〜エチオピアの首都アジスアベバ3〜





 まあ結局いくら首都で都会だとは言っても、お国柄は変えられるものではない。前回も書いたようにガキはうるさいし大人も腹立たしい。通行人に道を聞こうとして無視されたのはアフリカに来てエチオピアが始めてだし、宿泊費の支払いでもめるわレストランで料理が出てこなくてもめるわ、オレはほぼ毎日のように
スターどっきりマル秘報告で騙された大仁田厚くらいの怒り狂いっぷりを見せ、旅先でつけている日記のここ数日間の部分には「エチオピア人カスだらけ」「カスとしかいえない」「エチオピア人は全員カス」「カスの国エチオピア」「この国を○実験に使いましょう」「エチオピアに○兵器落とせ」(○は自主規制)と、学生時代自習の時間には本当に自習をするくらいの絵に描いたような優等生だったオレとは思えない、文章構成も全く考えない繰り返しの罵詈雑言が並んでいる。もしこの日記を演技派女優を起用してラジオで朗読しても、禁止用語が多すぎてピーピーピーピーととても放送が成り立たないことだろう。
 しかしあんまりカスカスと連続で罵るはさすがによくないな。少しは反省しておこう。これからは日記といえども、ちゃんと違う罵り方もしよう。だってもっと他の言葉も使わないと、
ボキャブラリーが貧弱だと思われるから。

 ところで、電波少年のチューヤンと
もう一人の劇団員の人(チューヤンのキャラに押されて印象薄)の2人は、危険だということでケニア北部からエチオピアはスルーしていきなりスーダンへ飛んだわけだが、はっきり言ってエチオピアは全然危険ではない。悪党レベルで言ったら、ナイロビやハラレの悪党が連続強盗誘拐強姦猟奇殺人犯だとすれば、せいぜいエチオピアの悪党は、幼稚園の門の前で待ち伏せをして、出てきた園児たちをつかまえて「サンタクロースは本当はお父さんなんだぜ」とばらして回るくらいのせこい悪(ただし人の神経は逆なでする)である。それなのになぜこの地でのヒッチハイクを避けたのか。おそらく、事前に下調べをした結果、エチオピアでヒッチハイクをするのは無理だという結論に達したからであろう。
 たしかにこの国ではヒッチハイカーを拾ってくれる車などいない。「バブバブ! 僕は赤ちゃんでちゅよー」と
本当に赤ちゃん言葉を喋る赤ちゃんくらいいない。なにしろ普段は2,3時間、長い時で5,6時間かかって乗せてくれる車を見つけていた彼らだが、エチオピアの地方では車が1台通りかかるのを待つだけで2,3時間かかる。しかも乗っているのは他民族をバカにすることがナショナリズムなエチオピア人である。その中からさらに止まってくれる車を待っていたら、平気で何週間もかかるであろう。いや、それどころか止まってくれる車よりも次のハレー彗星の方が先に通り過ぎるかもしれない。
 まあひたすら待ち続け
300年くらい経てば、エチオピアのGDPも上昇し道路は次第に舗装され乗用車も普及、徐々に自家用車が通りかかる頻度も増えるだろうが、その頃にはもう当然本人は死んで孫の孫の孫の孫の孫くらいになっており、完全にエチオピア人になり、ヒッチハイクとかどうでもよくなっていることだろう。視聴者ももうゴールしようがしまいが誰も気にしていないと思われるし、そもそもその世代になる頃には、もう2人の子孫は朋友ではなくなっているに違いない。
 ということは、もしかしたら今オレがエチオピア人だと思っている奴らも、元をただせば
実は300年くらい前からヒッチハイク待ちをしている日本人の子孫であるということも考えられるな……。かわいそうにこんなみすぼらしい、きたならしい、そしてにくたらしい姿になって……。

 さて、そんな
爆笑話はとりあえずおいておいて、少しは「旅の観光情報発信サイト」というこのホームページ本来のコンセプトに基づいて、期待どおりアジスの観光スポットでも案内しよう。
 ビザの取得に成功したオレは、アジスアベバにある唯一の国立博物館へ向かったわけであるが、ここには30年前に近郊で発見された「ルーシー」と呼ばれる、約320万年前に生きていたというアウストラロピテクス・
人類最古の化石のレプリカがあるのだ。
 人類の起源はアフリカといわれているが、特にこのエチオピア・ケニア・タンザニアあたりから我々の祖先は生まれ出たらしい。しかもルーシーとは、320万年前にしてはなかなかセンスのある名前をつけたもんだ。美人だったんだろうか?? いや、残念ながら、美人というよりは、名前と不釣合いな
猿顔だったのだろう。なにしろ猿人だから。そう考えるとアウストラロピテクスの人達は少し気の毒である。
 思えばここエチオピア、地上の果てに来たような遠いイメージがあるが、実は人間としての故郷へ、里帰りを行っているという考え方も出来る。そう考えると、ここにいるエチオピア人達も元をたどれば親戚であり、もとこれ同根より生ジ生まれたファミリーであるのだ。

