〜バラード天国 徐州−鄭州〜







なぜかこのフルーツ飴にはまってしまいましたの。毎日食べて、毎日口の周りベッチョ〜ン(涙)


 合肥から長距離バスで高速道路を走り、更に北へ進んでいる私。いよいよこれから中国北部、華北エリアへ入る。だいぶ、北へ進んだ。アフリカの最南端からとにかく北へ、そして東へ突き進む旅だったが、もうそろそろ前進の余地はわずかばかりになってきた。あとは、勢い余ってロシアまで突き抜けないように気をつけなければ。さらに酔った勢いでロシアからも北東に進んでしまい、
気付いたらいつの間にか地球を1周して再びアフリカ大陸に上陸していたなんてことだけは何が何でも避けたい。そんなことになったらもう1回旅行記の最初からやり直しだ。アフリカだけはもう勘弁してくれ(涙)。本当に笑えないくらい辛かったのアフリカは(号泣)。
 そもそも他の、旅を楽しんでいるバックパッカーの人々と違ってオレは「旅を終わらせたくない」とか「旅が終わっちゃうなんてさみしい」なんて気持ちは
一切無いからな。まだシンガポールやバンコクで贅沢していた時は多少はそういう気分になることもあったが、ベトナムと中国で一気に無くなったから。本田医師に対する王理恵さんの気持ちくらい一気に無くなったから(懐かしい話)。オレほど帰国への未練を持たない長期旅行者もなかなかいないと思うぞ。もうとにかく日本に帰る気まんまんだから。というか、出発日の南アフリカ共和国行きの飛行機の中で既に帰る事しか考えてなかったんだからオレは。
 もとよりオレは、旅をしているというより、
南アフリカから日本に向けて帰っているだけだからな。オレは「日帰りでケープタウンに旅行に行ったつもりだったけど帰国が陸路のため妙に長引いている人」なのだ。

 さて、中国の長距離バスは、高速道路を走れるだけあってそれなりに新しいし設備も整っている。エチオピアのバスなどは、上り坂に差し掛かると
ロバを連れたばあさんやはしゃぎ回る裸族の子供にあっさり抜かれていたが、それと比べると10倍はスピードが出ている気がする。ただし中国は国土面積がエチオピアのちょうど10倍くらいなので、結局移動に費やす時間は全然変わらないのであった(涙)。
 そんな長距離バスの中で人々は一体どのように過ごすかというと、何気にバスの中でのVCDの上映が暇つぶしにもってこいなのだ。DVDではないぞ。
DVDのずっと先を行く、我々先進国でも到底追いつけない最先端技術で作られた幻の記憶メディア・VCDだ。なにしろっくり! 国って、んどん先に進んじゃうのね!!」の略でVCDと呼ばれているほどだから。
 バスの中でそのVCDにより上映される映画・ドラマは、例えばよく見るのは、
中国人が考え得る「人間の悪の部分」をキャラクター設定に全て詰め込んだ日本軍の兵士が登場し、それを愛国と正義に燃える中国の若者が打倒して、今まで通り共産党支配で表現の自由も安全な食も医療も環境対策も何も無い祖国の生活を守って一件落着する戦争映画だ。
 ある映画では、ヒロインである農村の娘が日本兵の人質になり、銃を突きつけられながらも
「みんな、私のことは気にしないで! 私は命を失ってもいい。だからこの小日本鬼子をやっつけて(涙)!!」と仲間に向かって叫ぶシーンがあった。オレは、バスの乗客の中で唯一の日本人として、心の中で「頑張れ日本兵!! 相手の前で平気でそんな差別用語を叫ぶ、国際感覚も常識のかけらもない娘は殺してしまえっ!! どうせヒロインのくせにたいして可愛くないんだから!! 撃てっ! 躊躇するな!! 娘を撃って、それから他の村人も皆ピーーーーーーーー(人道上の理由により記述出来ません)」と、必死で兵隊さんの応援をしたのである。
 そもそも、公共の乗り物の中でこういう映像を流してしまえる感覚が忌まわしいというか惨めというか凄いよな。ほんの昨日には、合肥のチータオおじさんのおかげでオレの中での中国人評価点はマイナス19800点まで浮上していたのに、こうして偏狭反日映画をニヤニヤしながら楽しんでいる中国人乗客の姿を見てしまうと、再び評価点は止めどなく沈下してしまう。ちなみにその結果を反映した本日11月4日現在での中国人トータル評価点は、
マイナス20万点である。もはや、たとえ地球の滅亡を防いでもプラスに転じるのは不可能な点数だ。いったい、これをどうやってばん回する気だ中国は? このままじゃさすがにやばいぞ?? オレ用の後宮でも造ってくれれば10万点くらいサービスするけどさ。

