〜プレトリア発 先進国終了〜





 夜のプレトリアをタクシーに乗り進む。
 バスターミナルは昼間歩いて行った駅前にあるのだが、昼間と違って暗闇で犯罪者さんたちは
保護色になっている上に、15キロのバックパックを背負って競歩はできない。生きる希望を少しでも持つものはタクシーを使うのが懸命である。
 今日は、プレトリア発、ジンバブエのマシンゴというところ行きのバスに乗る。マシンゴがどこかは知らないが、マシンガンに似ているために
物騒な感じがする名前である。
 ちなみに、バス停でバスを待つというのもここでは結構大変なものである。待合室は屋内にありバス停は外にあるのだが、どのバスに乗るかというのは、外に待機していてバスが通りかかるたびに辺りの人間に聞きまくらなければわからない。ただしでかい荷物を持って外に待機していると誘拐される可能性があるため、荷物は待合室の中に置いておかなければならないのだ。もちろん、荷物からしばらく目を離しておくと結構な確立で荷物と永遠の別れを告げることになるので、基本は
外待機ベースで、約10秒おきに待合室を覗いて自分の荷物を確認するという作業が必要になる。まあ最初のうちは疲れるが、だんだん慣れてくると荷物の位置と自分の立ち位置の絶妙な配置のポイントを微分積分を駆使して見つけ、外にいながらにして荷物を見張れるという安全な、そう、いじめに加わらないけど助けもしないという傍観者のような安全な場所を発見できるようになるのだ。*ただし時々「見ていただけの子も同罪よ!」と先生に言われます



「ハチョーーーーッ・・・」


作「ん?な、なんだ??」


「ハーッ、
アチョーーーーーーーッ!!


作「な、なに?」


「ハチョハチョハチョーッ!!」


作「あわわわ・・・」



 近くでバスを待っていた黒人の若者が、オレを見るなりカンフーの試合を挑んできたのだ。
 というのは、まあ気持ちはわからないでもないが、まず黒人には日本人と中国人の区別が全くつかない。そして、その上にアフリカではアジア諸国と同じくジャッキーチェンの映画が非常な人気を博しているため、こうして通りがかりの黒人がなんの前触れもなくハチョハチョ言いながら攻撃をしかけてくることが非常に多いのだ。


「アチャーーーーーーーッ!!アチョーーッ!!」


 少しくらい無視しようが奴らは全く攻撃の手を緩めない。
 たしかにオレはそれなりにカンフーの修行は積んでいる。だが、はっきり言っていきなり試合を挑まれるのはオレにとっては迷惑である。もしオレが中国人だったら同じくハチョーと言って勝負を受けるかもしれない。勝負を受けなくてもせめてポーズくらいはとるかもしれない。だが、中国人と日本人は違う。ここで相手になったらますます彼らを調子に乗らせる上に、そもそも他の客も見ているのにこいつらに付き合ってカンフーごっこをするなんて恥ずかしいではないか!!
 かくなる上は、中国人と日本人の違いを示すためにも、奴のカンフーに対して日本風の返答をすることにした。



「ほーーっ、ハチョーーーーッ!!!


作「いや、
ハチョーって!!」


「アチョチョチョーーーッ!!!」


作「いや、
アチョチョチョってキミ!!!


「ハ、ハチャーーッ!」


作「ハチャーって言っちゃったよオイ!!!」


「・・・。」



 日本が世界に誇る三村風ツッコミを受けて、黒人はつまらなくなってカンフーで攻撃してくるのをやめた。これを気に、彼も日本人と中国人の違いがわかるようになってくれたらうれしいものだ。だがしぶといもので、彼はカンフーを諦めてもまだにこやかにオレに絡んできた。どうやら今度は踊っているようだ。



「ヘーイ!楽しいかい?」


作「え?あ、ま、まあ楽しいよ。」



 黒人というのはノリがめちゃくちゃいい。たとえ安宿で働くおばさんのメイドさんであっても、油断しているといつの間にか踊っていることが多い。それに彼らは他人を巻き込むのも得意で、陽気さを振りまいて場を和ませるプロフェッショナルなのだ。そもそも人間、人から陽気に「楽しいかい?」と聞かれて「そうでもない。」と答えられるわけがない。そうやっていつも黒人は他人を陽気な世界に巻き込んでいくのだ。



