〜楽しい密林2〜





 
お〜〜い!! お〜〜い!! お〜〜い!! お〜〜い!! お〜〜い!!


 
誰か〜〜!! 誰か〜〜!! 誰か〜〜!! 誰か〜〜!! 誰か〜〜!!



 …………。


 見渡す限り360度、全てどこもかしこも皆オール満遍なくジャングル。その秘密の林つまり密林に向かって大声で呼びかけてみたが、反応は無い。いや、もしかしたらやぶ蚊などがやって来て「呼んだかい大黒様? ワオ! 食事の時間だね! 見るからに栄養価満点、でっぷりと肥えて美味そうな肉の塊! いただきまーす。チューチュー」とオレの血を吸っているかもしれないが、人間や目に見える大きさの動物の反応はとりあえず無い。

 え? 山に登ったわけでもなく、周りに木しかないのにお〜いお〜いとやまびこが聞こえるのはおかしいって??
 ……別に誰もやまびこが返って来たなんて言ってないだろう。今のは、
全部自分が出した声なんだよ。雰囲気を出すために自分で声をだんだん小さくしながら何度も叫んだんだよっ。

 ふざけていられるのはここまでである(そうさ、ふざけていたのさ)。360度ジャングルであるが、360度あまりにも暗い。たしか、まだ太陽は沈んでいなかったはずだ。見ろ、わずかに木々の隙間から見える空はそれなりに青いではないか。にもかかわらず辺り一帯の雰囲気はほとんど夜である。




 だいたい、マレーシアもマレーシアだ。こんなに早く暗くなることが分かっているんだから、
街灯くらい設置したらどうなんだよ! こんなんだからジャングルにはいつも鬱そうとかジメジメとかイジメとか、マイナスのイメージしかないんだよっっ!! もっと自分から変わろうと努力しろよっ!!! こんなに暗かったら、密猟者の皆さんも密猟がやり辛くてしょうがないだろうがっ!!!
 違う、密猟はできなくていいんだよ。ただ、ターザンやターちゃんが密猟者を見つけるのにこの暗さでは不便じゃないか。

 ともかく、はっきり言って、かろうじて光が差し込んでいるうちにブンブンヨン(動物観察小屋)までたどり着かなければ
とても不味いことになりそうだ。川が近いため進路を見失ってもひと晩じっとしていれば遭難は免れるだろうが、そのひと晩の間無事でいられるとは限らない。アナコンダ的な恐ろしいものがきっと……
 叫んでもダメだ。多分、今、半径数km以内に人間はオレ一人だけだ。ともかく、急ごう。今は冷静にじっとジャングルを怖がっている場合ではない。

 泥の斜面を上り切ったところから、木々の間にわずかに草木がなくなり土が見えているおそらく道だろうと思われる部分があり、それが先まで伸びている。とりあえず前後左右荷物に囲まれた重装備で、日没との戦いに勝つためにオレは超特急で足を進めた。まさに、足とはこういう時のためにあるものだ。今頑張ってもらわなきゃ困るぞおまえ。
このために普段短い距離でも歩かずにバスやタクシーを使うなど、散々甘やかして来たんだから。これまで楽させて来た分、今は働けコラ足っっ!!

 つーか、水が重い……。
 もはや全身はとっくに汗でグッチグチャ。密林の狂気・蚊の大群が早速汗に反応し四方八方から全員集合、顔の周り、体の周りを
オレを中心にした簡単な竜巻のように黒い団体の周回軌道が作られている。しかし、今は構っていられない。蚊を1匹殺している間にも確実に地球は自転し、つまり一定の寸法で確実に太陽は沈んで行く。空が完全に暗くなったら、この密林は闇というよりも無の世界と化すであろう。そしたらオレは恐怖で泣きじゃくりながらあらゆる虫に刺され、ジャングルに転がる腫れぼったい肉の塊と化した後で大蛇に飲み込まれるであろう。

