THE WAY TO INDIA

〜遺言〜




お父さん、お母さん。
明日、僕はインドへ向け旅立ちます。
日本から遥か遠く、何千キロも離れた辺境の地です。

多分、むこうでは下痢になって倒れるでしょう。
何日も何日も苦しむと思います。
日本の裕福な家庭に生まれ、子供の頃から腸よ花よと育てられ、箸より重いものを持ったことがない僕です。
インドの衛生状態と環境では、回復するのも難しいはずです。
言葉も通じないところで、病院に行くこともできないと思います。

多分、むこうではお金を騙し取られるでしょう。
悪いインド人に有り金を全部取られると思います。
日本の裕福な家庭に生まれ、子供の頃から腸よ花よと育てられ、箸より重いものを持ったことがない僕です。
野生の中で育ったインド人相手では、逃げるのも難しいはずです。
言葉も通じないところで、警察に行くこともできないと思います。

もしかしたら生きて日本に帰ってくることはできないかもしれません。

でも、僕は行かなければいけないんです。
決めたんです。

もしも、もしも僕が帰ってこなくてもどうか悲しまないでください。
これからはムクを僕だと思ってかわいがってください。

そして、遠くにいるあのこに、大好きだったって伝えてください。

あまりいいことのなかった人生だったけど、幸せでした。














・・・。
やばい。気が付いたら遺書を書いていた。
ええいこんなもの!   ビリビリッ 
いかんいかん。普通に旅先の予習をするだけのつもりだったのにいつの間にかこんなことに。病は気からだ。この暗い状況をなんとかしなければ。
一体どうしたものか。
頭の中で「自分を励ます会」を作り、一生懸命激励の言葉をかける。
そんな時、以前友人に借りた本に書いてあったことを思い出した。その本の著者もインドに行くことにしたのだが、それをかつてインドに住んでいたという近所のおやじに話したところ、こう言われたそうだ。

「部屋を思いっきり汚しておけ。そうすれば部屋が汚いまま死ねないと思うから帰ってこれる確率が上がるぞ」

それだ!さっそく部屋を散らかさねば。あまり時間がないがどこから散らかそうかと部屋を眺めてみる。

むむっ。

・・・。

どうやらその必要はないようだ。
散らかっているどころかアメリカで買ってきたペントハウスや〇〇が△△で、おそらくオレが死んだ後、家族や親戚が部屋に入ったら悲しさより情けなさで涙を流すだろう。
もしも向こうで死にそうになったあかつきには、友人に頼んでアパートに放火してもらわなければならない。アパートもろとも証拠隠滅だ。
・・・。
よし。この状態ならなんとか無事に帰ってこれそうだぞ。

そして、いよいよ出発の朝。

さー行くぞおーっ!!
今日から丸1カ月。
とりあえず凄まじい下痢になることと、騙されて金をとられることは覚悟の上だ。
なんだかんだいって、それはそれでおいしい。
それになんといっても、2月の日本の寒さと、バ〇ンタインデーから逃れられるのは大きいぞ。ふははは。日本の男性諸君!キリスト教が定めたくだらない儀式の日を惨めな気持ちで過ごすがいい!!
オレはそんなの関係ないもんねー。なにしろその頃はヒンドゥー教徒の国インドだから。そんな行事のことは思い出すこともないだろう。
3ヶ月前に旅行保険使って手術受けたため保険の加入を拒否されたことなんか気にせず、思いっきり走り回ってくるぜ!
バイバイ。










TOP     NEXT