〜でもまた行きたいかも〜 私の名はレイゲン。作者の中に存在し、彼が耐えられない痛みや恐怖に対面した時、表に出てそれらを引き受ける人格である。私は、作者が意識の奥深くに逃げ込んでしまった後に現れ、全ての苦しみを受け止め、苦痛への最後の責任を負うのだ。 また、私の趣味は掃除である。さて、ローソクの蝋が床にこびりついちゃったからコインで削って……ゴミは全部まとめてこのビニール袋に入れて……昨日のナシゴレンの食べ残しは、え〜い! ブーーンッ(ジャングルに投入) よし。これでいいな。私の役目もそろそろ終わりだ。それではまた会う日まで…… …………。 みんなおはよう。私の名は作者。作者の中に存在し、エロ変態の部分を司る人格である。つまり、本来のオレだ。 朝方、6時過ぎになってなんとか少し寝れた。8時に目覚ましをセットしておいたのだが、ベッドが硬すぎて骨という骨がぐりぐりされて痛み、四肢の全ての骨にひびが入り痛みに涙を流しながら7時に目が覚めた。 幸い、ここ2日間の心労がものすごかったせいで、起きた時にはオレの腹は見事に引っ込んでいた。ほんの2日前までは、あと数週間で五つ子ちゃんが生まれてきても誰も不思議に思わないほどの、横綱級の立派な出っ腹ぶりを見せて毎日不知火型の土俵入りをしていたのに、今では事務所につけてもらった「くびれの女王」というキャッチフレーズが見事に似合うスリムな体型になっている。 2日間の心労と言っても、もし本当に苦痛を引き受ける人格が別にいるのであればオレ自身には心労は無いはずだが、その辺の設定は行き当たりばったりで適当に書いてるだけだから、細かいことをぐだぐだ言わないように。 まあそれはそうと、いよいよ今日でこのブンブンヨンなどという客を馬鹿にした名前の幽霊屋敷とはおさらばである。ちゃんと迎えのボートは予約してある。何しろ昨日は、「明日ボートで迎えに来て下さい」と村の事務所でお願いするためだけに、わざわざ蛭に食いつかれ遭難しながら4時間も見知らぬジャングルを歩いたのである。 しかし思ったのだが、昨日ボートで近くまで送ってもらった時に、荷物を取って来てそのままボートで一緒に帰ればわざわざ2泊もする必要なかったんだよな。陽が沈んでから12時間ぐらい、中でも稲川淳二の怖い話とエクソシストのテーマを聞いてから5時間くらいは怖すぎて失神寸前だったが、昨日帰っていれば全然そんな必要なかったんだな。くそ、昨日これに気が付いていれば……(号泣)。 この、不気味な小屋野郎めがっ!!! ドゴ〜〜〜ン!!! 全ての荷物を抱えて外に出ると、オレを恐怖のゾンドコに落としやがった罪深いブンブンに蹴りを入れようと思ったがそれもなんかお門違いなので、代わりに手をつないで歩いて来た通りがかりのマレー熊のカップルを思い切り蹴飛ばしてやった。がははっざまあみろ。泣きながら逃げて行きやがったぜ……。 前後左右にバックパックやビニール袋をぶら下げて、船着場まで移動する。……これでボートに約束すっぽかされてたら、大笑いだよな。そしたら大笑いしながらヤケになって川に飛び込んで、ワニと戦って死んでやる!!! そしたら人魂になり枯葉の上を飛び回って、ジャングルを燃やし尽くして二酸化炭素の吸収を減少させ地球温暖化を進行させてやるっっ!!! チームマイナス6%のメンバーを困惑させてやるっっっ!!!! 顔の周りにまとわりつく蚊にかぶり付いて食い殺しながら、木にしがみついてやっとのことで坂道を下ると、最凶の試練を乗り越えた勇敢な戦士を迎えるために、マレーシア王室出身の高貴なボート乗りが英雄を称える舞いを奉納していた。なんでも、今まで100人以上の豪傑がこの試練に挑戦したが、無事に帰って来たのはオレで3人目であるという。 乗り込むやいなやボートは発進し、歩いて4時間かかったクアラタハンへの道をわずか15分で走り切る。これだったら、昨日だってジャングルから木を切り出して自分でボートを作って川を上った方が早かったんじゃないだろうか。 とにかく、終わった。この2日間、とてつもなく長かった。しかし今こそ、今こそオレは誰もが認める真のカリスマ旅行者となったのだ。……もし異議があるというなら思い出してみろ。あのジャングルの恐ろしい闇の中ですら、全裸でハッスルし「チンブラヤッホー!」と叫んでいたオレの姿を。見事にカリがスマートだっただろうがっ!!! 認める気になったかオレがカリスマだということをっっ!!! クアラルンプールへの帰還は明日のため、クアラタハンで安宿を見つけチェックイン。 