〜腹痛ム1〜





 上のタイトルは、「ふくつうむ」ではなく「はらつうむ」と読むのだ。それで、ハルツームとかけてるの!! 
ダジャレなの!!! あははっ!!
 電車が出る日はまだまだ先で切符すら発売しておらず、現在毎日4〜5杯のグレープフルーツジュースを飲む以外は暇をもてあましているのだが、タガミくんという幼い旅行初心者の話し相手がいるので説教をして時間を潰すことはできる。


「この国ってさあ、バス乗ってるとやたら降ろされるよねー。おかげでゲダレフからここまで7時間もかかったんだぜ? いやー、何度も警官にチェックされて辛かったなー。ほんっと苦労したぜ。オレは苦労してる男だぜ」


「そうですかー? 僕はバス乗ってないんでわかんないですけど。僕の場合自転車だったから、ゲダレフからここまで
野宿しながら5日かかりました」


「ふ〜ん。もうおまえ喋るなコラ。ねえ、ちょっと首絞めさせてよ。ちょっと殺させて。ちょっと、ちょっとタガミっ!!!」


「やめてくださいよっ!!! 大人気ない!!」


「もういいっ!! もう出かけてくる!! おまえと喋ってるとだんだん影が薄くなってくるんだよ!!」


「はーい。いってらっしゃーい」



 おおおのれこの未成年が……。少しくらい若いからってオレを馬鹿にしやがって……。いつまでも若くいられると思ってんじゃねーぞ!!! 若い若い思っていても、いつの間にか顔はシワシミのスクランブル交差点。ふと気付けば、安らぐところは家も会社もトイレだけ、それでも今の女房でよかったんだと心に言い聞かせ、冷めたみそ汁をすする今日この頃。
会社より、女房に出したい退職届。あの日のあのプロポーズ、あの日に帰って断りたい。ってなるぞ(全て盗作)!!
 いかん、こいつがいるとオレの積み上げてきたハードボイルドなものが全て崩れ去る。これはもう登場させない方がいいかもしれん。最初から彼は
登場しなかったことにして旅行記を書いていこうか。

 スーダンは砂漠の国であるので、首都といえども基本的に砂ばかりだ。とにかく砂埃が凄く、屋外に1時間ほどいると顔に砂が積もる。積もった砂を払ってみると、砂が落ちるというより
砂の中から顔が出てくるといった方がふさわしい、ハムナプトラ的な状況だ。これを読んで「さすがにそんなひどくはないだろう?」と疑問を持ったあなた。疑うのなら、ぜひハルツームに来て1時間街を歩いて欲しい。さすがにそんなひどくはないから。はい、ウソでした(涙)。
 しかし砂が多いというのは本当で、その上小さい竜巻みたいなのがそこら中で発生している。竜巻と言っても直系50cmとかそのくらいの渦で、竜巻というよりせいぜい
トカゲ巻のレベルだが、それでも巻き込まれてしまうと少しだけフワッと浮き上がるような感覚がある。方向が合っている時は、うまくこれに乗っていくと楽に動けるのだが、はい、それもまたウソでした(号泣)。
 ウソはいかんけれども、ただ外にしばらくいると、
試合終了後の浅尾美和ちゃんのように砂にまみれてくるのは本当で、美和ちゃんだからこそ砂まみれでも砂ごと愛せるくらいかわいいが、オレが砂まみれになったら同部屋の生意気なTくんに部屋から締め出される可能性もあるため、それを防ぐために、しばらく歩いたら必ずどこかの売店やネットカフェなどの屋内に避難する必要があるのだ。
 で今日オレは避難も兼ねて、公衆電話屋で実家へ生存報告の電話をかけたのだが、そこでオレの隣でどこかに電話をかけているスーダン人の子供(女)がいた。しかし、
ケニア人とタンザニア人を足して2で割ったような色黒の、どっから見てもスーダン果汁100%といった外見の女の子が、いきなり「もしもし、おばあちゃ〜ん?」日本語で喋り出した時には、オレは思いっきりコケて顔面を陥没しそうになった。


