〜電車でGO! スーダン編3〜





 それにしても何も無い。いくら砂漠だからって、
砂漠にも程がある。ヌビア砂漠なのはわかるが、少しは節度というものをわきまえてもらいたい。
 オレは昼食後もう3時間ほど景色を眺め続けているのだが、一向に砂漠から脱出する気配が無い。こっちは
金払って乗っている客なのである。その客に対して延々と代わり映えの無い、色さえ塗られていないつまらない景色を見せ続けるとは何事か。いくらスーダンとはいえ、よもやあの有名な三波春夫の言葉を忘れているわけではなかろう。そう、客であるオレは、神様なのだ。つまりあんたらの信奉しているアラーの神とオレは同じレベルなのである。もしアラーの神がこの電車に乗っていたらどうする? 何時間もつまらない景色ばっかり見せておくのか? 違うだろう。普通は国王とか首相が美女とか貢ぎ物を持って挨拶に行くだろうがよ。だったら、当然オレにだってそう接しろよ。同じ神じゃねーか!! それなのにアラーには美女でオレには砂漠かよ!! せめて、時々蜃気楼に菅野美穂や藤田朋子のヘアヌードを映写するとか、アラジンを乗せて魔法のじゅうたんを飛ばして見せるとか、客商売というものを少しは考えて欲しいものだ。

 腹痛でイライラしていたこともあって、オレは砂漠の景色に対し
女性セブンなみにひたすら悪口ばかり言っていた。すると、説教が効いたのか効かなかったのか知らないが(効くわけねーだろ)、ひたすら砂漠のその砂漠の中に、一瞬ポツンとみすぼらしい町が登場した。町というか、レンガなのか石なのか砂なのかわからない材料で出来た、背の低い家が並ぶ集落といったところである。パッと見砂漠に打ち捨てられた廃墟である。おそらくこの集落では、ゆきのふの家の裏の木を調べたらロトのよろいが見つかるはずだ。それくらいうらぶれている。しかし驚くのは、廃墟のそこかしこにポツンポツンと人影が見えるところだ。あくまの騎士ではない。明らかに人なのだ。
 え? ゆきのふとかあくまの騎士とかなんのことかわからない? いいんだよわかんなくたって。どうせ自己満足の旅行記なんだから。
 それにしても、何時間も電車で移動している間ずっと砂漠しかなかったのに、この人たちは砂の中いったいどこから来てどうやって生活しているのだろうか。水も食料も、もちろん
山海の珍味もプレイステーション2も無いであろうに。あったとしてもプレステなどというハイテク品ではなく、せいぜい3DO REALくらいだろう。
 どうでもいいが、オレは学生時代プレステとセガサターンと3DOのどれを買おうかひたすら悩んだ挙句、
清水の舞台から飛び降りるつもりで3DOを購入するという大冒険を犯し、結果見事に5万円を失うことになった(号泣)。見事に清水の舞台から飛び降り自殺をしてしまったことになる。3DO
 ともかく、こんな砂の中で普通に生きている彼らは人というよりサボテンに近い存在なのかもしれない。たしかに、目つきも
妙にとげとげしい気がする。しかし本当に人間というものは、本来異質な場所だとしても、そこで生まれてしまえばそれが普通の環境だと思って住めてしまうもんなのだ。砂漠に生まれれば砂漠に、ジャングルで生まれればジャングルに、きっと土星で生まれたとしても普通に土星に住んでしまうことだろう。

 集落を見ることが出来たのは通り過ぎるまでのほんの数十秒であり、その後はすぐにただのつまらない砂漠の景色に戻った。もちろんまた数時間、ひたすら同じ砂の風景。これだけつまらないと、円楽も「山田くん、
全部持って行きなさい」と冷たい目をして言い放つことだろう。
 もちろんセフィアンやじいさんたちルームメイトのスーダン人と話せば時間がつぶれるじゃん、つぶれるじゃんという世論の高まりは感じているのだが、よく考えて欲しい。
普通初対面のスーダン人とそんなに話すことなんてあるか?? 好きなゲームのジャンルとかよく読むテキストサイトとか、上戸彩のアテンションプリーズの話とかあいのりの話とか、どれもこれもま〜ったく通じやしない。無難に「出身はどちらですか?」程度でお茶を濁そうとしても、お互いに全く聞いた事の無い地名だろうから話が広がりようがない。「バハル・アルガザール出身です」とか言われても「ふーん」以外コメントのしようが無いだろうが!! そんなことで盛り上がれるわけないんだよ!! 冗談じゃない!!