色がっ!! 部屋に色が着いているっっ!!! うおっっ!! マットレスが!!! シーツが!!! ドアに鍵があるっ!!!! 壁が空いていない!!!! 電気が通っている(涙)!!!! 宿の中に人がいっぱいいるっっ(号泣)!!! ううう……(泣)。なんて低レベルなことで感動するようになってしまったんだオレは……。高島屋やモスバーガーで興奮するのはわかるけど、壁が空いていない宿で感動ってどこまで落ちてるんだオレは……(号泣)。 まだ午前11時であるため、早速英雄のオレは水上レストランで他の旅行者のサインの求めに応じながらメシを食い、午後はタマンヌガラ国立公園ならではの様々なアトラクションに参加することにした。 まずはキャノピーウォークへ。これすなわち、森の中、木の上に掛けられている吊り橋であり、本来は背の高い木の先端の状態を調査するために作られたものだが、旅行者がワーキャー言いながら楽しく渡れるために有料の娯楽施設にもなっているのだ。皆が真っ先に目指すこういうアトラクションに、滞在最終日になって初めて向かっているのはなぜだろう。2日間何やってたんだオレは。 吊り橋でオレは、元少林寺の修行僧として手すりにつかまらずに合掌しながら渡るという荒技にチャレンジし、最後の2メートルでバランスを崩すがギリギリで向こう岸に飛び乗れて「うおーっ!! 超やばかった!! あぶね〜っ(笑)!」と一人で叫んではしゃいだ。 その次は「スピードボート」という余興を楽しんだ。オレを含めて10人ほどの参加者が乗ったボートでテンベリン川を突っ走り、運転手の絶妙な舵捌きにより川の水がドバーー!!と入ってくる度にオレは「うおーっ!! めっちゃ濡れたよっっ(笑)!!」と一人で叫んではしゃいだ。 …………。 なんか虚しいな……。 まあいいや。どんなに淋しかろうと、何もかも昨日よりマシだ。手を伸ばせば触れる距離に人がいるということを、何よりも幸せに思わねばならない。手を伸ばせば揉める距離に白人のオツパイがあるということを、何よりも喜ばねばならない。 でも揉める距離にあるからって揉んでいいわけじゃないんだけど……。ああオツパイ。なぜおまえは手を伸ばせば揉めるところにありながら、揉むと逮捕されるのだろうか。もう逮捕されてもいい。揉みたいっっっ(号泣)!!!! 内山君でもいいっっ!!! その後はブキッ・テレセックに登って山の景色を眺めたり、夜はナイトサファリツアーに参加してトラックの荷台に乗せられて村を走ったりと、国立公園に来た旅行者に相応しい、実にアクティビティーの充実した1日を過ごしたのであった。ブキッ・テレセックが何かということは、この際気にしないとして。まあでも、ブキッ、じゃなくてドキッ、かバキッ、だよな普通。 そして翌日。 いよいよタマンヌガラ国立公園脱出の日である。 ぎゃーーーーー!!!!(宿のすぐ裏) くそ……。こんな原始的な所、2度とゴメンだっ!!! 最新鋭の技術と文明を全て兼ね備え「イージス艦バックパッカー」と呼ばれる未来型旅行者のオレに、こんな下品な場所は似合わねぇんだよっっっ!!! 下品は言い過ぎだって? ふん。夜になるとジャングルで全裸の男が手放しでオシッコするような所が、下品じゃなくて何だというんだっっっ!!!! ……ああ、したさ。ジャングルでオシッコをしたさ。ハサミ蟻を、溺れさせたさ。でも、この森の中にいる何百万という数の生物が全員オシッコを垂れ流しているんだぞ!! オレだけが責められる筋合いは無いっっ!!! だいいちオレのオシッコは植物をよく成長させるんだっっっ!!!! 見てみろオレのアパートの裏庭の雑草の成長ぶりをっっ!!! ……今度は、同じ方法でミニトマトの栽培にチャレンジしようと思っています。よかったら遊びに来てね! 味見させてあげるから! 脱出用のボートに詰めこまれ、来た時と逆方向にテンベリン川を下る。やっと帰れる。この、大自然以外何もない見所の皆無な(オレは自然などに興味はない)タマンヌガラで3泊4日も、いや、そのうち2日は拷問ナイトだったのである意味1泊4日の人殺しスケジュールで滞在してしまった。この国立公園は一般的に「タマンヌガラ・リゾート」と呼ばれているらしいが……、何がリゾートだっっ!!! これならちょっとした懲役刑の方がまだ楽しそうなんだよっっっ!!!! ※リゾートの楽しみ方を知らない人間が行くとこうなります。 ボート3時間+バス3時間。