〜ケープタウン3 犯罪談義〜





「はぁ。はぁ。やっと帰って来れた・・・。」


「オー、おかえ・・ウオっ!!タ、タコか?」


「タコじゃない。日本人です!!」


「な、なんだその色は・・・。首筋なんかすごいぞ・・・なでなで」 


「いぎゃ〜〜〜っっ!!し、しみる・・しみるうっ!!!触らないでっっ!!!!」



 喜望峰ツアーの次の日、オレはテーブルマウンテンまでてくてくと歩いて行き、頂上をひと周りしてまたてくてくと歩いて帰ってきた。往復で3時間以上歩き続けるという、人間が2足歩行を始めて以来誰一人として挑戦したことのない、足の限界の可能性を遥かに超えた酷使にオレの足はすでに粉砕骨折寸前だった。
 だが、それ以上にオレの美肌にダメージを与えたのが、南アフリカのすさまじい日差しだった。なぜだかわからないが、南アフリカはマレーシアやインドよりも気温は低いくせに、その日差しは
試写会で車を降りた瞬間の叶姉妹よりも強烈なものを持っている。日本では必ず寝る前にキュウリパックや泥パックを行う程肌のみずみずしさに気を使っているオレだったが、この日差しについては全く予想外の展開だった。
 オレの体の服から出ている部分は、どこもかしこも
スケベ話に激怒するケントデリカットのように真っ赤になっていた。もはや全身から高熱を発し、服と皮膚がほんの少し擦れるだけでもヒーヒー言ってしまうオレは、最後の力を振り絞り、ロボコップのような歩き方でシャワーへ急ぐのだった。

 さて、冷たいシャワーを2時間ほど浴び、やけどの応急手当を済まし身も心も洗われたオレは、キッチンへと向かった。南アフリカの宿は非常に快適な作りで、ほとんどの安宿にキッチンがついている。その上、このあたりで夜外へ歩いて出かけると無事に帰ってこれる可能性はあまり高くないため、タクシーに乗る金などない安宿の旅行者は、まだ比較的安全な昼間のうちに食料を買い出しに行き、それぞれキッチンで独自の創作料理にいそしむのである。
 自分自身常にどんな女の子にも負けない臆病者だと自負しているオレは、乱暴な人達を恐れて毎日宿に帰る時間はどの旅行者よりも早く、この日もキッチンへ見事一番乗りすることができた。
 今日のオレの創作料理は、トマト&フレンチフライである。自慢ではないが、たとえ引きこもりであろうとも、料理くらい人並みにできるのだ。早速、つい先ほどそこのセブンイレブンで買ってきたトマトとフレンチフライ(フライドポテト)を取り出し、塩をかけて食べ始めた。
 すると、突然キッチンのドアが開いた。


バタッ


「あはははは・・・!」


「うふふふふ・・・!」


「今日はダシ入れてちゃんと作ろうね〜!」


「うん。そうだね!今日は上手にできるといいね!」


「うまくできたらごほうびくれる??」


「う〜ん、しょうがないな〜。」


やった!よーしハリきっちゃうぞ!」



 いちゃいちゃとキッチンのドアを開け、人目もはばからずにぶちゅぶちゅに今夜の料理について語っているバカップルは、たしかに日本語を喋っていた。あーあついあつい
 しかしこれはラッキー!!たとえバカップルといえども、もし彼らがアフリカ南下組だったら、情報交換ができる!!
 下手したら新婚家庭のごとく裸にエプロンでもつけかねないバカップルの微笑ましい雰囲気を壊すのは
とても気が引けるのだが、オレは喜んで全てをぶち壊そうとバカップルに話しかけた。

註:作=作者


作「あのー。」


「な〜、いいだろ〜。誰も見てないって〜」


「もお〜っ。ちょっとお。夕ごはんが作れないじゃないのよ〜。やめてったらあ〜ん


作「すいません、バカップルさん!」


びくっ!!
「はっ!!こ、こんにちは!!」


「あ、あれ??日本人の方ですか??」


作「そうでーす。どうもはじめまして。」


「ど、どうも・・・。」



 実に申し訳なく思いながらも、今にも互いの衣服を脱ぎ去ろうとしていたバカップルの会話に割り込み話してみると、ラッキーなことに予想通り彼らはアフリカ南下組だった。意外というかやはりというか、アフリカ旅行者同士、すぐにバカップルとは打ち解けることができた。
 旅行者の中には、旅先で日本人に出会うことをあまり好まない人も多い。前回インドへ行った時も、目が合っても挨拶もしなかったり、オレの(日本人の)姿を見ると明らかに意図的に脇道へ逃げていったり、日本人同士の交流を避けようとしていた人がいた。それはオレの清潔な外見に原因があるわけでは決してなく、彼らは自分だけの一人旅を満喫したかったり、外人と交流を図りたいという思いがあり、なんで外国まで来て日本人と喋らなきゃいけないんだ、という変な感情があるからである。
 だが、そんなことを言ってられるのはそんな人間性の歪んだ旅行者でも一人旅ができるような観光地だけである。
 アフリカで日本人の旅人と出会った場合、お互いに打ち解けるのは
銀座のキャバクラ嬢よりもずっと早い。なぜなら、お互いが持っている情報や、一緒に行動することがお互いの危険を少しでも減らしてくれるのがわかっているうえに、最低でも数日、長ければ1ヶ月ぶりくらいに日本語が喋れるからである。
 まあバカップルはお互いに喋っているし、いまだスタート地点にいるオレは持っている情報もくそもないのだが、彼らはバカップルにしては親切にアフリカについて教えてくれた。