 そんな中、じわじわと陽が沈みかける夕暮れ時に、いきなり電車が止まった。一応どこかの駅らしい。ここでふとオレは、
ものすごくいいことを思いついた。かつてニュートンが木から落ちるリンゴを見てひらめいた時のような、そのくらいの画期的な発想がオレの頭に浮かんだのである。その発想とは、何を隠そう、「日本人のいる2号車まで遊びに行く」というスペクタクルで一発逆転なものである。
 そうなんだ。週刊そーなんだ。2号車と8号車、その数は4倍とはいえたった数百メートルの距離なのである。マイケルジョンソンならほんの20秒で走れる距離だ。そんな近くに日本人旅行者が固まっているのに、どうしてオレ一人だけがはぐれたままがんばる理由があろうか??
 オレは、バックパックから虎の子のトランプを取り出し、ワクワクしながら前の車両へ前の車両へと突き進んだ。きっとオレがやって来たのに気付いたら、多神くんもマリさん(仮名)もウララカオルコンビも「わー! 作者さ〜ん!」と手を振って喜ぶはずだ。だって、飲み会などで誰かが遅れて登場したら、
別にどうでもいい人物だったとしても「わー! ○○さ〜ん!」と大げさに歓迎するというのは日本社会の美しい(そしてアホらしい)伝統ではないか。
 それに、ただの伝統だけでなく、オレは食中毒で倒れたあげく一人で別の車両に追いやられたというものすごくかわいそうな人なのだ。高校時代、オタクの同級生Sが卒業式で後輩の女の子に握手を求められて喜んでいたので、他の友人がその娘に「Sのこと好きなの?」と聞くと
「いえ、罰ゲームなんです」という答えが返ってきたという涙なくしては語れない(号泣)悲しい事件があったが、今のオレはその時のSと争えるくらいかわいそうである。だから同情票も普段以上に集められると期待している。
 まあそんな小ネタは置いといても、なにしろオレはこの密閉空間では
釈迦の説法よりありがたいと言われるトランプを持っているのだ。少なくともトランプは肥溜めに鶴のように喜ばれ、抱き合わせでオレも喜ばれるに違いない。

 オレは車内の通路を伝ってよろよろと歩き、ようやく2号車にたどり着いた。一応コンパートメントにはドアがついているのだが、ガラスの部分があるため刑務所の独房のように中が覗けるようになっている。しかし覗いて探すまでもなく、どう考えても
フィーリングカップル盛り上がり中という、スーダンとは思えない楽しそうな声が聞こえるボックスがある。オレは喜び勇んで、一緒に楽しむべく日本人ボックスを覗いた。





 
!!!!!






 
ト、トランプやってる……。

 み、みんなで楽しく騒ぎながらトランプで遊んでる……。
 そこにいたのは紛れもなくオレを裏切った4人の日本人たちだったのだが、楽しそうな笑い声はフィーリングカップルではなくフィーリングトランプによるものだったのだ。4人のうちの誰かがちゃんとトランプを用意してきており、それで彼らは
発車してからずっと、オレがスーダン人に囲まれて砂漠を見て頑張っている時に、退屈を知らずにカードゲームではしゃいでいたんだ……。

 ううう……
 ぐす……グスン……うう・゚・(PД`q)・゚


「あれー? 作者さんじゃない。どうしたの?」


「お、作者さん。何やってるんですか〜?」


「う、うん。ちょっと様子を見に来たんだ。みんな何やってるのかなあって思って……」


「そうですか。(無視して)ああ〜ちょっと待ってください!! Aの次でしょ? 出しますよ!!」


「え〜っ! 多神くんまだ2持ってたの〜!! もう勘弁してよ〜」


「……(号泣)」



 彼らは、楽しそうだった。そして、
オレの入る隙はなかった。なんといっても、ボックス席がいっぱいなのだ。ここには彼ら4人と、他に2人のスーダン人が乗っている。スーダン人は男女のカップルなのだが、ニコニコしながらトランプ大会を見ており、ここにはひとつのとても良い空気が出来上がっているのである。余計な食中毒人間を入れる隙間などないのだ。
 オレはボックス内には入れず、開いた
ドアのところでしばらくみんながトランプをやっているのを見ていた。時々彼らの会話に相槌を打ちながら。誰も相手にしてくれなかったけど。
 それでもオレは、トランプは出来ずとも相槌を打つことと、
笑いが起きた時に一緒に笑うというだけで数十分をそこで粘った。そして、どうしても仲間に入れてもらえなさそうだとわかった時に、ようやく自分の車両に戻ることにした。みんなのためにと持って来たトランプは、そのままポケットの中にしまって。

 オレの膝は号泣していた。

 電車は止まってからもう30分以上経っていると思うが、まだ一向に動き出す気配はなかった。オレは3号車4号車と、通路を伝って電車の後部へと歩いた。別にわざわざ数を数えながら行かないでも、自分の車両の客や、ましてやコンパートメントの様子や置いてある荷物などの風景はよく覚えているので心配は無い。しかし、ズンズンと歩いていたオレは、ふと気付くと見知らぬ車両にいることに気付いた。悲しい心境を反映してか、どうやら8号車を通り過ぎてしまったらしい。
 もちろんすぐに引き返して、8号車まで戻った。つもりだったが、気がつくとまた通り過ぎて7号車6号車まで行ってしまっていた。どうしたのだろうか。オレはノイローゼにでもなったのだろうか?