「ヘイ!ヘイ!」 ←踊っている


作「・・・。」


「ジャパニーーズ!!楽しいだろ!!」


作「あ、ああ。楽しい。」


「いっしょに踊ろうぜ!!ヘイ!ヘイ!」


作「え、お、踊り??オレが??」


「そうだ!ダ〜ンシ〜ング!!」


作「・・・。」



 へ、ヘイ・・・!へ・・・ヘイ!まあせっかくこうして外国に来ているのだから、現地の文化を経験するというのも悪くない。黒人さんのせっかくの誘いをぶっきらぼうに断るのも少々気が引けるではないか。別に誰が見てるわけではないんだし、旅先という開放感もある。日本だったら絶対に乗らないが、せっかくの機会だし、ちょっとだけ彼につきあって踊ってみるのも悪くないかな・・・。よ、よーし・・・
なんて言うと思ったら大間違いだぞ!!!!



「ヘイ♪ヘイ♪」


作「・・・。」


「ハイ!ハイ!」


作「・・・。」


「ダ〜ンス!!ヘイ!ヘイ!!」


作「・・・。」


「へ・・・。・・・。」



 黒人のダンスが終わった。さすがに
東洋人の冷たい目線を一身に浴びせかけられながら踊り続けるというのは彼にとっても気持ちが萎えることだったらしい。悪いがいくらヘイヘイ言われてもオレは踊らない。こんな遠く離れた旅先で踊るくらい誰が見てるわけじゃなくても、自分自身恥ずかしいんじゃボケぇ!!後で「そういえばあの時南アフリカで踊ったなあ」と思い出したりしたら絶対穴があったら入りたくなるんじゃワレ!!!!
 ちなみにオレは外人に「日本の歌をうたってよ!」と言われても絶対に歌わない。「え〜!信じられない!」「え〜!ひど〜い!」というアウトドア派の人々の非難する声が聞こえてくるが、恥ずかしいんだからしょうがないだろうが!!!まじめに童謡なんかを歌って聞かせてあげてる時に他の日本人に見られたとこなんか
想像しただけで悶絶するくらい恥ずかしい。歌なんか歌わなくたって千歯こきでも日本文化センターでもいくらでも他の日本の文化紹介したるわい!!!
 本当に時々出くわすが、オレが近くにいるのにも関わらず現地人に促されて福山雅治なんか歌うやつの気が知れない。あと部屋の中で歯を磨けるやつの気も知れない。ためしに一度やってみたけどダランダランになるから。あと片手だけで目薬が注せるやつの気も知れない。
 ただし、まじめに歌うのはイヤだが例外として近くに日本人がいた場合、ウケをとるためにあえて
由紀さおり姉妹のトルコ行進曲を歌う可能性はある。これから海外旅行に行く人は、もしも現地人にせがまれて「サバダバダ〜♪」とソプラノで歌っている日本人を見たら、僕だと思ってくれていいかもしれません。*見かけたら必ずつっこんでください。

 そんなこんなでバスに乗り込んだオレは、再び車上の人となった。予定では、ジンバブエのマシンゴまで約10時間。・・・。アフリカ、頼むからもうちょっと狭くなってくれ・・・。
 ちなみに、南アフリカ共和国はもともと白人国家であり、ケープタウンの写真を見てもらえばわかるように完全な先進国である(厳密な定義はしらんけど少なくとも雰囲気は)。黒人も強盗も多いが白人も多い。物価は高いが宿はキレイでバスも快適。
 しかし、この国を出た後オレの贅沢ざんまいを満たしてくれる快適なベッドはあるのだろうか。熱い熱いホットシャワーは、整った交通網は、エアコン付のバス、フライドチキン、中華料理、掃除の行き届いたトイレは、コンビニは、エロ本は、ショッピングモールは、親切な日本人バックパッカーは、タクシーは、喫茶店は・・・・・・・・・





今日の一冊は、リングシリーズはここまでおもしろい ループ (角川ホラー文庫)






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