 まあ彼らの評価点の低さについては自業自得だからいいとして、その他に頻繁に上映される映画は、なんといっても功夫(カンフー)映画。さすがにこちらはオレも中国人の方々と一緒になって、アチャアチャ叫び時には手を鶴の形にして前の座席の背中部分を
「ホアオ〜〜ッ!!」と突っつきながら、口をとがらせてノリノリで鑑賞出来る。
 功夫映画というと日本人であればジャッキーチェンやジェットリーの映画が思い浮かぶが、実際に中国のバスで流れているのはそんなに国際的ではない時代劇風のカンフーものがほとんどだ。主な登場人物はたいてい前頭部がツルっぱげで後ろが三つ編み。ワンピースのような服を着て戦い、家族の1人か2人は悪い奴に殺され(1ランク残酷になると
本人の留守中に村人皆殺し)、そして一度空中に飛ぶと着地するまでに敵を追いながら5発くらい連続で蹴りを放つのが定番の特徴だ。蹴られた方は机や壁をぶち壊しながら5mは吹っ飛んで、最後にはなぜか押しなべて立てかけられた材木の束にガラガラと突っ込み、口から血を吐いて目を開けたまま死ぬのである。だいたいどの映画でもそんなシーンがあるので、バスに乗っていてVCDの上映が始まるとオレは毎回「あれ? この映画、前も見たような気がするな……違うのかな……似てるだけ? 他人の空似? それとも本人の空似? デジャビュ??」と悩むことになるのであった。

 そしてそんなバラエティに富まない決まったジャンルの映像を移動中に集中して見ているとどうなるかというと、
ものすごく酔う。これが辛いんだ本当に(涙)。見なきゃいいのだが、これはもう洗脳の域に達していて、他にやることのない状況で前方にVCDの映像を出されると、もう自分の意志と関係なく眼球が自動的に上映中の小さい画面を見詰めてしまうのだ。そして、幾人もの乗客が車内でゲロロローーー!!! ねっちょびっちゃ〜ん!! と盛大に吐いてしまったりするのである。
 ついこの間は、オレの前の席でオレロレロレロレロレロレロレーッッッ!!!
口から子供でも産んでいるのではないかと思うほど威勢良く吐きまくっていた若い女性が、吐いた5分後にカップラーメンを食い始めたのでオレは思わず「あなたはバカですか?」と聞きそうになってしまった。

 てなわけで、話を戻して今この瞬間もオレはバス移動中なのだが、合肥から北の徐州市へ向かうこのバスでも、ちょうど今2本のVCDの上映が終わった。
 
オエ〜〜〜〜〜〜ッ。し、しんどい……言葉もわからないのに、バスの中でまるまる4時間ほど遠くにある小さなモニタで映画を観きってしまった……(号泣)。
 高速を走るエアコンバスでは窓が開かないため、オレはなるべく吐き気を抑えるため爽やかで清純なこと(相武紗季と新垣結衣がテニスのダブルスを組んでインカレに出場しているシーンとか)を考えながらグタッとしていた。
 しかし……。中国の汽車(バス)では、映画の上映後にはほぼ必ず、そんな爽やかで清純な妄想(宮崎あおいと大橋のぞみが並んで「ポ〜ニョポ〜ニョポニョ ビタミンCの子〜♪」と歌うシーンとか)をかき乱す、カーステレオによる
中国歌謡曲ショーが始まるのである。

 ジョジョニケイウォ〜ケンチ〜ホエ〜 プヤオザイディアイショウスオウェ〜♪
 なんたらかんたら〜ら〜 
カオスウォ〜〜! ニダオティ〜アイダシェイ〜〜(涙)♪





 人の気も知らないで、大音量で車内スピーカーから流れる中国語のどバラード。





 なんたらかんたら〜ら〜 
カオスウォ〜〜! ニダオティ〜アイダシェイ〜〜(涙)♪













 …………。












 なんたらかんたら〜ら〜 
カオスウォ〜〜! ニダオティ〜アイダシェイ〜〜(涙)♪
















 …………。
















 なんたらかんたら〜ら〜 
カオスウォ〜〜! ニダオティ〜アイダシェイ〜〜(涙)♪












 
何回この音楽聞かせるんじゃ〜〜〜!!!!

