〜ルクソールの憂鬱〜





 アスワンでの生活は、
栄耀栄華の限りを極めた。西にジュース屋があると聞けば飛んで行ってバナナジュースイチゴジュースを飲み干し、東にポテトチップを見つけたらいろんな味を買い込み、それどころか毎日パンツも変えれば髪も洗うという、3000年前のファラオ達と比べてもなんら遜色の無い豪華な暮らしを送っていた。いや、もしくはそれ以上かもしれない。なにしろ紀元前では、ファラオといえどお腹が空いてもスニッカーズは食べられなかったに違いない。これはまさに現代に生きる人間のアドバンテージである。今のオレのファラオ的な雰囲気なら、ビヨンセも思わず歌いながら求婚してくるだろう。
 そんな王家な数日間を過ごした後、オレは北上しルクソールへ向かうことにした。

 ……おおっ。待ってくれ。今までのオレの旅行記で、数日間過ごした町の出来事を「数日間を過ごした後、」などとあっさり終わらせることがあっただろうか?? どんな細かいトラブルでさえ
ザラメから綿菓子を作るかのごとく膨らまし、キャーキャーと30代後半のオカマのように騒がしく旅行記に書くオレが、数日の出来事をただ「数日間を過ごした後」だけであっさり済ませるなんて。これはご乱心である。
 しかしこのことからも、
どれだけオレがこの数日を普通に楽しく過ごしていたかがよくわかるだろう。楽しい思い出は、僕の胸の中にあればそれでいいんだい!

 ルクソールへは、長距離バスでほんの3時間半ほどだという。近年この大陸では見たことが無い普通の観光バスに乗り、乗客が5,6人しか乗っていないのに、
「1時半に出る」と言われて本当に1時半に発車した。
 ……あんた、もしかして
ウソがつけない体質?? もしくは正直村出身とか? バスが、バスが満員になってないのに、しかも時間通り発車してくれるなんて、なんという幸せなことなんじゃ〜〜(号泣)。
 こんなこと、ザンビアやマラウィ、
ンゴロンゴロやンカタベイでは絶対にあり得ない。アフリカ諸国では、席が全て埋まるかもしくは席が埋まって通路にも人間が入り込み、これ以上客を入れたら酸素不足で乗客全員意識を失うおそれがあるくらいにならないと絶対に発車してくれなかったのに。朝の8時出発だと言われてバスに乗ったのに、客が集まらなくて結局4時間も停車中のバスの中で待たされるなんてこともあったのに(号泣)。
 オレは感動しつつ、持参していたミネラルウォーターを一気に飲んだ。


 
ブフォーーーーーーーーーーー(噴いた)


 
腐ってる!! 完全に腐ってる!!!
 な、なんじゃこりゃ……。この世のものとは思えない腐臭だ……。
水のミイラか??(エジプトだけに)
 はっ!! そうだ。しばらくバナナジュースやイチゴジュースばっか飲んでて水のことを忘れてたが、この水そういえばワディハルファの前の
ハルツームからちびちび飲んでるやつだった。そりゃ腐るわ……。多分この水をかけたら、アートフラワーでも翌日には枯れ果ててしまうことだろう。
 はっ。
 い、いかん、自分の胃腸を警護するため躊躇せずブフォーとやってしまったので、バスの座席と床が水びだしだ……。オレの服にもかかっており、ふと気付くと
オレからも腐臭が。ち、違うんだ。オレから腐臭がするのはオレが腐っているからではなく、あくまでも腐った水を浴びただけのことなんだ。オレが汚いんじゃなくて、ただ辺りに腐った水を撒き散らしただけなんだ!! ほら、全然汚くないだろう!?
 オレは、常時携帯しているトイレットペーパーで必死に服とバスを掃除した。さすがにこれは拭かなきゃならんだろう。だって元々キレイなバスなんだもん。こういう時、アフリカ諸国のバスだったら
腐臭も含めてバスみたいな感じだから気にしないでいいのに。……おっと、アフリカ諸国よ、すまん。

