〜ゴア〜





 インドで出歩く時に注意しなければいけないことは、騙しやボッタくりの被害に遭わないということが第一だが、しかしそれとは全く別件で、時には気をつけないと
こちらが傷害の加害者側に回ってしまうこともある。というのも、インドの路上には人間やノラ犬がたくさん落ちている。特に夜などは、地面を凝視して歩かないと確実にインド人や犬を踏むことになるのである。特にこのムンバイはひどく、夜道を歩いていると足を着地する直前にその下に人間がいるのに気付き、「ぎゃおおっっ!!」と叫びながら慌てて飛びのくということが何回もあった。慣れてくるとうまく踏まないように歩けるようになるのだが(なんじゃそりゃ……)。
 どちからというとまだ犬は「寝ている」というように表現できる格好をしているのだが、インド人は本当に「落ちている」という言葉でしか表せないような、
死体だけど生きているというようなものすんげー落ち方をしている。普通の寝方ではなく、立っている人を後ろから突き飛ばしたら倒れてそのまま動かなくなったというような体勢で地面に転がっているのである。いや、実際死んでるのか……?? いや、夜は死んで、朝になったら生き返るのだろうか。インド人ならやりかねんぞ……。
 本来落ちているものは拾って警察に届けるべきだが、これらはいくら待っても
持ち主が現れるわけがないので、もし届けた場合その落ちていたインド人はしばらくしたらオレのものになってしまう。なんてうれしくないんだ。そういやエチオピアのトイレでも同じようなこと書いたな……。
 路上や公園はもちろん、電車の駅にもインド人や犬が無数に落ちているのだが、いちいち拾得物として扱っていたら駅の拾得物保管所は
インド人と犬が暮らす養護施設になってしまうため、死なない限りは拾われることがなさそうだ。それにしても、日本では小泉政権が格差社会を作り上げたと非難されているが、このインドを見てしまったら日本人の間の格差など桃太郎電鉄の開始1年目程度のわずかな差にしか感じられなくなる。もしインド株に投資している人にこの現実を見せてあげたら、すぐに証券会社に電話して全持ち株を投げ売りしようとするのではないだろうか。

 さて、上記のことは昨夜思ったことであり、時は経過して今日はムンバイを出て南に電車で数十時間、いよいよ本格的な南インド、ゴアへ向かうことにした。ゴアといえば知る人ぞ知る、ドラッグとトランスの聖地であり、インド随一のビーチ。
まさにオレのためにあるような町だ。オレのように普通の火遊びじゃ満足できないワルには、ドラッグとトランスの聖地がお似合いなんだぜ……。トランスってあれでしょ? トランクスの短い奴でしょ?? あ、ちがうか……派遣会社のトランスコスモスのことか……。
 ゴア行きの電車の中でも相変わらず通路には
子供やばあさんなどが落ちており、車内販売のコーヒー売りのおっさんはこの暑いのに買え買えとしつこく、おやつの食べ残しやバナナの皮やプラスチックのコップなどが床に散乱し、じいさんの物乞いが通りかかったと思ったら次は小さな女の子が手製のカスタネットを打ち鳴らして歌いながら座席を回り、いずれもしぶとく居座って乗客に金を出すよう要求、各地で小競り合いが発生している。
 いやあまったく……、
おまえら静かにしろよっっ!! 移動中なんだから少しは落ち着けんのかっ!!! オレの周りで混沌とするんじゃねーよ(涙)!!! 頼むからもうちょっと車内のマナー向上を目指してくれっ!!!



「ね、ねえドクター、なんでインドの人たちはゴミを平気であちこちに捨てるの?」


「そうだなあ、インド人はマナーを学ぶ機会がなかなか無いんだよ。たしかに大人も子供も誰でもポイポイごみを捨てるからな。でも、オレも捨ててるんだけど! ワーッハッハ!!」 バシ! バシ!


「痛い! いたいって!!」




 隣に座っていた自称医者のおじさんにゴミの件について聞いてみると、「オレも捨ててるんだけど!」と爆笑しながら持っていた雑誌でオレの手足をバシバシ叩いてきた。いたい、やめてっ、
ああ〜〜もう混沌はイヤだ〜〜(号泣)。くそっ、だいたい、なんでホームに牛がいるんだよっ!!! バカヤローッッ(混沌に対して)!!!!





