなみにどんな理想的な滑り方ができようと、結局その後で路上にベタッと倒れて声をあげる。

 さて、なかなか出会う機会の無いこの大量の雪を見ながら、オレはフィギュアスケートの特訓以外にも何かこれで遊べないかと道々考えていた。とりあえず積もっていた雪に絵を描いてみたのだが、このように
なかなか幼稚園児以上の発想は出てこない。しかし、新婚の頃の熱い思いも忘れて殴り合いばかりしているギョレメの中年夫婦が、明日の朝これを見て笑顔を取り戻してくれるとすれば、オレも骨折した両腕を酷使して描いた甲斐があったというものだ。

 絵心が無いならばということでもうひとつ考えたのが、「5分でできる! 誰にでもわかる雪道の完全犯罪トリック」企画である。
 雪といって何を連想するかというのは人それぞれだろうが、代表的なものをあげると由紀さおりに斉藤由貴と兵藤ゆき、そして
殺人事件といったところであろう。実際のところ雪道と殺人というのは分けて話すことはできない。久本雅美が雪道だとしたら、柴田理恵が殺人事件みたいなものである。
 雪道で殺人事件が起きれば必ず名探偵や名刑事が登場するが、その時には雪上の足跡と犯行状況を照らし合わせて
必ず矛盾がなければならない。そうでなければ雪の意味が無い。99.9%の現場においては、犯人の足跡は一切残されていないのである。というわけで、早速オレも消える足跡に挑戦してみた。

 ほらほら、見事に足跡が消えているだろう!!!
 では、
これから人殺しを考えている人のために、ここで特別に作り方を公開しよう。
 まずは、キレイに雪が積もっている、自分だけの土地を探す。これが簡単なようで意外と難しい。
 遠くまで見渡して、車はもちろん人の気配も全く無いことを確認しなければならない。なぜなら、
誰かに目撃されたらアリバイトリックもくそもないではないか。「刑事さん、そういえば昨日の朝若い日本人がアリバイ写真を作っていました」などとトルコ人に目撃証言を述べられたら、明智小五郎がトリックを暴くまでもなく逮捕である。

 場所が確保できたら、まずは途中まで歩く。そして、積年の恨み重なる相手を
鈍器で殴り殺したら、今度はそのまま自分の足跡を踏みながら、後ろ向きで歩いて来るのである。ひとつとても重要なことは、この時、決して「オレはいったいトルコまで来て何をやっているんだろう」と自分の行動について疑問を持ってはいけないということだ。邪念を払いのける冷徹な心がなければ、完全犯罪など到底成し得ないのである(涙)。
 このような手順で、「足跡消滅トリック写真」は作られる。ああ、こんなふうにmixiのあしあとも消せたら、オレがヒマさえあれば他人の日記を読みまくり、特に女子のページでは
顔写真がどこかに載っていないか血まなこになって探している寂しい人間だということがバレずに済むのに……(号泣)。※あくまで冗談です。









 一応この写真に被害者を描き込んでみると、このようになる。(被害者はCGで描かれたものであり、本物の死体ではありません)


 なかなかよくできた犯行現場ではないだろうか。
 いやー、やっぱりこれはなんといっても、
わざわざトルコでやる必要ないよな(改めて)……。
 もしかして、
オレは結構しょーもないことをしているのではないだろうか。しかも、うまい写真が撮れるまで5箇所くらいでやったんだよね(泣)。いっぱい時間かかったさ……。

 本当は、雪の上にダイイングメッセージを残すなどもう少し凝った写真に挑戦したかったのだが、そういうことは
日帰りで箱根ピクニックガーデンにでも行ってやればいいということに気付き、我に返ったオレは道々で繰り返し転倒し雪の妖精となりながらもまた歩き始め、目的地である城砦に着いた。

 ひたすら坂を上らされただけあり、その砦はギョレメの町を一望できる高さにある。先ほどは殺人事件などという野蛮なことを考えていたオレだが、この美しく壮大な景色を見ていたら、なんだか今度は
飛び降り自殺の写真を撮りたくなってしまった。
 なんとなく、靴を脱いで崖の上に揃えて撮ってみる。






 あんまり自殺に見えないか……。
 背景が複雑すぎるのと、靴が
自殺しそうじゃない靴だからな……。ちなみに、右の靴の中には一応折りたたまれた遺書が入っている。わざわざ自殺写真を撮るために宿から遺書を持参したのだが、やはり自殺といえばハイヒール。ハイヒールがダメなら、せめて革靴を調達してくるんだった。
 なんとなく満足いく形にならなかったという未達成感があり、オレは
崖を見つけては自殺にトライ。城砦のことはもはやどうでもよく、オレはただの死に場所を探しに来た人となっていた。近くで絵ハガキを売っている物売りもなにかおかしな気配を察したのか、もはや誰もオレには近寄って来ない。

