![]() 〜アフリカではなく、エジプト〜 ![]() この景色がなんだかわかるだろうか。 ああ、そうだ。ただの川と対岸の景色だ。飲みに行った時の作者の話と同じで、別に面白くもなんともない。オレだって、もしインターネットをしていてたまたま見つけた旅行記サイトにこんな写真が載っていたら、すぐに ![]() ……おい、飲みに行った時のオレの話が面白くないとはなんだばかやろー!!! 飲み会とかそういうの慣れてないからしょうがないだろうが!!! でもオレだって過去の飲み会では、あらかじめ小話を用意していってそこそこ笑いを取ったことはあるんだよ!!! ……。 同情なんかいらねえ。ああ、押すなら押せよ。 ![]() しかし、いくらニュース23の半島寄り報道のようなありふれた景色であろうとも、オレたちは20時間、この岸が現れるのをひたすら待っていたのだ。いや、違う。たったの20時間ではない。オレはケープタウンからアフリカに立ち入った時から、いや日本でアフリカの旅を決意した時から、いやもっとずっと前、可美幼稚園に入園したくらいの頃からずっとこの瞬間、エジプトの陸地が視界に入る瞬間を夢見ていたのである。 本来は中国旅行が目的なのになぜかエジプトに到着して喜んでいるというのは、ソムリエになりたいという若者が時刻表検定で4級を取って満足しているようなもんで、はっきり言って喜ぶところを間違えているのではあるが、それでもうれしいもんはうれしい。何がうれしいって、エジプトなのがうれしい。ジンバブエでもタンザニアでもマラウィでもなくてエジプトだというのがうれしい。だってなんか身近じゃん……。知ってるじゃん……。 とにかくこのページのトップにある川岸の画像の意味というのは、ジダンのフェイントと同様に常人には理解できないものであり、ほとんどの人にとっては1秒見れば十分、ピクリともしないような平凡な船からの景色かもしれない。しかしオレにとっては、武田久美子とホタテ貝の組み合わせよりも興奮させられる画像なのである。 接岸してからは入国審査のため船の中にこれまた4時間以上閉じ込められ、「ひょっとしてビザが下りないのでは?」という、オーダー時に店員にクーポンを提示し忘れた程度の不安とは比べ物にならない程のすごい不安に襲われかけた頃、ようやく1人15ドルでめでたくスタンプが押された。エジプトビザは船の中で取れるという事前情報はあったのだが、万が一ガセ情報で入国できないなんてことになったら、また船で20時間電車で40時間、足掛け1週間かけてハルツームまで戻って取り直して来なければならない。そんなことになるくらいなら川に飛び込んで密入国を企み射殺された方がましだ。というのは言葉のアヤで、もちろん本当は射殺されるよりは時間がかかっても戻る方がマシだと思っているよ。本気にしちゃやーよ。 ようやくタラップがかけられ、乗客の黒人やアラブ人たちはそれぞれ出口へ殺到する。オレは体の前後にリュックを背負い合計20kg近い荷物を抱えているため、真似して出口に殺到し足を踏み外して水中に落ちようもんなら絶対に浮かび上がってこられないので、ここは慎重に進まなければならない。エジプトにあと10歩で入国できる時に死んだら心残りがありすぎて死んでも死に切れず、楽しげにピラミッドを見ている観光客に水中から呪いをかけまくるだろう。 特に奥様方は注意してもらいたい。今まで品行方正で爽やかさがウリだった旦那がエジプト旅行を境に見さかいなくグラビア画像を収集するようになったら、ご主人は作者の怨念に憑りつかれていると思ってまず間違いない。除霊をするには、何冊ものグラビア雑誌を筒状にして、それでご主人を力いっぱい殴るとよい。気を失う頃にはオレも主人から出て行くから。 ともかくうおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!! エジプトだっ!!!!! 今まさにエジプトに第一歩を!!! なに? 騒ぎすぎだって? ……たしかにこの1歩はひとりの人間にとっては小さな1歩かもしれない。しかし人類にとっては、また同様に小さな1歩である(泣)。まあ別にエジプトに到達したのはオレが人類で初めてじゃないしな……。多分日本人としても1億人くらいは到達しているだろうし。