 ……ということで、いよいよゴアに到着した時、
オレは疲れきっていた。


「ヘーイ! ジャパニーズ! ゴートゥービーチ??」
「フェアードゥーユーゴー!?」
「アンジェナビーチ? ユーニードガンジャ??」
「レッツゴー! カムトゥーマイタクシー!!」



 うるせ〜
あーうるせ〜〜〜マジでうるせ〜〜〜〜。タクシーに乗るのも面倒くせ〜交渉するのも面倒くせ〜〜。息をするのもめんどくせぇ〜〜〜ゲイラ様のマネ)もういやだ。オレを1人にしてくれ。おまえら……、リーブミーアローンっ!!!

 オレはさんざん色んなものにケチをつけた後で、声をかけてきた客引きのタクシーでビーチ近くの宿へ連れて行ってもらった。結局、大人しく客引きに頼るしか仕方ないのさ。見知らぬ土地なんだから……。へっ(涙)。

 海の見えるムーディな部屋にチェックインした後は、早速ビーチへ繰り出すことにした。海を見てしまったからには、さすがに部屋の中でじっとしているわけにはいかないぜ! やっぱりオレって根っからのサーファーなんだな……。今日の移動でのイライラを、全て太陽の降り注ぐ砂浜へ埋めてやるぜ。インド随一のリゾート、インドの中にありしかしインドとは全く違う、南国のリゾートであるこのゴアで何もかも忘れて開放感に浸るのだ。
 ほら。
ほらほらっ!! ヌーディストだっ!!! あの女の人、下の方しか水着つけてない!!! やったーーーー(歓喜)!! うおーーーーーっ!!! 今行くっ!! 待ってろおおおおおおっっっっ!!!!!!!





 
おえ〜〜〜〜〜〜っ。





 
お、おばさんだ……50は下らないと思われる白人のおばさんだ…………(号泣)。垂れている……変形している……熟しきっている……。
 ま、まあそれでも、少なくともこういう光景があるということは、ここがインドの中の欧米、いかに
通常のインドとは全く違う安息の地かということを示しているではないか。そうだ。ともかく、ゴアは、ここは決してインドなんかじゃないんだ!!! ここならばインドを忘れられるんだ!!



「バクシーシ……バクシーシプリーズ……プリーズ……アイアムハングリー……」



「えっ、いや、あの、ちょっと……」


「マネー、マネープリーズ……マイソンイズシック……ヒーウィルダイ……」



 な、なんでビーチにばあさんの物乞いが……。なんかこのクソ暑い中砂の上を歩き回ってかわいそうだな……息子が病気で死ぬって言ってるし……まあちょっとだけあげようか……はい、小銭。
 さーて、気を取り直して!! ディスイズビーチ!! ここは決してインドなんかじゃないんだ!!
 ここならば、インドを忘れられるんだ!!! 










 あっ、ノラ犬が……













 ああっ、ノラ牛が……


























 
インドを忘れられない(号泣)。








 違う……ここはリゾートなんかじゃない。ノットリゾート、バットインドだ(涙)。印度だ(泣)。というか淫怒だ。


 ……なあそこの牛。教えてやるけどなあ、
牛って普通ビーチにいるもんじゃないんだよ。一般的な牛は、牧場とか農園にいるもんなんだよ。おまえ以外はみんなそうだぞ? わかったら帰れっ!! ビーチに牛が不釣合いだということくらい、いくら牛でも考えればわかるだろうがっ!!!

 ビーチにノラ牛って、いったいどこで産まれてどこで育ったんだ?? 
普通ビーチで牛が育つか?? 草食動物なのに。漂着するワカメでも食っているんだろうか?? まあブクブク太ったトップレスの白人おばちゃんもある意味ノラ牛みたいなもんだから、あまり牛だけを責めるわけにもいかないけどさ……。でも牛も泳いだりするのか? もしかして、この牛は普段デリーあたりに住んでいるノラ牛で、有休を使ってゴアにバカンスに来たのだろうか?? もしくはドラッグをやりに来たのだろうか??

