〜デリー4〜





 小沢健二「カローラIIにのって」のメロディーに乗せて

 オートリキシャにの〜って〜 買い物に出かけ〜たら〜♪
 旅行会社で降ろされ〜 
そのまま監禁〜〜♪




 …………。




「ジャイプルに行くんだろ? うちなら運転手とガイドつきで3万ルピーで手配してやるぞ?」


「あのー、何度も申し上げている通り、僕は一応バックパッカースタイルなのでガイドはいりませんし、トレインやバスなどの公共交通機関を……」


「デンジャラス!! お〜まえはなんて無謀なやつなんだ! この危険極まりないインドで電車に乗ろうとしているとは!! 死にたいのか!!」


「死にたくないです!!」



「ではツアーを組んであげよう」


「ツアーか死ぬかどっちかしか無いんですかっっ!!! 生きながらツアーも組みたくない!! 特にインドの旅行会社では!! とりわけこの会社では!!」


「ヘイヘイ、何言ってるんだ! ここはガバメントのカンパニーなんだぞ? 信用できないわけがないじゃないか」


「あのー、本当にここはITDCなんですか?」


「イエス!!」



 ……説明しよう。ITDCというのは、デリーで唯一信用できると言われている、政府運営の旅行会社のことだ。おかげでデリーには「ITDCに案内してやるぞ!」と言って旅行者を騙し、似たような名前のニセ旅行会社に連れて行き監禁する悪徳通行人やリキシャドライバーがウヨウヨ泳いでいる。まさに今この時のように。
ああ面倒くさい。



「じゃあ、ビジネスカード見せてくださいよ! 本物ならちゃんとITDCって書いてあるはずでしょ!」


「もちろんさ! ヒアーイットイズ。ルックアットディス!」


「ほおー。たしかにITDCって書いてあるけど、なんかITDCの前にWがついてwITDCになってますけど……


「…………」


「もう一度聞きますが、本当にここはITDCなんですか?」


「イエス! ここは、wITDCだ!!」


「だからwが不要だろうがっ!!! どのへんがイエスなんだよっっ!!! 問いに対して明確に答えろっ!!!」


「わかったわかった。じゃあ証拠を見せてやろう。ちょっと2階に来てみろよ」


「なんだよ。何を見せるんだよ。警戒するよ僕は?」



 先導して階段を上がって行くオヤジの後を、オレは
クリケットバットをいつでも振り回せるように準備しながら(常に持っている)、慎重について行った。しかし、特に2階には誰もおらず真っ暗である。すると、電気をつけながらオヤジが言う。



「ほら、見てみろ! ちゃんとしたオフィスだろう!」


「はい」


「……」


「……」


「……じゃ、戻ろうか


「待って!!! 何を見せたかったの!? わざわざ階段を上がって何をっ!!!」



 ……オレは、
おっさんの後をついてまた1階に戻った。ただオフィスの2階部分の雰囲気を見せられただけで。
 多分、ここでオレが
「ちゃんとしたオフィスを持っているくらいだから、きっとここはニセモノじゃないんだろう」と思ってやるのがオヤジが求める正解のリアクションなんだろう。でも、特にまともなオフィスも持って無いような、そんなニセモノらしいニセモノも今時少ないんじゃ……。そんなとこじゃ旅行者を騙せそうもないし……。



「もし3万ルピーが高すぎると言うなら、運転手だけの手配にすることも出来るぞ。それなら7000ルピーだ」


本物のITDCかどうかという件は勝手に解決済みにして話を進めていますよねあなた……。なんにせよ、まあホテルに帰って考えてみますよ」


「ホテルってどこのホテルだ。どこに泊まってるんだ!」


「どこにって、それをあんたに言わなきゃいけない義務など無い」


「考えると言ってもう来ないつもりだろう!! 本当に考えるんならホテルの名前くらい言えるはずだぞ!!」


「はいはい、メインバザールのパレスホテルですよ(もちろんウソ)」


「何号室だ!!」


「えーと……、105号室(適当)」


「じゃあもし来なかったらホテルに電話するからな!」


「考えるって言ってるのに何で来る約束をしなきゃいけないんだよっ!! まあいいよ、電話でもなんでもしてくれよ。もう帰る」



 オレはもともと臆病な上に、ここではオヤジの目に憎しみの色を感じたため、とりあえず後ろを見せないように
カニ歩きでバットを握り締めながらドアに向かい、オフィスを出た。そして外で店の名前をあらためてチェックすると、やっぱりwITDCだった↓。





 うーん。「やっぱりwITDCだった」って書くと「やっぱりw」でちょっと笑ってるみたいになるな……。
 ち、違うぞ。
そんなネット上の流行におもねった書き方をする人間じゃないんだよオレはっ!!! 絵文字なんか使うわけねーだろっっ!! 正しく美しい日本語しか使わないんだよ!! フザケンナッ(ノ`□´)ノ彡┷━┷!! ガッペムカつく!! ノ ヽ``┼┐!φ(・c_,・。) カキカキ

