〜ハルツーム〜





 昨日はゴンダール(朝5時発)→シャハディ→メテマ→国境を越えてガラバート→ケダレフ(夜10時着)と、
マスコミから逃れてホテルを転々とする三浦和義のごとく1日で移動しまくったわけだが、オレの勢いは止まらない。エジプトや!! エジプトに着けば、日本から来たお金持ちで面倒見がよくて異国の空気で身も心も開放的になって特にアフリカを縦断しているようなたくましい男性の胸に飛び込んで3万円くらい小遣いをあげたくなっているセクシーでノーブラでヒモパンの(そしてそのヒモパンのヒモをほどいてくれる男を待っている)若い女性旅行者がたんまりいるんや!!!
 ほ、ほどいてあげるよ〜〜(変態)
 オレは前日の移動疲れなど全く見せず、朝から乗り合いワゴンでバスターミナルへ向かい、首都ハルツーム行きのバスに乗り込んだ。
 
つ、疲れた〜(号泣)。昨日だけで17時間もかけて移動したんだぞ!!! めちゃめちゃ疲れたんだよっ(涙)!!!!! 疲れた〜っ。疲れは見せてないけど、見せて無いだけで、中身はというと定年間近の課長が入社当時から着ているスーツくらいくたびれているのだ。
 しかし、これだけの疲労を抱えてもちゃんとバスに乗れている理由は、エジプトへの執念だけではない。エチオピアの場合は、バスといえば朝5時、1日1本。スーダンは、30分おき、1日数十本。
結果:スーダンのコールド勝ち(号泣)。朝8時に起きてもなお移動が出来るなんて、ここはなんて幸せな場所なんじゃ〜〜(涙)。狂ってる。エチオピアは狂ってる!!! あわわわわ……ブクブク(口から泡)

 バスはエチオピアのアジスアベバ以来実に
10日ぶりに見る舗装道路を走っている。やっぱり舗装だよ。あんた、地面は舗装するもんだよ。舗装してなんぼだよ!!
 ちなみにハルツームに着くまで7回ほど途中で降ろされてパスポートチェックを受け、その度に他の乗客から白い目で見られるのだが、黒人だけに白い目が際立って怖い。
レーザー光線でも出てきそうだ。
 窓の外を流れる景色からは木が消え草が消え、一面砂の中に、レンガの四角い住居がポツンポツンと建っている。さあどうやら、いよいよ砂漠地帯、アラブの世界に近づいたようですよ。どこからか石油の香りも漂って来ましたよ。
一夫多妻制を容認する雰囲気も出てまいりました。中東はもうすぐです!!
 一夫多妻制が認められた時に妻にするグラビアアイドルのリストと
曜日ごとの割り振りを作成しながら、ゲダレフを出て砂漠を走り、7時間後に、いよいよ我々作者一同は首都のハルツームへ到着した。……。あれを見ろっ!! ペットボトルがっ!! 缶ジュースが!!! あ、あの筒はまさか……プリングルスだっ!!! くれっ!!! プリングルスをくれっ!!!! バリバリボリボリ(一気に3種類大人買いしてむさぼり食っている音)バリバリボリブリボリベリ…… うおうっ!!! さ、ささサンドイッチだっ!!!! サンドイッチを売ってる!! パンにおにくが、おにくが挟まっている!!!! くれっ!!! サンドイッチをくれっ!!!! もしゃもしゃもしゃもしゃ……