 
……そんなのイヤだ(涙)。

 しかし、320万年前から真っ先に登場したくせに、進化のスピードではエチオピア人が
あきらかに他民族にごぼう抜きされていると思うのはオレだけだろうか??
 いや、まあ考え方を変えれば、彼らはまだまだ
進化する余地を残しているわけで、次の段階では変身できるようになったり、ブレストファイアーやエメリウム光線が使えるようになったりする可能性もあり、マイナスに考えるよりはこれからに期待したいと思う。

 ルーシーを見るにつけ、320万年前に生きていた彼女(だか彼だか)の暮らしに少し思いを馳せてみる。好きな食べ物はなんだったんだろうか? やっぱりルーシーという名前からしておしゃれにイタリア料理だろうか。それとも意外と古風にかれいの煮付けとかだろうか? 仕事は何をしていたんだろう?? 
ルーシーというだけにフリーターだろうか(根拠なし&全国のルーシーさんに失礼な発言)?? 学生時代には、朝目覚ましが鳴って、起きて歯磨きをして支度してさあ出かけようと思ったらまた目覚ましが鳴って目が覚めて、気づいたら実は起きて準備をしている夢を見ていただけだったという経験も何度もしたのだろうか?? あれ結構くやしいんだよねー。
 ああ、このガラスケースで厳重に保護された化石を見ていると太古の息遣いを感じ、想像力が無限に広がり……ってちょっとまってくれ。「人類最古の化石のレプリカ」……って
レプリカかよ!! 本物はどこにいったんだよ!! こんなに専用のケースで厳重に保護するなら本物を入れろ!!! 太古の息遣いも感じなくなったよ!!!

 国立博物館ほどの
重鎮がレプリカを必要以上に丁重に陳列していることに激しい憤りをおぼえつつ、オレは宿泊先であるタイツホテルへ帰った。ちなみにタイツホテルという名前は非常に卑猥な響きであり、辛酸なめ子くらいの思い切った名前であるが、一応アジスではかなり古くからあり、王族なども泊まったこともある由緒あるホテルらしい。王族が泊まったホテルでも宿泊費が6ドルなのがエチオピアのすごいところであるが。
 しかしこのホテル、従業員の態度(一部のやつだけではあるが)が最悪である。宿泊費の支払いのゴタゴタで一度揉めたのだが、その時は客であるオレに対して最初から
井筒監督レベルのケンカ腰であったし、また他の宿泊者に対しても、停電になったのを勝手に客のせいにして文句を言うというエチオピアだから許される最悪の仕事っぷりを見せていた。あまりに頭に来たので、オレは夜中に板張りのベランダに思いっきりオシッコをしてやった。最悪対決である。

 そんな卑猥で最悪なタイツホテルに戻ったところ、メイドのおばちゃん達が階段に座って談合をしていた。普段彼女たちはこの時間一生懸命掃除をしているのだが、今日は珍しく働いていない。どうしたのだろう?? ストだろうか? それとも
つかれちゃったのだろうか??
 オレはあえてジロジロとおばちゃんたちを見ながら、ウオッホンと咳払いをして彼女たちの脇を通ってトイレへ向かった。
 するとトイレのドアを開けたオレにメイドさんが声をかけてきた。


「ノーウォーター!」


 
断水!!!

 ダンスイ!! ダンスインザダーク!!
 断水である。どうやら今この宿では、水という水の供給がすべてストップしているらしいのだ。出るのは
オシッコくらいだ。たしかにこれではメイドさんも掃除が出来ないだろう。木々に太陽が必要なように、作者に愛が必要なように、最近の志村けんには優香が必要なように、掃除には水が欠かせないものである。
 しかし……水が出ないってあんた……オレは生まれてこのかた水道をひねって水が出てこなかった経験なんて記憶にないぞ……。

 ……はっ!!