 足元に積もる枯葉を蹴散らしながらザッザッと激しく進むと、小屋ではなく、巨大な倒木があった。直径1メートルはあろうかという大木が、横倒しになってほとんどヤラセのように見事に道を(道と言えるような道でもないが)塞いでいる。てめ〜〜、通れないだろうがよ……。通り道に倒れるんなら、
せめて上りやすいように階段とかつけろやっ!! 少しはスイスファミリー・ツリーハウスを見習えよっっ!!!! このウドの大木がっ!!!
 しかし、ともかくオレはもう引き返せないのだ。仕方なく胸の高さほどまである倒木の向こうにまず手持ちの荷物を放り投げ、そして自分はバックパックを背負ったまま、慎重によじ登る。やっとのことで反対側に飛び降りると、当然のことながら20kgのバックパックに押しつぶされてベチョッと倒れた(涙)。
 だがオレが飛び降りた瞬間でさえ地球は回り……
 急ごう。こんなところで潰れている時間はない。

 再び進み始めたはいいが、汗が額から頬を伝って1滴地面に落ちるたびにどんどんどんどん辺りは闇に包まれて来る。……なあ、小屋は船着場のすぐ近くにあるんじゃなかったっけ?? もしかして、オレ途中で道を見失ってないだろうな?? 
今オレの下にあるのは道だよな? この道は、ずっと1本道だったよな?? こんなに焦らずに、もうちょっと、分岐している部分がないかどうか慎重に見てくればよかった……どうしよう……。
 でも暗い。もう戻って確認はしてられへん。ペンギン村のように喋る太陽だったら「すいません、ちょっと道を間違えたかもしれないんでいったん戻りたいんですけど、
その間沈むの待ってもらっててもいいですか? これでコーヒーでも飲んでて下さいよ」と10リンギットくらい渡して交渉するのだが、マレーシアの太陽は日本と違って喋らない。その上ジャングルをきっちり照らす技術もないし……。こういうところは、まだまだマレーシアと日本の文明レベルの違いを感じてしまう。日本製の高性能の太陽だったら、このくらいのジャングル、うまくクイっクイっと光線を屈折させて完璧に明るくできるだろうに。

 いったい何分くらい歩いてるのか、時計を見ている余裕はなかったのでわからない。すると目の前に登場したのは、小屋ではなく今度は
本格的な分岐、森の中のY字路であった。
 ……いや、大丈夫だ。慌てることはない。ロールプレイングゲームと違って、現実の世界ではこういう分かれ道には必ず標識があるはずだ。完全なる未開発のジャングルでもなし、一応ここは小道があり小屋も作られている地域なのである。どこだ。標識はどこだっ?? を、あった! 
 予想通り、「Bumbun Yong」(ブンブンヨン)と書かれた矢印型の標識が、通路脇の
茂みの中に倒れて完全にあらぬ方向を指し示していた。
 …………。もうそろそろ、本格的な夜の到来である。東京では、
大人たちがネオンきらめく夜の街に繰り出す時間帯だ。仲間たち、そして異性との駆け引きに夢中で、マレーシアでオレという作者がジャングルの中で一人恐怖に脅えていることなど一切気付かない大人たちが。

 
ふざけんなテメーーっっ!!! 標識の管理をもっと徹底しろよっっっ!!! なんで分かれ道にある道案内の標識が道以外の空間を指してるんだよっっ!! 今までの人生で出会った何万本という標識の中で最も重要な1本だぞこれはっっ(涙)!!! それとも何か? この標識はアナコンダがわざと倒したのかっ!!! この分岐は、片方はブンブンヨンに、片方はアナコンダの罠の中につながっているのかっっ!!!!

 よーく考えてみよう。ヨーグルトのヨークを食べながらヨーク考えてみよう。このY字路、左側の道は今進んで来た方向からわりかしそのままに近い、まっすぐである。それに対してもう一方は右側、川から離れてジャングルの内側に向かって伸びている。オレが見た地図では、ブンブンヨンは比較的川沿い近くにあったはず……。
 直進だぁ!! 大魚は支流に泳がず。オレは大魚。
こうなったら見せてやろう、男塾名物・直進行軍じゃ〜〜〜〜〜〜っっ!!!!!!


