「ユミちゃ〜ん」


 彼女が電話を終えた時に丁度登場したのは、そのお母さんと思われる日本人女性であった。普段は女性に近づくだけで緊張して動けなくなるという
登場時のヤムチャと同じ欠点を持つオレだが、旅先で大胆になっているオレはお母さんといえども日本人女性を見過ごすわけにはいかない。よってすかさず「ヘイ彼女!」とナンパして話を聞いてみると、旦那さんがスーダン人で、日本在住なのだが今だけハルツームに帰省しているらしい。しかし、このお母さんは旦那さんの実家であるスーダンに対して激しく愚痴を言っていた。


「もう早く帰りたいの! だってここなんにも無いじゃない!!」


「なにを言う!! 早見優!! めちゃめちゃあるじゃないですか!!!」


「全然無いでしょ!! 不便でしょうがないわよ!!」


「ペットボトルも! サンドイッチもプリングルスも!! なんでも揃ってるじゃないですか!!!」


「ないない!!!!」


「あるある!!!!」



「ないないない!!!!」


「あるあるある!!!!」


 スーダンには物があるのか無いのか。同じ日本人なのに直前に自分がいた国によってこうも、
アメリカ横断ウルトラクイズの東京ドーム予選くらい意見が真っ二つに分かれるとは。よくよく考えてみれば、これしきのスーダンで物があるなんて言うのはお戯れでしかないのだが、エチオピアの次にスーダンに来た人間だけは真剣に発言しているのであった。首都ですらスーパーマーケットが1軒しかないエチオピアからいきなり日本に帰国したら、ショックで痙攣するだろう。
 スーダンユミちゃん&お母さんと別れ、少し歩いてジュース屋に避難しグレープフルーツジュースを飲み、また少し歩いてチーママにルームメイトの愚痴を聞いてもらいながらグレープフルーツジュースをちびちびとやり、そろそろ日も暮れてきたので宿に帰ると、前の屋台でサイコロステーキが売られていた。そんじょそこらのIT社長よりも早い即断即決で、夕食はこれに決定。いやー、このサイコロステーキの美味かったこと美味かったこと。砂の舞う屋外の屋台、お世辞にも清潔とは言えないが、あまりの美味さにオレはステーキも付け合せの葉っぱも平らげ、更に、
皿についていた肉汁とタレを全て舐めた。ペロペロと舐めた。見知らぬスーダン人が見ている前で屋台の皿を、一滴の汁も残さないように舐めた。

 さて……。
 ステーキの後のデザート代わりにまたグレジューをジョッキで飲み干し、宿へ帰るとレセプションでタガミくんがスーダン人と楽しそうに話していた。ほほう……。わかるわかる。旅の初心者は、何かというとすぐに現地人との触れ合いみたいなものを大事にしたがるのだ。しかし、壁際に隠れてジーっと見ていると、どうやらタガミくんが会話について行くのに苦労しているようだ。何度も聞きなおして、言い直して、なんとか会話が成立しているといった状況だ。
 まあ彼もまだ19歳だ、英語の勉強はこれから頑張ればいい。
そこは責めるところではない。ただここは、ベテランがちょっと助け舟を出してやるのがいいだろう。では、ここはひとつNHKの『100語でスタート!英会話』をスキットに出演する女優さん(上野あゆさん)見たさに毎日欠かさず録画していたオレが、ある意味通訳として、潤滑油の役割を果たすために加入してやることにしよう。
 ということで、潤滑油の役割という言葉を
潤滑油の実物を見たこともないのに使ってしまったが、おそらく使い方としてはあっているだろうから、ともかくオレはタガミくんとスーダン人の会話を円滑にしてやろうと通訳のつもりで輪に加わった。大丈夫、オレも旅のベテランだ、あからさまな通訳はしないでちゃんとキミを立ててやるから、安心したまえタガミくん。
 さて、早速スーダン人が話し始めたので聞いてみると、なるほど、彼の言うことは、
全くわからん。するとタガミくんがカタコトで喋り出したので、親心で心配しながら聞いてみると、ほほう、これまた全くわからん。しかし、何故か彼らの間では会話が成立している。うまく言葉のキャッチボールが行われているのである。なんだそれは? ヘタヘタ英語という新しいジャンルの英語か??


