〜ケープタウン2 喜望峰ツアー〜





zzzzzzz・・・


zzzzzzz・・・


・・・。


イタタタタ。


なんか指が痛いなあ・・・。


・・・。


まあいいや。気にせず寝よう。



・・・。





イタタタタタタタ!! ガバッ←起きた

なんだなんだ?一体何が起きているんだ??
・・・はっ!


























このくそガキャー!!!!


てめえ人間じゃねえ!!許さん!!
 深い眠りからひきずり起こされたオレは、人間を代表して、普段ネコかわいがりされているであろう受け付けネコに往復ビンタをし、シーツにくるんでおいた。
 体罰は反対されるかもしれないが、客の寝込みを襲うという、宿泊施設の従業員としてあるまじき行為をとったこいつには、当然の罰である。

 しかしよく寝ていた。
 なにしろ35時間ぶり。しかも昨日は京成線に乗り、山手線に乗り、飛行機に乗り、マレーシアで時間を潰し、再びインド洋上空を飛び、ヨッシーに乗りキノコ王国に平和を取り戻し、伝染病と凶悪犯罪の恐怖に恐れおののき、入国管理官と戦い、アフリカに上陸し、ネコと交渉して宿を確保したのである。

 まあだからと言って、今日一日ゆっくり休むというわけにもいかない。すでに旅は始まってしまったのである。
 今日の予定は喜望峰ツアーへの参加である。
 南アフリカは車社会のため公共交通機関があまり発達しておらず、しかも数少ない公共交通機関には、現地の窃盗犯さんたちが花沢さんなみにてぐすね引いて待ち構えているため、観光客が利用しようもんならほとんど入れ食い状態なのである。そういうわけで旅行者には、宿への送迎と命の保証つきの安ツアーが用意されているのだ。



「ハロー、エブリバディ!」


「ハロー!」
「ハーイ!」
「・・・は、はろー。」



 外人はフレンドリーだ。ツアー用のワゴン車に新しい旅行者が乗り込んで来る度に、車内に挨拶のにわかブームが巻き起こる。そして見知らぬ旅行者同士が、英語を通じてすぐに打ち解けるのだ。
英語の喋れないたった一人を除いて。
 もちろん、上の会話を見てもらえばわかるように、喋れないなりに努力はしているのだ。だが、昨日まで
なすびの懸賞生活に負けず劣らずの引きこもり生活を送っていた人間にとって、今日からたまたまツアーが同じだった外人と英語で気さくに話すようになるのは、同じ顔なのにこれはケンシロウではなく前田慶次だと思い込まなければいけない程切り替えが難しい。
 そしてオレ達は、
ドッカーン!!
「ヌギャーッ!!」
「キャーーッ!!」
「ビエーーッッ!!」
車内に響き渡る阿鼻叫喚の悲鳴。
ふと後ろを見ると、オレ達のワゴン車はケープタウン市警の
パトカーに追突されていた。



ポリス「オー、わりいわりい。大丈夫か。」


「・・・。」
「・・・。」



恐るべし南アフリカ。
犯罪者に注意するのと同様に
警察にまで殺される可能性があるとは。幸いにしてケガ人もなく、パトカーが事故現場に到着するのが早かった、もとい奇跡的にパトカーが元から事故現場にいたため、現場検証もスムーズに進み、わりと早めに元通りの観光に復帰することができた。
 オレ達はその後も
車が事故車になったということ以外は予定通り楽しいツアーを続け、途中フェリーでアザラシの大群を見に行ったり、ペンギンの群れとちちくりあったりしながら、喜望峰自然保護区へ到達した。
 やれやれ。あと少しで、アフリカ大陸最南端と言っても過言ではない喜望峰の先端へ到着である。そこで、黒人ガイドが広末涼子に勝るとも劣らない満面の笑顔を浮かべながら、ある提案をした。



ガイド「ヘーイ、どうですかみんな、ここから先のケープポイントまで自転車で行きませんか?景色もよくて気持ちいいですよ!希望者はいますか??」



しーん・・・



ガイド「・・・。」



 意外なことに、ワゴン車内は
たまに勇気を出してシャレた美容院で髪を切ってもらっている時のようにシーンと静まり返り、ただガイドが1人で勢いで作ってしまった笑顔をどう処理すればいいのかという難題に立ち向かっていた。どうやら一見アウトドア派に見える白人の方々も、実はオレとなんら変わりない引きこもりのマニアらしい。おそらく彼らも休日にはリュックからポスターを覗かせて秋葉原を歩いているのだろう。



「あ、あの、私別に自転車で行ってもいいかな・・・。」


ガイド「・・・。そ、そう・・・(泣)。」



 1人の白人女性が
観光ツアーにあるまじき尋常でない空気に耐えかね、頑張ってサイクリング受け入れを表明した。しかし、ガイドの目にもその不自然さが明らかにわかったようで、無邪気に喜べない模様だった。むしろ、その目には深く深く悲しみをたたえていた。



ガイド「へ、ヘーイ。ジャパニーズ。おまえはどうだ・・・?オレ達、今日のために一生懸命企画練ったんだ・・・。みんな喜んでくれると思って・・・。サイクリング・・・とても楽しいよ・・・。」



