カシャ  カチッ
オレはスピーカーのスイッチを叩き切り、部屋の電気をつけまくった。


「これはシャレになりませんって!!!!大体なんでこんなの持ってるんですか!!!!!一人旅に必要ないでしょうがっ!!!!」


「今更何を言ってるんだよ・・・。最初ノリノリだったくせに・・・。」


「アフリカで聞けば笑って聞き流せるかと思ったけど
やっぱり怖いものは怖かったんです!!!!!」



 隣の日本人宿の誕生パーティに対抗して、稲川淳二の恐怖体験鑑賞会を開催したオレと福さんだったのだが、残念ながら鑑賞会は最初の1話で閉会することとなった。はっきり言って稲川淳二をなめていた。真剣に聞くと
半端じゃなく怖い。
 そしてもちろんその夜は寝付けなかった。トイレも我慢した。そして和気あいあい拒否症候群に罹っている自分の運命を呪った。月明かりに、頬を伝う涙がキラっと光った。

 翌日。
 ついに旅を再開する時が来た。盗難事件から4日が過ぎたが、再発行手続き、ビザ取りなどやらねばならないことが全て終わった。今日、やっとオレの旅が元通り(金は無いが)になる。よーし!復帰だ!!
 3日間寝食を供にした福さんと別れ、ハラレの街へ繰り出す。
 とりあえずここを出る前に、今後のビザ取得に備えて証明写真を撮っておくことにした。やはりハラレは首都、都会だけあって、日本にあるような証明写真用のボックスがあった。撮り方もほぼ同じ。金を入れて撮影すると、しばらくすると脇の取り出し口にストッと写真が落ちてくる。ただ一つだけ日本の機械と違うところは、日本ならこの後自動的に温風がブオーーッと吹いて写真を乾かすようになっているのだが、ジンバブエでは、
←乾かし役の人が手動でパタパタやって乾かすということだ。(右手でオレの写真をパタパタやっている。)
 この人、街角アンケートに答える時の職業欄はどうしているのだろうか?「職業:写真パタパタ」か?いや、そんなことより根本的にもっと
機械とこの人の役割分担について考える必要があるのではないだろうか・・・。

 バス停に向かうまで結構歩くのだが、ハラレはガソリンが不足しているにもかかわらず車の通行量が多い。そして、日本車(中古)が多い。こういう所でも日本製品が重宝されているということは非常に喜ぶべきことである。普通車も多いがバスなどにも使われているものもあり、中には日本で使用していた時の用途がとてもわかり易いものもある。















ジンバブエの道路風景






間違っている。

激しく間違っている。




 こんな幼稚園児の面倒を見る保母さんはとても苦労しそうだ。
せめて輸出する時に文字を消してやろうというお情けをかけることはできなかったのか??それともこれは本当に保谷幼稚園ジンバブエ分校の送迎バスなのか??しかし乗客は園児にしては体ができあがっている。

 バス停に着いた。ここから向かう場所は、マシンゴだ。再びあの忌まわしい犯罪の行われた場所へ戻るのである。オレは忘れない。あの時マシンゴセントラルポリスステーションの警察官であるジノエラに言われた言葉を。



ジノエラ「グレートジンバブエ遺跡に、預言者のばあさんがいるんだ!!彼女に頼めば、犯人を占ってくれるかもしれない!!!」


女主人「そうよ!たしかにそうだわ!!あなた預言者のとこに行ってきなさい!!きっとあなたの金がある場所も教えてくれるはずよ!!!」



 知っているというのなら教えてもらおうではないか。
 その預言者とやらに聞けば、犯人がわかるんだな?オレの金のある場所がわかるんだな??言っておくが、被害者を前にしてあんまり適当なことでも言おうものなら、
いつにも増して激しいツッコミをするぞ。
 預言者のばあさんはグレートジンバブエ遺跡にいるという。まさにオレが遺跡に行こうとしていた朝に盗難事件が起きてしまったため、遺跡観光もまだしていない。これは観光もできて犯人も見つけられて一石二鳥である。
 再びアフリカ式おんぼろバスに乗り、ハラレを後にする。そういえば来る時は
鳥ざんまいで散々な目にあったこのバスだったが、今回はどうも大丈夫そうだ。そもそもバスというものは乗客を目的地に運ぶためのものである。乗客を怪鳥と戦わせたり、脱走したヒナ鳥を捕まえさせるためのものではない。そこの所を気をつけてもらわねば困る。
 幸いなことに、今度はしばらく走っても、怪鳥もヒナ鳥も乗ってくることはなかった。このまま平穏に進めばいいなあと思っていたら、なぜかバスが突然道端に停車した。どうしたんだ?ドライバーの休憩か?わけがわからないまま様子を見ていると、他の乗客が一斉に降り始めた。何が起こったのだろう。とりあえずみんなが降りていたのでオレも降りた。近くにいたおっさんを捕まえる。



「あのー、すいません、何でみんな降りてるんですかね??」


「あー、バスがぶっ壊れて、もうダメみたいなんだ。


「ふーん。」



 そうか。もうダメか。
 ・・・いやダメって言われても。バスだろ?怪鳥とつつき合ってもヒナ鳥の面倒を見てもいいから、バスらしくせめて目的地に着け。オレはハラレのバス停でこれがマシンゴ行きのバスということを聞いて乗ってきたのだが、これからは「マシンゴに行くかもしれないバス」とちゃんと表示を変えてほしい。
 結局その場で1時間ほど待ち、通りかかった次のマシンゴ行きのバスに拾ってもらう。そして今回は壊れることなく、無事マシンゴに着いた。あー、よかった。いや、
当たり前だ。
 再び、4日前と同じあの宿をとる。あの時は一人でダブルルームに泊まっていたのだが、今日は予算の関係上多人数部屋であるドミトリーに泊まることにする。チェックインし、しばらくすると女主人がやってきた。



「ハーイ、ひさしぶりね。」


「ひさしブリーフ!」


「ちょっと、なんでドミトリーに泊まっているのよ?」


「なんでって、あんたもオレが全財産盗まれて貧困に陥っているのはよく知ってるでしょうが!!」


「だからって、鍵の無いドミトリーに泊まるのなんて無用心よ。ちゃんと鍵つきの部屋があるんだからそっちに泊まれば?」


「いや、結構です。今となってはそんな贅沢できないんで・・・。」


「そう・・・まあしょうがないわね。」



 そう言って女主人は去っていった。たしかに彼女にとってみればもう盗難騒ぎなんてごめんだろうが、いくらドミトリーは無用心だと言われても説得力が無い。なにしろ、オレは
その鍵つきの部屋で思いっきり盗難に遭ってるんじゃーーっ!!!!この宿の部屋の鍵が信用できないことを世界で一番見にしみてわかってるんじゃーーーーーっっ!!!!金をたくさん出しても結局危険度が変わらないなら安い方がいいに決まってる。
 その夜は貴重品を全て抱いて寝た。





今日の一冊は、小学生時代の私がドハマりした ズッコケ心霊学入門 (こども文学館 23 ズッコケ三人組)






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