THE FIGHT ROUND28

〜デリーが俺を呼んでいる(前編)〜



 俺は帰ってきた。
 再びこの街に。
 喧噪と模索と犯罪の街、デリー。かつて一度は自らこの場所を去った。だが、今またこの街が俺を必要とし、求めているのを感じる。
 もう俺はあの時の俺ではない。怖いもの知らずの一匹狼だった10年前。今の俺はそれなりの地位も、金も、名誉も全て手に入れている。そんな俺が果たして、また自分の命を投げ出し、この街に飛び込んで行くことができるのだろうか。

 ヴィトンのシガレットケースからアルカポネ・スウィートを取り出し、火を着ける。
 この味。10年前と同じだ。
 そういえばサンドラやメアリー、マユミは今頃どうしているのだろう。俺を愛し、俺の人生に触れたばかりに争いに巻き込まれ、危ない目に遭わせてしまった彼女達。あの頃俺と同じくエネルギーが溢れていた彼女らも、もう若くはないはずだ。みんなきっと今はこの街のどこかで平穏に暮らしているのだろう。いや、せめて、そう願わずにはいられない。
 今夜からの俺の宿は、デリーの、いやアジアの最高級ホテル、「スターパレス」。総支配人自ら迎えてくれるようだ。
 フッ。いつの間にか俺も偉くなったものだ。
 だが俺は知っている。こんなものは所詮表向きの感情でしかない。金と権力なんて夏の夜の夢のごとく儚い。

「ようこそいらっしゃいました作者様。どうぞごゆっくりとなさってください」

「待てよ。俺は社交辞令を聞きに帰って来たんじゃないんだ。なぜ俺を呼び戻した?」

「そ、それは……」

「おいおい、今更恐縮されても困るぜ。まあ俺が呼ばれたってことはどういうことかはみんなわかってるだろう」

「は、はい。わかりました。全てお話します……。実は、あの時作者さんとの勝負に敗れたロドリゲスが、再び勢力を盛り返しこの街に君臨しようとしているのです」

「なに……ロドリゲスが……。そうか。それで俺を……わかった。ここは俺の好きな街だ。どうやらもう一度、俺のコルト・ローマンを抜く時が来たようだ……」

「あ、ありがとうございます!」


 翌日、俺は相棒のコルト・ローマンと共にロドリゲスの根城であるコンノートプレイスへ向かった。10年前、奴の左眼を打ち抜いて勝負をつけたはずだった。だが、今度はそれだけで済ませることはできないだろう。
 おそらく、どちらかが死ぬことになる。
 不謹慎かもしれないが、命をかけた闘い程楽しいゲームはない。もちろん俺だって死ぬのは怖い。しかしその恐怖をもしのぐほど、体の底から熱いなにかがこみあげてくるのを感じる。
 10年前と変わらない喧噪の中を、変わってしまった俺が歩いている。なんだかデリーに笑われているようだ。「ガキだったおまえも、しばらく見ないうちにいっちょまえになったじゃねえか」と。
 しばらく支配人の案内通り進むと、とある雑居ビルが見えてきた。
 ここがロドリゲスのいるビルか……。


 ……。


 これ、面白いんだろうか。










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