〜アウランガーバード〜





 ある程度予想はしていたが、別にゴアは
楽しくなかった。評判では、ゴアはインドであってインドでない、女子バレー日本代表の栗原メグのような砂漠の中のオアシス的存在だということだったのに(もしくは20年前のシンクロ界の小谷実可子、はたまたミニスカ歴代ポリスの中での来栖あつこポリスともいえる)。
 だが、プリンセス・メグもおしとやかな美少女に見えて実は身長
186cmと橋本真也よりでかく、近くで見るときっとその巨大さに「ああ、やっぱりメグたんも決して身近な女の子ではなくて、日本代表レベルなんだなあ」と思い知らされるように、ゴアも実際来てみたら、所詮美少女や極楽浄土ではなくインドなのであった(やや意味不明)。
 いいやしかし、いくら栗原メグが186cmとはいえ、オレだって調子のいい時は180cm近くあるのだ。6cm程度の身長差なら、
ヒールを履けば並んで歩いても全く不自然には感じないはずだ!! ごく自然なんだ!! デートできるんだ!! 男の方がヒールを履いているという点に関してだけは少しだけ不自然だけど。
 でも、身長差のことで騒いではみたけれど、よく考えてみれば純真なメグは
身長とか外見で男を判断することなんて無いに決まってる。彼女は、あくまでも心、中身を見てくれるはずなんだ。だから、女物のヒールを履いている男でも気にせず受け入れてくれるはずなんだ!! よーし、自信を持ってヒールを履くぞ!! 外見なんて決して気にせずに!!

 おおっと。いかんいかん。ここのところ
自分に無いもの(情熱とか輝きとか若さとか)をたくさん持っている女子バレーの選手たちがうらやましくていつも中継を見てしまうものだから、ついつい旅行記にも女子バレーの選手たちを登場させてしてしまった。
 ……いやいや、そんな寂しいことを言ってはいかん。オレだって、きっと
磨けば光る玉なんだ。オレだって今からクリームみたいなのと布を買って一生懸命磨けば、彼女たちに劣らないくらい光り輝けるはずなんだ。少しずつでもいい、今から自分という金の玉(略して金玉)をコツコツと磨いて、そして5年後には、オレも女子バレーの日本代表に入るんだ!!! 合宿で寮生活をして他のメンバーと絆を深め合うんだ(メグかカナか杉山選手と同じ部屋でお願いします。高橋みゆき選手は怖そうだから、サオリンは疲れそうだからイヤです)!!! ていうか、女子バレー以外の光り方は無いのかっっ(我ながら)!!!
 まあいいや。とりあえず明日からは、女子バレーの代表入りを目指して、風呂に入ったらもう少し丁寧に玉々を洗おう。
たまには石鹸くらいつけるか。
 とりあえずあまりマニアックな話ばかり書いていると、この部分が原因で来年のノーベル文学賞の選に漏れる可能性があるので(本気です)、
ノーベルに免じて今回はメグを許してやろう。全く、命拾いしたなメグ……。ノーベルに感謝しておきなさいよ。反省したら、これを機にブルマをもうひとサイズ小さくするようにね(ノーベル文学賞落選確定)。
 ……。
 女子バレーでどんだけ引っ張るんだよ……

 ゴアから次に向かう都市「アウランガーバード」までは、大嫌いな夜行バスでの移動だ。オレが旅先で嫌いなものといえば夜行の移動と蚊とパクチーと汚いトイレと安宿と体調不良と人との触れ合いとまあ大抵のものは嫌いだが、中でも夜行バスというのは特別なもので、
ひと晩をバスの中で過ごすくらいだったら、まだ汚いトイレの中で熱を出して蚊に刺されながらパクチーを食った方がいい。わけねーだろっっ!!!!
 
どれもこれも、ひとつだって嫌なものは嫌なんだ。……ああ、誰かオレを殴ってくれ!! おまえには旅をする資格なんて無いと言ってくれ!!!! そしたらもう帰るからっ(泣)!!!