「あのー、宴もたけなわですがちょっとすみませんタガミさん。キミたち(素人)はどうしてそれで会話が成り立っているのですか?」


「あー作者さん。
いたんですか。いやー、難しいですねアラビア語は。僕まだスーダン入って2週間しか勉強してないから、ついて行くのがやっとですよ」


「アラビア語が喋れるのですか?」


「そんな、全然ですよ。ケニアとタンザニアには長くいたから、
スワヒリ語ならもっと普通に喋れてたんですけどね。アラビア語はついこの間勉強し始めたばっかなんでまだまだこんなもんです」



「ヘイタガミ!! アイウィルキルユー!!! キルユー!!! ユーアークレイジー!!! 今すぐDEATH!!!!



「なんですかちょっと! うるさいなあ。僕達和気あいあいと話しているんですから邪魔しないでくださいよ!」


「はい、ごめんなさい……」


 ……。
 後ほどわかったところによると、彼はアラビアスワヒリどころか英語もこのベテラン(オレ)より遥かに問題なくペラペラであった。
 ……。
 
だから少しは年上のルームメイトを立てろというんだよ!!! なんで全て持って行くんだ!!!!! このままじゃオレがおまえに勝ってるのは年齢だけなんだよ(号泣)!!!!!! あんたは勝ち組オレ負け組!!!!!! 日本政府はこの露骨な格差社会の是正に努めるべきである!!!!!

 この人はいったい何者なのだろう? 自転車で旅してるくらいまではまだ許せるが、ここまで来ると、もうやりすぎである。過ぎたるは及ばざるが如しという格言の通り、これだけやりすぎると
なんか凄くなく感じる。スワヒリ語とかアラビア語を喋るなんて、全然凄くないね。及ばざるがごとしだね。だから、とりあえず自転車の話はあんたに譲るから、スワヒリ語アラビア語はオレが話せたってことにしないか? ここはオレがもらっとくよ。それならお互い妥当な凄さじゃないか。それで一件落着だと思わない?

 さて、オレはしばらく宿のスタッフとアラビア語で談笑した後、日本人旅行者による北上会議に参加することになった。昨日、エチオピアでチラチラ一緒だったウララカオルコンビというカップルが合流し、なんだかんだで結局ここからタガミくん、マリさん(仮名)、オレと合計5人でエジプトへ向かうことになったのだ。話し合った結果、明日みんなで一緒にチケットを買いに行くということに。もちろん電車の座席はみんなで一緒のコンパートメント(部屋みたいなもん)だ。……ウヒョー!! 楽しそう!!! 日本人5人で一緒に移動できるなら、長い電車の旅も全く苦にならないぜ。むしろ楽しみで仕方ない。トランプだ!!! 世間話だ!!! 電車め、
何時間でも走りやがれ!!!!











 はうっ!!!!!!!!!!!!!







「あれ? 作者さん、どうしたんですか?」


「……」


「な、なんか顔色悪いですけど。何かあったんですか?」


「……なんでしょう。僕にもわかりません。でも何かが……何かがやって来るような……」



 ……その兆しは突然であった。「ピキーン!!」という効果音すら聞こえたような気がする。楽しく会議中、盛り上がりの最中にいきなり、いきなりマイ腹が圧倒的に異常な状態になったのだ。とりあえずふさわしい言葉を探してみるならば、
気持ち悪い。半端じゃなく腹が気持ち悪い。しかし、今まで何度と無く戦っているただの下痢ではなく、この腹痛マスターをもってしても初体験である気持ち悪さ。この後、すごいものがやって来るような気がする。
 