 あった。



 …………。


 よ、よかった、
よかったけど、不気味だな……。

 ブンブンヨンは小屋という割にはそれなりにこぎれいな外見をしているが、何しろひと気がない。宿泊できる小屋と説明されている限り、物好きな他の旅行者が同じく宿泊しているのではないかと少し期待していたのだが、まったく明かりのついてないところをみるとどうやら本格的にオレ一人……。いくらずっと独りぼっちで生きて来たオレといえど(号泣)、ジャングルで一人はちょっと慣れてない……。

 おそらく動物から距離をとるためだろう、本来動物観察小屋であるブンブンヨンは高床式になっている。階段を上り、オレは不気味な小屋のドアを、開けようとするとなぜかドアノブの部分が壊れて穴が開いている。いや、壊れているというよりドアノブを最初からつけなかったのだろう。ここは本来ジャングルトレッキングの途中で立ち寄るだけの観察小屋、ドアがきっちり閉まる必要などないのだ。
 何も引っかかりがなくフワフワしている扉をちょっと押すと、音も無く開いたその向こうからはさらなる闇が姿を現した。
 見えん。
何も見えん。動物とか、悪い奴とか待ち伏せてないだろうな……(泣)。とりあえず、電気、電気をっ!
 オレは壁際の電気のスイッチを、手探りで探したが見つからない。いや、見つからないというより……、
そもそも電気などないのだ。おおいっっ!!! 電気ないのかっっ(涙)!!! ……そりゃあもっともだ。この小屋のためにわざわざ何kmも電線引っ張ってこないよな……。

 さすがに何の準備もなくここに来るほどオレもアホではないので、むしろ天才なので、懐中電灯は用意してある。オレは腹に背負った(腹負った)リュックから電気を取り出すと、部屋の中を照らした。
 暗闇の中で懐中電灯の丸い明りに照らされたのは、古ぼけた木製の2段ベッドの列。シーツもマットもなく、むき出しの板張りである。真っ暗な中に薄茶色い板張りのベッドだけが6列も並び、ライトの明かりと闇のちょうど中間点にある木の枠組みは人影にも見え、照らされたベットの向こう側、ベッドの下、ただの黒の中に何かいるのではないか、そんなことを、勇敢なオレはぜ〜んぜん思わねーんだよっっっ(号泣)!!! 

 
なんだありゃ〜〜〜〜っっ!!!!!

 順番にベッドを照らし、入り口から対面の壁に懐中電灯の光を向けると、そこには何があったというより、なんとビックリ
壁がない。光の向こうに、なぜか外のジャングルが浮かび上がっているのである。最初は窓が開いているだけかと思ったが窓にしては空間があまりにも広く、近づいてみると正面の壁が半分くらいなくなっており、そのままむき出しの外のベランダに続いているのだ。
 そうだ。ここはそもそも動物を観察するための小屋。誰でもお手軽に(時には大人数でも)ジャングルを行く動物を見物できるよう、常時オープンな状態なのである。……でも、動物の観察には便利だろうけど、
宿泊する人間のことを考えてないじゃん!! いつでもいくらでも虫も鳥もそのほか高床式の柱を登れる生物なら小屋の中に入り放題じゃんっっ!!! で、同じようになんで入り口のドアに鍵がついてないのっっ! 鍵どころかドアノブとかフック的なひっかかるところも何もないんだぞっっ!! チワワ程度のものが階段を上がってそのままちょっとドアに触れただけでギィっと開いちまうだろうがっっ!!!

 オレはとりあえずいったん深呼吸して重い荷物を置くと、木製の硬いベッドのひとつに腰をおろした。……どうやらこの小屋には、@鍵がない(号泣)。A電気がない(号泣)。そして、
B壁がない(号泣)。
 小屋に入ってまだ3分だというのに、既に
宿泊施設として絶対に必要なものが3つも無いのに気づき、3回も号泣している。普通の宿ならベッドのシーツやマットレスがないということで十分号泣するはずだが、もはやそれが「無いものリスト」に瞬間的には挙がってこないくらいあまりにも他のものが致命的すぎる。
 鍵と、そして壁がないとなると……、
危険じゃないか?? ここには獣が来ようと、山賊が来ようと、精一杯絶叫して助けを呼んだところで誰の耳にも届かない。
 …………。
 
武器だっ! 武器の用意だ!!