 城砦の周囲を回りポイントを探し、もう1枚撮影してみた。





 先ほどのものよりは高さを感じられるようになったのではないだろうか。遺書も折りたたんで靴の上に置くことで、少々リアル感が出て来たのではないかと思う。
 しかしこの企画は、はっきりいって
やらない方がよい企画であった。このように崖の上に靴を置いているということは、当然写真を撮っているオレは靴を履かずに雪上に立っているのである。踏んでいる雪は足の下で氷水となり、靴下からチンワリチンワリと染み込んで来る。もう足の裏がチンチンに痛い。黒澤明監督も「七人の侍」の撮影時、真冬の豪雨の中に毎日長時間立ち尽くしたために足の爪が全てはがれてしまったというが、やはり良い画を撮るには足の1本くらい犠牲にする覚悟が必要なのか。芸術の追求は、それなりのリスクを伴うものか。
 また写真を見てわかると思うが、そもそもこれだけ際どい崖の先端に靴を置く時点で
本当に自分が落ちる可能性がある。雪の上であり、なおかつ足はほぼ裸足のためもはや感覚が無くなっているのだ。靴を揃えて置き、遺書まで添えたところで弾みで転落したら、どう考えてもごく普通に飛び降り自殺をした人である。これでは絶対に事故死とは判断されず、保険金は下りないであろう(号泣)。
 もちろんそのあたりは自分でよくわかっているため、小道具をセットする時はもう目一杯遠くから、這いつくばるようにして手を伸ばし靴を配置するのだ。うーん、
心底バカバカしい。

 
ツアーだっ!! ツアーに参加だ!!!
 こんなことばかりしていては、
カッパドキアの思い出は殺人と自殺だけになってしまうではないか! せっかくこうしてギョレメくんだりまで来ているのに!!
 オレは、宿に戻るとすかさず女子大生と行くカッパドキア1日ツアーに申し込んだ。
 ツアーでは、巨大地下都市や渓谷、シルクロードの商人の宿泊施設・キャラバンサライなどを
オールナイトフジでブームになった日本の現役女子大生と一緒に回るというものであった。もう最近は、そんじょそこらの国際武道大学の学生よりはオレの方が女子大生と交わる機会が多いと思われる。これなら、オレが男子大学生を名乗っても誰も文句は言わないだろう。
 とはいえせっかくトルコの有名観光地にいるのだから、ここは女子大生のことは忘れ、心を入れ替えて観光をすることにした。地下都市では、太陽の光を一切浴びずに毎日を過ごしていた、1000年前の住人であるキリスト教徒たちの生活に思いを馳せ、同時に突然地震で入り口が塞がりオレと女子大生だけで励ましあいながら(そして時にはピーーながら)地下で生きていくという白昼夢に、しんみりと浸った。
 「キノコ岩」と呼ばれる長細い奇岩が立ち並ぶ地域では、どうしてこんなに不思議な形の岩が生えているのかと自然のいたずらに純粋に驚き、「あ、でもこの岩、キノコよりもっとそっくりなものがあるよね。
ほら、アレだよ。アレ。よく知ってるくせに」と提案し女子大生にその単語を言わせるシーンを想像、ひとしきり興奮したのである。

 
イスラム教の国でもこのページを見られるように一応写真にはモザイクを入れておくが、大体キノコ岩といいながら、これを見たら100人中120人の観光客はキノコではなく別の物を想像するであろう。それが何かは具体的にはここでは述べないが、オレはツアーの最中ずっと言いたくて言いたくて仕方がなかった。
 しかしいくらなんでも、初対面の女子大生に向かって「ねえ、あの岩なんだか
チンコに似てるよね」などとはたとえ口が裂けても言えるわけがなく、あくまで上品に、キノコ岩だということにして話を先に進めるのであった。

 その夜は女子大生を食事に誘い、年上の男性としてたっぷりと大人の魅力を見せつけ、さらに社会の厳しさを教えるために
キッチリ割り勘で支払わせた。しかし恐ろしい女子大生は、自分のかわいさを130%発揮しておねだりモードに入り、「おじさん、おねがい……」と店のおじさんを誘惑、なんとレストランの食事の会計を15%引きにしてしまったのである!
 オレもそこそこ世界各国で食堂に入ってきたが、メニューの料金をまけさせた旅行者を見たのは初めてだ。おそらく、オレの見ていないところで
ちょっとしたおさわりくらいは許していたのであろう。たしかにおねだりモードの女子大生はかなりかわいく、もし誘惑されたのがオレだったら1千万2千万(リラ)は平気で貢いでいただろう。この娘は将来大物になりそうだ。胸はまだ大物ではないが。

 翌朝、宿で飼われている
犬のプリンちゃんに子供が産まれたということで宿泊客従業員揃って大賑わいの中、オレはアジアとヨーロッパの境界であるイスタンブールへ向かった。





今日の一冊は、氷点(上) (角川文庫)






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