THE EXTRA FIGHT
〜インドへ向かう〜



 マレーシアの文化の特徴として、民族衣装(?)があげられるだろう。男はとくに変わった服装ではないのだが、女性の格好が非常に特徴的である。ほとんどのマレーシア人の女性は、頭を風呂敷のようなものでスッポリと覆っているのだ。
↓こんな感じ。

 学生から空港職員までみんなこの格好をしているのには非常に驚いた。というか、正直に言って……とても笑える。
 はっきりいって、この状態では人の区別がつかない。みんな全く同じ顔に見えるのである。まあ勿論その国の文化として、なにも文句を言うつもりはない。日本人の着物も外国人から見たら結構奇妙に見えるのではないだろうか?
 しかしちょっとだけこの民族衣装にクレームをつけたくなる時もある。今日は夜の便でいよいよインドへと向かうのだが、フライトまで暇をもてあましたオレはクアラルンプール市内のそごうに涼みに行っていた。
 勿論そごうは日本のデパートなので、日本製品や日本食が豊富に取り揃えられている。レストランも日本食を扱っている店があり、まだ日本を発って数日しか過ぎていないにも関わらず、若干の懐かしさを覚える。
 そんな日本食レストランに並んで回転寿司屋まであったことに驚いたのだが、そこで寿司を握っていた現地の女性を見て力が抜ける。





 おそらく彼女は江戸っ子ではないだろう。


 どんな寿司職人なんだよ!! これでは職人というよりむしろモジモジくんである。日本食を提供する時くらいは民族衣装をやめてはどうだろうか?

 さて、フライトの時間が近づいてきた為、KL国際空港へ向かう。やはり交通費をケチって2時間かけて電車&バスでがんばる。そしてみたび薫製になりかけながら空港へ到着。チェックインを済ませ、ゲートの待合所に向かうと……そこは、まさにインド的空間だった。
 ターバンを巻いた、サリーを着たインド人。飛び交うヒンディー語。

 インドだ。オレはインドに行くんだ。

 今から行くところはやはりインドなのである。「もしかしたら何かの手違いで、本当はこのチケットはハワイ行きなんじゃ……」という一抹の期待があったのだが、このインド人の群れを見てそんな淡い希望も無残に打ち砕かれた。
 はっきりいってここクアラルンプールは都会であった。ぷんぷん漂う文明の匂い。ここに不便はなかった。せいぜい何度か薫製になりかけたくらいだ。インドはどうだろうか? 

 うーむ。

 そもそもさあ。

 なんでインドなんかに行かなきゃいけないんだ?
 考えてもみろよ。ヒルズのIT社長やcancanのモデルやハリウッドスターが、バケーションで一人でインド旅行に行くか? 行くわけないだろう? だったら、同じくそっちサイドの人間であるオレも、インドなんて行かないはずなのだ。なにしろ六本木ヒルズには一度映画を観に入ったことがあるのである!! そのヒルズ族として、インドに一人で行くなんて何事か!!! いつの間にかオレはただの庶民になり果ててしまったのかよ!!
 
 あ、もとから庶民だった。
 そういえばオレ社長じゃなくて、時給で働いてるし(涙)。

 仕方なく、オレは庶民の代表としてエコノミーな服装とエコノミーな所持品で分相応のエコノミー席へ向かった。くそ。これでエコノミー症候群になったらヒルズのIT社長を告訴してやるからな(全くつながりなし)!!!!

 機内でオレの隣に座るのも、勿論インド人だった。オレンジ色のサリーをまとったかなりキレイな女性である。インド映画のダンスシーンで中央で踊っていそうなタイプだ。もし告白されたら、付き合ってあげてもいいくらいのレベルだ。
 この女性が夕食の時に、スチュワーデスから受け取ったジュースを誤ってオレの足に思いっきりこぼし、慌ててハンカチで拭きながら、


「ごめんなさい!」


「いや、大丈夫ですよ。」


「こんなに濡れてしまって……私ったら何やってるのかしら!」


「いや大丈夫ですから。もともと汚い服ですし……」


「そんなことないですよ。立派なお召し物ですもの。ねえ、あなた今日どこに泊まるの?」


「まだ決まってないですけど」


「それじゃあよかったら私の家に泊まりに来てくださらない? お詫びもしたいですし……」


「ええっ! 本当ですか? それはありがたいなあ……。でもなー、1人でインドで宿を探すって決めてきたもんな……そんな安易に助けを受けるわけには」


「そんな。もう夜ですし、危険ですよ。空港まで迎えがきますし、是非うちに来てくださいよ」


「そ、そうですかー。じゃあせっかくだからお願いしちゃおうかな……」



 などという展開に、なったとしたらどれだけ幸せだろうか。
 しかし当然妄想は妄想の域を出ること無く、実際は彼女とは一言も喋ることなくむしろ気まずい空気のまま時は過ぎて行った。一応気を引くためにハンサム顔で笑いかけたり札束を数えてみたりと努力はしたのだが、無視されたというよりむしろ嫌がられていた。

 そんな妄想を繰り広げながら地球の歩き方で一生懸命予習。
 まず最初の難関は今夜である。どのガイドブックを読んでも、誰の話を聞いても必ずでてくるのが今向かっているガンディー国際空港からのタクシーのトラブルである。デリー市内に向かう途中で旅行会社に降ろされ、高額なツアーを組まされるというパターンがほとんどだ。その手口は非常に手が込んでいて、あらゆる手を使って旅行者から金を騙し取ろうとするらしい。
 とりあえず、タクシーに乗った人は全員途中で降ろされている。
 誇張ではなく、全員。100%だ。
 ……。

 どんな国なんだ。インド。

 不安をよそに、既に飛行機はインド上空を飛んでいる。
 マレーシアで買ったブランド時計を2時間半戻す。窓から見下ろすと、たくさんの街の明かりが見える。だが、その明かりは文明が発達している明かりではない。なぜわかったのか不思議だが、直感的にその明かりは全く未発達の国のものであると感じたのだ。
 時間は夜の10時を過ぎている。
 今夜の宿は決まっていない。
 地球の歩き方には、夜空港に着いた場合は空港の待合室で泊まる方がいいと書いてある。だが、オレはデリーに向かわなければならない。
 タクシーに乗らなければならない。
 だって、
 そのほうがなんかおもしろそうじゃん。

 そして遂に、インディラ・ガンディー国際空港へ、インドへ到着したのである。











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