〜エジプトから中東へ〜





 スペシャル番組「古代エジプト夢と冒険W ギザの三大ピラミッドに迫る」、現地コーディネーター兼美人リポーターの作者です。リポーター業の傍ら合コンにも精を出し、30間近になったら青年実業家もしくはプロスポーツ選手を
パックンチョ、お金と結婚した後は、文化人のフリをして雑誌に連載などを持とうと思っています。
 
そんなことはともかく、ここで、お詫びと訂正があります。本日の放送ではメンカウラー王や王妃のピラミッドについてお伝えする予定でしたが、都合により一部内容を変更してお送りいたします。なぜなら、よく知らないからです(涙)。

 ということで、このギザの三大ピラミッド周辺には、もうひとつ有名なものがある。それは、人間の顔とライオンの体を持つピラミッドの守護者、
スフィンクスだ。さすがにこれも大ピラミッドやトム・クルーズの奇行とともに、世界で知らぬ者はいないだろう。
 しかしよく考えて見れば、
せっかく体が百獣の王ライオンなのに顔が人間では、吼えるどころか噛み付くことすら出来ず、たいして怖くないではないか。それできちんと守護の仕事が果たせるのだろうか。はっきりいって、顔が人間というのは、ライオンの長所を全て殺している。もうちょっと組み合わせを考えられなかったのだろうか。まあ人面獣ということで不気味ではあると思うが。
 ちなみにインドの神様でスフィンクスとは逆に顔がライオン体が人間のナラシンハというのがいるが、絶対そっちの方がかっこいいと思う。
みんな大人なのではっきりとは言わないが、ナラシンハがFFやメガテンなど数多くのゲームにキャラクターとして登場するのに対し、スフィンクスをゲーム内で見ることはあまり無いのがその証拠であろう。

 だいたいライオンと人間、強い者同士だからってとりあえず組み合わせりゃあいいってもんじゃないのだ。問題は、その組み合わせをどう活かすかである。ただ強い者をミックスさせてその後どうするかをキチンと考えない、
そんなことだからタケシムケンもすぐに放送が終了してしまったのだ。

 ↓スフィンクスと、頂上部はまだ肌年齢が若いカフラー王のピラミッド




 スフィンクスといえば、通りかかる旅人に
なぞなぞを出してくると言われている、なかなか精神年齢の低そうなお茶目な石像である。しかしお茶目なくせに、反面なぞなぞに答えられない旅人を食ってしまうという恐ろしい食欲も見せている。顔は人間のくせに。
 この噂はどうやら本当のようで、クフ王のピラミッドから出た後ケンタッキーフライドチキンでおやつでも食おうと脇を通りかかると、やはりスフィンクスが突然声をかけてきた。



「待てーいそこの旅人!!」


「はい。なんでしょうスフィンクスさん」


「今から俺が出すこのなぞなぞに答えることが出来たら、ここを通してやろう」


「なぞなぞですか? 初対面なのにいきなりそんな」


「初対面だろうがなんだろうが関係ないのである」


「それってみんなやってるんですか?」


「みんなはみんな、おまえはおまえだ。ではいくぞ。
朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足。これな〜んだ?」


「これな〜んだ、って顔に似合わずかわいい言い方ですね」


「うるさい。早く考えろ」


「うーん、なんだろう。朝は4本足……何か家具とかかなあ」


「ふっふっふ」


「ううー難しいなー。昼は2本で夜は3本でしょ?」


「……」


「足って言ってるってことは、なんか生き物?」


「……まあ、その線でいったらいいと思うぞ」


「なんだろう。足がたくさんあるってことはタコとかかな。でもタコは8本だよな……うーん……人間でもないし……」


「あっ!」


「え?」


「今なんて言った?」


「今? タコが8本って言った」


「違う違う。そのあと」


「タコの後は、人間でもないし……って言った」


「なんで人間でもないしなの?」


「そりゃそうでしょ! だって人間は2本足だもん。まあ赤ちゃんとかならハイハイするけど、あれは手が2本と足が2本だし」


「……」


「それに、70年とかそういう期間の話をしてるんじゃなくて、朝と昼と夜でしょ? 人間がまさか1日のうちでそんな足が増えたり減ったりするわけないもん」


「……」


「杖ついてるおじいさんに『あなた足何本ですか?』って聞いても『わしは杖ついてるから、足は全部で3本じゃよ』なんて言う人絶対いないよ。いくらじいさんでもまさか杖と足を混同するようなことは無いって」


