THE FIGHT ROUND12

〜電車でGO!インド編〜



 さて、インド一凶悪だといわれる、映画館裏にある暴力旅行会社の監禁からなんとか脱出したオレは、いよいよデリー駅へ向かうことにした。こんな昨日も監禁今日も監禁、3,4が無くて5に誘拐という極悪非道な町からは、とっとと抜け出した方が良いのだ。いや、たしかにさっきの旅行会社については、見方を変えればオレがドアの開け方を間違えていただけなのかもしれないが、間違えるのも監禁のうちである。明らかに旅行会社のせいである。

 デリー駅には、日本の蒸気機関車を現代まで、ただし手入れなしで運行していたらこうなるだろうというような、浅黒く錆びの目立つ列車が既にスタンバイしていた。電車界の森繁久彌といった、老練な渋さと貫禄が漂う車体である(褒めている)。
 そういえば、旅行会社のインド人はみんな口を揃えて
「2等車両は危険だぞ!! ウッチャンナンチャンのウッチャンに女子アナを近づけるくらい危険なんだ!!」と叫んでいた。たしかにその例えはよくわかるが、本当にそこまで言うほど危ないのだろうか??
 いくら危ないといったって、れっきとした公共交通機関である。別に脱北しようとしているわけではなく、普通に町から町へ移動しようとしているだけなのだ。捕らえられたり射殺されたりという心配はないのではないか。
 そもそも、1等車両と2等車両は繋がっているわけだし、別に路線自体が違うというわけではない。隣合わせになっている車両で、片方は危険で片方は安全などということはあまり考えられない。そう思うと、1等車両と2等車両の差なんて、せいぜい長渕剛とミニミニ長渕の違いのようなもんだろう。

 さて、構内に溢れ返るホームレスをかき分け、とりあえず駅のトイレへ。入ろうとしたのだが、なんかおっさんがブロックしてくる。なんだ? どいてくれ!! オレはトイレに入るんだ!!! なんで邪魔するんだ!!! 日本人いじめかっ!!! それとも、ここはセレブ禁止のトイレなのか!!!!


「ちょっとおっさん!! 差別はいけません! 人種民族収入に関係なく公共トイレは使用させるべきです!!」


「ここは有料トイレだ!! 2ルピー払え!!」


 なるほど。そうですか。ほら、チャリーン! 好きなだけ拾いな!!
 ということで金でおっさんの注意を引いておいて、素早く隙を突いてトイレに入場を果たす。
 とりあえずオシッコだ。夜行電車だから、寝る前にちゃんとオシッコしておかなきゃあ、お漏らししちゃうかもしれないから。最近尿漏れが頻繁なの。だから毎日気をつけてるの。

 一人ホームレスっぽい乱れたじいさんが目下使用中だったので、間にひとつ便器をはさんで並ぶ。
 それにしても、有料トイレにしてこの不衛生さには恐れ入る。はっきりいって、大の個室などは絶対にここを覗いてはならないという茶色いオーラが出まくっている。そしてそのオーラは、こっちまで漂ってきてオレの全身にまとわりついているようだ。オエー
 にしても外国で夜行電車なんかに乗るのは人生で初めてだ。絶対寝れないだろうな……。日本でも枕が変わると寝られない体質だからな……。かといって自分の枕を持ち込んでも人の家じゃ寝れないんだよ。自分の家で自分の枕だとしても、好きな子がいる時はドキドキして全然寝れないし。ってなんだー!!
 ふと見ると、さっき便器をひとつ挟んで並んでいたはずのじーさんが、いつの間にか隣に移動して来ていて、しかもなんの躊躇もなく思いっきりオレのものを覗いているのだ。こんな露骨な覗きは見たことがない。思わずオレのサオに食いつかんばかりの体勢である。



「ちょっと! 見ないでよ!!」


「グヘヘ」


 オレに怒られてグヘヘと笑ったじーさんは、再び前を向いて放水し始めた。このじーさん、放尿しながら隣の便器に移ってきたんだろうか。シャーシャー出しながら平行移動して来たってことだよな。そしたらあちこち飛び散ってるんじゃないだろうか。どうりでなんかさっき霧状のしぶきがかかって涼しくなったような気がしたような気がするようなしないような……ってうっひゃー!!