 ところで、ルクソールは以前の名をテーベと言い、古代エジプトの首都であったがために遺跡などの観光場所には事欠かない。といってもルクソール神殿にカルナック神殿、ハトホル神殿あの神殿この神殿と毎日神殿ばかり見ていると、リポビタンDとアリナミンVを比べるようなもんで、イマイチ違いがわからんという状態になってくる。だがそれでも細かく見ると、例えばハトホル神殿などは交通が困難でなかなか訪れる人もいないため、2000年前の建造物にも関わらず、いやあんたこれ昨日彫ったんでしょ? まったく、冗談ばっかしー。ツッコミたくなるくらいリアルなレリーフが、普通に誰でも触れる状態で残っている。こんなことでいいのか。


 しかしせっかく触れる状態なので、オレもちょこっとレリーフを
さすってみる。
 この神殿はクレオパトラの時代に造られたものであり、外壁には実際にクレオパトラの姿が彫られている。ということはだ、クレオパトラ本人とか、クレオパトラに触ったことがある人が2000年前にこの壁に触れていたかもしれず、そうするとオレがこの神殿に触っているということは、間接的に、もしくは
間接の間接の間接の間接くらいで本物のクレオパトラを触っているということにならないだろうか?? うん、たしかに、なんだかこのレリーフからクレオパトラの残留思念を感じます。
 しかもオレはちょっといやらしい感じで触っているので、これはつまり
時空を越えてクレオパトラにセクハラをしているということになるのではないか。こ、これは興奮する。なにしろ、、すごい美人だったそうじゃないですか〜、世界3大美女なんて言われて〜ぐへへ〜〜。ああもったいない……彼女も今の時代に生まれていれば、リア・ディゾンかクレオパトラかでグラビア界を2分していたに違いないのに。そうなったらオレもクレオパトラの画像集めまくっただろうな……。

 さて、そんなルクソールには神殿の類と別に、ナイル川を挟んでもう1つすごいのがある。上のリアディゾンの流れで、おそらくすごいのと聞いてHカップの美女とかモザイクなしとかを想像していると思うが、まったく、そんな不謹慎な考えはやめてもらいたいものだ。いつもいつもそんなスケベなことばかり考えて、将来は学者か政治家かと期待を込めて一生懸命育ててくれた、ご両親に申し訳ないと思わないのかい??
 当然オレのいう「すごいの」とは、あくまで古代遺跡としての大物ということだ。そしてその大物とは、古代エジプトのファラオ達が眠っていたという、
王家の谷である。眠っていたといってもペンション的なものではなくて、墓という意味だ。

 オレは朝からレンタサイクルでナイル川を渡り、何十台もの観光バスに抜かれながらひたすら坂道を上りまくって、あと1分漕いで着かなかったら
諦めて帰ろうと決断した頃、ようやく谷の入り口にたどり着いた。周りはいくつかの岩山に囲まれている。ここで歴代のファラオ達が、ミイラとなって何千年という長い期間眠り続けていたのである。いかにも呪われそうな場所だ……。感じます。何かを感じます。
 王家の谷といえば、男の中の男のみんなにはわかってもらえると思うが、王家の谷の守護者達が墓を荒らす人間にその罪を死をもって償わせようと待ち構えている、まさにその場所である。これは注意せねばならない。ここでセクハラでもしようものなら、すぐに呪いをかけられ
壁画に封じ込められ、壁の絵として今後永久に過ごすことになるかもしれない。
 オレは早速墓に入ることにした。もちろん墓に入ることにしたといっても死のうとしているわけではない。王家の墓だけあって、中はかなり広く作られているため自由に入って見学が出来るのである。少なくともオレはMOTHER3をクリアするまで死ぬわけにはいかない。


 墓の内部には、まだこのように色が残っている壁画が多数ある。
 おそらくこの絵の人物たちも
セクハラをしてここに閉じ込められたのだろうが、しかしやはり数千年も前に描かれたものにここまでリアルに残られると、なんだか背筋が寒くなる気がする。

 

 オレは壁画を写真に収めた。
 うーん、感じます。
何かを感じます。何か恐ろしい気が近づいてきている予感がします。



「ヘイッ!! ヘイユー!! カモン!!!!」



「ぎゃー!!」



 突然王家の谷の守護者、墓の管理人のエジプト人が
すごい形相で怒鳴りながらオレに向かってきた。なんだかわからないが、すごい怖かったのでオレは逃げた。墓の中をぐるぐる回って逃げた。すると逃げる先で見事に待ち伏せされていてつかまった。
 こ、こわいよー。何を、何をしようと言うんですか!!! キャーーーーー!!