「……」


「でもなんだろうほんとに。こういうのって、答え言われると『あーっ!!』って納得するんだよね。うーん、難しいな……」


「……よし、おまえ
もう通っていいぞ


「なんでですか! まだなぞなぞに答えてないじゃないですか! これ普通は答えられなかったら食べられちゃうんですよね。今まで何人も旅人が食べられたのに、オレだけがそんなズルするわけには……」



「さっさと行けっつってんだよこのガキがっ!!! 早く行かねーと食うぞテメー!!!」



「こわいよー!!!」



 ……。

 このスフィンクス、もう神話の時代からずっと同じなぞなぞを出し続けてるんだから、
そろそろ違うバージョンも考えた方がいいんじゃないだろうか?? 今さら朝は4本昼は2本夜は3本のクイズなんか出されても、知らない奴の方が珍しいだろうに。ちょっと変えて、外では3本、電車に乗ると1本ですが、家に帰ると0本になってしまうもの、これな〜んだ? 答え:ソフトバンクの携帯の電波 とかね。今ふうに。
※この日記はフィクションです。実在の人物・団体・事件などにはいっさい関係
ありますが、ギザのスフィンクスは横を通りかかってもなぞなぞは出してきませんのでご安心ください。

 さて、このあたりでエジプトの観光はほぼ全て終了した。もちろん見所は他にも無数にあり、それを見るためにカイロに何ヶ月も滞在して
夜はマージャン、昼は観光(多分)に励む人もいるわけであるが、しかしそんなことはどうでもよく肝心の女子大生や人妻はどこにいったのだろうか。そろそろオレもクレオパトラやハトシェプスト女王といった3000年前の熟女より、現代の女性に興味が戻って来た頃である。
 何回も書いたが、エジプトでは、
政府により丸の内OLや麻布人妻との合コンなどの企画も開催されるに違いないのである。別にオレは根拠も無く適当なことを言っているのではない。ちゃんと資料として、ここここに書いてあることを元に発言しているのである。この資料が正しいとすれば、短期旅行でエジプトにやって来たギャルや妻たちが競ってアフリカを縦断したたくましい旅人の肉体を奪い合い、ウハウハな気分を味わえるはずではないか。
 ところが実際はどうかというと、観光地で見かける女性陣は
神殿やピラミッドばかり見てオレにはちっとも目を向けてくれないのだ。オレはこんなにも女子たちを凝視しているのに。
 たしかに、観光をしに来たのだからピラミッドを見上げたくなるのもわかる。でも、
カフラー王のピラミッドよりももっと魅力的な男性がこんなに身近にいるのに。探している幸せは本当は自分のすぐ近くにあるってこと、チルチルやミチルが教えてくれたじゃないか!! 
 おまけに、観光地がダメなら宿でと思っても、オレの泊まっている宿にいるのは
落ち武者ヘアーとかおかまパッカーの方々である(号泣)。逆にこの人たちとはあまり恋に落ちたくない。

 しかし、オレはギザから宿に向かいながら思った。旅行者というのは日替わりの存在。昨日まではいなくても、今日こそはオレの宿にも女子大生や人妻、下手をしたら女子大生でありながら人妻というパーフェクトな存在が、いや、別にオレ人妻マニアというわけじゃないんだけど、若い女性なら
妻であろうがなかろうが好きだけど、なんか人妻という卑猥な響きがよくて……まあいいんだそういうのはどうでも、今日こそは、女性旅行者大フィーバー確率変動連チャンハットトリック猛打賞の日ではないか?
 オレはサファリホテルへの何百段という螺旋階段を上り、人妻への期待を込めてドアを開けた。するとそこにいたのは……! VIVA! 人妻!! エイチアイティーオーディーユーエムエーHITODUMA!!



「おっ!! 作者さんっ!!! 久しぶりです!!! 僕です!! マサシです!!!!」



 ……チッ。なんだ。マサシかよ。マサシじゃなくて、人妻はどこにいるんだ? ビバ人妻!! 今日こそは人妻もしくは女子大生、女子高生やメイドや妹や森迫永依ちゃんが……



「いやー、元気でしたか!!! ケニア以来ですねー。会えてうれしいです!!!!」


「元気じゃないよ別に。キミはいいから女子を出してよ。オレだって別に身の丈以上のものを求めてるわけじゃないんだから。妻じゃなくても局アナでもいいからさ……。
 ……。
 