 しかしセコいぞ。なんといっても「w」の文字が小さく控えめになっているところが、わざと紛らわしくしているという意図がミエミエでいやらしい。この細かい誤魔化し方を見ると、こち亀の
フュラーリ テスタオッサンドナイシテマンネンを思い出す。でもwをいくら小さく書いたって、これじゃあ人間の視力でパッと見て十分認識されるレベルだろうよ。この表記でwを見落として騙される奴がいるのか本当に??
 外では、ここまでオレを乗せてきたリキシャのドライバーが涼しい顔で待ち構えていた。



「どうだい? いいツアーが見つかっただろう!」


「じゃかましいわボケエエエエエッ!! おまえ、ジャマーマスジット(という名の観光名所のモスク)に行ってくれって頼んだだろうがっ!!! しかも本物のITDCだってしつこく言うから親切心で付き合ってやれば、完全なるまがい物じゃねーか!!!」


「あれ? そうだっけ? 本物だと思ったんだけどな。ちょっと間違えたな」


「おい、今度はちゃんとジャマーマスジットに行くか? さもなくばてめーには1ルピーたりとも払わんぞ」


「オーケー。乗れよ。今度こそちゃんと信頼できる旅行会社に連れてってやるから」


「ざけんじゃねーぞコラアアアアアッッッ!!!! いい加減にしろよっ!!! あ〜、なんか体がなまってきた!! ブンッ! ブンッ!(クリケットバットで全力の素振りをしながら)」


「ま、待て待て。ジャマーマスジットに行くよ。行くから凶器をしまっておとなしく運ばれてくれよ」



 オレは再びデリーの
走る振り込め詐欺、オートリキシャに乗って、後部座席から運転席の背もたれをバットでガンガン叩き、「おめーもし次にまた旅行会社に行ったらインド人と刺し違える覚悟で暴れてやるからな〜覚悟しろよおい〜」と脅しながら、緊張感を持ってモスクへ向かった。
 え? 暴力的な脅しは良くないって?? いいや、これは暴力ではない。もし暴力だと呼ぶ者があれば、
出るところへ出てもよい。作者はそう思っていた(スクールウォーズより)

 そのジャマーマスジットというのは、インド最大の巨大なイスラム教のモスクなのだが、まあ
特にこれといって何も。とりあえずカメラに収めておこうと義務的に来てみただけだ。ただ、スーダンから始まってここまでイスラム教徒の方々が延々とオレの旅を助けてくれたことを思い出すと、デリーにもイスラム教の人がいるということに正義は滅びていなかったんだというある種の感動を覚える(涙)。
 ヒンズー教とイスラム教の共存というのは、ある意味
ゴッドサイダーとデビルサイダーの戦いである。まあ問題になるといけないから、ヒンズーとイスラムどっちがデビルサイダーかというのは言わないけど。宗教的なことってあんまり茶化さない方がいいからね。だからどちらかをデビルサイダーと言い切ることなんか絶対できないけど、ただ、ゴッドサイダーはイスラム教の方だということだけは言える。

 モスクの前の敷地を歩いていても、ここでは一大観光地にも関わらず特に悪い奴が寄って来ない。さすがイスラム教……。通常は北インドの巨大観光地に行くと、
今までの人生で出会った悪い奴の合計を上回る人数の悪人が一度に寄ってくるのに。
 このモスクの存在は、
不思議のダンジョンシリーズでいえば聖域の巻物であると例えたいところだが、でもきっとほとんどの人がわからないだろうし、オレがそんな子供向けのゲームとかをやっているようなマニアックな人間だと思われるともっとモテなくなる可能性があるので、例えない。そんなふうには例えない。……というか、別に不思議のダンジョンシリーズは子供向けじゃないぞっ!! 世代を越えて楽しめるゲームを作るため夜遅くまで身を削って働いている、チュンソフトのプログラマーさんに失礼だろうがっっ!!! この野郎!! なめんなっ!! ビターン!!(ビンタ)  いたい……(涙)。

 モスクの前には小さな公園があって、こちら側とは鉄の柵で仕切られているのだが、柵ごしに見ているとそこでは子供がたくさん集まってクリケットをやっている。ほほ笑ましい光景ではあるのだが、ふと見ると、バッターボックスに立っている子供がなぜか一人だけ
ズボンもパンツもはいていない。全裸ではなく、上はTシャツを着ているのに、なぜか下半身だけ思いっきりフリチンなのである。なんだこのマヌケな光景は……。

 パコーン!

 
おおっ、打った! フリチンくんがいい当たりの打球を!! 走っている!! Tシャツとフリチンのまま一塁に走っている!! 陳子と尻をプリプリ揺らしながらっ!!!