 
はああああ〜(涙)。
 うまい(号泣)。こんな、こんなおいしい物を考えてくださったなんて、
それでこそ伯爵ですサンドイッチ伯爵。ああ思い起こせばアジスアベバを出て以来、1日1食、いや0.3食すらまともに食えなかった日々。おかげで筋肉もぜい肉も無邪気な笑顔も消え失せ、体重は激減し体のペラペラ具合は半端ではない。もはや今のオレの体より京極夏彦の単行本の方が厚みがあることだろう。定員15名のエレベーターにも、今のオレの体なら70人分は詰め込めると思う。
 ハルツームの贅沢の極めつけは、グレープフルーツジュースであった。そこかしこにジュース屋があるのだが、「1杯くれ!」と頼むといきなりグレープフルーツを丸々2個取り出し、その場で絞って砂糖と氷を加えて乾杯という、ジョッキ1杯の絞りたて冷え冷えのグレジュー(ツウの訳し方)が40円なのだ。オレは
これほどうまい飲み物を今までの人生で飲んだことはない。ただでさえフレッシュジュースには夏候惇くらい目が無い(わかるのか?)オレだが、この美味さの衝撃は、高校のクラスメート井口君がじゃまーるで顔写真つきで彼女を募集していたのを発見した時のショックを超えるものがある。井口君ごめん。
 グレープフルーツジュースをたらふく飲みたい。このグレープフルーツジュースの海で泳ぎたい。このグレープフルーツジュースでカップラーメンを作りたい。このグレープフルーツジュースを、東京ディズニーランドのミクロアドベンチャーで最後に犬がくしゃみをした時に降ってくる水滴の代わりに降らせたい。


 ジュース屋では、スターバックスと同じカジュアルな注文スタイルを取っており、最初に入り口でジュースを作ってもらった後は丸イスが並んだ客席に落ち着くようになっているのだが、あまりに美味いためにこのジュース屋は込んでいる。座るところがないぞ!



「オイおまえ! どっから来たんだ?」


「こんにちは。日本でーす」


「そうか! よく来た! ここに座れよ!」


「?」


 一人のスーダン人が、まだ自分も飲みかけなのにも関わらず、立ち上がってオレのために席を譲ってくれた。

 ……。


 
もしスーダンとエチオピアが戦争を始めたら、僕はスーダン軍に参加してエチオピア人と戦います(号泣)。
 なんて優しいんだスーダン人……。普通にしてても十分優しいのに、エチオピアの隣にあるがために余計その魅力が引き立っている。まるで
ダイナマイト関西と対戦するキューティー鈴木を見ているようだ。わたしはスーダンに来てよかった。これからはもうスーダンをバカにしない。帰国したら、社会科地図帳のスーダンの部分をマーカーでチェックします。スーダンのスは、「優しさ」のス。
 この時から、朝昼午後夜と
1日4ジョッキのグレープフルーツジュースを飲むというのが、須藤温子の写真にチューをするのと併せてオレのハルツームでの日課となった。

 さて、このまま10年も20年もグレープフルーツジュースを飲んでハルツームにいたいのは山々だが、エジプトで人妻と合体合流という使命のあるオレは、もう次の移動を考えねばならない。そこで情報収集をすると、意外な事実が判明した。次の町、エジプトとの国境の町であるワディハルファという町へは電車でしか行くことができないのだが、その電車は
1週間に1本しか無いということだ。

 
そんなバカな。

 い、1週間に1本ってあんた、
通勤電車に使えないにも程がある。寝坊して1本遅い電車に乗ろうと思ったら1週間後かよ!!!!!!!!

 認めん。1週間に1本なんてオレは認めん。そして同時に
ベッキーをアイドルとは認めん。エチオピアでもあるまいし、今時首都から出る電車が1週間に1本とは何を考えているのだろうか?? これでは人を殺して逃げようとしても時刻表トリックは使えない。西村京太郎泣かせの国である。
 しかもそれだけではない。その1週間に1本の電車で国境の町までは、
2泊3日かかるというのだ。おいおいおいおいおい。そういうのイヤなんだって。オレベッドの上でないと寝れないんだって!! なあ、今回だけでいいからオレのために1日で着いてくれないか?? その分来週の電車は4泊5日とかにしていいから!!!!!!!!!
 その上、電車のある日は4日後であり、そもそもこの砂とグレープフルーツジュースしかないハルツームで一体どうやって4日間を過ごせばいいのか? プリングルスとサンドイッチを動員してもせいぜい1日半が限度だろう。伝家の宝刀一人マジカルバナナを出しても2日までだ。グレープフルーツジュースを飲んでいない時間をどのように潰そうか。これは難しい。

 さて、その夜オレが安宿のシングルルームで須藤温子の写真を見ながら一人仕事に精を出していると、突然ドアがガガンとノックされた。しかも
「こんにちわ〜☆」と日本人の女性の声がするではないか!! オレは慌ててパンツを履き、むしろ脱いだままでもよかったかもしれないが、しかし一応紳士としてズボンは履かずともトランクスだけはきっちり履いて、応対に出た。すると、そこにはうら若き2人の日本人女史がつややかにオレを見つめていたのである!!!