でも、オレにとってのこの一歩は、みうらじゅんのグラビアン魂に好きなアイドルが出ていた時よりも嬉しいんだよ!!! ここで、ハルツームから行動していた仲間たちとは別れ、またみなが一人旅に復帰することになった。北上して首都のカイロを目指すということは全員同じなのだが、エジプトはどこかの国と違って1週間に一回しか移動できないわけではないし、途中途中で旅人同士助け合わなければ離脱者が出そうになるというような極限の状況も発生しない。思い起こせば、オレも多くの仲間を助けたもんだ。ちなみに正直なところ、オレはこのグループではとりあえずいるけど何の役に立つのかはわからんという、ベルマークくらいの存在であったといえよう。基本的には無視される立場だが、多分、1万人分くらいオレを集めれば何か社会の役に立つことに使えるのかもしれない(号泣)。 オレは早速乗り合いタクシーに飛び乗った。うーん。速い。舗装道路を走る車のなんと早いことか。昨日はワディハルファの港まで砂漠をロバの引く荷台に乗って時速5kmくらいのスピードで進んでいたというのに。タガミくんの漕ぐ自転車の方がよっぽど速かったというのに。それがこの乗り合いタクシーは、真っ先に出発していたチャリダーのタガミくんを一瞬でごぼう抜きにし、5秒後にはすでに彼とそのチャリは遥か後方の小さな点となってしまった。 そして、たったの30分でタクシーはアスワンの駅前に着いた。 うーむ。 ひえ〜〜〜〜〜っ!!! ↓昨日までの、ワディハルファの駅前の風景 ![]() ↓アスワンの駅前の風景 ![]() すみません!!! すみません!!! 僕が竜宮城にいる間に世の中ではいったい何百年くらい時が過ぎたんでしょうか(涙)?? そこのおじさん、今は西暦何年なのですか? ぼ、僕がナイル川の川辺で亀を助けていた頃はまだ21世紀だったんです! 本当です! 信じてください!! 駅前の、アラブではスークと呼ばれる商店街を歩くと、あるわあるわ物の山。物の洪水で溺れそうです。水タバコが!! きらびやかな装飾品が!! 土産ものの皿が!! ティーカップが!! ミントティーが!! パンティーが!! ブラジャーが!! 生活用品が!! ガラスケースに並んだスニッカーズが!!! 食べさせてっ!!! 食べさせてくださいっっ!!! しかしよく考えればエチオピアもスーダンも首都に着くたびに物があるとはしゃいで来たが、ここは首都ではなく国境に程近い町なのである。にも関わらず、明らかに今までの首都と比べても大差で勝利している。どの部分で挑んでも勝負にならないという点で、芸人のハリセンボンが沢尻エリカに戦いを挑むようなもんである。 さて、オレはアスワンで最も安いと言われているマルワホテルというところへチェックインした。ドミトリーで、1ベッド1泊100円くらいである。とりあえず、トイレに行こう。 うーむ。 ひえ〜〜〜〜〜っ!!! ↓昨日までの、ワディハルファの宿のトイレ(食事中の方は済んでからご覧ください) ![]() ↓アスワンのマルワホテル(1泊100円)のトイレ ![]() 今はっ!! 今は西暦何年なんですかっっ!!!! 僕はいったい何世紀分くらい時を越えてしまったんでしょうか!!! うーむ。オレたちはワディハルファでたった3日しか過ごしていないのに、その間に地上では300年も時が経過していたなんて。そうだ。ワディハルファからアスワンの港への船は、ある種のタイムマシンの働きをしていたに違いない。オレたちは時空(時空と書いて「とき」と読む)の旅人なのだ。そして浦島太郎と同じパターンのこの超常現象は、玉手箱を開けることによって完結することになる。 そう、決して開けてはいけないと言われていたのに、部屋に落ち着いたオレは、乙姫さまの言いつけを破りバックパックを開けてしまったのだ。その瞬間! モワーっと煙が!!! すげー砂煙がというか砂埃が!!! ゴホッゴホッ!! うえー!! くそー……1週間砂漠を放浪してたから、もう荷物も服も全部砂まみれだ……。服とか髪なんて軽く叩くだけで辺り一面砂塵が舞う。たしかに、見た感じもじいさんに近づいている。 ちなみに話が逸れるが、浦島太郎と乙姫についてオレはいくつか言いたいことがある。 