「見るなって言ってるだろーがっ!!!! やめてよ!! 痴漢!! 痴漢がいるわっ!!! きゃ〜〜〜〜」


「グヘヘヘ。ごめん」



 ふと気づくとまたもやオレの放水中の股間を凝視しているじいさん。なんでそんなに見るんだ? そんなに立派だからか?? いや、そんなことはない。立派なんかではないことは自分が一番よくわかっている。なにしろ、過去何度かオレはグーグルで「ペ○ス 平均」とかで平均サイズ(cm)を調べて、自分で測った固い時とやわらかい時の寸法と比べてみるのだが、どう考えても自慢できるサイズではなかった(号泣)。どうやったら大きくなるのか、かわいがったらいいのか、逆にスパルタ式にしごいた方が伸びてくるのか、いつも悩んでいるのだ。だからオレの何にじいさんが興味を持ったのか全くわからない。むしろこぶりちゃんぶりが珍しかったのだろうか??
 なんにせよ、グヘヘへと笑って謝ったじーさんは再び前を向いて放水し始めた。よく出るなあんたも。しかしなんという物怖じしない豪快な覗き方だろうか。せめてオレの目を盗もうという努力くらいしろよ……。もう一回やれば上手く3段オチになるところだったが、もうオレのものは出きっていたし、熟女ではなくインド人のじいさんと痴漢ごっこをしても興奮度は限りなく低いため、素直にトイレから出ることにした。



 とりあえず、いったいどの車両が2等車両でどの車両が地獄行きなのか見当がつかなかったため、赤い制服を着て獲物を狙っているポーターに、席まで連れて行ってもらうことにした。

←オレのミニバックパックを頭に抱えて先行くポーター。最初に料金をしっかり交渉しておけば、かなり役に立ちます。



 オレの席は、上中下と分かれている一番上であった。騒々しくなくていいかもしれないが、ハシゴを使った上り下りが面倒くさい。
 さて、これから明日の昼まで電車に乗り続けるわけなので、当然水と食料をゲットしなければならぬ。とりあえずリュックだけ厳重に椅子にチェーンロックでくくりつけて(これ重要)から、いったんホームに出て食べ物の気配を探る。
 さすがインドとはいえ駅だけにキオスクのようなものがあり、週刊現代やFRIDAYこそ売られていないが、まあ別にオレはキオスクで雑誌など滅多に買うことはなく、それ系の雑誌は時々本屋で立ち読みをして「く、くそーーー!!!! あの平井理央がイケメンディレクターと交際……しかも、2人とも2股交際かよっ!!!! こ、こいつらいい思いばっかしやがって……オレも入れて3股にしてくれよ!!!」と怒りの炎を燃やすくらいなのでまあここでは売られてなくてもいいのだ。
 なのでとりあえず食べるものを探したところ、サンドイッチとか浜松駅名物の出世大名家康くん弁当などは残念ながら見当たらず、せいぜい庶民派のクッキーくらいのもんであった。

 仕方がないので、その庶民派のクッキーとやらと、あとは叩き売られていたバナナを3本ほど無理やりバラ売りにしてもらってばあさんから購入。うーむ、自分で金を出してバナナを買ったことなどもしかしたら人生で初めてかもしれない。このところ、人生で初めてなことづくしだ。明日は、人生で初めて強盗にあったりするのだろうか。

 ということで、水と僅かな食料を抱えたオレは、自分の席へ戻り最上段までハシゴを登った。途中でペットボトルをガラガラと落とし、2回ほど失敗しながらもなんとか登頂に成功。
 さあ、今から17時間の電車の旅である。










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