「あら〜、お取り込み中だったかしら??」


「いえいえそんなことはないです。たしかに
テントこそ張っていますが、僕は一切何もしていませんでした。あなた達は一体?」


「私たちは、これこれこういうことなのよ」



 これこれ言っている事情を下心つきで親身になって聞いてみると、なんでもこの2人組みはエジプトで知り合って、アフリカ縦断を目標にここまで一緒に南下して来たのだが、悲しい事情により一人はここから折り返してエジプトに戻ることになり、一緒に北上する道連れを探しているとのことだった。
 ふむふむなるほど。
それでこの旅のつわものを頼って部屋を訪ねてきたわけだね?? 力になろうではないか。普段は鬼コーチと恐れられる、他人に厳しいこの作者だが、若い美女のためならポリシーを捨てて道連れになろうじゃないか。存分にオレに頼ってくれ。
※もっとも、美女と言ってもオレの今の状況下ではたとえ
まちゃまちゃを見ても若い美女だと認識すると思われる。仮に今滝川クリステルが目の前に現れたら、「こんな完璧な美女がこの世にいるわけねーだろ! これドッキリでしょ??」と、決して存在を信じないであろう。

 諸事情によりエジプトへ引き返す方の女性は、名前をマリさん(仮名)という。長い道のり、女性と2人というのも悪くない。いや、悪くないっていうか、
良い。よいぞ。どうせこんな砂漠の中で他にすることもないんだし、2人で楽しもうではないですかハぁ…。……。おおっと、なんか向こうからまた日本人らしき男が一人来たけど無視しますよ! マリさん(仮名)、関わりあっちゃダメですよ!!


「あ、日本人じゃないっすか。こんにちは〜」


 テメー挨拶してくるんじゃねーよ!!! 今オレが一人で女性に囲まれて悦に入ってるのわかるだろうが!!! 察しろよ!!!!!


「あーら、こんにちは。日本人の方? これから北? 南?」


 そんなこと聞くなって!!! この男がどっちに行こうと関係ないじゃねーか!!! オレ達は2人で旅するんだから!!! あんたはオレと一緒に行くんだろ!!!!!


「僕ですか? こっからは電車でエジプトまで行くつもりっすけど……」


 
こらっ!!!! バカっ!!!!!!


「あらそうなの!! 私たちもよ!! じゃあみんなで一緒に行きましょうよ!!!」





 ばかやろー



 一緒に。オレの
嫌いな言葉、「一緒に」。「2人で」から「みんなで一緒に」になるこの絶望感。いったいオレは何度この絶望感に殺されてきただろう。みんなで一緒にだったら、行く価値なんかないんじゃーーーっ!!!!
 ……おおっと!! いかん。オレとしたことがついダメなやつみたいなことを考えてしまった。
本当はダメなやつじゃないのに。やはり人間の出来たやつというのは、こういう時も嫌がらずにみんなと仲良くするのだ。だからオレもそのように頑張ってみよう。

 新しく登場した日本人の男は、まあオレに言わせれば非常に頼りなさそうな奴だ。まだあどけなさすら感じられる、いかにも「これが初めての旅なんです♪」といったこの幼い風貌。名前はタガミくん(本名)というらしいが、かわいそうだがタガミくん、あんたオレの敵ではないな。まあ最初こそ取り乱してしまったが、そもそもオレは
旅のベテラン。女性陣もよくよく肝に銘じて欲しいが、オレほど困難を乗り越えて来ている旅人もそういないぜ?
 まあほんとはあんまりこういう自慢はしたくないんだよ。大人しくさせておいて欲しいんだ。でも、たまに勘違いする奴いるじゃん? 「アフリカ縦断っつっても、そんなにおもしろおかしくふざけて旅行記書けるくらいだから、別に簡単なことなんじゃねーの?」
みたいな。そういう奴が。
 ここでハッキリさせときたいけどね、南アフリカからスーダンまでバスや電車で旅が出来る旅人なんて、
オレくらいなもんだぜ?? しかも、まあマラリアとか大きい病気こそかかってないけど、熱出したり腹壊したりしながら、それでもここまで一人で来てるわけだよ。あの地獄のエチオピアに2週間もいた男だぜ?? 他のどの男がこんなドラマチックな冒険が出来るんだよ!!! わかったかオラ!!!!!!!!!!

