THE FIGHT ROUND13

〜聖地到着〜



 寝れるか〜〜〜〜〜〜っ!!!!

 ふかふかのベッドでないと寝れないのっ!!! こんな汚いとこじゃあ!! こんな硬い椅子の上でなんて寝れないの!! シャワーも浴びてないし!!! お化粧を落とさせて!! ネグリジェに着替えさせてよ!!! 揺れないで!!! 静かにして!! 一人にして(涙)!!!

 ……。

 結局、ほぼ一睡もせずに朝を迎えることになった。
 寝れるわけないだろ。こんな電車なんかで。エアコンもついてないし。インターネットもできないし。めちゃめちゃ寒かった!!! 窓から風がビュンビュン!! イビュンホン!!

 そんなわけで、どうせ寝れないんだからとりあえず下に移動して景色でも眺めることにした。ハシゴを伝って下りるわけだが、これは、こ、これは……
 オレはとあることに気づいた。気づいてはいけないことに。この座席についているハシゴというのは、誰もが靴を履いたまま上り下りするものだ。例えば乗客がトイレに行ったとする。そのトイレは汚物まみれだったとする。するというか、それは疑いの余地のない真実である。まみれているのだ。
 ということは、当然そのトイレに入った人間の靴も、そのような物質にまみれているのである。もちろんオレの靴もそのような深刻な事態に陥っているのである。そして、その靴でこのハシゴを上るのである。ということは、このハシゴには靴から持ち込まれた汚物質が擦り付けられ、さらに上り下りの時にはその擦り付けられた汚物質を手で、この手で、素手で掴むことになってしまうのだっっ!!! あぎゃあああ〜〜〜〜っっ!!!!!

 ……考えていたらきりがないな。

 でも考える。
 考えることをやめてはいけない!! 考えることをやめたら、人間であるということを放棄してしまっているということと同じではないか!!!!!
 といことで、考え抜いた末、オレはハシゴを使って上り下りする時には決して足を乗せる部分の棒には触れず、ハシゴの両端についている縦の棒だけを握ることにした。この部分、縦の棒には足をかけることは無いから、きっとここはキレイなはず!!!!
 しかし、足をかけることは無くても、何かの弾みで脇の棒に靴の裏がカスッとこすれてしまうことも……そしたら縦の棒にも汚物が……。
 最終的に、オレはハシゴの上下の時には手はハシゴ以外の何か、他の椅子とか壁にのみ触れるようにしていた。どうや!! ここまでやって初めて一流を名乗れるんや!!!

 そんなこんなで下の座席まで下りて行き、朝メシにバナナを食し、チャイを飲みひと息つく。昨日の夜9時発だから、もうかれこれ9時間も電車に乗っていることになる。ここまで来たらもう後は短い。あとたったの8時間。まあ8時間と考えると長く思えてしまうが、試しに一時間を一分と考えてみれば、8時間なんてたったの8分である。もうほとんど着いたようなものだ(涙)。

 窓の外を眺めると、たしか1万年前くらいに見たことがあるような、懐かしい石器時代の風景が目の前に。あれ? オレ1万年前って地球にいたっけ。いるわけないな。多分、自分で見たんじゃなくてTBSの新世界紀行で見たんだろう。浜松のおじいちゃんの家で。
 しかし、それにしてもこの景色はデリーから比べてもものすごい文明の差がある。なにしろ家が土とか藁で出来ているのである。普段の生活の中で縄文式土器を実用していてもおかしくない。



 この景色を見ていると、インドというよりアフリカを思い出してしまう。まあオレの友人で大陸移動説というのを唱えているウェゲナーちゃんによれば、もともとインドはアフリカの一部だったということなので、そのへんは妙に納得である。







 しばらくすると電車は、とある片田舎の駅に停車した。窓から外の風景を眺めると、線路の真上だというのに物売りやホームレス、ノラ牛が電車、特に一等車両に押し寄せているのが見える。

 しかし、





→せめて牛は線路に入れないようにしろよ!!