おおっ。マサシくんじゃないかっ!!!」


「今朝ルクソールから到着しました! ケニアからずっと、大体1週間くらい遅れて作者さんの後を追ってたんですよー」


「おーー、そうかそうか。懐かしい。この興奮は
きっと読んでいる人には誰も伝わっていないと思うけど、でも嬉しいよ」


「はい。旅行記でいえばこの時からしばらくいろいろお世話になりました」


「よしよし、それだけ具体的に説明すれば大丈夫でしょ。ちょっと、まあ人妻じゃないけどマサシくんでもいいや。いろいろ語ろうじゃないか!! オレたちの青春を!!! あの栄光を!!」



 大体1ヶ月半ぶりである。そんな長くないが、一人旅をしていると1週間が1年くらいに感じられる上にケニアで会って次にエジプトで会うというのは実に
物珍しい。なので感動して握手もする。
 オレは帰宅したばかりだが、早速マサシくんと一緒にブラブラと出歩くことにした。どうかな、マサシくんもエチオピアとスーダンを抜けて違うバージョンの、大人しいマサシくんになっただろうか??


「作者さん、どうでした! あれから、いい出会いはありましたかっ!?」



 
ひえ〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!
 
変わってない!!! 全然変わってないこの人!!!!



「いえ……そんな、特に出会いとかはなかったです……」


「え〜っ!! そうなんですか!! もったいない!」


「で、でも……エチオピア人は憎たらしかったしスーダンでは病気になっちゃったし……」


「病気ですかっ! カイロではどんなとこ行きましたか??」


「なんかハルツームで夜に腹がめっちゃ痛くなってさあ、それで田神くんに……っておまえもっと病気について聞けよっ!!! 話させろっっ!!!! ……はい。カイロではシタデルや考古学博物館、ヨルダン大使館とシリア大使館とアルファマーケットとアルカディアデパート、ラムセス郵便局そして日本大使館の塚田さんという女性があまりにもキレイで大変癒されました。近郊ではサッカラの階段ピラミッドやダフシュールの屈折ピラミッド、ギザなどにも行きました」


「そうですかー。うーん、あんまりどれも興味ないですねえ」


「なんだとっっっっ!! なんだトトメス3世!! ふざけんなコラムセス2世!!!」


「遺跡とかより、
やっぱり現地の人たちと仲良くなる方が楽しいですよ!!」


「あんたって人は……。ほんと相変わらずだネフェルタリの墓」


「まあここまで来たらさすがにピラミッドくらいは一応見にいきますけどねー」



 このっ、
このこのっ!!!
 5000年前の人間が汗涙たらして、雨の日も風の日もサンドストームの日も休まずにキャバクラやイメクラやニンテンドーDSも我慢して積み上げたピラミッドに興味が無いと言ったか!!!!! 
階段ピラミッドや屈折ピラミッドにまでわざわざ訪れる人間は、所詮歴史や物質にしか興味を持てない社交性に欠けた人間だと言ったか!!!!
 別に言ってないか。

 実際、オレより数日後にカイロに着いたマサシくんは、本当にピラミッドだけを見て、いや、
ピラミッドとアモーレ丸山ディナーショーだけを見て、「マサシくん、ピラミッドどうだった?」と訪ねたオレに「うーん、まあデカいなとは思いましたけど……」というクフ王が聞いたら即サソリ部屋行きにされそうな無気力な感想を吐き、一瞬の滞在の後オレより数日早く北へ向けて旅立って行った。本当に遺跡に無頓着な奴だ。オレなんて階段ピラミッドから段々進んでギザのピラミッドは天気が気に入らんということで数日おいて2度も行ったのに。2度も行った割にはピラミッドを見ている時間より観光に来た日本人の若い女性を見ている時間の方が長かったという噂が立ったほどなのに。
 それにしても、2度目に見るマサシは相変わらずデカいしガタイはいいし声はでかいしハキハキ喋るし豪快である。オレにもその豪快さを少しでいいからわけて欲しい。思い出すのもおぞましいエチオピアの宿、部屋にあった小便用の洗面器、あそこにオシッコをするのにオレなどは無い勇気と根性とマゾ心を振絞って最終日の朝に震えながらやっと出来たというのに、マサシくんはなんと
なんの躊躇もせずにオシッコどころか大の方も洗面器に出していたというのだ。
 ほんと、豪快で羨ましいなあ。


 ……。




 
小便用だと言うのに!!!!!