飛行機に乗ったことはあるだろうか? ジェット機に乗ると、しばらくゆっくりと滑走路を走った後、スタート位置について一旦停止する。そして、おもむろに「キュイ〜〜〜ン!!」とジェットエンジンが動き初めて滑走に入るわけだが、今のオレの腹、それは初めて味わうキモさにもかかわらず、まさにこのジェット機の「キュイ〜〜〜ン!!」の、腹痛の助走開始であると、本能が叫んでいた。


「うごごごご……ごめん、ちょっと先に部屋に戻らせて……ください……」


「まー困ったねえ。作者さんジュース飲みすぎじゃない? グレープフルーツって、食べ過ぎるとおなかがゆるくなるんだってよ?」


 マリさんがグレープフルーツジュースの飲み過ぎを指摘してくれるが、たしかにオレは1日5杯ほどジョッキで飲んでいたわけで、つまり
1日で丸10個のグレープフルーツを食べているということになる。そりゃあ腹にも良くないだろうってもんだが、しかし、どう考えてもそんなゆるくなるんだってよレベルの問題ではないぞこの助走は。
 部屋に戻りベッドに倒れ込んだオレは、そのまま助走をつける腹に何が出来るわけでもなく、ただ座して離陸を待つのみであった。そして1分、2分、3分……










い?






























いて〜ぞこれはっ!!
!!!!!







 これはたまらん。
激痛とはこのためにある言葉か。今まで他愛もないことで激痛とか言ってきたが、猛省せねばならん。本物の激痛ってのはこのことだ。
 ズンズンズンズンズンズンドコと離陸してから腹の痛みはズンズン高度を上げている。
これは痛い。ものすごい爆発力。うげーうがががと5〜10分ベッドの上だけで苦しんでいると、やはり時間差で下痢がやって来る。ここがまたトイレが部屋には無く、廊下をぐるっと周って共同トイレに行かねばならず激痛を抱えた身では海外旅行に行くくらい遠く感じるのだ。

 下痢はまあいつもの(?)下痢で、つまりあれだ、もう完全に液体となってシャーッと出るやつだ。しかし腹痛マスター(オレ)がいつも扱っている下痢というのは、腹痛がガッと来て、トイレに行ってシャーとやるとその時には痛みは消えるのだ。しかし、今回はもう
消えない消えない。出し終わった直後から(というかつまり途切れることなく)変わらず激痛なのだ。
 ヒーコラヒーコラ言いながら部屋へ戻り、また横になるのだが、もう腹が痛くて腫れてパンパンで、腸の中で
でかいナマズが壁を食い破りながら大暴れしているようなそんな状態、そして再び下痢の気配でトイレへの長旅。壁に手をつきながら、歯を食いしばって歩くのだ。アラブ式(=インド式)のトイレでまたぐえっと茶色い液体を出し、全く痛みが消えないまま部屋へ戻る。
 まず旅先で下痢になる時というのはこのトイレへの小旅行の繰り返しなのだが、今までと違うのは、5回ほどトイレへ行った後、また出る気配に襲われていざ力んでみると、今度は何も出ないのだ。過去のオレの下痢で、出したくなってトイレで力んでも何も出ないなんてそんな下痢はあり得なかった。下痢になったら
とにかくひたすら液体が出続けるというのが、インドで学んだ下痢のメカニズムだったはず。
 おかしい。ただの下痢とは違う感じ。そもそも明らかに痛みの程度が違いすぎるが、しかも、
う〜漏れるっ!! と思ってもいざ力んでみると出ないのである。「出すもの出せば楽になる」という、腹痛マスターとして辿り着いたひとつの真理が当てはまらない。そんなことがあっていいのか。いいや!!! 出すもの出せば楽になるんだ!!! まだ出し切れてないだけだ!!!! さあ出すぞ!! ふぬぬぬっ!! えいや〜〜〜〜〜〜っ!!!!! そりゃ〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!


 ポタ……



 うう、なんか出たかな。







 あ、血だ(涙)。




今日の一冊は、

理想主義者




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