 ところで、オレもタガミくんもそれぞれツインルームに一人で泊まっていたため、ここは旅の大ベテランであるオレの効率的な提案によって、ルームシェアをすることになった。なぜか大ベテランのオレが荷物をまとめて彼の部屋に移ると、旅の初心者タガミくんはなにやらボロい自転車を部屋の中に持ち込んでいじっている。


「ねえ、あんたなにそんな自転車なんて部屋に持ち込んじゃって。生意気な。ハルツームで買ったの?」


「いや、違いますよ。これに乗って来たんですよ。南アフリカから」


「ふーん。そうなんだ。まだまだキミはそのヘンが旅の初心者だねえ。バスの乗り方もわかんないんだ」


「あはは」


「ははっ」



 ……。




 
あははじゃねーよ。



「ちょっと待ちなよあんた。乗って来たって言っても。まさか乗って来れるわけないし。本当は乗って来てないんでしょ?」


「いや〜、ケープタウンから全部自転車で来たら、ここまで10ヶ月もかかっちゃいましたよ。エチオピアなんて40日もいましたからね〜」


「で、でもそんな苦労を知らないような、健康そうな顔して……」


「そうですか? でもマラウィではマラリアにかかったし、タンザニアでは赤痢で大変でしたよ〜」


「へえ〜、そうなの〜。あはは」


「あはは」


「……」


「……」




「タガミくん、ちょっと首絞めさせてくれるかな?」



「な、なんですかいきなりっ!」



「絞めさせろって!! 首の1本や2本くらいいいだろうが!!! 減るもんじゃないし!!!!」


「ちょっと! やめてくださいって!!」


「自転車って!! 自転車って!!! バス料金も出せんほど貧乏なのかおまえはっ!!!!」


「そういうのじゃないです〜」



 こ、この小坊主が!!!! 
オレより凄いことをするんじゃねーよっ!!!!! おまえのせいで、30行くらい上のオレの自慢話が完全に霞んでるだろうがっ!!!!!!!!!!
 自転車で来ただ? マラリアと赤痢にかかっただ?? エチオピアに40日だあ??
 
いい加減にしろよっ!!! 全部オレの10倍インパクトがあるじゃねーかっ!!!!!!!! 1つくらいオレが勝てる部分を残しとけよ!!!!! それがおまえの国の伝統の武士の情けってもんだろうが!!!!!!!!



 こ、この野郎……器用に自分でパンクまで直しやがって……。オレなんてパンクしたら自転車屋に持ってくことしか出来ないのに……。

 はっ!!
 わかったぞ!!!!! こいつ、見かけは幼く見えるけど、実はオレよりかなり年上だな?? 本当はもうとっくに30超えてるんだろう??? なんだよ……。それだったら少しくらい凄くても当たり前だ!! 年の功があるんだから、別に自転車で旅なんてたいしたことないさ!! そうだろう!! そうだと言えよ!!!!



「ヘイ、タガミさん!! あんたいま何歳??」


「19歳ですけど。高校出てすぐ来ちゃいました」


「オー! そうかい!」




 ……。




 
ぼくちんのあいでんててぃーは崩壊してしまいました。ぼくって普通。ぼくって全然すごくない。ぼくは何も無い人間。ぼくのやっていることなんて誰にでもできるのです。こんな旅、今すぐやめてやるっ(号泣)!!!!





今日の一冊は、

患者よ、がんと闘うな




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