 中国は、
本当に様々な面でエチオピアと瓜二つだ。おうおうおう、運転手の好みで人気の曲を選ぶのはいいがよお、なんでこんなにレパートリーが少ないんだよっっ!!! まだ歌謡ショーが始まって2時間しか経ってないのに、同じバラードを10回は聴いてるんだよ!!!!! というか中国に入国してから300回は聞いたわこの曲っっ!!! なんたらかんたら〜ら〜 カオスウォ〜〜ニダオティ〜アイダシェイ〜〜(涙)♪ ってもうそろそろオレもカラオケで熱唱できそうなんだよっ!!!!

 どれだけ流行っているのか知らないが、オレは8月に中国国境を越えてからバスに乗る度バスに乗る度、
3カ月間全く勢いが衰えないこの曲をひたすら繰り返し聞かされ続けている。
 カオスウォ〜〜ニダオティ〜アイダシェイ〜〜(涙)♪ と言うのは、「告訴我ニー到底愛著誰〜」であり(PVを何度も見たので覚えたのだ)、訳すと「教えて下さい、あなたが愛しているのは誰なのですか?」という意味だ。たしかに一大ブームを起こしているだけあって、最初に聞いた時はオレも「なかなかいい歌ではないか」と思っていた。
 しかし、もはや今は11月ではないか。この男(歌手)は、3カ月の間ずっと中国全土で「教えて下さい、あなたが愛しているのは誰なのですか〜〜(涙)?」と叫び続けているのである。
もういい加減に答えを教えてやったらどうだっっ!!! 誰か1人くらい、彼女が愛しているのが誰か知ってる奴いるだろ!!! もうそろそろ彼を楽にしてあげてっ!!! 答えがわかれば彼は歌うのをやめるからきっと!!!

 「ねえ……教えて下さい……あなたは誰を愛しているのですか……?」と3カ月間毎日聞き続けているというこの執念深さは、ストーカーを越えてもうほとんど
自縛霊の域に達しているような気がする。もはや本人も答えなんて求めていないんじゃないだろうか?? ただ近くの人間に自分の無念と恨めしさをぶつけているだけじゃないか? あんた、中国のバスじゃどうにもならんから、江原さんとか美輪さんあたりに相談してみると答えが見つかると思うよ。

 徐州駅前に到着しました。




 徐州は、今日も雨……。
 ここはただの経由地でまた明日移動なので、することといえば散歩くらい。徐州は比較的小さな街のため、汽車站(バス駅)と火車站(電車駅)がすぐ隣にあり1カ所にまとまっている。



「おにいちゃん!! 入って行くアル! さあ、ほら、見るだけ!!」


「なーに?」



 シトシトと小雨に濡れて震えながら歩いていると、いきなり成人用品店のおばちゃんが呼び込みをかけて来た。なんでこんな駅前の一等地に堂々と成人用品店が……。しかもおばちゃんが恥ずかしがらずに堂々と呼び込みって。すごくいいね自分の仕事に誇りを持っていて(必死であるともいえる)。



「ウェイ! うちの店に来るある!!」


「寄ってけアル!! 見て行けアル!!」


「いやいや、うちの方が豊富な品揃えアル!!!」




 ええっ。
 妙にあちこちから多重に声がかかるなと思ったら、
駅前の一等地に成人用品店が5軒くらい並んで店を構えている。そして、オレが1人で一斉に呼び込みを受けている。すれ違う若いOLに意図的に大きく距離を保って歩かれながら。
 恥ずかしい……。なんでオレばっかり。おじさんとかビジネスマンもたくさん歩いてるじゃないかよ。あの人たちは呼び込まないの? もしかして、
オレは成人用品を大量購入しそうな人間に見えるわけ? 成人用品を扱い続けて30年のおばちゃんの経験からして、オレの顔と雰囲気が成人用品を連日連夜使用しそうなタイプだとみなされているわけ?? ……あっそう。じゃあせっかくだから、シリコンタイプのチャイナ娘・長江2号とか買っちゃおうかな……全身可動だから使用者のお好みの体勢で夜の生活をエンジョイできるし……、ってそんなもんどうやって持ち運ぶんだよっっ!!! 等身大のラブドールと一緒に旅をしてるバックパッカーがいるかっっっ!!! 電車もバスも2人分料金がかかってもったいないだろうがっ!!!
 移動費だけじゃないぞ。宿泊費も2倍かかるんだから。ドミトリーに泊まる時も、2人分のベッドを確保しなきゃいけないんだぞ。他のルームメイトからどんな目で見られるんだいったい? ……でも、想像すると面白い絵になるような気はする。カップルや夫婦のバックパッカーはよく見るから、似たようなもので
ラブドールと2人旅というのもテーマとしてはありかもしれない。いや、無い。しかし、自分的には無しだが、自分以外の誰かにやって欲しい企画だとはいえる。