・・・。
オレは腹が立った。
なぜみんなせっかくガイドさんが提案してくれた楽しいレクリエーションを受け入れないのだろう?こんなにまで彼を悲しませる権利がオレ達旅行者にあるのだろうか?仮にこのガイドさんがオレ達の父親だとしたら、全員とんでもない親不孝ものである。しかし彼はオレ達の父親ではないのでオレ達も親不孝者ではない。
 そんな適切なことを考えながらも、オレは黒人ガイドの悲しみに潤んだ瞳を見つめていた。勿論、オレの返事はひとつである。



「自転車?いいねー!!こんな大自然を見ながらサイクリングなんて最高だぜ!!みんなは行かないのかい??」


ガイド「ジャ、ジャパニーズ・・・!おまえってやつは・・・」


「さあ早く行こうぜ!車ばっか乗ってたら体がなまっちまうぜ!!」


「あら、じゃあ私も行こうかな・・・。」


「うん、そうだな。せっかくの機会だし・・・」


ガイド「み、みんな!!よーし、じゃあ全員参加だな!!今自転車の用意するから!オレ達は先にゴール地点でメシの用意しておくから楽しみにしとけよ!!」



 こうして、最初の空気とは一転し全員が自転車でケープポイントを目指すことになった。旅とはこうして自分の足で、体で動くものではなかろうか?こんなちっぽけなオレのひと言で、1人の誠実な黒人ガイドさんに喜んでもらうことが出来たと思うと、とてもさわやかな気持ちになる。
 オレ達は一斉にスタートし、パンヤオがアフリカ縦断した時のスタート地点でもあるケープポイントを目指した。喜望峰の大自然を背負って、旅行者同士の自転車レース開始である。
 悪いが1番はこのオレがもらった!
 並走する白人女性とデッドヒートを繰り広げながら、オレはアフリカの峠を駆け抜けるのであった。
























そして1時間が過ぎた。


























ほんの1時間前、南の島にバカンスに訪れたフリーター・ミユ(18才)よりもずっと軽かったはずのペダルは、既に日本政府による脱北者への支援問題と同じくらい重くなっていた。
















グハァッ・・! 
ゴボゴボ・・・・ビチャッ       






ハァ・・・ハァ・・・・

暑い・・・。

か、体が言うことをきかない・・・

暑い・・疲れた・・・足が痛い・・・。

ちくしょう・・・なんでオレがこんな苦しい目にあわなきゃいけないんだ・・・。

 平凡でいい。金持ちじゃなくたっていい。
 郊外に小さな家を買って、会社から帰ったら家族が迎えてくれる。休日には働き者の奥さんと、元気な娘を乗せて海までドライブ。そんな、ほんのちっぽけな、だけどみんながうらやむような幸せ。
 オレには、そんな小さな幸せを望む資格すらないというのか・・・。


もう、オレはもうダメなのか?

フッ・・・。もう目もかすんできたぜ・・・。

ここで死んじまうのかな・・・。



「だ、だいじょうぶ作者さん??」


「はは・・・オレは、オレはもうだめだ。」


「そんな弱気なことでどうするのよ。あとちょっとよ!」


「ダメだよ。これ以上ピクリとも足が動かない。所詮オレにはサイクリングなんて無謀な火遊びだったのさ・・・」


「なに言ってるのよ!しっかり!私の肩につかまって!!!」


「もういいんだ。オレのことはいいから。後は頼んだぜ・・・オレの代わりに、おいしいメシを食ってくれ・・・。」


「バカーっ!!」 バシィッ!!


「うっ!」


「そんなこと、できるわけないじゃない!!あなたを置いて自分だけ行けるわけないじゃない!!!さあ、立つのよ!絶対、絶対一緒にゴールするのよ!!!」


「ジェ、ジェニファー・・・」



 このようにして、数人の犠牲者を出しながらも、助け合いといたわりあいの末、オレ達はなんとかゴールであるケープポイントまでたどり着くことができた。話してみると、他の旅行者はこのサイクリングの辛さを噂で聞いて知っていたという。何も知らずにやる気まんまんだったオレは、走行中、そして今もひたすら白人の方々の、
朝青龍と旭鷲山の握手を見る視聴者のような冷めた視線を受け取ったのだった。


ガイド「おお、やっと帰ったか。」


「が、ガイドさん!オレは、オレはついにやったよ!!みんなに白い目で見られてもがんばったよ!!!」


ガイド「どうでもいいけど、えらい遅かったな。おかげでこの後猛スピードで予定こなさなきゃいけなくなったぞ。喜望峰で観光する時間もあんまりないからな!おまえ若いんだからもうちょっと速いと思ってたんだけど。」


「・・・。」



 結局オレは、このツアーが終わるまで、ガイドさんを含めた全員の冷たい視線を浴び続け、たとえ頑張って誰かに話しかけても、みんな苦笑いを浮かべてさりげなくオレから去っていくのだった。





今日の一冊は、改訂版 宇宙授業






TOP     NEXT