 まずオレはバックパックから果物ナイフを取り出し、すぐ手が届く、木製のベッドの頭の部分に置いた。しかしこんな短いナイフはマレー虎のパンチやアナコンダの牙や山賊の刀に対抗するにはリーチが足りないので、続いて堅そうな木の枝を集めることにした。
 早速オレは小屋を出るとすぐ前の密林に立ち入り、ちょうど良いことにすぐ適当な棍棒が落ちていたため、それを拾って装備することにした。武器や防具は、持っているだけじゃ意味がないんだ。ちゃんと装備しなきゃな! って
よく言われましたよRPGの最初の町の住人に。

 
ああああぎょあえ〜〜〜〜〜っっっっっ(号泣)!!!!!

 
 
い、痛い!! いだいいっっ(涙)!!!

 地面に落ちる棍棒を拾った瞬間、なぜかオレの
手の平に走る激痛。オレは叫び声をあげて木の枝を取り落とした。なんだっっ。なにが出たっっっ!?

 枝のあった地面をよく目をこらして見てみると、そこには一見アリのような形、しかしアリにしてはもんのすごく巨大で、しかも頭の先によく手入れされた豪華なハサミをつけた謎の密林昆虫が、通り魔のような狂暴そうな目でオレにガンをつけていた。














 こいつに挟まれたのか……。巨大なハサミを出し惜しみせずに全力でオレをちょんぎろうとしやがったなテメエ……。おい、
人間様に手を上げたらどうなるかわかってるだろうなコラッ!! この地域一帯は、今日と明日は金を払っているオレのものなんだよっっ!!! 地主に逆らう奴は、命をもってその罪を償ってもらおうかこの虫ケラっっ!!!!

 
あああぎゃえ〜〜〜〜〜っっっっっっ(号泣)!!!!!!

 罪深き反逆者(虫ケラ)を踏み潰すため勢い良く片足を上げたところでオレは「アレっ、オレの足に何かくっついてるぞ?」と気づき、そのまま空中で確認してみると、半ズボンから飛び出た地肌のふくらはぎに
ナメクジがピッタリとくっついていた(涙)。
 
いや〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!!! 助けてっっ!! 気持ち悪いっ(号泣)!! 取って!! 誰か取って(涙)!!! でも誰もいない(泣)!! でも自分で取ろうにも、気持ち悪くて触れないからどうしたらいいかわからない(号泣)!!! いや〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!



「チューチュー。チューチュー。」



 …………。
 
なんなのっ!! なんでナメクジがチューチュー言ってるのっ!? ナメクジは普通チューチュー言わないでしょっ!! 何の音なのよそれはっっ!!!

 ……血っ! 
血を吸ってる(涙)!!! ナメクジじゃない!! これ、蛭ですっっ(号泣)!!! ヒルっっ!! もう夜なのにヒルっ(涙)!! 取って!! 誰か取って(号泣)!!! いやあああ〜〜〜〜〜〜〜(涙)(涙)(涙)

 完全なるパニック状態になりながら(情けな〜〜)オレは、しかしかろうじてポケットから買ったばかりの軍手を取り出して、しかし絶大なる勇気を持つ男の中の男のオレは必死でふくらはぎをはたき蛭をたたき落とした。

 
あああぎゃえ〜〜〜〜〜っっっっっっ(号泣)!!!!!!

 気付くと今度は
逆の足の靴に別の蛭がくっつき、その気持ち悪い物体は美味しいふくらはぎ目指してクネクネクネクネと気持ち悪い尺取り虫の動きで、徐々に気持ち悪く気持ち悪く這い上がっていた。見た目はナメクジでも、進む動作が全然違いますね。気持ち悪う〜〜〜〜(涙)!!! えいやあっ、えいや〜〜っっ!!!! ←やはり軍手で叩き落としている

 
もういやだ〜〜っっ(涙)!! やっぱり小屋に泊まるのいやだ〜〜〜っっっ(号泣)!!! もう帰して〜〜〜〜〜〜(号泣)(号泣)!!





今日のおすすめ本は、

まる子だった (集英社文庫)




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