〜グレートジンバブエ遺跡〜





 朝方、バックパックにつけていたダイヤル式の鍵を開けようとしたのだが、なぜか番号をあわせても開かない。オレの鍵番号は677なのだが、正しく677にしても、ちょっとずらして677と8の間とかにしてみても開かない。なんでオレの身の回りにはこう次から次へ問題が起こるんだ?この問題の絶えなさ具合はまるで昭和の学園ドラマだ。しかし学園ドラマと違うところは、オレの旅はドラマのように
最後は必ずハッピーエンドになるとは限らないというところだ。

 自分のカバンをなぜか自分で開けられないという苦境に立たされ、早速今日の予定も狂いかけてきた。前回ここに泊まった時は鍵を
他人に全て開けられ、そして今回は自分なのに鍵を開けられない。この宿は呪われているのか?毎回オレだけが被害にあっていることを考えると、きっとここにはオレの秋のモテモテメイクをねたむ自縛霊でもとりついているのだろう。
 まあ霊の仕業でも昔の彼女の怨念の仕業でもどっちでも構わないが、とにかくこれが開かないと困る。いや、困ると一言でいえるレベルの困り具合ではない。これから数ヶ月を生き抜くための旅行用品全てこの中に入っているのだ。最悪鍵かバックパックのどちらかを破壊すれば中身は取り出せるのだが、そうした場合それ以後は
人間なら誰でもオレの荷物の中身を取り出せることになる。しばらく解決方法を探ってみたのだが、年少の頃より推理小説に非常に親しんできたオレがたどり着いた最後の手段は、これだった。

 000、001、002、003・・・。000から999まで
1000個全ての番号を試す。かなり根気を要する作業だが、安全にこの状況を乗り切るにはこれしかない。そうして000から100くらいまでは快調に進んでいったのだが、次第に指は震え、頭には血管が浮いてくる。しかしここで負けてはダメだ。番号がわからない以上は、全ての組み合わせを試してみるしかないのだ。あせらずとも、ちゃんと1000個のうち1個は確実に正解の番号なのである。

・・・。
オレは泥棒か??
 なんで自分の鍵を開けるのに1000パターンの番号を試さなければいけないんだ・・・。どう考えてもこれは通常持ち主が鍵を開ける方法ではない。だがあきらめずに根気よく試していると・・・、カチッ。開いた!!開いたぞーっ!!!気分はピッキング犯。数字を見ると、486のところだった。677がいつの間にか486に。もしかして、この鍵は強盗が持ち主を脅して番号を聞きだしても開けることが出来ないように、自動的に暗証番号が変わるように出来ているのだろうか?それはかなり効果的な防犯機能だが、必要ない。毎回こんなことをして鍵を開けていたら、盗難のテクニックがかなり上達するだろう。・・・それ、いいかも。

 さて、めでたく鍵が開いたところで、ついにグレートジンバブエ遺跡を目指して出発することにする。本当なら1週間前に既に行っているはずなのだが、その時は遺跡観光の代わりに警察で事情聴取を受けるハメになってしまった。しかし今日こそは、遺跡に住むというフォーチュンテラー(予言者)に会い、あの
ジンバブエ犯罪史上最悪と噂される程でもない盗難事件の犯人と、金の在りかを教えてもらわなければならない。
 バスステーションでそのヘンにいる大人や子供に見境なく聞きまくり、遺跡の近くを通過するバスを見つける。遺跡へは1時間ほど走ったところで降り、そこから徒歩で向かわなければいけないらしい。運転手に向かって「グレートジンバブエ!!」と叫び続け
グレートジンバブエ好きをアピールしていたおかげで、降りるべきポイントまで来ると彼は親切に教えてくれた。
 バスを降りると、辺りはやや暗くなっていた。前方にはドス黒い雨雲が見え、時折雲の中を稲妻が走っているのが見える。今から予言者に会いに行くという時に、これはかなりムードが出ている。たしかに完璧に晴れ渡った日に太陽の下で予言者に会うのは、
お見合いの席で隠語連発くらいムードがない。それはムードとかの問題ではないかもしれないが。
 誰もいない山の中の長ーい小道を30分ほど歩く。ちょっとイヤな道だなと思っていたら、案の定道端に
「野生動物に注意」の看板が。アフリカでこの看板はシャレにならん。おそらくここで指している野生動物というのは、リスやタヌキではないような気がする。多分もうちょっと大きい、食物連鎖でもトップに君臨しているとてもお強い動物達だろう。
・・・。
どう注意すれば??
 そういう看板は
ぜひ道に入る手前に立ててくれと言いたい。ここまで山の中に入ってから今更注意しようにも、自分をおいしく見せない方法など知らない。それとも、木の枝を何本か切り取って、茂みの後ろに隠れてこそこそと移動でもした方がよいのだろうか??だがそんなことをしても背後はガラ空きだ。






 「いや、多分この看板は
ジョークなんだろう。ハハハ、まったくセンスないなあ(号泣)!!」と自分をごまかしながらもいつの間にか恐怖心から猛ダッシュになり、なんとか食物連鎖に組み込まれずに小道を抜けると、遺跡の入り口が見えてきた。柵の手前に係員なのか原住民なのか知らないが、何人かの黒人がたむろしている。



