〜デルリ3〜








 このように、デリーは朝宿を出た瞬間から
いきなりなんやかや混沌としている。仮にも中国と並びアジア随一の経済成長で注目を浴びているインドの首都で、宿を出て最初にすれ違うのが牛である。
 まだ宿泊客からすればただ宿を出てすれ違うというだけだが、逆にここに宿泊しようと今日初めてやって来る旅行者からしたら、宿に来て
最初に出迎えるのが牛なわけである。これでは、「もしかしてこの宿は、スタッフも宿泊客も全部牛なのではないだろうか?」と不安を持たれても仕方が無いと思う。いらぬ誤解を招かないためにも、「わたくしどもの宿では、最初にお客様をお迎えする者こそ牛ですが、他のスタッフはだいたい人間です」という注意書きを掲げておいた方がいいのではないだろうか。
 とはいえ、この「パヤルホテル」の同宿の日本人の女の子は従業員に部屋に連れ込まれ襲われそうになったと言っていたので、
人間だから牛より安心かといったら決してそうでもないらしい。おまえら……、同じ人間として恥ずかしいんじゃっ!!! たしかにあの娘はかわいかったけど、オレだって妄想の中ピーーーー(自粛)けで我慢してるんだよっ!!! ムラムラするのはわかるけどなあ、それを我慢するのが人間の理性だろうっ!!! 本能のまま自由に行動して許されるんなら、オレが真っ先に襲ってるんだよっっ!!!

 ああ、動物がうらやましい……。

 えー、
そんなわけで、清廉潔白な男として世界的に名を馳せているオレは、益々の徳を積もうと道端の物乞いに一人100万ずつ渡しながらメインバザールを歩いた。
 朝昼兼用の食事のために手ごろで清潔な食堂を探していると、↓こんなメニューが出ている店を見つけた。※朝昼兼用といっても「アサヒる」兼用という意味ではなく、特に捏造などはしていないのでご注意ください。

 さて、気になったのはこの看板である。



 このメニューは、外国人旅行者の客を見込んで英語と日本語両方で表記されているのだが、なんだか日本語の部分を見ているとそのいい加減さに非常に力が抜けてくるのだ。
 ……え? 
そういうヘンな日本語に意地悪くツッコミを入れるコーナーは、もう中国の看板でやったじゃないかって? …………。うーん、そうだったっけ。もうやったっけ? じゃあさ、1回やった企画は同じサイトでは2度と使っちゃいけないというのはさあ、何ていう法律の第何条の何項に書かれているんだよテメエっっ!!! だいたい、中国のやつだって似たようなことやってる他のサイトの企画を真似してるだけなんだよっ!! もともとオリジナリティなんか無いんだから今さらゴタゴタ言うんじゃねえっっ!!!!

 ということでみなさん、ここでは昔のことなど忘れて、新たな気持ちで看板に向き合おうではありませんか。ほら、
よく言うではありませんか。「初心、忘れるべからず」と。
 では気を取り直して……。

 ……わあっ!!
 なんかこの看板、
とっても新鮮な感じの、おかしな日本語のメニューが書かれているよ??
 まず、左側半分から見てみよう。そうだ。見てみようよ。




 フライドヌードル、ごはん、やきめし、スープ、フライド・ポテト、ハソバーガー、オムVツ、パVケーキ。まあ、左側という
ネタフリの位置にあるだけに、まだそれなりにまともな状態である。
 ただ、ごはんの後に丁寧に(GOHAN)と付け足されているが、
結局どっちも日本語じゃないか。オムレツの後にOMULETUという括弧書きをつけることにどれほどの意味があるのかということを問いかけたいところだ。尚、オムレツがオムVツになっており、つまり「レ」を「V」と表記しているわけだが、それならばパVケーキはパンケーキのことではなくてパレケーキ(ぱれけーき)ということになる。

 さらに右上のメニューを見ていくと、さすがナンで有名なインドだけにこのようになっている。



 ナソ、バターナソ、チーズナソ
(なそ、ばたーなそ、ちーずなそ)
 ンとソを間違えるのはありがちなことで、別に
誰を責めているわけでもないが、しかしぱれけーきと同じく、発音してみてしまうと妙におかしな感じがする。もしかして、この食堂の主人は2ちゃんねらーだろうか? 2ちゃんねるでは、よく「ン」を「ソ」に変えて、ある物のことをチソチソなどと書く場合があるのだ。
 まあチソチソが何のことを指すのかはここでは道義上
秘しておくとして、このパターンを別の食べ物に当てはめてみると、これまたインド料理の代表格であるタンドリーチキンはタソドリーチキソ(たそどりーちきそ)に、はたまた日本料理の急先鋒であるアンパンマンはアソパソマソ(あそぱそまそ)になる。
 しかしチソチソもバターナソもカタカナで書いているだけならそう違和感は無いかもしれないが、やはり「声に出して読みたい日本語」という通り、これらの日本語は
読み上げることに意義があるのだと思う。実際に発音してこそ、この言葉の面白みがわかってくるのではないだろうか。
 ではみなさん、今からこれらを声に出して、一緒に読んでみましょう。隣の部屋の住人や、お父さんお母さんに聞かれるかもしれないなんて余計な心配をしちゃダメです。他人の目を気にしすぎるところが、日本人のいけないところなんです。さあ、自分のことしか考えないインド人を見習って!! 
はい、大きな声で!! さんはい!