 ちょっとまて。この断水はいつまで続くのだろうか。飲み水は買ってあるし、ちょっと手を洗うくらいだったらミネラルウォーターで代用できる。シャワーもまあアジスは涼しいから1日くらい浴びなくてもなんとかなるだろう。しかし、
ここ水洗トイレですよ? 普通の洋式の。そこに長い間水が来なかったらどうなるんですかね??? とりあえずオレはオシッコだけ済ませたが、当然流せないので、そのままである。まあ自分のものなら特に汚くないので今回は別に問題ないが……。










 そして時は流れるがトイレは流れず……











 新しい朝が来た。
 
 さて……。
 水は出るようになってるだろうか……。というか出るようになってなかったら困るぞ。まあそこはホテルのメンツをかけて夜のうちになんとか直しているだろう。
 オレは期待と不安で胸を膨らませながら、トイレ兼バスルームのドアを開けた。さすがに水洗トイレで一晩水が無いなんてことはありえないはずだ。だってそうしなけりゃ大変なことになるだろ
うんぼりゃがりょはっ!!!!!!

 
た、大変なことになっていますです(号泣)。

 なななな……なな……なんなんざますかこれは(涙)?? どういう景色ざますか?? これは現実なのざますか? それともただ
私の網膜が誤った情報を脳に伝えているだけざますか???
 昨日まで首都の威厳を保ち、気品とプライドを維持していたこの洋式トイレ。もはやその影は微塵も見当たらない。流れない水洗トイレは、
ただのおまるである。しかもこのおまるは、一回ずつ処理をしないために茶色い堆積物で形成された美しい地層が幾重にも出来上がっている。当然上の階層に行くにしたがって、新しい時代のものである。

 
もういやだこんな文章書くの……(号泣)。

 いったい最近のこの下品な傾向はなんなんだろうか。またトイレ、またトイレ。
3,4がなくて、5にトイレ。そんなトイレばっかりでオレをせめて……。オレは世界のトイレ事情の論文を書くためにこの旅に来たんじゃないんだよ!! パリおしゃべり散歩金曜日のパリ くらいのエレガントな海外滞在記を記す予定だったんだ!! ほんとだぞ!! なわけねーだろ!!

 ああ、しかしこのトイレで自分も用を足さねばならない悲しさよ。でも、ぼく泣いたりしないよ。だって
僕が泣いたらおねえちゃんが安心して天国へいけないから。おねえちゃん最初からいないけど。
 くそ〜。眼下の、想像を遥かに超えた
歴史的シーンが少しでも視界に入ると、猪木にチョークスリーパーをかけられた馳浩のように一瞬にして意識がとびそうになる。いかん。気をそらさねば。別のことを考えるんだ!! そうだ。男女の友情は果たして成立するかどうかについて考えるんだ!!!
 男と女。男同士、女同士のような友人関係に、異性同士がなれるものなのか。これはもう卑弥呼(AV女優じゃない方)が呪術によって国を収めていた時代から長らく議論されている、人類の永遠の課題ではないか。しかしまああれこれ難しく考えるよりも、とりあえず女性と飲んでいる時にこの話題になったら「オレ女の子の友達もかなりいるよ。先週だって大学の後輩が泊まりに来たけど、全く何もなかったから。ほんとただの友達だから、全然そういう関係じゃないんだって。他にもちょくちょく職場の仲間とか泊まりに来るし、
だから今日はケイコちゃんもうちに泊まりなよ」とうまいこと違う方向に持って行くというパターンが正解ではないか。

 フィニーーーッシュ!!!

 よし!! 真剣に男女の友情について考えていたおかげで気を失わずに済ませることができた!! 流す必要はないのでこのまま脱出だ!!! しかしこの後水が出るようになってもこれだけ一気に流れるんだろうか!! というか絶対無理だろう!!!! どうすんだ! 知ったこっちゃない!!

 首都といえども、油断をしているとすかさずR指定の
エチオピアの本質が現れる。たとえ超人オリンピックで決勝トーナメントに進んだ便器マンでも、エチオピアでは水洗が出来ずに汚物まみれになり、虚しく予選敗退していくことだろう。
 そんな中で作者は、近頃著しく低下してきた旅行記の品性を本来の
皇室日記クラスのハイレベルに戻すためにも、少なくとももうエチオピアではトイレの話は書くのをやめようと誓うのであった。






今日の一冊は、お、おそろしい…… いびつな絆 関東連合の真実 (宝島SUGOI文庫)





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