 こういうことは構内放送でちゃんと注意してほしいものだ。ただでさえ17時間も乗っていなければならないのに、牛身事故でこれ以上電車が遅れるのは勘弁して欲しい。
 その後、近くに座っていたインド人の子供達と戯れる。彼らにヒンディー語を教えてもらい、こっちは英語を教える。オレ達にとって言葉の壁などはたやすく乗り越えられるものだ。なぜなら、話すことはわからなくてもこうやってすぐに心が通いあうことが出来るのだから。
 ほら、みんな見て! この日本から来た旅人はインドの子供とこんなにも打ち解けているよ! という感じに優しい旅人を演じながら時間をつぶす。せっかく旅行記を書くんだから、こういう交流を特にアピールしたい。
 結局、「なーんだ。2等車両っていってもあんまり面白いことなかったんだね」という声が聞こえてきそうな程本当に順調に電車は進んでいった。まあどんなにつまらないと言われようと列車強盗に遭うよりはましである。

 予定の昼を過ぎ、むしろ夕方近くになってやっと終点であるバラナシへ到着した。駅を出ると、リクシャワーラーが群れをなして迫ってくる。



「ゴードウリヤーまで行って欲しいんだけど!」


 ゴードウリヤーとは、バラナシの中心地近くにある大きい交差点である。とりあえず20ルピーで行ってくれるというサイクルリクシャーの運転手について行くことにする。座席に乗り込み、荷物を置く。


「よろしくー。ゴードウリヤーの交差点までね」


「よーし。じゃあオレお勧めのとびっきり快適な宿、オームビシュナワートロッジまで連れてってやるぜ」


「いや、会話がかみ合ってないんだけど。……わかった。じゃあゴードウリヤーの近くのガンガーロッジまで行ってくれよ。地球の歩き方に載っててよさそうだったから」


「なに? ガンガーロッジ? あー、あそこはもう無い! つぶれたんだ」


「マジで?」


「あー。バラナシも不景気でな。客が来ないから。その代わりオームビシュナワートロッジに連れてってやるよ」


「いや、そんなとこじゃなくて、じゃあここは? プージャーゲストハウス」


「なに? プージャー? あー、あそこももう無い!」


「マジで?? なんで?」


「あそこは洪水で流されたんだ。その代わりオームビシュナワートロッジに連れてってやるよ」


「そんな簡単に流されるもんなの?? 藁で出来てたのか? そうだな、じゃあここでいいよ。ゴーダムゲストハウス」


「なに? ゴーダムゲストハウス? 残念! あそこももう無い」


「そこも無いの??」


「あそこはついこの間火事になってな。その代わりオームビシュナワートロッジに連れてってやるよ」


「そうか。インドは建物の移り変わりも激しいんだな。なわけねーだろ!! そう簡単に火事になったり流されたりするかよ! とりあえず今まで言ったなかのどれかに連れてけ!」


「わかったよ。もう、そんな怒るなよ」



 サイクルリクシャーに乗ってバラナシの道を行く。やはりここもひたすらノラ牛だらけ。そしてデリーとはまた違った、しかし凄まじい賑わい、人の数。ここもまた、インドの顔である。
 まだ目的地までは距離があるのだが、何故か脇によって停まるリクシャー。


「ちょっとまってな」


 どこへ行く? オヤジ。ん? どうしたんだ? そんなとこにしゃがみこんで。もしかして体調でも悪いんじゃ……って客を待たせて座りションをするな!! しかももっと遠くに行ってやれよ! 香りが伝わってきてるぞ!

 その後リクシャーはかなり長距離を走り、ようやく一軒の宿の前に到着。結構な長旅だった。さて、おやじが連れてきてくれたのはどこの宿だろうか? 親切なスタッフと絶品の料理がウリのガンガーロッジか? それとも屋上からガンジス河の絶景が見渡せるプージャーゲストハウスか??


「さあ! 着いたぞ!! ここがオームビシュナワートロッジだ!



 だと思ったよ!!










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