その日の夕方、オレは再び大都会クアラルンプールへ戻った。 宿にチェックインして休憩しているうちに寝てしまったのだが、寝ながらにして全く意識が無いながらも本能でオレは電車に乗り、気づいた時にはそごうの日本食レストランで冷や奴を前に座っていた。 夏ですなあ。くあ〜〜〜〜っ! 幸せじゃ! 余は幸せじゃっっ!!! なんて清潔な空間なんだ! 日本のデパートは美しい!! ここにはサソリも、タランチュラもいない(涙)!!! 血を吸われることも無いっっ!!! そして味だけではない、この冷や奴の繊細な、涼を感じさせる提供の仕方、凝った演出。……趣深いではないか。3日間のジャングル生活より一丁の冷や奴の方がよっぽどためになるぞっっ!!! 1週間前のオレはダイエットのためにジャングル行きを決めやがったが、太ったままジャングルに行かない方が遥かにマシなんだよっっ!!!!! ヘイ! チキンカレープリーズ!!! オレはつい数日前と同じように、「ジャングルの王者ターちゃん」を読みながら超豪華大盛チキンカレーを上の口から下の口から流し込んだ。びみい(号泣)。前回より更に更に、もっともっと何倍もびみく感じる。なんてびみいんだっ(涙)! びみい物を見ると、菊正が欲しくなる。菊正を飲むと、またびみい物が食いたくなる。やあぱり〜オ〜レは〜あああ〜♪ おーいねえちゃん! 菊正持って来てくれ!! ←オヤジ化 クアラルンプールの夜は、またいろいろなことがあった。夜店で3年前と同じニセブランド時計を4本まとめて買ったら4本とも翌日に止まったり、日本人と韓国人が主演だというエロDVDの3本セットを購入したら3本とも洋モノの粗悪品で、文句を言いに行ったら既に露店が撤去されていてショックで動けなくなったり、まさにジャングル以上の波瀾万丈危機一髪報復絶倒の展開であったがカリスマ旅行者の威厳にかかわるため詳しくは書かない。 そして〜〜オレはマレー鉄道に乗り〜〜♪ 北上してペナン島へ〜〜♪♪(浜崎あゆみ最新シングル『Mirrorcle World』のメロディに乗せて)(聞いたことないけど) 早朝に着いた駅からフェリーに乗って海を渡りペナン島へ。ここがマレーシアでの最後の滞在地である。 ここ数日の恨みを晴らすかのように、オレは楽しく観光をした。ビーチを歩き美味い(びみい)飯を食い、寺を見て搾りたてジュースを飲み、カラオケを歌って仕事のストレスを発散した。 うぉちにちぇんちあいふぉお〜〜、やちにやちんにあいてぃうぉ〜〜♪♪♪ その後ペナン島で最も高いコムタタワーというビルに上り、夜景を眺める。 この景色を見てオレが思うのは、一人旅の寂しさである。見知らぬ都会の夜景というのは、たった一人で旅をしている人間の心をギュッと締めつける何かがある。噛み締めさせるのだ。自分の知っていた祖国の暮らし、そして自分の知っている人たちはここからどんなに目を凝らしても見えない遠い異国にあるのだということを。 やはり一人旅をするなら、都会より自然の中がいい。寂しさを感じずに済むから。ほら、例えばあのジャングルの大自然、動物観察小屋で過ごした夜……。 一人旅をするなら、断然、都会の方がいい(すぐに考えを改めました)。宿に戻るか…… フンフンフ〜ン♪ フンフンフ〜ン♪ うぉちにちぇんちあいふぉお〜〜、やちにやちんにあいてぃうぉ〜〜♪ ガヨヨ〜〜ン! うおあ〜〜〜〜〜っっっっ(号泣)!!!! カラオケで覚えたペナン島の歌を口ずさみながら気分良くステップを踏んでいると、サンダルからむき出しの親指を、アスファルトから3cmほど飛び出ていた鉄の棒に勢い良くガヨヨ〜ンとぶつけた。そのまま地面にうずくまり長い間打ち震える私。 気力を振り絞り、ケンケンだけで2km先の宿に帰ると、オレはフロントで翌朝のマレーシア出国のバスを手配した。 ああっ、色が、色がおかしくなってる(涙)!!! 内出血かな。触ると痛そうな色だなあ。試しにちょっと触ってみよう。ちょんっ ぎえええ〜〜〜〜〜〜〜っっっっ(号泣)!!!! さらばマレーシア。この傷は、ジャングルの思い出と共にマレー半島に置いて行こう(それは無理だ)。 ほとんどのバックパッカーが目もくれない半島の国、新興国マレーシア。しかしオレはこの国の旅をきっと忘れない。だって、人生で1番怖い体験を2泊分もさせられたから(号泣)。もうジャングルは嫌だ。公園のジャングルジムすら見たくない。では出国。 今日の一冊は、「俺は絶対探偵に向いてない」続編 俺も女子高生も絶対探偵に向いてない |