 まあしかし、日本では必ず週に3日は湘南や茅ヶ崎に出没する
生まれながらのサーファーであるオレとしては、ノラ犬やノラ牛やノラインド人に惑わされている場合ではない。なにしろこの旅でまともなビーチに来たのは2回目、マラウィ北部のンカタ・ベイの町から行ったチカレビーチ以来である。しかしチカレビーチのあるマラウィ湖には人間の肌を食い破って体内に侵入する住血吸虫がウヨウヨ棲んでおり、残念ながら水に入ることができなかった。
 ……いや、それを踏まえて考え直してみると、
この旅でまともなビーチに来たのは今回が初めてだ(涙)。
 とにかく、生まれながらのサーファーとしては海に来て水に入らない手は無い。ただこの辺には特に脱衣場やロッカールームが無いので、まず宿の部屋で水着に着替え、そのまま上半身裸の海パン姿でビーチへ向かうのだ。
 いやっほーっ!! 海外で初めて泳ぐことができるぞ! 見ろ、このマリンスポーツで鍛えられたたくましい筋肉。こんもりした下半身そしてビキニライン。オレのじいちゃん、ブラジル人。
でもそんなの関係ねー!! そんなの関係ねー!!! 本当は海なんて入りたくないでもそんなの関係ねー!!!

 あやああああ〜〜〜〜〜〜〜〜っ(歓喜の叫びをあげながら海に侵入)!!!

 あはっ! うほっ!! あひゃひゃひゃっっ!!!
 バシャンバシャン



 ……。



 うひゃっ! わひゃっ!! バシャンバシャン



 ……。




 あはっ……。あ〜あ(笑)。


 
……あの、ビーチに来て海に入ったら、一般的にはそれからどのようにして楽しめばいいのでしょうか? とりたてて、入水したら次にやることが見当たらないんですけど。
 泳いだりするの? いや、でもなんだか波が高いし、そもそも目標もなしにただ泳ぐのもなんか……しかも1人だし……海水が目に入ったらイヤだし……。
 うーん。
 とりあえずなんとなく、オレはしばらく仰向けの状態で後ろ手に砂浜に手を付き、
体を支えて顔だけ出してクラゲのようにプカプカと浮いていた。そして浮くのに飽きると今度は波打ち際に横になって、打ち寄せ引いて行く波にあわせてゴロゴロ転がって遊んでみた。
 しーん……。
 
おもしろくない(涙)。なんだよ、ビーチなんて全然おもしろくないじゃないかっ!! 海水はベトベトするし目は充血するし犬は寝てるし牛は歩いてるし!! なんだこんなもんっ!! ……よく白人観光客とかこんなことするためにわざわざビーチに来るよなあ。どういう感覚をしているんだ!
 うひょおっ!! さむ、寒いっ!!! あーもういやだ。冗談じゃない。早く帰ろう。

 オレは10分ほどでビーチ遊びを切り上げ、
白い裸体を晒し両腕を擦って「おーさみーー」とブツブツ呟きながら、貧相な姿で宿へ帰った。
 おかしいなあ……。噂によると、
ビーチは楽しいはずなのになあ。だってガイドブックにもビーチを持つ都市は優先して記載があるし、たいていの観光客はビーチとかリゾートに喜んで行くそうじゃないか。何が足りないんだ? なあ、オレのビーチ遊びに足りない物は何だったんだ??

 ……あれか。
 
いつものやつか。
 はいはい、
彼女ね。わかったよ。わかってるから、もうそんなこれ見よがしに指摘しないでもいいよ。うるさいよ。そりゃそうだよな……そりゃ、男1人じゃ楽しいわけないよな……。もしもオレが今1人ではなく、仮に井上和香似のグラマーな彼女と一緒に旅行をしていて、そしてこの部屋で2人で一緒に水着に着替えてビーチに行くんだとしたら、ビーチなど行かずとも部屋で着替えをしている時点で興奮して彼女に襲い掛かるだろう。そしてそれで満足するのでもうビーチには行きたくなくなるだろう。
 ……そう考えると、
やっぱりなぜ旅行者が皆ビーチを好むかというのは、いくら考えてもオレには全く理解できない謎である。
 
なんでゴアなんかに来たんだろう……。


↓なぜそこにいるのか






今日の一冊は、

面白いと言うよりは、これが無ければ旅が成り立ちませんでした

地球の歩き方 インド 2015〜2016




TOP     NEXT