 さて、そのバスでは2人の若い日本人旅行者と乗り合わせた。彼らはインドは初めてだそうで、オレに対して「えっ、インド二回目なんですか!」「えっ、そんな長期で1人旅してるんですか! すごいっすね!!」という実に謙虚で
微笑ましい態度であった。はっはっは。若いのによくわかってるねキミたち。じゃあ今日は特別に一緒に夕食を食べてあげよう。なかなか無いよ、こんなすごい旅行者がキミたちと食事を供にしてくれることなんて。なかなか無いよ、どの瞬間も。
 20時を回った頃バスはサービスエリアのような所に入り、一旦乗客は全員降ろされた。特に指示は無いが、時間からしてディナータイムということであろう。2人のインド初体験の若者は、どうして降ろされたかわかっておらずドギマギしている。まあしょうがねえなあ。
的確なアドバイスをしてやるか。



「メシだよ。そこで一緒に食おうよ。なんかいろいろメニューあるみたいだよ」


「あっ、食事なんですねっ!! わかりました!」



 いろいろメニューがあるのはオレじゃなくても壁のメニューリストを見たら
赤子でもわかるし、彼らも言われなくともわかっているだろうが、とりあえずオレは尊敬される立場として常に上から目線を忘れずに彼らと夕食を楽しむことにした。このサービスエリアは、先に料金を払ってからカウンターで料理を受け取り、その後テーブルに行って食べるようになっている。
 オレは旅慣れたアイドル旅人らしく、真っ先に注文を通して料理をもらい、先に一人でテーブルについた。若者からの、「こんな外国のサービスエリアの食堂をすんなり使いこなせてすごいなあ。偉いなあ」という無言の尊敬をひしひしと背中に感じながら。フッ(微笑)、やれやれ……。
 そして彼らも自身のオーダー品を受け取り、こちらにやって来ようとしていた、その時……

 プップーーーー!!!!

 おおっ。な、なんだろうあの不吉な音色のクラクションは。なんだろうこの
何らかのメッセージを含んだような鳴り方は。不安になり、そろーりと外の駐車場の様子をうかがってみると、オレたちの乗って来たバスがエンジンをふかし、今にも発車しようとしていた。
 オレは若者に向かい叫んだ。



「ごめん。なんか、
食事休憩じゃなかったみたい


「ええええええええええっっっっっっっっっ!!!!」



 オレたちは出来たてアツアツの料理を
テーブルの上にセッティングしただけで、ひと口たりとも手をつけず「オーイッ!! 待てっ!! ウェイト!!!」と叫びながらバスまで猛ダッシュをした。
 ……いや〜、なんとか間に合った。危ない危ない。
もしオレがクラクションに気付かなかったら、3人ともサービスエリアに取り残されていたとこだったぜ。よかったねえキミたち、オレが一緒にいて。
 まあ、食事の時間だと断言したのもオレだけど……。
 ……。
 そして、
オレは信用を失った(号泣)。

 再び走り出すと、いきなり全員にゲロ袋が配られたと思ったら、このバスのアクセルとブレーキはペダルではなく
スイッチ式ではないかと思うような2者択一的な急発進、急ブレーキを連続し、さらに窓を閉め切ってクーラー全開のため寒く空気も悪く、乗客はあらゆるパターンの悪寒に襲われそこら中でゲロが乱れ飛ぶという、阿鼻叫喚の世界が車内で再現されていた。なるほど。これが噂に聞く地獄か。
 こんな中で夜を過ごすと、いかに動かない布団の上で寝られるのが至上の幸福かということを、骨身に染みて感じられるようになる。だから、旅が終わって毎日布団で寝られるようになったなら、それだけで喜びきらなければいけないんだ。布団で寝られるということだけで最高の幸福なのだから、
その上一緒に寝てくれる彼女とかそんなものを求めるのはお門違いというものなんだ。そんなものが無くたって十分幸せなんだよ。求めるな。ああ、求めるな。「求めよ、さらば与えられん」と言うように、どうせ求めても与えられんのだから、求めたって無駄なんだ!!

 この地獄の後の日記で血涙に誓った、
「少なくともインドにいる間は夜行バス使わん。どんな安くても絶対。」
涙せよ。

 そしてまたもや死に体となってアウランガーバードに着いたとよ。

 さて、このアウランガーバードの町は、インドで最大級と言っても過言ではないが本当は最大でなかったとしても
責任は負いかねる、「エローラ」「アジャンタ」という2つの遺跡への観光の拠点となっている。いずれも1000年から1500年前、古い物は2000年前に作られたという石窟寺院群である。……なに? 石窟寺院群と言われてもなんのことかわからないって? そんなこと言われたって、オレもわからないけど、素人の旅行記で遺跡の説明をする場合、知らない単語や人名を適当に並べてお茶を濁すのはお決まりのパターンじゃないか。みんなやってるんだから、オレだけを責めないでよ。
 まあオレは素人の中でも賢人な方だというアンケート結果が出たから(うちにいるエルモ2匹にアンケートを行いました)、反省して具体的に説明すると、エローラ、アジャンタの石窟寺院群というのは、つまりは
世界遺産にもなっている非常に印象的な石窟の寺院なのである。
 ……わかった? 
わからない?
 そうか。わからないか。じゃあこれについては
宿題にするから。各自明日までにインターネットなどで調べてくるように。
 面倒くさがりなキミのためにもう検索ボタンを押すだけにしておいてあげたよ。はい、この検索のところをクリックしてみて→