 たしかに豪快だよあんた……。
 だいたい、小の方でも洗面器に入れっぱなしではにおいが気になるというのに、大をそのまま放置していたらいったい……。洗面器に残されたマサシくんの豪快さの象徴には、
さすがのエチオピア人も面食らったであろう。エチオピア人とはいえ、処理するハメになった人がかわいそうだ。しかし大陸を越えて印象を残しただろう、彼こそがジャパニーズ九州男児だ。

 さあ、そんなわけでオレもまた旅立つ時が来た。いわゆる地図上で「アフリカ大陸」と呼ばれる地域。そこからとうとう抜け出す日がやって来たのである。
 カイロのバスターミナルから朝6時のバスに乗り、シナイ半島を横切ってヌエバアという町を目指す。丸山さんの食事、そして人妻と会えないままここを去るのは非常に名残惜しいが、まあよく考えてみれば人妻、OL、女子大生等の短期旅行の人々は
一泊100円の宿(しかもエレベーターも無い廃ビルの6F)には泊まらんだろうな。オレの旅行スタイルがそもそも丸の内OLや麻布人妻とは交わらないスタイルなのである。これはもう涙を呑むしかない。まあ帰国してから交わればいいや(決して果たせぬ夢)

 国境の町ヌエバアはただ船着場があるだけの、逃亡犯でも潜んでいそうなさみしい感じの小さな町であった。ああ……船いやだ〜〜もうあんなのいやだよ〜〜寝れないし腰痛いし辛いし汚いし気持ち悪いし……
 チケットを買って出国審査を抜け、3時間ほど待って乗り込んだフェリーは、……。
 なんか豪華だった。
 客の入る大部屋には絨毯が敷かれ、革張りの豪華な椅子が並びそして船内にはこぎれいな売店、食堂、両替所がズラリズラリズラリと揃っているのである。スーダン出国時の船はいつ沈没してもおかしくないふしだらさだったというのに、今日のこのフェリーの安定感、順風満帆な進行。前者が山本としたら、後者は加藤である。
極楽とんぼでの例えである。
 ぬはー、もうタイタニック号と真っ向勝負もできるくらいの豪華絢爛なスイートの客室、階段を上がるときらびやかなダンスホール、って
さすがにそんなものはあるわけないが、しかしスーダンの記憶が生々しく残るオレにとっては、ディカプリオもここにいることだし、ほぼタイタニックいやそれ以上。なんといっても沈まなかったし。いくら豪華でも、後にアカデミー賞を獲ることになるとしても沈んでしまったら水の泡、もとい水の沈没船だ。どちらかになるとしたら、沈んで映画化される側ではなく、沈んだのを映画化してアカデミー賞を獲る側がいい。常に勝者に取り入っていたい。卑怯者と呼ばれようとも。

 エジプトを振り返るとシナイ半島の山々が、これを読んでいるあなたのように美しく霞んでいました。



 そしてフェリーは対岸のヨルダン、アカバの港に、チケット売り場で聞いた話では翌朝の到着だということだったのに、実際はなんとたったの3時間で夜の11時に着いた。……いや、
それもどうかと思うぞ。早けりゃいいってもんでもない。
 入国審査は、日本人というだけで荷物のチェックすらされず、いや日本人だからではなく
作者のこのかわいさで係員がメロメロになっていたからかもしれないが、あっさりとイミグレーションを通過しヨルダンへ入国した。そこからはタクシーでアカバの街へ。もう深夜だというのに、明るい。商店が軒並みまだ営業しているのだ。なんという文明の発達だろうか。スーダンのワディハルファなどは、日没から10分以内に宿に戻らないと視界が完全に闇に遮られ、その場で救助を待つしかないという危機的状況になったのに。「5時から男」は一切の活動が不可能な地域だったのに。

 宿はきっちりエレベーターがある5階建ての建物で、屋上からは別の対岸、イスラエルの街が見渡せた。強烈な光を放つ夜景。こんな時間だというのにキラキラと輝く、宝石のような明かりの数々。ここまでキラキラでは、
自分の登場シーンと勘違いしてオスカルが出てきてもおかしくない。
 こ、これは……。先進国だ。オレは先進国に来たんだ。
野生のインパラもマサイ族もハゲワシもいないけど、ここには文明があるんだ。うれしい(涙)。先進国こそがオレのいる場所なんだ。そうなんだよ。だってぼく、文明の申し子だもん。
 だが、この中東という場所、その先進国でオレは、ワニよりも獰猛でライオンより残虐な生物はこのオレ様たち、人間であるということを、思い知らされることになるのであった(意味深な煽り)。







今日の一冊は、仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫)





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