 チソチソ(ちそちそ)!!

 タソドリーチキソ(たそどりーちきそ)!!

 アソパソマソ(あそぱそまそ)!!














 はい、もう1回! もう少し元気よく!!













 チソチソ(ちそちそ)!!

 タソドリーチキソ(たそどりーちきそ)!!

 アソパソマソ(あそぱそまそ)!!















 はいラスト! 
腹から声を出して!!!














 チソチソ(ちそちそ)!!

 
タソドリーチキソ(たそどりーちきそ)!!

 
アソパソマソ(あそぱそまそ)!!














 はーいOK!

















 
バカじゃねーのかおまえはっ!!!! こんなくだらねー発声練習になんの意味があるんだよっっ!!! その無益な時間を、地球温暖化の対策を考えるとか少しでも人類のために使ったらどうだっっ!!!!!


 …………。

 いやー、やっぱりこういう日本語は、
声に出して読まない方がいいですね。なんか、バカバカしくてやってられなくなるから。
 蛇足ではあるが、日本人とインド人もそれぞれ変換してみると、日本人はニホソジソ
(にほそじそ)、インド人はイソドジソ(いそどじそ)になる。なんとなく、富山県とかに行ったらそういうシソが生えていそうだ。そしてイベントにはこの人たちを呼ぼう!

 さあ、ナソに続いて次の項目を見てみると、このようなエッグカレーである。



  …………。


 
だんだん適当になってきている。やはりこの看板を書いた人も、作成時は左側から順番にメニューを書いており、後の方になると疲れていい加減になってきたのであろう。特にカレーの後ろの余計ないくつかの棒が、彼の投げやりっぷりを示しているような気がする。
 そして、最終的にはやはりこんな感じになってしまうのだ。
 ↓










 おお。


 
疲れている! 激しく疲れているっ!! もうとっとと看板を書くのは終わりにして、嫁とジギジギをしたいと思っているっっ!!
 もはや日本語的なところは
跡形もなくなっていると言っても過言ではない。だいたい、店の大切な看板なんだから、いちいち日本語を調べて丁寧に書くのに疲れたのならば、今日は一旦終わりにして嫁さんとジギジギをしてからまた次の日続きを取り掛かればいいのではないか?? なんで質を落としてまで無理矢理1回でやり切ろうとするのだろうか。
 一応なんとなく、後半部分は「キャベツ」と書かれているような気もしないでもない。とすると、このALOO GOBHIというのは、
なんだか知らないがとりあえずキャベツが入っている料理なのだろう。そして、よく考えてみれば、オレは今、朝昼兼用の食事をするためにバザールを歩いているわけではないか。こりゃ、好都合じゃ!

 というわけで、
「アルーゴビをください」と頼んでみた。











 ゴビという名前のわりには、なんだかカレーが出てきました。貧乏旅行者なので、
ナンとかは頼めずに無料でついてきた1枚のチャパティ的なものを頼りに食べます。
 よーく具を吟味してみると、これはどうやらポテトとカリフラワーのカレーのようであった。もしかしたらキャベツが照れてベッドの下あたりに隠れているのかと探してみたが、結論としては
一切キャベツは使われていなかった。……あんたら、もうなんでもいいのか?? どっからキャベツが出てきたんだろう。

 しかしこれを踏まえてもう一度よーくこの日本語の前半部分を注目してみると、
なんとなく「じゃがいもとキャベツ」に見えてこないだろうか?



 ほおら、見えてきた。みんな、見えてきたでしょう?? 茂木健一郎氏も言っていたけど、
脳というのは不思議なもので、これを一度じゃがいもと認識したら、もう次からは何度見てもじゃがいもにしか見えなくなってくるんです。
 …………。
 いや、じゃがいもと書こうとしたと
わかっていてもやっぱり滅茶苦茶な文字に見えるな……。

 まあそんなわけで、看板については
以上である。
 めでたく
不味いアルーゴビを食い腹を満たしたのか満たされなかったのかわからない(どちらかといえば満たされない)オレだが、食後は、昨日買ったペットのコブ郎くんを連れて散歩も兼ねてラッシー屋に向かうことにした。
 はて、コブ郎くんとはなんのことであろう? とお思いのモニターの前のあなた。いったん前の章の後半の動画を見て来てほしい。昨夜号泣じいさんを追いかけている時に出会った、謎の動きで這い回るたった10ルピーのコブラもどき、それがコブ郎くんなのだ!! 結局、
どうしても欲しくなり買ったのだ!!!

