〜ごーとぅーばらなし〜





↓ジャイプルにてぷるんぷるん



 さて、今日はジャイプルを出て、鉄道で一気に東へ向かう。
 デリーからぽーんと飛んでしまったが、デリーからジャイプルまでの話はインドなんてもう絶対に行くかボケ! ……なんでまた行っちゃったんだろう。 (幻冬舎文庫) を読んでね!
 なんとなくインドでは右往左往してしまったが、やっとここから当初の目的であるアジア横断的な移動が出来るのである。国境のカルカッタまで一気に行きたいのはやまやまなのだが、直行すると
35時間くらいかかるので途中下車を挟むことにした。カルカッタへ向かう道筋でどこで降りるかというと、バラナシである。

 …………。

 なんか、
吐き気が。
 バラナシか……。あそこには
もう二度と会いたくない人たちが数名いるんだよな……。だいたい、なんつってもインド有数の観光地である。世の中にインド旅行記は数あれど、少なくともバックパッカー旅行記でバラナシのことが書かれていない旅行記は無いのではなかろうか。なにしろあそこは川辺で死体を焼いているので、誰しもそれを見て生と死について重みのあることを書きたくなってしまうのだ。もちろんオレもやった。
 はっきり言って、バラナシは死体さえ焼いていなかったら、例えばあそこで「このたび死体焼き場を取り壊しまして、観光客のみなさまのためにたこ焼き屋台を設置しました」と
死体の代わりにたこ焼きを焼いていたら、ほとんどの旅行者はあんなとこには行かなくなるのではないか。
 まあともかくそれだけ誰もが行っているということであり、そして
観光客の多さと悪人の多さは比例する。デリーも散々なものだったが、バラナシもそんじょそこらの刑務所より住んでいる悪党の数は多いのではないか。とりあえずオレは、バラナシと大学のラグビー部には極悪なイメージしかない。

 とバラナシについて熱く語ってしまったはいいが、そういえばまだオレはデリーの駅にいるのだった。相変わらずテンポが鈍いなあこの旅行記は。

 何を血迷ったか知らんが、日中の気温は40度を越そうというこの時期、オレが買ったチケットは
エアコンなしの2等寝台であった。そして、オレは数百円の金をケチってエアコンを拒否したことを車両に入って1秒後に後悔した。
 これはもう、走るサウナどころか
走るすき焼き、いや、走るプロミネンスである。しかもオレの席は上中下3段座席の一番上、最も熱い席だ。なぜ一番上が熱いかといいますと、みなさんも、風呂の湯加減を確かめて丁度良いと思って入ったのに、下の方はまだ冷たかったなんて経験が一度くらいありますよね? オレはないけど。炊くタイプの風呂なんて入ったことないからな……。でもあるんですそういうことが。つまり、水も空気も、温度が高い部分というのは一様に上昇するものなのであります。だから気球は浮かぶのであります。

 ということでハシゴを伝って最上段に潜り込むと、ひと呼吸ついた頃にはオレの全身は汗でずぶ濡れになり、白いTシャツだったものだから
ブラがはっきりと透けて見える状態になってしまった。ワコールしか付けないのよ私。いや……見ないで……
 灼熱の午後2時にようやく発車したのだが、走るプロミネンスの窓から入ってくるのは完全なる熱風。
まさしく地獄だ。オレの旅では地獄がかなり頻繁に出てくるが、間違いなくここも地獄。なにしろ、リアルな世界なのに地獄の釜茹で以上のものを味わっているのだ。絶対に釜茹でよりこの最上段の席の方が熱い。もしこの灼熱電車から突然本物の地獄に落ちて釜茹での刑に処せられても、きっといい湯加減に感じられて長風呂をしてしまうだろう。とにかく暑い。シベリアから凍結したマンモスを連れて来た方がいい。復活できるから。