「すいません、ここにフォーチュンテラー(予言者)がいるって聞いて来たんですけど。今ご在宅でしょうか??」


「あー、予言者のばあさんなら向こうの山の中の村にいるよ。」


「そうですか。どうも。」



 やはり予言者はここにいるようだ。本当に彼女は、オレの金が今どこにあるのかを言い当てることができるのだろうか?もし本当にフォーチュンテラーのばあさんがズバリそれを予言し実際に金が見つかったとしたら、
きっと彼女が犯人なのだろう。ちなみに彼女はその他にも人の未来を予言することが出来るらしいので、オレの今後のバラ色の人生についても占ってもらおうではないか。

 しかしばあさんの住む集落はかなり離れたところにあるらしい。とりあえず、せっかくなので村までは遺跡観光を楽しむことにする。
 だが、期待していたもののグレートジンバブエ遺跡には、見るものは
石しかなかった。かなり拍子抜けである。小学生の息子が学校で賞を取ったと聞き喜んでいたら、それががんばったで賞だったことが判明した時の教育ママの気持ちである。もちろん子供のやる気の芽を育てるためにも、それでもちゃんと褒めてあげなければならない。
 どんな昔のものであろうと、いにしえの○○王国の遺跡であろうと、石は石であった。グレートジンバブエ遺跡は、
清水アキラの物真似のようにあまりにも原型をとどめていないため、見ていても何の感動もなく、そのせいかオレの他には数人の現地民以外観光客は全くいなかった。たしかにこのくらいの石の積み重ね具合で観光地になれるのなら、オレの浜松の祖父の家にも世界中から観光客が来るはずである。

 なんの面白みもない石また石に睨みをきかせながら歩いていると、





チョロチョロ





    ぬあーーーっ!!





爬虫類だ!爬虫類!!しかも学生らしくない華美な服装!!!
助けてくれ。
 正直言って、オレは前世が
ヤマタノオロチに生け贄に捧げられた村の娘だったのかと思うくらい爬虫類が苦手だ。爬虫類よりも桜樹ルイの方がずっと好きだ。なにしろ「長い物には巻かれろ」という諺を聞いただけで鳥肌が立つほどなのだ。旅行するのなら爬虫類とか虫とかが絶対いない場所がいい。しかし幸いなことに爬虫類の方もオレが嫌いだったようで、彼はオレの姿を見かけるとすぐにコロコロと逃げていった。

 さて、そんなことをしているうちに、頭上にはどんよりと雨雲が漂い、もういつ降ってきてもおかしくない状態になっていた。急ぎ足でフォーチュンテラーのいる村へ向かおうとしたのだが、その前にここでオレは信じられない体験をすることになる。自分自身今でも本当だったのか怪しんでいるが、しかし、信じて欲しい。これを読んでいるみんな、そしてオレ。
これは本当だ。

 山の中の草地を村へ向かって早足で歩いていたオレは、ついに雨が落ちてきたのに気付いた。前方の木や草が雨に打たれ、濃い色に変わっていくのが見える。パラパラという感じではなくかなり激しく降っており、ザーザーという強い雨特有の効果音が聞こえる。
 しかし、オレはちーとも濡れていなかった。髪は
秋のサラサラヘアーのままだし、ミニリュックも服も靴も心も相変わらず乾ききっている。つまり、雨が降っていないのだ。だが雨は降っている。おかしな日本語だ。だが確かに激しい雨音がしまくっているし、目の前の草は完璧に雨に打たれているし、なによりも今眼前で雨粒が大量に上から下に降っているのが見えているのだ。一体どういう現象なのだろう??
 そこでふとある予感がしたオレは、まさかと思ったのだが、念のため腕を前方に差し出してみた。

すると・・・。
バチバチバチバチ!!
思いっきり雨に打たれた。

 このことから結論付けられる状況はただ一つだ。オレは今まさに、
雨が降っている場所と降っていない場所の境目に立っているのだ。しかも、シトシト降り始めではなく、ザーザー降りとの境目なのだ。さすがにこれはお天気情報の森田さんもびっくりだろう。勿論森田さんよりオレの方がびっくりだ。限りなく貴重な体験なのだが、ある意味「おまえそれ絶対作っただろう!!」と言われそうな、持っているだけで運が良くなるというなんとかストーンの使用者体験談のような信憑性が低い話である。
 この場所の今の天気は一体なんと表現すればいいのだろうか。晴れでもあり、同時に雨でもある。おそらく今朝の天気予報では、「今日のグレートジンバブエ遺跡は、
晴れで雨でしょう。」と言っていたに違いない。しかし狐につままれたような、不思議な体験であった。まあさすがに本当に狐につままれたほど不思議ではなかったが。
 実際雨の境目に立っていられたのは10秒ほどで、その後すぐにオレはずぶ濡れになった。しかし目指す予言者の村はすぐそこだ。オレはあの事件の犯人と、金のありかがわかるかもしれないという期待
とは別の意味の期待に胸をふくらませ、山道を進んでいった。





今日の一冊は、魔の断片 (Nemuki+コミックス)






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