「オイ、オマエッ!!!」



「助けて〜」


「誰が墓の中で写真を撮っていいと言った!!! この不届きなやからめ!!! そのカメラをこっちに渡すんだ!」


「ああすいません〜〜知らなかったんです〜〜もうしませんから許してください〜〜(号泣)」


「しーっ!! 静かにしろ」


「あなたおもいっきり怒鳴ってたじゃないですか今……」


「そこでだ。まあカメラを没収した上でおまえをこのままアヌビスに奉げる生贄にしてもいいんだがな。おまえはまだ若い。ポリスに引き渡すのもかわいそうだし……」


「はい。かわいそうです。勘弁してください」


「でも決まりは決まりなんだよな」


「そんな。かわいそうだと言ったじゃないですか」


「まあ、もしだよ、もしカメラ券的なものをおまえが俺から買うというなら、それならそれでいいと言えないことも無いんだな……カメラ券というかだな、券そのものは無いが俺の気持ちの中の券というか……」


「……」


「まあつまり、気持ちの問題なんだよ。わからんかなあ、精神的なチケットの購入、みたいな」


「はい、では守護者さま、ここに魔法の紙があります。これはですね、一見ただの長細い紙ではありますが、これを商店などで店員に渡すと、なんと驚くべきことに、代わりに水や食料をもらうことができるのです。これでいかがでしょう?」


「うっふっふ。おぬしもワルよの〜〜」


「いえいえ、守護者さまほどでは……」


「しょうがないなあ、ではワシは何も見なかった。カメラなど見なかったぞ」


「いやー、どうもすみません」



 ということで、なんとかオレは5ポンドの賄賂を守護者のおっさんに払って禁固刑を免れることができた。いや〜、正義の使者を名乗るこの私が
お恥ずかしい。でもなんか墓の中ということもあってとっても怖かったし。背に腹は代えられんということで。多分おっさんは、この墓の主であるラムセス4世の怒りを買って、呪いで痛風になったりするだろう。

 さてここ王家の谷には、アブシンベル神殿やルクソール神殿を建てた、全日本プロレスでいえばジャンボ鶴田のような
最強のファラオと呼ばれるラムセス2世やその父親セティ1世、美少女戦士ポワトリンの後番組として有名なトトメス3世の墓、その他合計で63もの墳墓が集まっているのだが、その中で唯一盗掘を免れたために20世紀初頭に大量の金銀財宝が発掘され、しかし発掘に関わった者たちが次々と謎の死を遂げたという墓がひとつある。
 それは、この王家の谷で最も有名な墓である。

 墓ナンバー62番。TOMB OF TUT ANKH AMON、すなわち「TUT ANKH AMONの墓」である。そのまま読んでしまうと「トゥット アンク アモン」とかなってなんのことかわからないが、よーく冷静になってみると、なんとなくあいつの墓なんじゃないかとひとつ浮かんでくるかもしれない。

 はい、ではわかった方はこっそり作者に耳打ちしてください。正解した方から順番に、超高級、A5等級の松坂牛のステーキを召し上がっていただきます!! はい、どんどん来てくださいよ! ……はい、今田さん正解!! ウエンツも正解! はいはいわかったらすぐ来てよ〜……うん、なに? 
宮本亜門ってなんだよ!!!! アモンしかあってないだろうが!!! はい大沢あかねは席に戻って!!!