 オレはそのまま12時間ほど(あっさり書くなあ……)汗のプールで泳ぎつつ死んでいたが、夜中になると、今度はいきなり気温が激しく下がり
冷風が吹き荒れるようになった。走るプロミネンスから走る永久凍土ツンドラ地帯への転身である。ツンドラという言葉は馴染みが無い人もいるかもしれないので説明しておくと、普段は「なによあんたなんか!」とツンツンしているくせに、たまに「ドラえもん大好き〜」などと子供心を見せてドラドラし出すという萌え系の性格のことだ。
 窓からの風もそうだが、正面20cmの距離には扇風機があり、これが
昼には熱波を、夜は寒波を送り出している。この攻撃を順番に浴びると、熱くて寒いに加えてもうひとつ地獄が付け加えられる。人呼んで、それをベトベト地獄と言ふ(号泣)。
 オレはわざわざハシゴを伝って下まで降りて行き、バックパックから毛布を引っ張り出してまたハシゴを上り(もうこれだけで残り体力の8割を消費する面倒くささだ)、汗の引き潮の後の体にかけてみると
あら不思議。特に首筋近くの肌に触れた毛布が、そのまま糊でも塗っているかのようにベタ〜〜ンと、ベタタタ〜〜〜〜ンと貼り付いてしまうのである。毛布を引き剥がすと、軽くベリベリと音がするほどだ。
 いやー、
なかなか先進国民がここまで気持ち悪い目にあうことも珍しいですよ。だって普段僕たちは何不自由ない快適な都会生活をエンジョイしてるじゃあありませんか。都会の利便性を享受しているじゃあありませんか。だから、こういう気持ち悪さというのは、我慢できんっっ!!! きもちわるうーーーーっ(号泣)!!!!! キモい!! 毛布なんてかけてられるかっ!! でも取ったらさむーーーっ(涙)!!! かけたら気持ちわるーーーーーっっ(号泣)!!!

 気持ち悪かったり寒かったり、時には
気持ち悪い上に寒かったりしながら、そのまま太陽が出るまで5時間ほど凍えそして眠れずに過ごすのであった。

 そしてやっと太陽が出た。と思ったら、

 
あつーーーーーっ(涙)!!!! 熱い!!


 …………。

 なあ、なんでこんなに極端なんだよインドは……。そんな白か黒かじゃなくて、
もっとファジーな感じにしてくれよ……(号泣)。



 体力もパラメーターの色がピンクになるくらい低くなってきたので、チャイでなぐさめ程度の回復を目指します。



 その後インド人のオカマに札束で顔を殴られたりしながら(バクシーシの要求に応じなかったため)、汗の波に飲まれ気を失いながら、丁度昼前に
バラナシに到着した。……。到着してしまったかそんなところに……。
 さて……。
 たしかここ、駅を出る瞬間からめちゃめちゃうるさく客引きが寄って来るんだよな……。出たくないなあ。少しは静かになってればいいけど、多分変わってないよなあ。変わってるかなあ。ひょっとしたら。











「ヘーイ!どこ行くんだ!!」
「リクシャーか?」
「泊まるとこあるのか?」
「こっちだ!乗せてってやるよ!」
「オートリクシャーの方が速いぜ!」
「ハロー!日本人!ガンガー?」
「荷物持ってやるよ!こっちこいよ!」
「何言ってるんだ!オレのリクシャに乗れよ!」











 
変わってないなあ……(涙)。



「オホン。ゴードウリヤーの交差点まで20ルピーくらいで行ってくれる方はいませんか〜」


「オレが行ってやるよ! さあ、こっちだ。乗れ乗れ!」



 名乗りを上げた一人のオジサマは、例によって天使でも救世主でもなく、単なる走る振り込め詐欺・オートリキシャの運転手であった。バックパックごとオレが後部座席に乗り込むと、しかしなぜか運転手は運転手のくせに運転席に座ろうとせず、
誰かを呼んでいる。
 ……あのー、
間違いなくあなたが呼んでるのは災いですよね。絶対なにか悪いことを企んでますよね。
 久しぶりにバラナシに来て最初に会話を交わした記念すべき人物なのに、やっぱり
災い系のインド人かよ……。完全に呪われてるなこの街は。
 登場したのは、宿のビジネスカードを持った安宿斡旋オヤジであった。
見たことのある宿の名前が書いてあるカードをオレに見せながら、強引なトークをしかけてくる。