 フリチンくんはフリチンのまま一塁に到達し、
高揚感と下半身を一切隠さずにガッツポーズを決めた。うーん、なんていろんな物に得意気な表情なんだ……。
 というかちょっと待ってくれよ……。今さらだけど、あらためまして、
普通どっちかを選ぶんなら上が裸で下はパンツだろ!? どうして男のくせに胸を隠して性器を見せるんだよっ!!! クマのプーさんの真似かっっ!! かわいくないんじゃっ!!!
 まだこれが若い女性で、例えば上がワイシャツで下に何もはいてなくて、恥ずかしそうにワイシャツを引っ張って繁みを隠しているとか、そういう状況だったら
もう前科がつくことなど恐れずに興奮して飛びついちゃうかもしれないけど、男が下半身だけ見えていても単なるわいせつ物陳列罪である。陳列罪以上でもなければ、陳列罪以下でもない。
 とはいえ、
この格好の彼と普通にクリケットを楽しんでいるチームメイトの面々にフェアプレー賞を贈りたい。日本だったら絶対いじめられるだろうからな……。そういう点はインドの何でもありなところが良い方に発揮されていると言えようが、ただルール的に、彼が打者の時はバットを2本持っているということで反則にはならないのだろうか。片方のバットはまだ成長前で本領を発揮しないサイズだからいいのだろうか??



「アッ!! バットバット!! ワーギャーギャーワー!!」



 おおっ、
見つかった! 子供たちに見つかった!!
 そういえば、オレは買ったばっかの新品のクリケットバットを持っているんだった。一人のガキがオレを指差してなにやら叫ぶと、その場にいた全員が一斉にこちらに向かって走り、オレと彼らを仕切る鉄柵を次々とよじ登り始めた。フリチンくんもオレの目の前で柵を登り、
下からの絶好のアングルで微々たるイチモツを見せ付けてくれている。おまえ、今オシッコしたらバットで思いっきり殴るからな。

 さて、鉄柵を乗り越えこちら側にやって来たフリチンくんと愉快な仲間たちは、オレのバットに(股間のバットではない)まとわりつきしがみつき「ギブミーディス!」「ギブミーバット!」と叫んでいる。
 ……くそ〜、しょうがないなあ。こうなったらまあここは、
蹴散らして逃げるとするか。



「どけこりゃ〜〜〜〜っっ!! おまえら、欲しい欲しい言えば外人さんは優しくしてくれると思ったら大間違いじゃっ!!! 世の中そんな甘いもんじゃないんだよっ!!!」



「ギブミー、ギブミーバット……」


「ええい、邪魔だてするなっ! むうううん!!!」 バラバラ(子供が蹴散らされる音)



 オレは子供のためを思って
あえて厳しく臨んで甘やかさないようにし、そのままバットを大事に抱えてジャマーマスジットを後にした。こうやってデリーの子供には早いうちから「旅行者には声をかけても無駄だ」ということをわからせておかないと、大人になってから大変なことになるのだ。こっちが。

 帰りはそのままサイクルリキシャに乗ってメインバザールへ戻ったのだが、途中の道路脇でビニールシートをかけられて横たわっている大きな物体を見かけた。端から人間の足だけ見えていたので、
おそらく死体だったのではないかと思う。なんか、いつでも世紀末だよなインドって……(涙)。

 宿に戻ると、今度は
オレの部屋の前に従業員が転がっていた。
 ああもう、邪魔だなあくそっ!! まったくここは、
どういう宿なんだよ! と言いたいところだがもう最近このくらいのことは気にならなくなってるんだよっっ!!! くそ、普通の感覚を返せっ!!! こういうことをおかしいと思う普通の日本人の感覚をっっ!!!


↑オレの部屋の前に……


 尚、オレは昨日から宿を変わっており、初心を取り戻すためのこの宿は、1度目の旅で最初に泊まったブライトホテルである。インド旅行記のこの章だ。いやー、懐かしい。なああの時のオレ、3年後のオレはさあ、
相変わらず無職で彼女が出来てないよ(号泣)。

 じゃあ久しぶりに見てみよう。上の章のオチで使われた、あの真っ黒いトイレがどのようになっているのか。













↓当時 ↓3年後


 おお、
そこそこキレイになっている……。(そして明らかにカメラの性能も良くなっている)

 いやもとい、別に
奇麗になってはいない。これしきの状態をキレイだと言うのは、泥棒とストーカーを比べて、ストーカーは物を盗まないから善人だと言っているようなものだ。そんなのはとんでもない話で、ストーカーも極悪ならトイレも汚泥だ。ストーカーだ。このトイレはストーカーだっ!!!

 もちろん、今日もシャワーなしである。





今日の一冊は、

人物の内面の描き方が凄い

賭博堕天録 カイジ1




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