 ということで、それはわずか9歳で王位に就き、17歳で命を落としたという少年王
ツタンカーメンの墓である。
 まあなんというか、
こういうちゃんとした観光が出来ていることにまずは涙したいと思う(号泣)。ここはジンバブエでもエチオピアでもなくて……
 おっと、いかん、
話の腰を折ってしまった。
 ツタンカーメンはあまりにもその死が早すぎたため他の王のように大規模な墓が造れず、内部にはごく狭い部屋が4つあるだけなのだが(それでも4つ)、そこには空間を埋め尽くすように、現在の価値に換算すると
200兆円を超える副葬品が置かれていたという。
 ……あんた、
200兆円だよ。200円じゃないよ。200兆だよ。どんな数字なんだいったい。その100万分の1でも2億円だ。オレの旅の資金、飛行機代も入れて合計でだいたい100万円だが、買いたいものも買えず、美味いものも食べられずに1年間必死にがんばって貯めた大金であるこの旅行資金は、発見されたツタンカーメンの財宝の2億分の1である。この財宝分くらいオレが貯金するとしたら、2億年間働き続けなければならない。それをこいつは17歳で……。うう……(悔し涙)。

 ツタンカーメンが生きた時代はラムセス2世よりも少し前であり、この墓が出来たのも今から大体3300年前である。それなのに、棺の納まっている玄室の壁にはカラフルな絵がほぼ完全な状態で残っているのだ。紀元前1300年なんて、キリストも釈迦もマホメットもいない
神話の時代である。そんな時代の人間が、生意気にも色つきで人間の絵を描いたりしているのだ。3300年前の人のくせに、明らかにオレより絵が上手い。なんという恐ろしいことだろうか。この墓を発見、発掘した考古学者カーターは、まさに神の領域に足を踏み入れたのである。
 玄室の華やかな絵のすぐ下にはツタンカーメンの棺が横たわっているのだが、手前の柵から、その棺の中に黄金の仮面があるのが見える。そしてその仮面の下には、いまだにその棺の中に、ツタンカーメンのミイラが眠っているというのである。今は西暦2000年だというのに、紀元前1340年頃の人物であるツタンカーメンが目の前2mのところに実際にいるのだ。
 この時空の越え方にはなんともおののくばかり。
エスパー魔美に触ってもらえば当時彼が何を考えていたかまでわかってしまうではないか。まさか彼自身も、紀元後2000年にもなって自分が世界でも有数の観光名所になるとは予想だにしていなかったことだろう。

 全然関係ないが、紀元前1300年に生きていた人は、年賀状に「あけましておめでとう!! 今年もよろしくね♪ 
紀元前1322年 元旦」などとは書いていなかったと思う。そもそも自分たちが生きている時代がまさか紀元より前だとは思いもせず、彼らは彼らでちゃんと順番に数を重ねていく年の数え方をしていたのではないか。それを後からわかり辛いカウントダウン方式にされてしまって、かなり不本意ではないかと思う。

 しかし、たとえエスパー魔美は気味悪がって来てくれなかったとしても、せめて日本から
イタコにこの王家の谷に来てもらって、ぜひ代々の王を降霊させて話を聞きたいところだ。ファラオ達に聞けば、ツタンカーメンの死因やピラミッドの建造目的など数多くの謎が解明できそうではないか。とはいえ、イタコに憑依させてもなぜかファラオなのに東北なまりの日本語で話し出すだろうから、ちーとも信用されないとは思うが。
 さらにどうでもいい話であるが、ツタンカーメンの説明文に「彼が即位したのは、まだ年端のゆかない少年の時だった」と書かれていたのだが、それをオレは「年端の
ゆかいな少年」と読んでしまい、王になったばかりのツタンカーメンは、セミの真似とかプリングルスを20枚まとめて口の中に入れるとかそんなゆかいなことばかりしていたのか? それはゆかいではなくて、アホなのでは?? と一瞬考え込んでしまった。

 それにしても、この小さなツタンカーメンの墓だけで200兆円もの価値の副葬品が出土したのだから、盗掘で空になっている他の王の墓には一体どれほどのものが備えられていたのかと考えると、ああ、オレの先祖がルクソールの盗賊だったら今頃一生遊んで暮らせる財産があっただろうに……とただただ虚しくなるのであった。
 失われたファラオたちの財宝は、今地球のどのへんに、誰のところに眠っているのだろうか。
もしこれを読んでいる人で持っている人がいたら、こっそり見せてください。





今日の一冊は、

敗因と




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