 さて、ラッシー屋までは数百mの距離があるわけだが、オレはヒモを上下させると少しずつ進むコブ郎くんのペースにあわせて、一緒にゆっくりゆっくり歩くことにした。こうしてかわいいペットを連れてバザールを行くと、なんというか、人通りが多く
はっきりいって辛い。

↓人の波に逆らい少しずつ進むオレたち。ふと気づくと
見知らぬインド人に凝視されていたりする。




 ちなみに歩いていると大人子供関係なく通行人が寄ってきて「オレにもやらせてくれ!!」と訴えてくるのだが……、
大事なコブ郎をおまえらなんかに預けられるかっ!! コブ郎の操作には日本的な手先の器用さが要求されるんだよ!!! そういうことはせめて「じゃがいも」くらいちゃんと書けるようになってから言えっっ!!!
 ……というか、
いい大人が通りすがりの赤の他人におもちゃを借りようとするなよ。
 しかし、日本的な手先の器用さなどと言いながらも、昨日の売人の動画とオレの動画を見比べてみると、元の飼い主である昨日の人の方が全然スムーズにコブ郎を扱っているのがわかる。やっぱりコブラ使いというのは日本では見かけない職業だし、コブ郎扱いもインドの方々の方が上手なのだろうか??

↓通行人をギリギリで避けながら、勇敢なコブ郎くんはノラ犬にも負けずに進んで行くのであった。






 と、こんな風にしばらくは順調な感じで進んでいたのだが、しかしやはり
デリーで「順調」という言葉はあってはいけないらしく、最終的にオレはある惨劇に見舞われることになった。

 オレたちはこの後も良いチームワークを発揮してバザールを歩いていたのだが、しばらくすると道を挟んだ向こう側にいつものノラ牛が鎮座しているのを見つけた。ここでなんとなくコブ郎とノラ牛の世紀のご対面を果たすため、オレたちは交通が途切れるのを待って道を横断し、牛に近づいた。そして牛に挨拶をして通り過ぎようと思ったところ、何を勘違いしたのか、肌も黒ければ中身も腹黒いノラ牛の野郎が、横を歩くオレに
思いっきり頭突きをかましたのである。


「イデーーーーーッ(号泣)!!!!!!」



 チマチマと動画を撮りながらカメラとコブ郎だけに集中していたオレは、突然のノラ攻撃に大ダメージを受けイデーー(涙)!と叫び、
カメラは遠い地面まで吹き飛んだ。ああっ、カメラが、カメラがあああ〜〜〜〜〜っっ(号泣)!!
 吹っ飛んだデジカメは液晶画面が真っ暗になり、オレは絶望感に襲われこの世の終わりを感じた。ああ、な、なんということなんだ……。もうダメだ……カメラが無かったら旅なんて終わったようなもんだ……。

 なんだって?
 その時の動画は無いのかって?

 
そんなもんあるんだよっ!! かわいそうな動画がっ!!!! あったらどうだって言うんだ!! 見たいのかっ!! 人の不幸を見て楽しいのかっっ!!!

 え? 楽しい? あっそ。あなたはひどい人。






 ↓牛の頭突きで叫び、飛んだデジカメを見て情けない声を上げる人。頭突きされた瞬間、通行人のインド人が「アッハー」と笑う声が非常に腹立たしい。












 くそ〜〜〜〜〜〜〜〜〜(涙)。

 なんでだ。やはり新参者のコブ郎はメインバザールのノラ社会では認められないのか。それなら、
オレじゃなくてコブ郎に攻撃しろよっ!!! このデジカメいくらしたと思ってるんだ!! おまえが10年野良仕事をしても稼げない値段なんだぞこのキャノンのデジカメはっ!!!! 体で弁償しろっ!! 腹や内臓をスライスして差し出せよっ!! 牛角に卸してくるからっ!!!!
 くそ、でもどうせデリー産の牛肉じゃあ牛角でも二束三文だろうな……。

 しかしここでこの世の終わりを迎えたオレだったが、最期の力を振り絞り何度かデジカメの電源の入り切りを繰り返していると、奇跡的にカメラは自力で復活を遂げた。おーよしよし……(涙)、さすが日本製だ。中国製だったらもうこれでジ・エンドだったはずだよ……ああよかった……。

 結局、体勢を立て直してまたコブ郎と歩きなんとかラッシー屋までたどり着いたのだが、この1件でなんだかコブ郎にまで腹が立ってきたオレは、物欲しげなラッシー屋のにいちゃんにコブ郎を里子に出してしまうのだった。しかしにいちゃんの手に渡った途端、店員たちの間で「オレにくれ!」「いやオレだ!!」と取り合いになりコブ郎は
一瞬の後にビリンビリンに引き裂かれていた。あーあ……順番に仲良く使えばみんなで楽しめるのに……。あんたら、やっぱりアホだよな??
 ひょっとして、オレもアホなのだろうか。





今日の一冊は、

まんが道 (1) (中公文庫―コミック版)




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