〜ケープタウン発〜





 作者・負け犬と化したオレは、もはや陸路ジンバブエを目指すしかなかった。いや、決して負け犬ではない。そもそも最初からオレはアフリカ大陸を陸路で縦断することに決めていたのだ。これはまさしく予定通り。最初から飛行機なんて使うつもりは毛頭なかったんだけど、空港に行くだけ行ってみただけだ。
 オレは、やさしカップルの
「このヘアヌードはエロではなくて、芸術として見てほしいんですよ」と言い訳をする下り坂の女優を見るような憐れみたっぷりの目線から逃げ、荷物を担いで一人バスターミナルへ向かった。
 バス停までは歩いておよそ15分程度なのだが、心の距離は果てしなく遠い。道端には生ゴミやビール瓶の破片が散乱し、周囲の家は鉄格子で堅く閉ざされている。日本にいる時も、夜道を歩いていて後ろから見知らぬ女性が近づいてくると、襲われると勘違いしダッシュで逃げてしまうほど思い込みの激しいオレは、交差点にさしかかる度に、すぐそこの角に
連続強盗誘拐監禁殺人犯がこのか弱い子羊を待ち構えているという幻想に襲われていた。


ササッ 
←路地から黒人が出てきた音


びくうっ!!!!「ひえ〜っ」




ブオーッ 
←後ろから車が接近してきた音


ドキイッ!!!!「あひゃ〜っ」




バタッ 
←道端の家の玄関が開いた音


ビクウッッッ!!!!!!「しょえ〜〜っ」




「はろーっ!」 ←白人の女の子がかわいく挨拶してきた音


どきぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!「ぎょえ〜〜〜っ!!」












 このようにして、どんな状況でも理性を失わない冷静沈着な精神を持つオレは、途中400回ほど後ろを振り返りながらも、「作者と言えば友情・努力・勝利」というキャッチコピーどうりに無事バスターミナルに到着したのである。
 さて、チケット売り場に入ったオレは、どこ行きのバスに乗るべきか考えた。
 オレの予定しているルートは、凶悪都市ヨハネスブルグはバスに乗ったまま通過、その先の首都プレトリアまでダイレクトで行くというコースである。しかし、地図を眺めてオレはふと思った。
 どうせヨハネスブルグを通過しなきゃいけないんだったら、
そこで降りて一泊くらいどうだ?
 何事も経験が肝心。世界一危険な街っていうのがどんなもんか
ちょっと見てみてもいいんじゃないか?

 だがその時、心の奥底に潜んでいた
オレの中の天使が普段隠しているその姿を現し、そんなオレの火遊び心を諭すようにこう語りかけた。



天使「作者よ、何を言っているのです。いいですか、あなたには日本であなたの帰りを待っている家族や犬、決して多くはない友人たちがいるのですよ。」


「・・・。」


天使「もしあなたの身になにかあったら、悲しむのはあなただけではないんです。考えてみなさい!弟や妹、友人たちがどれだけ悲しむことか!悲しむ彼女はいないけれど。」


「うるさいよ!!」


天使「ともかく、そんな危険なところに好奇心だけで行くなんて絶対にダメです!さあ、考え直すのです!!」


「う〜ん。たしかに・・・。自分から進んで危険なとこへ行くなんてバカげてるよな・・・。後で後悔しても遅いし。まだちょっとだけ興味はあるんだけどな・・・。」



 天使に説得されたオレは、なんとかヨハネスブルグ行きをあきらめ、プレトリアへの直行切符を買いかけていた。彼の言う通り、自ら進んで危険な場所に足を運ぶなんてバカげているし、そんなことをしてもいいことなんて何もないだろう。やっぱり安全に、素直にヨハネスブルグを通過してしまった方がいいに決まっている。
 だがその時、突然隠れていた
オレの中の悪魔が顔を出した!!



悪魔「ふっふっふ。」


「・・・。」



悪魔「バカヤロー!!!!!!アホなこと考えてるんじゃねーよ!!!そんな恐いとこ行くのやめてくれ!!!さっさとプレトリア行きのバスに乗れ〜っっ(号泣)!!!」



 そして恐ろしい自分の内面の悪魔に負けたオレは、もはやなんの迷いもなくプレトリア行きのチケットを買ったのだった。やはり悪魔とはいえ、オレに飼われている以上かなりの勢いで臆病のようだ。彼はちょくちょく顔を出すのだが、いつも「会社で私用メール送っちゃえ!」とか「レンタルビデオ巻き戻さずに返しちゃえ!!」とか他にも
とても書けないような恥ずかしいくらいセコイ悪さしかオレに勧めてこない。

 さあ、プレトリアまではバスで
20時間。いきなりなんという時間だ・・・。バスの中は冷房効いてるんだろうなー?座席もちゃんと20時間耐えられるように広くできてるんだろうなー??

 夕方6時に出発したバスは、まあアフリカの中の先進国南アフリカだけあってなかなか快適なものだった。もちろんその快適なバスに20時間乗り続けるということがどれだけ快適でないかは想像するに難くないが。

 効きすぎの冷房に凍え、日焼けの痛さとシャワー浴びたさに震えつつ凶悪犯罪天国ヨハネスブルグに差し掛かったのは、翌日の昼過ぎだった。バスの高い窓から見下ろした世界最悪の街は、噂どおり悪がはびこり、21世紀もはじまったばかりというのに世紀末の様相を呈していた。すぐ目の前の交差点では、老人が二人の悪党にこのように襲われていた。



悪党A「ひゃ〜〜〜っはっはぁ!!!」


老人「お願いです!このタネモミだけは!これが実ればあんたらにもわけてやろう。このタネモミは村人達の未来なんじゃあ!!」


悪党B「うるせえ〜っ老いぼれがあ!!!オレたちゃ今腹が減ってるんだよ!!!さあよこしやがれ!!!」


老人「ひえ〜、た、助けてくだされ〜・・・」


悪党A「うりゃあっ!!!」 ズバアッ!!


老人「ひぎゃーーーーっ!!!!!





・・・。なんという恐ろしい光景。
 この他にも、街のあちこちで悪党達がハンマーの代わりに人間を投げて新記録を競う人間投げや、犬に裁判官の代わりをさせ、犬が吠えたら有罪確定で死刑という非人道的な裁判も行われていた。
 ヨハネスブルグ……。それは、
世紀末救世主伝説のない世紀末であった。






←バスの中から撮影したヨハネスブルグの街並み。
タネモミを守る老人が悪党に襲われている。


(今回の話、北斗の拳を知らない人には何がなにやらさっぱりな可能性あり)





今日の一冊は、

男子必読の傑作バトルマンガ

北斗の拳 (1)




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