 にしても、今日は何も買いません!! だって店に入るのが恥ずかしいもの。気になるはなるけど。モテないなりのプライドがあるのよ。どんなに寂しくてもそういう道具には走らないってね。
 ジャーもうだいたい徐州の街の様子はわかったから宿に帰ろう、あっ、何それ? そんな道端でおじさん何の肉を売っているんですか? そうですか。狗肉ですか。




 なるほどー










 
って犬じゃねえかっっ(涙)!!!!!
 
心から見たくないものを見ちまった(号泣)!!!!!

 おおおお……なんという姿に……。おいたわしい(涙)。ムク……(号泣)。
よかったなムク日本に生まれて。中国に生まれなかったことを感謝しなきゃいかんな。
 なんて痛ましいんだ。こんな分解されてパーツごとに売られているなんて。日本のペットショップなら今時どんな犬でも五体フルセットで10万円くらいするけど、中国では
道端でバラ売りだぜ? 犬を頭だけ買うとかそんな感覚あるの(涙)?? だってさあ、犬は、ケニアのマサイ族だって飼ってたぜ?? 狩猟民族の村ですら、犬だけは狩られずに可愛がられてたもん。やっぱり中国って、アフリカより全然遠い気がする。こんな残酷な露店、徳川綱吉が見たらひっくり返るぜ……。
 それにしても、犬のことは中国では「狗」と書くのか。オレは中国では犬を食べる習慣があるということは知っていたから、食堂でメニューを見る時は「『犬』って文字があったら絶対頼まないようにしよう……」と用心してたけど、
字が全然違ったんだ。たしかに、今まで「犬」の文字は見かけなかったもん。「狗」は知らんけど。じゃあ、もしかしてオレ……知らない間にムクを……ムクの仲間を食べて……(号泣)







↓狗肉料理のもと





 汽車站すぐ近くの安宿は(話変わって)、部屋に洋式トイレが付いていたがいっさい水が流れず使うたびにどんどんどんどん出した物が蓄積されていった。翌朝には
本当にひどいことになっていたよ……。ああ思い出すだけでも気持ち悪い。この街では、気分悪くなる事しか起こらなかったな。チェックアウトの時はトイレにはフタをして逃げたけど、これ掃除する人どうするんだろうか。フタを開けた瞬間ものすごい反日活動家になって日本大使館に投石するんじゃないだろうか。オレのせいじゃないよそれ。日本関係ないから。恨むなら雇い主を恨んでっ。

 そして徐州から、また長距離バスに乗った。このバスで向かうのは河南省の省都・鄭州。でも、とりあえず今は寝かせてくれ。昨日は色々と精神的ショックが大きくて全然寝られなかったんだよ。静かに……安らかに眠らせてくれ……バスの中で……。お願いします、今日だけは……










 じゃ〜じゃっじゃじゃ〜じゃ〜〜ん♪ じゃじゃじゃじゃ〜じゃっじゃじゃっじゃ〜〜ん♪ 

 ジョジョニケイウォ〜ケンチ〜ホエ〜 プヤオザイディアイショウスオウェ〜♪

 なんたらかんたら〜ら〜 
カオスウォ〜〜! ニダオティ〜アイダシェイ〜〜(涙)♪




















 なんたらかんたら〜ら〜 
カオスウォ〜〜! ニダオティ〜アイダシェイ〜〜(涙)♪

















 
ぐおおおおおおお〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!

 
またおまえかっっ!!! まだ聞いてるのかよっ!! 今だに回答が寄せられないのか彼女が誰を愛しているかについてのっっ!!!
 もう、諦めろよ! 3ヶ月も毎日歌ってて誰も教えてくれないんだろ? それは、教えない方が悪いんじゃないよ。
おまえが今までそういう人付き合いの仕方しかして来なかったってことじゃないのかよっっ!!! 信じ合える関係性を周囲の人間と築いて来なかったおまえの責任だ!!! だからもう永久にわからないの! 彼女が誰を好きなのかは!! 少なくともおまえじゃないことだけはたしかだよっっ!!!



 ああ。毎日疲れる。






今回のテーマ曲






今日の一冊は、
何十年ぶりかに読んで「こんなすごいマンガだったっけ」と驚きました
これは傑作です
はだしのゲン (1) (中公文庫―コミック版)









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