「ハロー、ようこそバラナシへ! では前置きはさておいて、
この『オームビシュナワートロッジ』という宿は安心、快適、とてもいいところだぞ。今からここに行くように運転手に話すけど、問題ないな?」


「問題あるよ。思い起こせば3年前、バラナシ到着初日に無理やり連れて行かれていろいろ嫌な思いをした宿だそこはっ!!! あそこはメインガートから遠いから行かん!!」


「いや、そんなに遠くないんだ。それに前よりも益々快適になったから、ここに行くように運転手に話すけど、いいな?」


「いやだっつーの!!! そんなに遠くないんだ、って明らかに遠いじゃねえかよっっ!!! オレが実際に泊まってオレの感覚で遠かったんだよ!! なに基準で遠くないと言えるんだよテメーはっっっ!!!」


「いや、そんなに遠くないんだって。とにかくここはベリーコンフォータブルで……」


「おーい運転手!! あんた、そもそもゴードウリヤー交差点まで20ルピーで行くって名乗り出たんじゃないのかよっ!!! 余計なオヤジを挟ませずにとっとと発車しろよ!!!」


「まあまあいいじゃないか。そのオームビシュナワートロッジはとってもいい宿なんだぞ」


「このやろ〜。いいよ、おまえが行く気がないんなら他のリキシャを探すよ。あんた以外にもリキシャはいくらでもいるからなっ!! ほら、そこにもあそこにも!! あんたより信用できそうな人々が!」


「ウェイトウェイト!! 待ちなさい、まあ座りなさい。まあ座りなさいって! シットダウン!! シッダウン!!」



 リキシャを降り立ち去ろうとすると運転手は慌ててオレを押し止め、まあ座れと促してくる。自分はさっきから一度も座ってないくせに。



「落ち着け! まず座れって。座って話を聞こうじゃないか」


「座って欲しいんなら、おまえが先に座れっ!! これから出発しようという時にリキシャの運転手がなんで立ってるんだよ!!」


「まあいいから、とりあえずもう一度座りなさい」


「おまえが先に座れって言ってるだろうが」


「座るから。まず客を座らせてから運転席につこうとしているだけだ」



「さっきまでオレは座ってたのにあんたずっと立ってたじゃねえかよっ!! とにかくあんたが先に座れ!!」


「座るけど、その前におまえが座れって」


「座らんぞっ!! あんたが先だっっ!! あんたが運転席にちゃんと収まったら、オレも乗ってやるよ!!」



「わかったわかった。座ればいいんだろう」



 するとオジサマは意外にもあっさり運転席についたので、オレも後部座席に戻った。そしてオレが座るのを見届けると、運転手は「よし、座ったな。
じゃあオレは立つから」と再び運転席から外に出て行った。

 …………。

 オレ、
今ここで何やってるんだっけ……。なんか状況がよくわからんくなってきた。「座らせたもん勝ちゲーム」でもやってたんだっけ。
 いや違う、オレはつい今しがた電車を降りて、ここからバラナシの旧市街の方面に行きたいと、そう思っているだけだよな。
なんでまだ駅にいるのにこんな立ったり座ったり必然性の無い争いをインド人と繰り広げてるんだオレは。
 リキシャに乗る時に
まずドライバーを運転席に座らせることがこれだけ大変では、実際に目的地に着くまでに滞在日程が全て過ぎそうな気がする。もうちょっと有意義なことに時間と気力を使いたいぞオレは。
 ということでオレは座席から出て、無理からバックパックを担ぎなおし、おっさん2人を罵った。



「ファックユー!! ゴートゥーヘル(地獄に落ちろっっ《命令系》)!!!」



 電車の中での消耗が激しく、
悪口をオブラートに包む余裕はありませんでした。
 別のサイクルリキシャを捕まえてやっとオレは旧市街の中心、「ゴードウリヤー交差点」まで来たのだが、早くもこれから面倒くさいことが山ほど起こりそうな予感に身震いして冷や汗を流そうと思ったら
もう流す汗は一滴も残っていないのだった。





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