ウィキペディアで浦島太郎の項目を調べてみると、その解説文の一部に「竜宮城に行ってからの浦島太郎の行状は、子供に話すにはふさわしくない内容が含まれているので、童話においてはこの部分は改変されている」とある。 ……。 なにやってんだ浦島……。子供たちから亀を助けたりと優しい大人のフリして、近所の目が無い竜宮城ではエロエロ大爆発か? 「乙姫さん、あんたの大事な亀を助けたんだから、今度はぼくの亀もなぐさめてよ! はやく! はやくなぐさめてっ!! もっと優しく扱って!!!」とか言って、おとぎ話プレイに励んでたんだろ。このエロ島太郎め!!! また、乙姫は浦島に散々陵辱された恨みからか、「決してあけてはいけません」と言って玉手箱を渡しているのだが、あんたも開けてほしくなかったら渡すな。そしてその後、太郎は亀に乗って海を通って帰ったのだから、そもそも玉手箱には海水が入り込んでしまってグダグダになっていないとおかしい。 さらに、玉手箱の煙によって浦島がじいさんになり、それで彼自身も時の経過にあわせて妥当な年齢になったと感じられるのだが、そもそも浦島太郎が地上に戻った時に経過していた年月は数百年(一説には700年という)である。いくら老人になったからってせいぜい年齢にしたら50歳分くらいしか歳をとっていないだろうから、全然時の経過に追いついていないのである。 ちゃんと年齢を合わせて700年歳を取らせるんだったら、浦島は玉手箱を開けた瞬間ミイラにならなければならないはずである。そもそも、いくら数百年後の世界になっていたからって、別に年齢を調節する必要などないではないか。少なくともオレだったら、たとえ自分の年齢と時代が合っていなくとも若いままで過ごしたい。 しかし、ちゃんと水が流れる便座つきの洋式トイレにご対面したのなんていつ以来なんだろうか……。おそらくタンザニア以来ではないだろうか。距離にして、3500kmぶりである。やっぱり、トイレには水が流れてなんぼなんだ!! トイレに水が流れるというのは、カルビーのピザポテトにメルトフレーク製法でチーズをトッピングするようなものなんだ!! 2つが組み合わさってこそその製品の究極の形が表現でき、トイレも美しければピザポテトもトローリ美味しいということなのである。言ってみれば、エジプトのトイレはピザポテトなんだ!! そしてオレは遂に、念願であったホットシャワーを浴びる。ああ……シャワー……6日ぶりのシャワー……アジスアベバぶりのホットなシャワー。ぬおーーーー!!! うう、気持ちいい。 体中から砂が流れ落ちていくこの感じ。流れろっ!! 流れろっっ!! スーダンの砂と一緒にスーダンの思い出も流れてしまえ!!! ……ぐふっ!! か、髪が!! シャンプーをつけても髪に指が通らん!!! なんだこの硬さはっ!! 冷凍のもずくかおまえはっ!!!! おれはサラサラ髪解凍大作戦と題し、まず1度目のシャンプーで表面を、2度目で内部1cmまで進入し髪の外側をほぐし、3度目のシャンプーでようやく剛毛を掻き分け頭皮まで到達するという、スペースシャトルの打ち上げと同じ3段階の到達システムでなんとか洗髪を敢行した。 足元に流れる泥水。そして若返ってゆく肉体。 キレイだ……。オレはキレイなんだ。今まで私をいじめていた、意地悪な姉や継母たち!! 見てごらんなさい!! この美しい姿が本当の私の姿なのよ!! これからお城の舞踏会に行って王子様と踊ってくるんだから!!! 26年前この世に生を受けてから人生最長であるシャワー浴びない記録は、6日で中断されたのだった。あーざんねん。部屋に戻ると、自転車でやって来た今だシャワー浴びない最長記録更新中の多神くんがオレの隣のベッドにチェックインしていた。うわーっ!! ちょっとなに!! 砂まみれじゃないあなた!!! やめてよー!! そんな姿で近づかないでよっ!!! もうっ!! わたし砂嫌いなんだから! 汚いわねえ!! その夜、お互いキレイな体になって、オレはジュース、タガミ師匠はビールで、遂に到達した文明世界に祝杯をあげた。うーん、今日こそは、遂に今日こそはとてもゆっくり寝られそうだ。 今日の一冊は、日本の格闘技界を振り返る超長編ドキュメント 木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(上) (新潮文庫) |