 ……。



 
8号車が無いっっっ!!!!!!!

 明らかに無い!!! 7号車の次が9号車になってる!!! 完全に消えとる!!!!

 
ぬおちゃーーーーーーー!!!!!

 いったいどんな状況なんだ? オレは今魔界への入り口にいるのだろうか?? 電車の車両がまるごと1両消えるって
そんなトワイライトゾーンな!! バミューダトライアングルな!!!! 乗客はどこ行った? セフィアンは?? というかちょっとちょっとオレの荷物はっ!! スーダン人は二の次だけどオレの荷物はどこにいったんだよ!!! タダのミステリーじゃ済まされんぞおいっ!!!!!



「お〜い作者!!」


「ムハマド〜! こっちだよ!」


「おおおおっ!!! マイルームメイトスーダン人たちっ!!!」



 窓の外から作者ムハマドと呼ばれ見てみると、セフィアンはじめ8号車の住人が全員ホームに出ており、荷物も全て取り出されていた。オレのバックパックもセフィアンたちが連れ出してくれたらしく、一緒にまとまっている。あ〜〜〜よかった!!! ありがとう〜〜(号泣)。
 詳細は全くわからないのだが、どうやら車両になんらかのトラブルが発生し、オレが日本人会を覗いているうちに
8号車だけどこかに連れて行かれたということである。……我ながら本当に笑える。なかなか狙ってもこれだけアホな出来事に巻き込まれるのは難しいぞ。すごいだろう。
 彼らと合流しお互いの生い立ちの話などしながら、いつになったらオレたちの車両は戻ってくるのかなー? と思って待っていたら、いきなり
プオ〜〜〜ッ発車の汽笛が。当然ホームで待機していた8号車の乗客が全員荷物を抱えて近くの車両に殺到し、凄惨な修羅場となる(号泣)。あのなー……。1車両分の客を全員取り残してそのまま発車しようとするって、この電車の車掌らの血は何色だ!? もしおまえの家族が8号車の乗客だったとしてもそのまま置いて行けるのかよ!!! いや、多分家族が乗っていたら車掌も置いてこうとはしないだろう。……それを言っても別にどうにもならん。

 そこからオレたちはどうなったかというと、しばらくの間
通路にたたずんで過ごすことになった。全員、座席指定のチケットを持っているのにもかかわらず。まあ、指定席なんだから席をよこせと強情を張っていたら、指定どおり本体と分離している8号車に入れられて砂漠に放置されるかもしれないので、席はなくとも動く電車の中にいられる方がいいといえばいいのだが、それにしてもこれはひどい。たしかに車掌からすれば、この長い列車のうちの1両くらいはサミュエル・L・ジャクソンのLと同じで別にあってもなくてもどっちでもいい存在なのかもしれないが、その車両に乗っている住人としてはサミュエルのLどころではなくちんすこうの「す」くらい重要なものなのだ。無かったら大変なことになる。
 で結局通路に荷物を抱えて立ち尽くすという大変なことに既になっているのだが、もう日も暮れていったいこのまま夜になったらどうするのか、お客様はアラーの神様ですという三波春夫の言葉を忘れた
そんな態度で次の運行を任されると思うのかこのアホ車掌が!! おまえの首を切ることくらい造作ないことなんだぞ!!! と天罰のようなものを下してやろうと思って車掌死ね死ねと念じていたところ、次の停車ポイントでまた外に出されたと思ったら今度はまたどこからか拾ってきた新しい車両がひとつ連結した。ウェルカムバック車両。そして、その新しい車両にオレたちはそのまま収納されることとなった。ようやく座席の復活である。ご苦労様です車掌。どうか死なないで元気に最後まで走ってください。私は、あなたを許しましょう。

 すっかり辺りは真っ暗になり、もともと砂漠だけのため明かりのひとつも見えない
トンネルの中のような黒い景色。そんな闇と砂漠の夜の寒さに震えながら、新しい指定席でいよいよ1日目も終了である。なんで日本人5人の中でオレだけがこんな目にあうんだ??






今日の一冊は、小中学生の頃に読みふけった星新一 きまぐれロボット





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