「これから北上するの?大変だねー。」


作「ええ。なんか危険なところとかありました?」


「うーん、アフリカの南半分は危ないところばっかりだけど、やっぱりナイロビはダントツだったなー。」


作「やっぱり・・・。」



 ケニアの首都ナイロビは、東アフリカではヨハネスブルグの次に治安が悪い。事前に勉強した情報では、ヨハネスとナイロビは、このコースの中で
死体フェチが満足できそうな都市トップ2である。しかし具体的にどんな危険があるんだろうか。オレは、このやさしカップルから徹底的に危険情報を聞き出すことにした。



「とにかくダウンタウンには行っちゃいけないよ。俺達が朝、宿の窓から下を見てたら、白人の女の子のグループが危ない方に入っていったんだ。そっち行っちゃダメだよ・・・と思ってたら案の定みんな貴重品取られて帰ってきたんだ。」


作「あらら・・・。」


「白人の男の旅行者が5人で歩いてたらしいんだよ。そしたら強盗10人に囲まれて荷物全部取られたんだって。」


作「・・・。」


「ひどい人なんか、昼間買い物に行こうとして一人で歩いてたら
20人以上に囲まれたんだって。強盗の人数を数えることすらできなかったらしいよ。


作「・・・。ちょっと面白いですね・・・(泣)。」


「まあナイロビほどじゃないにしても、基本的に都会はどこも危ないよ。ダルエスサラームも危ないし、ハラレもリロングウェも夜は強盗だらけだから。」


「でもこの辺も危ないよねー。私達が乗ってた電車でも荷物盗まれた人がいたし、昨日会った白人のおじさんなんて強盗に腕を刺されてなん針も縫ってたよ。」


作「ぎょえ〜っ。もしかしてそれってこの辺ですか?」


「うん。すぐ前の通りを昼間歩いてたんだって。それで強盗にあったんだけどすぐに財布ださなかったもんだから切られちゃったんだって。」


作「そこでですか!!??この辺も危ないのか・・・」


「ぜんぜん危ないよ。向かいのセブンイレブンもついこの間強盗入ったばっかりだし。」


「・・・。今日無事に帰ってこれてよかった・・・。」


「ヨハネスなんてもっと凄いよ。白人の女の子が話してたんだけど、友達の男の子が道を歩いてたら突然ナイフで切りつけられたんだって。その人ショックで気絶しちゃったんだけど、目が覚めたら病院のベッドの上で、気づいたら
手首から先が無かったんだって。強盗が手首ごと時計を持ってったらしいのよ。


作「こ、こわいなーそれ。・・・っていうか猿じゃないんだから
せめてナイフで脅して時計はずさせるくらいの知恵は使えよ!!!人間らしく!!タラちゃんの方がまだ知恵を使ってるよ!!!」


「私に言われても・・・。」



作「ゼェ・・ゼェ・・」



 こうして、やさしカップルは今までの旅で見聞きした犯罪体験をとうとうと語ってくれた。彼らの教えてくれた事件はそれぞれ非常に興味深く、アフリカの現状を学ぶためにおおいに参考になる話だろう。しかし、
これからアフリカを北上しようと思っている人間にとってはただの恐い話であった。



作「こ、恐い・・・。ガクガク・・・ブルブル・・・」


「あ、あれ?そんなおどかしちゃったかな・・・。ま、まあ今の話は忘れて楽しんで来てよ。」


「忘れれるか(ら抜き言葉)!!!」


「ははは・・。」



 今までガイドブックやインターネットで学んだことに加え、さらに体験者が実例をあげてアフリカの危険さを話してくれ、たしかにオレの知識は増え、これからの旅のためになり、勉強になったといえよう。しかし、通常勝負の世界では、相手のことを知れば知るほど恐さは消えていくものだが、
アフリカが相手の時だけは知れば知るほど恐怖が増加していくらしい。
 オレはたしかに怖がりである。
 だが、
たとえ四谷出身のお岩さんでもこれからアフリカを縦断しようという時にこの話を聞いたら、自分のことも省みず恐がるであろう。



参照:死にたい人にお勧めの街ヨハネスブルグ

(これから南アフリカへ行こうとしてる人は絶対に見ないでください)





今日の一冊は、ただの片付けの本ではない 人生がときめく片づけの魔法






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