 アジャンタは仏教寺院限定であるが、エローラというのは仏教、ジャイナ教、そしてヒンズー教の3種類の寺院である。……ってまた「ジャイナ教」とか知らない言葉をガイドブックの記載をそのまま引用して書いてしまっているが、もういいだろ。
そんな細かいこと全部調べていったら話が進まないだろうがっ!!!
 ジャイナ教は、あれだよ、じゃいなじゃいな言う宗教なんだよ。信者同士で話をする時に、「この黒いジュース、何じゃいな?」「それはコーラ。飲んじゃいな」「ゴクゴク。うっ、ヘンな味!!」「それ本当は毒なの。死んじゃいな」「わービックリ! そしてポックリ! 早く医者を呼んじゃいな〜っっ(涙)!!!」とか言ってたんだよ。
 あ、そうそう、今さらだけど、右上の検索ボタンはただの画像だからクリックなんてできないよ。でも、本当にクリックしてみたあなたは
素直でいい人です。その素直さをいつまでも忘れずに生きていってください。「作者のことだから、どうせなんか悪いこと企んでるんだろう」と疑って最初からクリックしなかったあなた、地獄に落ちてください。




 これがエローラの中でも最もしっかり寺院の形が出来上がっている、カイラーサナータ寺院というもの。
 これだけしっかりしていて壁にもヒンズー教の神などの彫刻がしてあるものを、全て
岩をくり抜いて作ったのである。岩を掘って作るということは、つまり失敗が出来ないということではないか。もしオレがこの寺院を作る係だったら、壁面の彫刻を彫っている段階で何度も失敗し、「あっ、ちょっとシヴァの顔がへんになっちゃったから、新しいものを彫り直せるように壁を全体的に薄くしよう」と失敗した彫刻の厚み分壁を削り、もう一度彫り直してもやはり失敗してまた壁を削り、最終的に壁はペラペラになって崩壊し、ただ崩れた岩にまみれて途方に暮れることになるだろう。

 だいたい、ヒンズー教の神々には
手が何本もあるタイプが多く、彫る方としても非常にやり辛かったのではないかと思う。


 エローラ遺跡には3つの宗教の寺院が並んでいるのだが、左の写真がヒンズー教の破壊神・シヴァ、右がジャイナ教の誰だか知らない神様(多分)である。
もしあなたが神様を彫る職人だったら、絶対にジャイナ教に入信しようとするのではないだろうか。だって、神様1体1000ルピーくらいの値段で発注が来たら、シヴァを彫るのには1ヶ月くらいかかりそうだけどジャイナ教の方は1日でいけそうだもん。

 しかし「破壊神・シヴァ」というが、考えてみれば、そもそも
破壊神というのはどういうことだ? 神のくせに破壊しちゃダメだろう。普通、神は造る方でしょ? ……ひょっとして、元々先進国で正直でマナーをわきまえた国民しかいなかったインドを、この破壊神が破壊したからインドが今みたいになってしまったのだろうか。たしかに、インドは全体的に破壊された状態という感じがする。余計なことしやがって。このっっ! シヴァめっ!!!
 シヴァは手が左右2本ずつで計4本のようだが、奥さんのドゥルガーという恐ろしい戦う女神は
10本も手があり、それぞれに武器を持っているのだ。長篠の戦いで織田信長は鉄砲隊を3段に並べて連射を可能にしたというが、ドゥルガーだったら1人長篠3連射(+α)が出来る。別々の手でそれぞれ同時に銃身を掃除して弾を込めて発射をするというものすごくややこしい手の動きになりそうだが。ちなみにこれが最恐妻ドゥルガーさん。
 手が10本もあるんだったら、武器なんて持たないでもっと平和的で誰も傷つかないことに使ったらいいと思う。
合格発表の場所に行って1人で受験生を胴上げしたり、流しそうめんの一番上で待ち構えて、流れてきたのを全部すくうとか。あとはもちろん、下ネタも考えたけどここで書けるわけがありませんよ。

 まあそんなわけで、エローラ、アジャンタの遺跡については
特筆すべきことは無いということがわかってもらえたと思う。しかし、オレの旅では、なぜか無難な観光の翌日にはちょっとした地獄がやって来るようになっているのであった。


↓特に面白くない、アジャンタ石窟寺院の壁画ひたすら動画






今日の一冊は、

金正日の料理人 扶桑社文庫




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